「起業は法人の方が得策と聞いたが、税理士に依頼する必要があるのだろうか」
「事業を法人成りしても自分で決算と申告ができるのではないか」
「マイクロ法人を設立したいが、小さい会社なので税理士は不要ではないか」
とくに、個人事業主で確定申告をしていた経験のある人は、法人税の決算と申告も少し勉強すればできると思うかもしれません。
法人税の申告は、個人の所得税申告と比べると複雑なので、自分で行うには準備が必要です。
今回は、法人の決算と申告を税理士に依頼せずに行う方法を解説します。
もし、税理士に依頼することになった場合の注意点も説明するので、最後までお読みください。
法人とは
法人とは、設立手続きを行うことで法律上の人格を持ち、権利・義務の主体となる組織のことです。
株式会社などの法人格を取得することで、個人事業主とは別人格を持つので社会的信用が高くなります。
法人化のメリットとデメリットは次のとおりです。
メリット | ・節税対策の余地が増える ・社会的信用が高まる ・個人責任ではなく有限責任になる |
---|---|
デメリット | ・赤字でも税金(法人住民税の均等割)がかかる ・会計や税務申告が複雑になる ・法人として社会保険料の負担が必要になる |
次に、法人にはどのようなものがあるか見ていきましょう。
法人の種類を大別すると次のとおりです。
法人の種類 | 例 |
---|---|
公法人 | 公共組合・営造物法人・地方公共団体・独立行政法人 |
営利法人(私法人) | 株式会社・合同会社・合名会社・合資会社 |
非営利法人(私法人) | NPO法人・一般社団法人・一般財団法人 |
今回の記事は、営利法人の決算と申告の解説なので、株式会社を想定しています。
また、法人を設立するきっかけには、次のようなものがあります。
起業 | 個人事業と法人を選択 |
---|---|
法人成り | 個人事業を法人化すること |
マイクロ法人 | 代表者自身が一人で事業を行う形態の会社 |
起業する際には、個人事業主か法人かを選択可能です。
収益が高く見込まれる場合には、節税策の多さから法人が選ばれることが多くなります。
法人成りは、これまで個人事業で行っていた事業を法人の形態に移行するものです。
起業と同じく、事業の収益が多くなると法人化する方が節税メリットが大きくなるので、法人成りすることが多くなります。
マイクロ法人は、代表者である社長が1人で事業を行う形態の法人です。
社会保険料を節約するために、個人事業と合わせてマイクロ法人が設立されることがあります。
法人の税金
法人の決算と申告は、原則として事業年度終了日の翌日から2か月以内に行わなければなりません。
法人にかかる税金は、国税と地方税を合わせて次の5種類です。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
- 消費税及び地方消費税
1.法人税
法人税とは、法人に課せられる国税です。
法人の種類や資本金・所得金額に応じて課税されます。
たとえば、資本金1億円以下の普通法人で、事業年度の所得が800万円以下であれば、原則15%の税率をかけて算出される仕組みです。
法人税の税率表(抜粋)
普通法人(資本金一億円以下など) | 年800万円以下の部分 | 適用除外事業者 | 19% |
上記以外 | 15% | ||
年800万円以下の部分 | 23.20% | ||
上記以外の普通法人 | 23.20% |
2.法人住民税
法人住民税は、都道府県と市区町村に納める税です。
法人税割と均等割により課税されます。
標準税率は、法人税割が法人税額の道府県民税相当分1.0%と市町村民税相当分6.0%の合計額です。
区分 | 標準税率(都道府県民税) | 標準税率(市町村民税) |
---|---|---|
令和元年9月30日までに開始する事業年度 | 3.2% | 9.7% |
令和元年10月1日以降に開始する事業年度 | 1.0% | 6.0% |
また、主たる事業所などが所属する市区町村ごとの標準税率は次のとおりです。
区分 | 従業員数 | 都道府県税相当 | 市町村税相当 |
---|---|---|---|
従業員数50人以下 | 20,000円 | 50,000円 | |
資本金等の額 1,000万円以下 |
従業員数50人超 | 20,000円 | 120,000円 |
資本金1,000万円以下で従業員が50人以下の場合は、7万円です。均等割は、法人が赤字であっても課税されるので注意しましょう。
法人事業税・法人都民税 | 税金の種類 | 東京都主税局
総務省|地方税制度|法人住民税・法人事業税
3.法人事業税
法人事業税は都道府県に納める税金です。
法人事業税は、法人の種類や資本金、所得金額により税率が決まります。
標準税率の一例は次のとおりです。
法人の種類 | 事業税の区分 | 標準税率 |
---|---|---|
・普通法人(一部を除く) ・公益法人等 ・人格のない社団等 |
年400万円以下の所得 | 3.5% |
年400万円を超え年800万円以下の所得 | 5.3% | |
年800万円を超える所得 | 7.0% |
資本金が1億円以下で年間所得が2,500万円以下の普通法人では、年間所得が400万円以下であれば、3.5%が課税されます。
法人事業税・法人都民税 | 税金の種類 | 東京都主税局
4.特別法人事業税
特別法人事業税は、国税ですが地方税である法人事業税と合わせて課税されます。
令和4年4月1日以後に開始する事業年度の税率表の抜粋は次のとおりです。
課税標準 | 法人の種類 | 税率% |
---|---|---|
基準法人所得割額 | 外形標準課税法人・特別法人以外の法人 | 37% |
外形標準課税法人 | 260% | |
特別法人 | 34.5% | |
基準法人収入割額 | 小売電気事業等、発電事業等、特定卸供給事業又は特定ガス供給業を行う法人以外の法人 | 30% |
小売電気事業等、発電事業等又は特定卸供給事業を行う法人 | 40% | |
特定ガス供給業を行う法人 | 62.5% |
資本金が1,000万円以下の普通法人であれば、所得が400万円以下であれば、法人税額の37%が課税されます。
特別法人事業税 | 税金の種類 | 東京都主税局
5.消費税及び地方消費税
消費税は国税で、地方税である地方消費税と同時に課税されます。
納税額は、次の算式により求められる金額です。
1,000万円以下は免税業者ですが、申出により課税業者になることもできます。
課税方法は原則課税が基本ですが、課税売上高が5,000万円以下などの一定の要件では申告納税が簡便な簡易課税を選択する方法もあるので、該当する場合は検討してみると良いでしょう。
なお、2023年10月からはインボイス制度が導入されます。
消費税のしくみ|国税庁
特集 インボイス制度
決算と申告を自分やる(税理士に依頼しない)メリット
法人の決算と申告は、必ず税理士に依頼しなければならないのでしょうか。
依頼せずに自分でやる場合の最大のメリットは、税理士への報酬が発生しないことです。
税理士報酬は、主に顧問料と決算費用に分けられます。
種類 | 主な内容 | 料金例 |
---|---|---|
月額顧問料 | ・税務相談 ・経営指導 |
月額2万2千円〜 |
決算申告料 | 法人税などの決算と申告 | 16万5千円〜 |
オプション | ・記帳代行 ・消費税申告 ・年末調整 ・法定調書・給与支払報告書作成 ・償却資産申告書作成 ・給与計算 ・財務調査立ち会い |
別途見積もり |
このほか、申告書の提出や税務調査立ち会いをスポットでお願いする場合があります。
自分で決算と申告をするか、自社内に経理に精通した人材がいるのであれば、これらの費用が不要です。
決算と申告を自分やる(税理士に依頼しない)デメリット
決算と申告を税理士に依頼せずに自分でやると一般的にはデメリットがあります。
法人内でうまく処理ができないと、経営的に困る可能性もあるので注意しましょう。
ここでは3点紹介します。
決算の信頼性が低下する
税理士が関与しない決算は、内容の正確性や信頼性に問題があると捉えられることがあります。
法人の決算は、個人事業主の決算とは取扱が異なる点があり提出書類も多いので、難易度も高いです。
決算書類を株主総会で開示したり、金融機関での融資の際に提出したりすると、税理士が関与したものの方が信頼性が高いと判断されます。
税務調査での対応が困難になる
税務調査は、個人よりも法人に対して行われる確率が高く、数年に一度調査に入ることや、7年前の申告内容を問われることもあり得ます。
税務署の国税調査官は、現地調査を行い処分まで行う権限を持つのが特徴です。
税の専門知識を持たない経営者が対応すると、十分な説明ができない場合があります。
税務調査のやりとりは、税理士を通して行った方がよいです。
顧問契約をしていない場合でも、スポットで税理士の立ち会いを求めるようにしましょう。
有利な節税方法を逃す可能性がある
法人は個人事業主に比べてさまざまな節税方法があります。
これらの制度すべてに精通するのは困難です。
また、毎年の税制改正などで、有利な制度も変わっていきます。
個人ですべての情報を取捨選択するのは困難です。
経営者の時間を有効に使うために、税理士を活用する方が効率的でしょう。
法人の決算
法人決算は各会社で定められている事業年度の翌日から2カ月以内に税金の申告・納付を行わなければいけません。
締め切りに間に合うように法人決算の準備を進める必要があります。
法人決算までのおおまかな流れは以下のとおりです。
- 記帳整理
- データ入力
- 決算書の作成
- 各種税金の申告・納税
- 決算書類の保存
日々の記帳整理から決算書の作成までは、会計ソフトを活用すればある程度は対応可能です。
どこまで経費に算入できるか、売上や経費の計上時期をいつにするか等判断する必要があります。
また、法人税法と消費税法で考え方が異なる場合があるので注意が必要です。
たとえば、会計ソフトへ入力する際には、取引が非課税取引か課税取引か、税率はどの税率かを判断する必要もあります。
税務調査で判断誤りや入力ミスを指摘されないように注意しましょう。
また、決算と申告が終了しても、決算関係書類は一定期間の保存が必要となります。
具体的な決算書類と保存期間は次のとおりです。
決算書類の例
決算書類の例 | 保存期間 |
---|---|
・決算書(貸借対照表・損益計算書) ・総勘定元帳 ・仕訳帳 ・現金出納帳 ・売上帳 ・仕入帳 ・売掛金元帳 ・買掛金元帳 ・固定資産台帳 |
10年保存 |
・棚卸帳 ・請求書 ・領収書 ・契約書 |
最大10年 |
決算書類は、会社法と法人税法に定められた最大期間まで保存する必要があります。
法人の申告
法人にかかる税金には主に5つでそれぞれの提出先、申告期限(納税期限)が決められています。
それぞれ定められた様式に基づいて、提出期限内に決められた提出先に提出することが必要です。
種類 | 提出先 | 申告期限(納税期限) |
---|---|---|
法人税 | 所管の税務署 | 原則、2ヶ月以内 |
法人住民税 | 都道府県・市区町村 | |
法人事業税 | 都道府県 | |
特別法人事業税 | 都道府県 | |
消費税及び地方消費税 | 所管の税務署 |
法人で、決算や申告が最も対応が煩雑なのは法人税となります。
法人税申告書は数多くの別表で構成されており、申告の際に別表の提出が重要です。
提出しなくてはならない別表は、法人税の申告内容によって異なります。
別表の種類は、法人税額を申告する別表1から別表19まであり、付表を合わせると100種類以上です。
これらは、法人税の申告書に記載される金額が正しく計算されているか説明するために必要とされるものです。
なお、別表の中には必ず提出しなければならない重要なものもあれば、会社によって提出しなくてよいものもあるので注意しましょう。
必ず提出しなければならないのは別表1、別表2、別表4、別表5(1)、別表5(2)であり、これらの書類は法人税の申告において中心的な役割を果たす書類です。
別表名 | 内容 |
---|---|
別表一 | 各事業年度の所得に係る申告書 |
別表二 | 同族会社等の判定に関する明細書 |
別表四 | 所得の金額の計算に関する明細書 |
別表五(一) | 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書 |
別表五(二) | 租税公課の納付状況等に関する明細書 |
[手続名]法人税及び地方法人税の申告(法人税申告書別表等)|国税庁
平成27年4月1日以後に終了する事業年度(連結事業年度)分法人税申告書一覧表(平成26年10月1日から平成27年12月31日までに開始した事業年度(連結事業年度)用)|国税庁
法人の決算と申告を自分で行うには
ここまで、法人の決算と申告と税理士の関与のメリットとデメリットについて説明してきました。
近年は会計ソフトが便利になっているので、自社で専門知識を持つ人材がいて、日々の経理から決算・申告までカバーできれば、税理士に頼らず自分ですべて対応することも可能です。
ここでは、税理士に依頼せずに対応する方法を紹介します。
経営者が税理士に劣らない知識を身につける
税理士に依頼しないで済む最善の方法は、経営者自身が税理士並みの知識とノウハウを身につけることです。
経営に関する知識は、これまで蓄積してきた税法のみに留まらず、税制改正の最新情報や投資経営情報に至るまで幅広いものがあります。
現在では、ネット上のサイトやオウンドメディア・YouTube・書籍などでさまざまな情報を入手可能です。
これらの情報から、自社の規模や経営状況に合わせて必要な情報を選択して、経営に活かすことができれば強みとなるでしょう。
税理士有資格者や法人決算のある経理担当者を雇用する
経営者自身が税理士並みの知識を持たなくても、自社内に能力のある人材を雇用すれば問題ありません。
法人内で税知識があり、決算申告に精通した人材を確保できれば、税理士に依頼せずに安心して任せられます。
税理士でなくても、会計事務所に勤務経験のあるような人材であれば、決算作業や申告書作成は可能です。
これまでの経験から、経営上のアドバイスも受けられるでしょう。
ただし、有能な人材は需要が高く人材難で、常時雇用すればコストも高くなるので、税理士を雇用するよりコスト高になる可能性があります。
税理士費用よりもリーズナブルに、人材を雇用できれば自社内でこなすことは可能です。
大変なときは税理士に依頼しよう
ここまで読んでみていかがでしょうか。
法人の決算や申告には必ずしも税理士は必要ありません。
自社で決算や申告の専門知識を持った人材がいれば、会計ソフトを利用することで税理士費用の出費を抑えられます。
しかし、今回の記事を読んで自社での対応は大変そうだとか、決算申告はアウトソーシングしてもっと経営に集中したいと感じた場合は、税理士に依頼するのも良いでしょう。
自社でどこまでできるか、専門知識や費用を勘案すれば、最適な方法が見つかるはずです。
税理士法人きわみ事務所では、法人の決算や申告に関するお問い合わせにお答えしています。お気軽にお問い合わせください。