税金・税務

出張手当の相場はいくらがよいか|出張旅費規程の日当の決め方について解説

出張手当の相場はいくらがよいか|出張旅費規程の日当の決め方について解説

「出張手当の相場が知りたい」、その理由は、出張旅費規程に定めなければならない出張手当の日当の金額が「通常必要であると認められるもの」に限られるからではないでしょうか。

この記事では、出張手当の設定に相場が必要となる理由や、金額を調べる時の注意点、税務上問題なく支給するための方法や迷ったときのおすすめの支給方法について解説します。

出張手当の相場が必要になる理由とは?

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出張手当の相場は、会社の出張手当の金額を決めるとき、特に出張旅費規程の日当を決める際に求められます。

出張手当は「通常必要であると認められるもの」しか非課税にならない

出張手当を非課税で支給するには、その金額を「通常必要であると認められるもの」の範囲内にしなければなりません。(所得税法第9条第1項第4号)出張手当の金額がこれを超える場合、超えた分は非課税にならず、受け取った従業員等の給与課税の対象になってしまいます。

「通常必要であると認められるもの」は、出張手当を支給する会社と同業種・同規模の他の会社が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか等を勘案することとされています。(所得税法基本通達9-3)これは出張手当の決め方を定めたものではないため、ここから出張手当の金額を決めることはできません。

そこで、他の会社の支給額を調べるために出張手当の相場が必要になることがあります。しかし、都合のよい相場のデータはなかなかありません。

出張手当の相場となる統計はない

残念ながら、出張手当の相場に関する公の統計はありません。もちろん民間企業の調査結果などを参考にして、出張手当の額を決めることは良いでしょう。

しかし、税法上の非課税の判定ラインを超えない出張手当を模索するために相場を求めているのであれば、「同業種・同規模」の会社のデータが必要です。したがって調査対象となった企業の業種や規模が自社と同じかどうかがわからなければ、自社の出張手当の相場としてよいのか判断できません。

仮に業種や規模がわかったとしても、どのくらいのデータ量を参考にするか等すぐに次の疑問が生じます。

つまり「同業種・同規模」の他の会社の支給額から「通常必要であると認められるもの」を判定することは、現実には非常に難しいのです。ではどうするのかというと、会社で最大限できることをするしかありません。

会社にできることは、次の2つです。

  1. できる限り他の要件を満たす出張旅費規程を作成する
  2. 金額は顧問税理士等にも相談する

これについては、後半の「出張手当を税務上問題なく支給するために」で解説します。

出張手当の相場を調べるときは日当の範囲に注意

出張手当の相場を同業者に尋ねて、参考にする場合もあると思います。この時、参考とする会社の「日当の範囲」に注意が必要です。

たとえば「うちは出張手当を2万円支給しているよ」という会社があるとします。出張手当の中身は、主に交通費、宿泊費、その他の雑費(自宅や勤務先を離れることにより生じる諸費用)の3つに分かれます。どこまでを日当とするのか、あるいは全額日当とするのかは、会社の自由です。全額を日当にしている会社もあれば、一部を日当、他は実費精算としている会社もあります。

先ほどの会社がすべて日当で支給している会社であれば、1日あたり2万円の日当でも高いとは思わないでしょう。

しかし、交通費と宿泊費は実費精算で、その他の雑費として2万円だったらどうでしょうか。

この会社では、間違いなく出張案件が取り合いになっていることでしょう。税務調査が入れば、給与課税の対象になるかも知れません。

このように他社に出張手当を尋ねるときは、日当の範囲をまず確認しなければ参考にできないので注意してください。

出張手当の相場を知る前に!手当の基本を理解しよう

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ここからはいったん、出張手当の基本やそもそもなぜ会社が出張手当を支給したがるのか等、出張手当の基本を解説します。

出張手当とは

出張手当とは、会社の役員や従業員が出張のために負担した費用を補てんするために、会社から支給する金品のことです。出張とは、会社のために普段勤務している場所を離れて職務を遂行することをいいます。

会社によっては出張伺いを立てて承認されたもののみを出張手当の支給対象とする場合もあるでしょう。

出張手当と出張経費の使い分け

出張手当には、実費精算で支給する方法と日当で支給する方法があります。日当のことを出張手当、実費精算される旅費等を出張経費と呼んで区別することもありますが、この記事では特に区別せず「出張手当」と呼んでいます。

役員と一般職員の出張手当の差はアリ

出張手当を支給する際、支給する相手の役職(常務、専務、部長、課長など)や役員かどうかなどで、支給額を変えることは一般的です。「人によって支給額を変えたら非課税にならなくなるのでは」と心配になるかも知れませんが、通達では、「旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて」通常必要であると認められる範囲内のものを非課税とするとしています。(所得税法基本通達9-3、下線は筆者によるもの)

よって支給額に差をつけることに問題はありません。

出張手当を会社が支給したい理由とは?

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会社が出張手当を支給したい理由は、出張手当が個人の所得税、会社の法人税、消費税すべての計算において有利だからです。

支給する会社側にとっては全額を経費、課税仕入れとすることができ、受給する側は全額を手取りとすることができます。

出張手当は給与課税の対象外

出張手当は、出張した職員が負担した交通費や宿泊費、その他雑費の負担に対して支給されるものです。勤務のためにかかった実費を補てんする性質の金銭になります。

この性質から、出張手当の所得税は非課税です。支給された職員の給与所得にはなりません。たとえば1万円を支給したら、1万円すべてが支給された職員の手取りになります。会計処理も給与ではなく「旅費交通費」等で行います。

ただし、給与課税の対象にならないのは、その出張について「通常必要であると認められる金額」に限られます。(所得税法第9条第1項第4号

出張手当は消費税の課税仕入れに

通常必要であると認められる金額(所得税法と同じ基準)であれば、消費税の課税仕入れとして扱うことができます。(消費税法基本通達11-2-1

社員旅行を経費にする方法について知りたい方はこちらを参考にしてください。

社員旅行を経費にするための4つの要件とは?経費の裁判事例も解説!

法人税の経費にも

出張手当は、法人税の損金にも算入できます。会社の経費になることについていえば、給与も旅費交通費も同じなのですが、給与にならない点で、役員給与の損金不算入ルールを心配せず支給できるというメリットがあります。

なぜ出張手当を日当で支給するのか

出張手当を実費で毎回精算して支給するのは大変です。特に雑費は、人によって異なる内容の支出ですので、経理担当者が1つずつ経費かどうかを判断します。出張の多い会社では現実的ではありません。もちろん、それを請求する側も大変です。

この問題を解決するのが「日当」になります。日当とは、「1日当たりいくら」で支給される出張手当をいいます。実際の出費より日当が多かったとしても差額を精算する必要はなく、すべて出張した者の手取りにして構いません。

受給する側にはさらにメリットがありますし、会社は業務効率化に役立ちます。

なぜ出張旅費規程を作成するのか

日当で支給する場合、支給する根拠がないと、出張のために支給したものであると説明することができません。そうならないよう出張手当を日当で支給するときは、出張旅費規程を作成して支給額の根拠を明らかにします。

ただし、出張旅費規程を作成して出張手当を日当で支給しても、非課税で支給できるのは「通常必要であると認められる金額」に限られます。

つまり出張旅費規程で定める支給額が、この金額の範囲内になるよう作成しなければならないということです。

出張手当を税務上問題なく支給するための3つのポイント

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「通常必要であると認められる金額」の判定にあたって勘案する事項は、同業種・同規模の他の会社の支給額以外に、もう1つあります。

出張手当は全員にバランスよく支給すること

出張手当を支給するときは、全員にバランスよく支給しなければなりません。これは「通常必要であると認められる金額」の判定にあたって勘案する事項に、「役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか」という項目があるからです。(所得税法基本通達9-3

たとえば、役員にしか支給しない、特定の従業員にのみ役職に合わない高額な支給をする、というようにアンバランスな支給をすると、その出張手当が非課税でなくなる可能性があります。

同業種・同規模の他の会社の支給額を把握することは難しくても、せめてもう1つの要件はきちんと満たしている出張旅費規程を作成することが大切です。

出張手当の金額は税理士にも相談すること

出張手当の金額を決めたら、顧問税理士等に必ず確認してもらいます。出張手当の非課税範囲は税理士にも100%保証できるものではありませんが、他の顧問先の例や経験等から、明らかに問題になりそうな出張手当であれば指導してもらえるはずです。

出張手当の決め方に迷った時のおすすめの支給方法

「そうは言っても、すぐに会社に出張手当の案を出さないといけないんだよ!」という状況もあるでしょう。どうしても出張手当を決められないときは、雑費のみ日当とし、宿泊費と交通費はとりあえず実費精算とすることを会社に提案してみてはいかがでしょうか。最初から安易にすべてを日当とすると、会社の負担が大きくなりすぎる危険性があります。

過去の会計データや出張伺い等から、出張回数や出張エリアにばらつきがあることを示した上で提案するとなおよいでしょう。雑費を日当にするだけでも精算の事務負担は減らすことができます。

なお雑費のみの日当なら2,000円~3,000円で十分と考えますが、会社の考え方によるところです。最終的な金額は税理士にも相談して決めましょう。

出張手当の相場がわからなくてもできる限り税務調査に備えよう

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出張手当を非課税で支給するには他の会社の相場も大切ですが、それを追求することは現実には難しいです。

したがって全員にバランスよく出張手当を支給する、全員を支給対象とする出張旅費規程を作成する、金額は最終的に税理士に確認をとるといった方法で対応し、税務調査に備えることが必要です。

企業の教科書
記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

東京都千代田区にある税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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