相続放棄とは、相続する権利のある相続財産のすべてを放棄することです。相続放棄の手続きにおける書類作成・代理申請は専門家に依頼できますが、専門家を使わず自分だけで進めることも可能です。
今回は相続放棄手続きを自分だけで進める流れやメリット、リスク、専門家へ依頼すべきケースなどを解説します。
相続放棄の手続きは自分でできる!流れを解説
相続放棄の手続きは、専門家に依頼せずとも自分だけで進められます。相続放棄の手続きの流れは次のとおりです。
- 相続放棄が必要かどうかメリット・デメリットで考える
- 必要な書類を集める
- 相続放棄申述書を取得し記入する
- 家庭裁判所への申立てを行う
- 意見照会書への回答を行う
- 相続放棄申述受理証明書の交付を受ける
わからないところがあるときは、家庭裁判所の窓口に相談・確認しながら進めてください。
なお、相続放棄の期限は「相続があると知ったときから3ヶ月以内」です。期限を過ぎてからも申述は可能ですが、合理的な理由を適切に説明しなければ裁判所に認められません。注意が必要です。
以下では、自分でできる相続放棄の手続きの流れを解説します。
相続放棄が必要かどうかメリット・デメリット考える
プラス・マイナスに関わらず、すべての財産を受け取らないのが相続放棄です。一度認められた相続放棄は撤回できません。そのため、実際に申請する前に「本当に相続放棄をしたほうがよいのか?」についてしっかりと検討しましょう。
以下では、相続放棄のメリットとデメリットを確認します。まず、相続放棄のメリットは次のとおりです。
- 借入金や未払金などの債務を相続せずに済む
- 相続に関するトラブルに巻き込まれなくなる
例えば被相続人がトラブルメーカーだった場合、知らない間に借金を作っていたり隠し子がいたりなども考えられます。こうした問題は、実務上では珍しくありません。こうしたパターンだと、相続放棄を検討するのも1つの手です。
続いて、相続放棄のデメリットをみていきます。
- 後からプラスの財産が発覚しても相続できない
- 放棄した債務が他の相続人へ回ることで、新たなトラブルに発展する可能性がある
事前の財産調査が甘かったり、相続人同士で話し合わなかったりすると、相続放棄にもリスクが発生します。
上記のメリット・デメリットを確認しつつ、最終的に相続放棄を実施するかの判断を行いましょう。
財産調査を行う
相続放棄を決定する前に、しっかりと財産調査を行いましょう。調査によって、自分が把握していなかった財産が出てくる可能性があります。
とはいえ、財産調査には地道な作業と専門知識が必要です。そのため財産調査に関しては、司法書士、行政書士、税理士、弁護士などの専門家の協力を仰ぐことをおすすめします。
必要な書類を集める
相続放棄に必要な書類は、主に次のとおりです。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(相続放棄の手続きを行う人)の戸籍謄本
- 収入印紙800円
- 切手約400~500円
必要となる戸籍謄本の種類は、被相続人と相続人の関係によって変わってきます。とくに兄弟姉妹の相続には、多くの戸籍謄本が必要となります。
以下の表で簡単にまとめました。
必要な書類 | 配偶者 | 子ども 子の代襲者(孫) |
親 祖父母 |
兄弟姉妹 兄弟姉妹の代襲者(甥姪) |
---|---|---|---|---|
被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本 | ◯ | ◯ | - | - |
被代襲者(配偶者または子)の死亡が確認できる戸籍謄本 | - | 代襲者(孫)の場合は◯ | - | - |
被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 | - | - | ◯ | ◯ |
配偶者または子の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 | - | - | ◯ | ◯ |
被相続人の親または祖父母の死亡が確認できる戸籍謄本 | - | - | 親や祖父母の場合は◯ | ◯ |
兄弟姉妹の死亡が確認できる戸籍謄本 | - | - | - | 甥姪の場合は◯ |
相続放棄申述書を取得し記入する
相続放棄申述書は、家庭裁判所での相続放棄の手続きにおいて、非常に重要となる書類です。抜けや間違いがないようにしましょう。相続放棄申述書に記入する内容は主に次のとおりです。
- 管轄の家庭裁判所名
- 作成時の年月日
- 申述人の記名・押印
- 添付書類の有無や枚数
- 申述人の本籍地・氏名・連絡先・生年月日・被相続人の続柄
- 申述人が未成年の場合は法定代理人の情報
- 被相続人の本籍地・氏名・死亡した年月日
- 相続の開始を知った日(被相続人の死亡を知った日)
- 相続を放棄する理由
- 把握している相続財産の内容
とくに重要なのは、申述書の提出期限が決まる「相続の開始を知った日」と、申述が認められるか否かの判断基準となる「相続を放棄する理由」です。
相続放棄申述書の書式は、裁判所のホームページにてダウンロードできます。一度ダウンロードしてみて、どのような内容があるのか確認しておきましょう。
家庭裁判所に申立てを行う
必要書類の準備と相続放棄申述書の記入が完了した後は、管轄の家庭裁判所へ相続放棄の申立てを行います。申立てせずに「自分は相続しません」と明言したとしても、その宣言には一切の法的効力がありません。必ず必要書類を提出し、申立てを行いましょう。
管轄の家庭裁判所とは、「亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所」です。相続人の住所地の管轄ではないので注意してください。管轄区域は、公式ホームページの裁判所の管轄区域のページにて確認できます。
申立て方法は、直接窓口に提出するか、郵送するかのいずれかです。ただし、期限ギリギリでの郵送だと遅れてしまう可能性があります。郵送の場合は、時間に余裕を持って提出しましょう。
照会書への回答を行う
申立てを行った後は、1~2週間後に家庭裁判所から「相続放棄の照会書」が送られてきます。この照会書は、申述人に対して「申立て内容はこれで間違いないのか?」を確かめる目的で送付されるものです。
申述人は、この照会書に対する回答書を作成して、家庭裁判所へ送ります。回答書に書く内容は次のとおりです。
- 相続人の死亡を知った日
- 把握済みの相続財産の内容
- 被相続人との関係
- 相続放棄が自分の意思であるかどうか
必要事項を記載した後は、相続放棄申述書と同じく家庭裁判所の窓口で直接提出、または郵送で提出してください。
相続放棄申述受理通知書の交付を受ける
回答書を提出し、申述内容が家庭裁判所の審査によって認められた後は、1~2週間後に「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。これをもって、相続放棄の手続きは完了です。
ただし、相続放棄した事実を第三者へ法的に証明するには、受理通知書ではなく「相続放棄申述受理証明書」が必要です。受理通知書と一緒に交付申請書が同封されているので、そちらを使って申請してください。
受理証明書があれば、法務局での相続登記や、金融機関での預貯金の相続手続きなどに利用できます。
相続放棄の手続きを自分で進めるメリット
相続放棄の手続きを自分で進める最大のメリットは、専門家へ依頼する際に必要な費用を削減できる点です。司法書士や弁護士などに代理を依頼すると、依頼料だけで約3~5万円ほどかかります。
一方で自分で手続きを進めた場合は、戸籍謄本・住民票の取得費用や収入印紙代などを合わせても3,000円程度の出費で済みます。余計な出費を避けたい方は、自分のみの力で手続きしてもよいでしょう。
実際のところ、相続放棄の却下率は約0.2%です。明らかな手続きミスや理由がない限り、却下されることはほどんどありません。
相続放棄の手続きを自分で進めるリスクとは
相続放棄の手続きを自分だけで進めるリスクとして、次のものが挙げられます。
- 申述が却下された後の再申述が難しい
- 書類の不備が出やすくなる
- 相続人関係の新たなトラブルが発生する
申述が却下された後の再申述が難しい
相続放棄手続きの却下率は低いものの、100%の確率で申請が通るわけではありません。相続放棄には、しっかりした理由と正しい手続きが必要です。
もし申述が却下された場合でも、再申述自体は可能です。しかし、一度却下された内容が認められるには、相応の理由や合理的な説明が求められるでしょう。再申述内容を家庭裁判所に納得してもらう説明をするには、素人だけの知見では難しいと考えられます。
書類の不備が出やすくなる
多くの方にとって、相続放棄の手続きをするのは人生で1~2回程度です。周囲に経験がある方もそこまで多くないでしょう。そのため準備や記入に慣れないまま進めてしまい、書類の不備によって放棄が認められない可能性があります。
書類に不備があると、裁判所から呼び出されて話を聞かれるケースがあります。
相続人関係の新たなトラブルが発生する
相続放棄を行うと、プラス・マイナスの財産に関わらず、遺産がすべて他の相続人に分けられます。つまり、他の相続人に不動産の管理や借金などを背負わせることになります。
もし、相続放棄について他の相続人へ話を通していなければ、突然負債を押し付けられた相続人との新たなトラブルが発生する可能性があるのです。「自分は放棄するから、もう相続とは関係ない」と無責任な態度を取ると、さらに大きな火種に発展するリスクもあるでしょう。
相続放棄を選択する場合は、必ず他の相続人へあらかじめ相談しておくことをおすすめします。
相続放棄を自分だけで進めてもよいケース
相続放棄を自分だけで進めてもよいケースとして、相続人が配偶者または第1順位である場合が挙げられます。このケースでの相続放棄の場合は、用意すべき戸籍謄本が少ないためです。
財産関係がすでに明瞭(明らかに借金が多く相続する必要性がないなど)で調査の必要がほぼない場合も、自分だけで手続きすることを検討してもよいでしょう。
また、他の相続人との関係が良好で全員が相続放棄を選択するときも、自分だけで進めてもよいケースの1つです。
相続放棄手続きは専門家へ依頼すべきかどうか
相続放棄の手続きは自分だけでも進められますが、ケースによっては専門家へ依頼したほうがよい場合も存在します。以下では、自分だけで進めないほうがよいケースや、専門家へ依頼するメリットなどを解説します。
相続放棄を自分だけで進めないほうがよいケース
自分だけで相続放棄手続きを進めないほうがよいケースとして、以下のものが挙げられます。
- 申請期限の3ヶ月を経過した状態で申述する場合
- 一度申述を却下されて再申述する場合
- 財産関係が複雑で相続放棄すべきか判断がつかない場合
- 不動産関係の相続が発生する場合
- 仕事やその他の理由で自分だけで進めるのが難しい場合
- 海外在住・長期出張などで日本におらず、手続きを進めるのが難しい場合
- 相続放棄以外にも財産調査やその他相続に関する相談をしたい場合
相続放棄手続きを専門家へ依頼するメリット
相続放棄手続きを専門家へ依頼するメリットは次のとおりです。
- 相続放棄申述書や回答書などの回答を正確に行ってくれるから
- 手続きにかかる手間が大きく省けるから
- 素人では難しいケースでの相続放棄手続きにも対応できるから
- 相続放棄関係以外の相談もその場で行えるから
相続放棄手続きに対応している専門家
相続放棄手続きに対応している専門家として挙げられるのは、司法書士と弁護士です。
司法書士は書類作成の代行のみ、弁護士は手続きに関して代理人となれます。費用は司法書士のほうが安い傾向がありますが、弁護士は対応できる範囲が広いのが特徴です。
弁護士は相続放棄照会書・回答書も代理人として、弁護士名での申述にも対応できます。代理を立てると、書類の送付先も弁護士事務所になるので、こちらで何か対応する必要がなくなります。
どちらに依頼すべきかは個々人の状況次第です。完全に手続きを任せたかったり、相続関係の訴訟問題も相談したりしたいときは、弁護士の利用がおすすめです。
自分で進めるか専門家へ依頼するかを決めよう!
相続放棄手続きは、専門家へ依頼せずに自分だけで進められます。相続財産が明瞭かつ明らかに負債が多いときなどは、自分だけで進めても問題ないでしょう。
一方で、申請期限が過ぎたケースや再申述を行うケースなどは素人だけでは難しいので、専門家に協力を依頼することをおすすめします。書類作成のみを依頼するときは司法書士、申述の代理まで任せたいときは弁護士へ依頼してください。