補助金・助成金

助成金は原則返済不要!その理由や不正受給時のペナルティを解説

助成金は原則返済不要!その理由や不正受給時のペナルティを解説

助成金は原則として返済は不要です。借金のように、一定期間にわたって少額ずつ返す必要もありません。ただし不正受給が発覚した際にはペナルティが課せられたり、審査を通過しなければ受け取れなかったりなど、融資や借入金とは違った約束事があります。

当記事では助成金が返済不要な具体的な理由や返還・取り消しとなる自由、助成金制度のおさらい、助成金以外の返済不要の制度を解説します。

助成金は返済不要!返さなくてもよい理由とは

なぜ助成金が返済不要なのかの理由として、「助成金は雇用保険からの保険金のようなもの」というイメージだとわかりやすいでしょうか。

助成金支給は雇用保険二事業の一環として行われます。雇用保険二事業とは、「雇用安定事業」と「能力開発事業」のことです。当事業は労働者が長く安心して働ける環境の整備や、人材育成によって企業の生産性を上げる仕組みづくりを助けることで、失業防止・失業給付金の削減を目指しています。

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(出典:厚生労働省|宮城労働局

雇用保険二事業の財源は、事業者が定期的に国へ納めている雇用保険料です。国庫やその他税金は原資として投入されていません。

要するに助成金は、厚生年金保険・健康保険・労災保険などと同じく「保険料を払う代わりとして、事業者の万が一のときに助けてくれる制度」といえます。助成金は金融機関からの融資・借入金とは違い、政府や自治体からからお金を借りているわけではないのです。

逆に言えば、雇用保険に加入していないまたは雇用保険料を納めていない事業者は、原則として雇用関係の助成金を受け取れません。また従業員にかかる経費に対する助成金を算出する際、雇用保険未加入の従業員は助成対象とできない制度も多数あります(緊急雇用安定助成金などの例外あり)

不正受給した助成金は返還・取消処分|発覚時のペナルティ

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助成金は返済不要ではあるものの、もし助成金の不正に受給していた場合は返還・取消処分となります。不正受給の例は次のとおりです。

  • 従業員を休業させたと虚偽報告をして休業手当分を申請した
  • 事業計画書と関係のない設備・機械にかかった経費を申請した
  • 領収書の改ざんや架空請求などを行い経費の水増しを行った
  • 賃金台帳や出勤簿の改ざんを行い事業実態を虚偽申告した
  • 実施していない教育訓練を実施したと虚偽報告を行った
  • その他計画申請・審査過程・受給後に不正が発覚した など

助成金の不正受給が発覚した場合、事業者および不正受給の関係者に対して重いペナルティが課されます。2021年現在は政府や自治体による調査も強化されているため、不正受給者は高い確率で発見されるでしょう。

以下では不正受給によるペナルティや不正受給に関する調査の強化について解説します。

助成金を不正受給した場合のペナルティや刑罰

助成金の不正受給に関するペナルティは、2019年4月1日より厳罰化されました。ペナルティの内容は次のとおりです。

  • 都道府県労働局のHPにて会社名・代表者名・所在地・事業概要・不正受給金額・不正内容の公表
  • 不正受給にかかわった社会保険労務士・代理人の名前公表と助成金申請手続き業務停止
  • 助成金全額返還・取消
  • 助成金額の20%の違約金や延滞金の支払い
  • 5年間の助成金の支給停止期間(厳罰化前は3年間)

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(厚生労働省の公表資料を一部加工して記載)

上記のペナルティとは別に、政府や都道府県から刑事告発される可能性があります。過去には事業主に対して詐欺罪の有罪判決が出た事例もありました。

また金銭・行政的な処分以外にも、不正受給によって社会的信頼が失墜する点もペナルティといえそうです。

不正受給の調査は強化傾向

近年、悪質業者による不正な助成金申請サポートサービスや企業の虚偽申請が増加傾向にあります。

そのため政府や自治体では、助成金の不正受給についての調査体制を強化しています。2019年4月1日の不正受給の厳罰化もその一環です。

実際に「厚生労働省や労働局・ハローワークから特定の事業者に助成金の勧誘を委託することはない」と、厚生労働省が直接注意喚起しています。

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(出典:厚生労働省

実際に雇用調整助成金を例に見ると、2013年の時点で570社が厚生労働省による公表処分となっています。また2021年4月時点でも44件2億2,700万円が発覚しており、11月時点ではコロナ関連の助成金での不正受給・過払い18億円にも上りました。

持続化給付金や家賃支援給付金など、コロナ関連の給付金の不正受給が横行したことも強化の背景にあります。

実際に助成金の返還・取消となった事例

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ここからは実際に助成金の返還・取消となった事例をご紹介します。不正受給した場合の処分や、今後遭遇する可能性のある事例を事前に確認し、何か違和感があれば避けられるようにしておきましょう。

雇用調整助成金の不正受給

雇用調整助成金は、助成金の中でもとくに不正受給が横行するものとして知られており、新聞やWebメディアなどでも度々取り扱われます。

たとえば大手企業傘下のタクシー会社が、従業員へ支払った休業手当を水増しして申請し、雇用調整助成金1億6,000万円を不正に受け取った事例があります。

また厚生労働省の調査によって、ある飲食チェーン店が従業員の有給を休業扱いとして虚偽申告し、雇用調整助成金を不正受給していたことが発覚しました。飲食チェーン店は助成金の全額返還に加え、違約金300万円と5年間の助成金支給停止処分となっています。

特定求職者雇用開発助成金の不正受給

障害者の福祉事業を行うNPO法人が、特定求職者雇用開発助成金を不正受給していたとして公表処分となっています。既存の従業員を新規雇用したと偽り、助成金を申請していました。

助成金額約835万円を受給したものの、支給取消および一部返還処分となっています。

助成金申請の詐欺代行やコンサルタントについて

厚生労働省が注意喚起するとおり、2021年現在も助成金申請に関する詐欺代行・コンサルタントによる被害が発生しています。

言葉巧みにそそのかして無理やり申請させたり、書類を改ざんして不正に審査通過率を上げたりし、成功報酬として受給した助成金の一部を得ようとします。「儲かる」「簡単」などのワードを使って近づく相手にはとくに注意してください。

悪質な業者・コンサルタントを避けるには、そもそも「助成金申請は社会保険労務士の独占業務」であることを知っておきましょう。社労士以外が有償で請け負うのは法律違反です。

とはいえ、なかには社労士でありながら、成功報酬を得るために不正を行う人物もいます。実際に厚生労働省で実名が公表された事例もありました。

助成金申請に関する相談は、信頼できる実績ある社労士や助成金の事務局で行いましょう。

助成金とは?審査や種類などをおさらい

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助成金の活用をお考えの場合は、申請前に助成金の概要や審査、種類をあらためて押さえておきましょう。以下ではおさらいとして助成金の概要や助成金審査、助成金の種類、受給までの流れを解説します。

助成金の概要

助成金とは、企業の労働環境や雇用を助ける目的で、主に厚生労働省が行う金銭的支援のことです。事業者に支給する目的は主に次のとおりです。

  • 雇用の維持
  • 労働者の再就職や転職支援
  • 企業の採用活動の支援
  • 労働環境の整備
  • 労働者の仕事と家庭の両立
  • 従業員のキャリアアップ

個人に対する助成金制度はなく、原則として中小企業や小規模事業者が助成対象になります。支給要件を満たす事業者であれば、申請によって必ず受給可能です。補助金のような抽選はありません。

助成金の審査

助成金を受給するには、対象助成金の事務局が実施する審査を通過する必要があります。助成金審査でよく確認される点は次のとおりです。

  • 申請する事業主の事業規模や業種
  • 過去の助成金受給の有無や不正受給の有無
  • 事業主および事業主に雇用される従業員の雇用保険加入の有無
  • 事業活動における売上や資産状況
  • 従業員の賃金額
  • 従業員の労務・人事に関する管理・運用状況(賃金未払いや違法な残業がないかなど)
  • 助成金申請書や事業計画書、賃金台帳、出勤簿などの必要資料
  • 提出した事業計画書の終了時の計画実行の進捗や使用した経費 など

上記を見ると多くのプロセスを経ているように見えますが、健全に経営し、労務・税務の記録を抜けなく行い、必要な書類を集めるという「事業活動の当たり前」をこなせば問題ありません。

とはいえ助成金の審査を通過できる事業計画や書類を準備する際は、自社の担当者だけでは専門知識や経験に不安が残ります。申請前は税理士に財務・会計・経営について相談し、具体的な申請は社労士に依頼するという流れがおすすめです。

中小企業が利用できる助成金の種類

中小企業や小規模事業者、個人事業主が活用できる助成金には以下の種類があります。

  • キャリアアップ助成金
  • 両立支援等助成金
  • 人材開発支援助成金
  • 人材確保等支援助成金
  • 雇用調整助成金
  • 産業雇用安定助成金
  • 労働移動支援助成金
  • 中途採用等支援助成金
  • 特定求職者雇用開発助成金
  • トライアル雇用助成金
  • 地域雇用開発助成金
  • 通年雇用助成金
  • 65歳超雇用推進助成金
  • 高年齢労働者処遇改善促進助成金 など

自社が必要とする助成金を探したい場合は、厚生労働省の「雇用関係助成金検索ツール」で検索できます。

また当サイト「企業の教科書」でも、助成金について専門家監修の下で解説するコンテンツを掲載中です。ぜひご活用ください。

助成金受給までの流れ

助成金は、指定の口座に振り込まれるまでおおよそ2~3ヵ月程度かかる後払い方式です。また助成金によっては、支給内容の改正や制度終了などの要因で、申請期限が設けられることも少なくありません。

事前に事業のキャッシュフローや雇用状況を整理しておき、すぐに対応できる体制を整えておきましょう。

助成金を実際に受給するまでの、おおまかな流れは次のとおりです。

  1. 助成金の支給要件に合う事業計画を策定する(専門家への依頼も含む)
  2. 事業計画に応じた就業規則の作成・変更を行う
  3. 申請書や事業計画書などの必要書類を揃え助成金申請を行う
  4. 審査に通過した後に提出した事業計画に沿って経営する
  5. 実施した事業について実際に行われたかの審査が行われる
  6. 指定口座に助成金が支給される

流れの詳細は申請した助成金制度によって異なるため、都度公募内容をご確認ください。

助成金以外に返済不要な資金繰りについて

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返済不要の資金繰りには、助成金の他にも補助金や給付金があります。以下では補助金や給付金の概要や、中小企業が利用しやすいものを解説します。

補助金

補助金とは、経済産業省や自治体などを中心に事業主へ金銭的支援を行う制度です。雇用や労働環境に関係する助成金に対し、補助金は新規事業の展開や生産性を上げる設備・システムの導入など、経営そのものをサポートを目的としています。

助成金と同じく、事業計画の策定から審査、経費申請、受給という後払いの流れになります。

主な補助金の種類は次のとおりです。

  • IT導入補助金
  • ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
  • 総規模事業者持続化補助金

補助金は助成金よりも種類が豊富です。しかし補助金は予算や件数が事前に決まっているため、事務局による抽選で採択された事業主しか受給できません。

給付金

給付金とは、主に緊急時の支援として受け取れるお金のことです。助成金や補助金のように事業計画の策定や経費申請が必要なく、申請・審査で問題なければ支給されます。審査内容は売上や

2020~2021年度のコロナ禍において、さまざまな給付金制度が創設されました。代表的なものは次のとおりです。

  • 持続化給付金
  • 一時支援金
  • 月次支援金
  • 事業復活支援金 など

返済不要の助成金を事業に活用しよう!

助成金は原則として返済不要ですが、不正受給が発覚した場合は全額返還および追加金の支払いが発生します。わざわざ不正受給をしなくても、条件さえ満たせば助成金を受け取れます。悪質な業者・コンサルタントには頼らず、誠実な申請を心がけましょう。

「確実に助成金を受け取りたい・活用したい」「意図せずに不正受給したらどうしよう」とお悩みの場合は、助成金の専門家である社労士や、財務関係に強い税理士へ事前に相談することをおすすめします。

きわみグループであれば、グループ内に税理士法人と社会保険労務士法人がいるため、手間なくスムーズに手続きが可能です。受給額を最大化するノウハウをもった、助成金に詳しい税理士と社労士が在籍していますので、面倒な申請手続きからすべて任せることができます。相談無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

企業の教科書
竹内 欣士
記事の監修者 竹内 欣士
弁護士、社会保険労務士

知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく、人の世は住みにくい(夏目漱石「草枕」)。
日々、知識を活かす智恵こそが大切だと痛感しています。知を重んじつつ頼らない。情を大切にしつつ流されない。意地を胸に秘めつつ通さない。そのバランスを図りながら、依頼者に寄り添う「身近な相談相手」を目指してまいります。

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