発生主義と現金主義と聞くと、何となく難しそうと思ってしまいますよね。発生主義とはその書いて字のごとく、発生した時点で、まず計上して、そして実際に現金が入ってきたときも計上し記帳します。
一方、現金主義とは、現金が動いた時点でだけ記帳するということです。
たとえば、商品を現金ではなく、掛けで売ったとします。発生主義では、売上を売掛金に振り替えたという取引の動きを記帳して、今度は売掛金が現金として入ってきたときにも記帳することになります。現金主義は、実際に現金が入ってきた、現金を支払ったというときだけ記帳するやり方です。この違いについて、この記事で詳しく解説していきます。
発生主義と現金主義の違いを仕訳を用いて説明
現金主義、発生主義の仕訳について説明するには、「複式簿記」について理解いただく必要があります。複式簿記を説明したあとで、「仕訳」について説明します。
【発生主義と現金主義の基礎】複式簿記とは
会計が事業の収支を見て、どれくらい儲かっているかを確認して、会社の経営的な体力がどの程度あるのかを確認することであるとすれば、簿記とは、その事業収支を数値化して、帳簿につける作業となります。
簿記には、複式簿記ともう一つ、単式簿記がありますが、単式簿記は収支だけを記録する方法で、身近なところでは、家計簿とかお小遣い帳などが該当します。入ってくるお金(収入)と出ていくお金(支出)だけを記帳していくわけです。
複式簿記のほうは、もっと複雑になってきて、「貸方」と「借方」という概念でもっと詳細に、勘定科目を使って記録していきます。
単式簿記ではお金の出入りしか記帳されていない単純なものになりますが、複式簿記で記帳することで、もっと詳しい財務データを作成することができて、正確な経営状態を把握することができるのです。
【発生主義と現金主義の基礎】仕訳(しわけ)とは
複式簿記で、帳簿に記帳するには、仕訳が必要となってきます。さきほど、ご説明した「貸方」と「借方」にわけて、振替伝票を作成して、総勘定元帳に転記します。たとえば、一つの取引を仕訳してみましょう。
① 12月20日に800円の商品を掛けで売上げたとします。
12月20日時点での仕訳
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
売掛金 | 800 | 売上 | 800 |
② 1月20日に売掛金が現金で支払われました。
1月20日時点での仕訳
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 800 | 売掛金 | 800 |
この仕訳が発生主義なのです。①商品を売り上げた「取引」のあったとき、②実際に売掛金が現金になったときの2回の仕訳を行います。

現金主義での仕訳は、売上で現金が入ってきた時点のみとなります。
1月20日に、売上として現金を受け取った1月20日時点で現金が入ってきた仕訳
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 800 | 売上 | 800 |
個人事業主の場合、会計期間は、1月1日~12月31日となりますから、現金主義だけの仕訳では、12月に商品が売れていたことがわかりません。
わかるのは、1月20日に現金が入ってきたことだけです。
正しい損益計算なら現金主義より発生主義
企業の会計処理では、商品を売り上げるにも、仕入れるにも現金で取引せずに、信用取引である「売掛金」や「買掛金」を使っています。
現金主義ではこのような取引が記帳されませんから、企業会計には発生主義が採用されています。また、税務申告において、65万円の控除がある青色申告制度は、この発生主義で帳簿付けしての申告となります。
現金主義で帳簿付け可能な特例とは
「現金主義のほうが、お金が入ってきたときだけの記帳で簡単そうだから、現金主義で帳簿づけできないのか?」と思った方もいるでしょう。実は、3つの要件を満たしていて、許可を得ることができれば、青色申告(10万円控除)では可能なのです。
- 青色申告制度を利用する
- 前々年の所得が300万円以下の小規模事業者(※)
- 期限内の届出が必要
副業などで、本業以外に上記程度の収入のある方なら、現金主義での帳簿付けも可能ということです。
(※)②の前々年の所得が300万円以下ということですが、この300万円の計算方法について補足しておきます。
収入-経費=所得ということになります。そしてこの所得は不動産所得と事業所得を合計したものです。事業専従者給与(専従者給与)については経費に含めないことになっています。
ちなみに、2020年分の税務申告(2021年3月15日締め切り分)をこの青色申告制度で行うならば、2020年4月16日まで(新型コロナウイルス感染症のため申告期間が延長)に申告しておく必要があります。
現金主義は、小規模な事業者で支払いも入金に関してもすべて現金取引にしていて、借入金もない会社に向いているということです。

現金主義より発生主義での記帳が安心
少し複雑な気もする「発生主義」ですが、決算書について内容を理解できるようになれば、この発生主義のほうが断然わかりやすいことになります。取引があった時点で記帳しておくほうが、資金繰りなどもやりやすくなります。経費を正確に計上できて、損益計算書に反映されるのが発生主義です。
水道代、電気代など光熱費を銀行引き落としにしている会社は多いでしょう。会計期間末になると、請求書は到着しているけど、引き落としになるのは翌年1月となります。会計期間内には銀行から引き落としされません。
発生主義ですと、この場合の仕訳は、
- 12月31日、電気代300円を未払金勘定に振り替えた。(請求書が届いた時点で、経費計上した)
- 翌年1月25日に電気代300円が銀行引き落としされた。
このように発生主義で仕訳しておくと、会計期間中にその年の水道光熱費が毎月計上することができ、費用が正確に把握でき、損益計算書へ反映されます。
不動産、車両といった高額な資産を購入したときも、購入費用を配分していく減価償却についてもこの発生主義だからこそできる会計処理なのです。

発生主義でも現金主義でもない?「現実主義」とは
実は、会計処理には、発生主義と現金主義だけではなく、現実主義というものもあります。この現実主義は、販売業などでよく使われる会計処理で、商品が売れて収益が確定することが「実現した時点で会計処理」を行います。
その実現した時点というのは、業種やサービスによって違います。例えば、
- 出荷時点(商品をトラックに積載して、出荷して時点で売上)
- 納品時点(客先に商品が納品された時点で売上)
- 検収時点(取引先で検品が終わり問題なく納品された時点で売上)
商品やサービス内容、企業によって実現する時点が違うところが、この実現主義の大きな特徴となります。
今では会計ソフトの導入で、振替伝票をわざわざ手書きしなくても、領収書や納品書から仕入や売上計上することができ、自動的に振替伝票や日計表を作成することもできます。
発生主義や現金主義など、その会社の会計処理に応じた記帳ができる仕組みがプログラムされているので、複式簿記などの知識がなくても財務諸表類の作成が可能です。
また、税理士事務所と顧問契約して、同じ会計ソフトを使うことで、もっと会計処理が簡素化されます。販売・サービス業をしているなら、毎月の取引が多くなります。月々の売上や仕入れ、棚卸においてもしっかり数値を把握しておくためにも、税理士と顧問契約をしてサポートを受けてみましょう。
販売以外のほかの業種であっても、経営者一人で営業から現場スタッフまで対応しているなら、顧問契約して月々のサポートを受けることはお勧めです。
経理スタッフの人件費の節約にもなりますし、会計処理を正確・スピーディーにできるようになります。
税理士は経営者の強い味方
ビジネスを作りながら、事務作業なども一人で対応していく経営者は多いです。新しくスタッフを雇うといっても、募集、採用、慣れてもらうまでに時間が相当かかるうえに、高額な人件費がかかってしまいます。月々の顧問料はかかりますが、税理士との顧問契約を結ぶほうが、かなりお得です。
節税のこと、これからの経営のことなどの相談にのってくれて、あらゆる角度から会社の成長をサポートしてくれて事業価値を高めてくれる税理士は、経営者の強い味方です。まずは相談してみることをおすすめします。