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開業届とは何か?開業届を提出することのメリット・デメリット

開業届とは何か?開業届を提出することのメリット・デメリット

開業届とは何?開業届は出さなくてはいけないのか?出さなかったらどうなる?どのように書けば良いのか?開業届のメリットやデメリットは?など、開業届に関して抱く疑問や悩みは多くあるでしょう。

開業届を出すか出さまいか。出さなくていいなら出さない。そう考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、このような悩みや疑問を全て解説し、スムーズに開業届の手続きを行う方法が分かります。

開業届の悩みや疑問をスッキリ解決してスムーズに開業手続きを行えるようになりましょう。

  1. 開業届とは
    1. 個人事業税の事業開始等申告書
  2. 開業届の対象者とは
    1. YouTuberの場合
    2. フリーランスの場合
    3. 株式・FX・暗号資産取引の場合
    4. 生活保護受給者の場合
    5. 未成年者の場合
    6. 利益が出ていない場合
  3. 開業届を出すメリット
    1. 経費を申請できて節税になる
    2. 屋号がついて社会的信用につながる
    3. 保育園の利用申請時に開業届が職業証明となる場合がある
    4. 小規模企業共済制度で節税できる
  4. 開業届を出すデメリット
    1. 失業手当が貰えなくなる場合がある
    2. 傷病手当金が貰えなくなる場合がある
    3. 毎年の確定申告が義務になり会計処理が面倒になる場合がある
    4. 扶養から外れて保険料などを支払わなければいけなくなる場合がある
  5. 開業届の書き方とは
    1. 記載項目・必要事項
    2. 提出先
    3. 提出方法
    4. 提出期限
  6. 開業届に関する注意点や疑問をQ&A形式で解説
    1. 複数の事業を開始する場合は2枚以上開業届を提出してもよいのですか?
    2. 開業届を提出する時に費用はかかりますか?
    3. 扶養が外れる基準は?
    4. 業種を変えた・変わった場合は?
    5. 事業開始より早く提出してもよいのか?
    6. 開業届の提出前の経費は申請できないのか?
    7. 現在住んでいるところが開業届の住所に使えない場合はどうしたらよいか?
    8. 開業届を出していなくても確定申告できるか?
    9. 〇〇銀行、〇〇証券、株式会社などの屋号をつけることはできるか?
  7. 開業届とは|まとめ

開業届とは

開業届とは、個人事業を始める時に税務署に提出する書類のことです。国税庁のサイトに
は以下の記載があります。

新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続です。

出典:国税庁

なぜ国税庁なのでしょうか?公的機関で言えば、経済産業省の方が適切だと思いませんでしたか?国税庁は財務省の外局です。

事業を始めるのに国税庁に届けを提出する理由は、税金の関係上からです。

事業を始めてその事業で所得が発生すると、税金がかかります。ただし、年間所得290万円は控除されるため、290万円以下の所得であれば税金は0円ですので安心してください。

税金の関係上、開業届は、事業を開始しましたと税務署に連絡をするためのものです。

個人事業税の事業開始等申告書

実は開業届にはもう一つあるのです。それが『個人事業税の事業開始等申告書』と呼ばれるものです。

『個人事業の開廃業届出書』は税務署に提出しますが、こちらは各都道府県の税事務所に提出します。

『国に連絡してるのにわざわざ都道府県にも連絡しないといけないの?』と思う方もいますよね。しかし、形式上は国税と地方税で母体が異なるために国にも地方にも提出しなければなりません。

しかし、一般に税務署で確定申告を行った時点で、個人事業税の申告を行ったとみなされるので、実際に提出は不要です。

そのため、提出しないことに負い目を感じる必要はありません。また、提出しないことによる罰則もありません。

詳細は各都道府県のサイトを参照してください。代表例として、以下に東京都における個人事業税の事業開始等申告書の記載を引用します。

都内において、個人で事業を開始した場合、事業開始(廃止)等申告書(個人事業税)により、申告してください。

事業の開始の日から15日以内に申告をお願いします。

出典:東京都主税局

開業届の対象者とは

国税庁の「手続き対象者」の項には、新たに事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業の開始等をした方と記載があります。

『だいたいわかるけどよくわからない』こう思いませんでしたか?そもそもやっていることが事業所得に入るのかといったところでお悩みの方が多いと思います。

以降では、複数の事例で開業届の対象者になるのかならないのかを解説します。

YouTuberの場合

YouTuberの場合でも開業届を出せます。前例が少なく不安の方もいるでしょうが、実際にYouTuberとして開業届を提出し、個人事業主としてYouTuberを続けている方もいます。

フリーランスの場合

クラウドソーシングサービスで仕事をしている方もフリーランスです。そもそもフリーランスとは、一定の会社に縛られない働き方を指します。ライター、デザイナー、動画編集者などに多いですね。

フリーランスの方も、開業届を出せます。業務委託の形で働いている人も可能です。実際にフリーランスとして開業届を出して個人事業主として活躍している方も多くいます。

株式・FX・暗号資産取引の場合

これは、基本的には難しいと考えてください。普通に行っている分には、雑所得や配当所得、利子所得に分類されます。つまり、事業所得には分類されません。

どうしてもと言うのであれば、継続的に多額の所得を出し、事業による所得であると主張して税務署を納得させるしかありません。

しかしかなり厳しいです。

生活保護受給者の場合

生活保護受給中でも開業届を出すことは可能です。事業を行っていけないことはありません。

しかし実際に収入を得た場合、生活保護の手当額はその分、相殺されます。

さらに、収入が大きければ生活保護を取り消される可能性もありますので注意しましょう。

また、クラウドソーシングでケースワーカーにバレないように収入を得て、収入申告をしないと不正受給になりますので注意しましょう。

バレた場合、その分の生活保護費を返還しなければなりません。

厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給されます。

出典:厚生労働省

未成年者の場合

未成年者の場合であっても、開業届を出すことは可能です。開業に年齢制限はありません。

しかし、未成年者の場合は『未成年者登記簿』をあわせて提出する必要があります。

『未成年者登記簿』は、管理している法務局に提出します。

利益が出ていない場合

フリーランスとして活動し始めたがまだ利益が出ていない場合でも、開業届を出せます。

開業届を出すハードルはとても低いです。『これからフリーランスとして活動するぞ!』と思い立った瞬間から開業届を出せます。

ただし、確定申告が毎年義務になるので注意しましょう。

開業届を出すメリット

開業届を出したい人も多くいます。

開業届を出すと次のようなメリットがあります。

  • 経費を申請できて節税になる
  • 屋号がついて社会的信用につながる
  • 保育園の利用申請時に職業証明になる
  • 小規模企業共済制度で節税できる

経費を申請できて節税になる

サラリーマンは節税が難しいことはよく知られていますが、なぜだかご存知でしょうか。サラリーマンの収入である給与収入では、経費があらかじめ決められた額だからです。具体的には、給与収入における経費に該当するものを給与所得控除と言います。

また、開業届を出さずに副業で収入を得ている人も節税は難しいです。

なぜなら、フリーランスとして得た副業収入は、雑所得として分類されるためです。雑所得でも経費を申請できますが、青色申告はできません。

開業届を出した個人事業主が青色申告をすれば、事業収入から一定額を控除してくれます。最大で65万円の控除が可能です。

2020年分以降の確定申告では、青色申告特別控除の額が以下の3段階になります。注意してください。

  • 電子的に記帳しているか、e-Taxで申告した場合:65万円
  • 紙で申告した場合:55万円
  • 正規の簿記の原則で記帳していない場合:10万円
せっかく開業届を出して節税のメリットを受けるのであれば、電子的に記帳するかe-Taxで申告して65万円控除されるようにしましょう。

屋号がついて社会的信用につながる

一定の企業に就職していない方は、クレジットカードの審査において屋号があることで、事業を行っているというアピールになり、有利になることがあります。

しかし、屋号があっても全く考慮しない審査体制の場合もあるため、必ず有利になるわけではありません。

クレジットカード会社相手ではない場合には、屋号があることで無職のレッテルを一方的に貼られることが少なくなります。

プライベートにおいても、無職ではなく個人事業主、自営業者だと主張できます。

保育園の利用申請時に開業届が職業証明となる場合がある

小さいお子様がいる方は、開業届を提出していることで、保育園の利用申請に困らない場合があります。

保育園を利用する時は、職業証明を求められることが多いです。もしフリーランスとして働いて安定して収入があっても、証明が難しくなります。

しかし、開業届のコピーを職業証明と認めている保育園が多いです。

開業届を出していなくてもクライアントとのやりとりや収入を証明できれば認められる場合もありますが、手間がかかりますし、開業届のコピーより信用性は薄くなってしまいます。

保育所等の利用の条件には、会社や自宅を問わず、月64時間以上働いているときのような条件があります。(横浜市の場合)

そのため、保育を必要と証明するためには、就労(証明書)が必要です。

保育所の利用にあたっては、一定時間以上働いていて保育の必要性がある証明が必要です。可能な限り、就労時間を証明する準備をしましょう。

小規模企業共済制度で節税できる

小規模企業共済制度とは、個人事業主の退職金制度です。毎月積み立てる積立金は、全額所得控除として認められるため、節税になります。

以下は、小規模企業共済の運営機関である”中小企業基盤整理機構”の制度概要の説明です。

小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度です。現在、全国で約133万人*の方が加入されています。掛金は全額を所得控除できるので、高い節税効果があります。将来に備えつつ、契約者の方がさまざまなメリットを受けられる、今日からおトクな制度です。

出典:中小企業基盤整理機構

開業届を出すデメリット

メリットの大きい開業届ですが、場合によってはデメリットになる時もあります。しかし、デメリットを知っておけば、気持ちの準備ができます。

税金が増える、副業がバレるなどの懸念は、厳密に言えば開業届を出したからそうなるわけではありません。

税金については、収入に対して税金を払うことは義務であり、開業届とは関係がありません。個人事業税に関しても同様です。

副業がバレることについては、開業届を出していなくても、所得が増えて住民税が増えた場合にバレることがあります。開業届を出している出していないで変わることではありません。

失業手当が貰えなくなる場合がある

失業手当の条件には、再就職の意思と能力があることが求められます。開業届を出すと、事業を行っているために、この条件の範囲外となってしまい貰えなくなる場合が多いです。

厚生労働省のサイトには、失業手当について次のような記載があります。ここに自営業の方と記載されています。

このため、例えば次のような方は、受給することができません。

・妊娠、出産、育児や病気、ケガですぐに就職できない(※5)、就職するつもりがない、家事に専念、学業に専念、会社などの役員に就任している(活動や報酬がない場合は、住居所を管轄するハローワークで御確認ください)、自営業の方など。

出典:厚生労働省

傷病手当金が貰えなくなる場合がある

傷病手当金に関しても、健康保険組合次第といったところが実情です。開業届を出しているため、労務不能ではないと判断される場合があります。

しかし、現実にはかなりグレーな部分で、医師の判断が重要になってきます。

手当を支給する健康保険組合は、労務不能で療養中であることの証明を所定の書式で記入してもらい、送付されれば支給します。

傷病手当金請求書には、療養担当者とする医師からの以下の記入が必要となる場合が多いです。

  • 傷病名
  • 診療開始日
  • 労務不能であったと認めた期間
  • その期間内の診療実日数
  • 傷病の主症状および経過概要
  • 発病または負傷の原因
  • 医療機関住所
  • 医療機関名称
  • 医師名
  • 証明日
要するに、医師が労務不能と認めていれば傷病手当金を貰えます。事業を行っていることを医師に自己申告しない限り、貰える可能性は高いです。

毎年の確定申告が義務になり会計処理が面倒になる場合がある

確定申告が義務になるため、会計処理が面倒になる場合があります。人によっては、確定申告のためではなく、日常的に会計処理を行っているため面倒に感じない場合もあります。

しかしこれは対策が可能です。今の時代、電子的に(クラウドやソフト)会計処理を行うことが通常です。

簡単に会計処理を行えるツールが多く出回っていますので、それらを活用することをおすすめします。

扶養から外れて保険料などを支払わなければいけなくなる場合がある

健康保険組合の規定によりますが、開業した場合は扶養対象から外れることがあります。

基準としては、年収130万円未満かつ扶養を受けている人の年収の半分以下で被扶養者として認められます。

よって、年収130万円以上か、扶養を受けている人の年収の半分を超してしまうと被扶養者として認められない場合が多くなります。

詳しくは、加入している健康保険組合に問い合わせてみましょう。

開業届の書き方とは

開業届を出すことによって、節税できるという大きなメリットがあります。このメリットのために開業届を出そうと思っても書き方がわからずに躊躇(ちゅうちょ)してしまう方もいるでしょう。

以降で、わかりやすく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

記載項目・必要事項

開業届(個人事業主の開業・廃業等届出書)は国税庁のサイトからダウンロードできます。

主な記載項目は以下です。

  • 納税地
  • 氏名
  • 個人番号
  • 生年月日
  • 職業
  • 屋号
  • 所得の種類
  • 開業・廃業に伴う届出書の提出の有無(青色申告承認申請書)
  • 事業の概要
  • (給与等の支払いの状況)
このように、特に難しいものはありません。

注意すべきなのは、”開業・廃業に伴う届出書の提出の有無”にある”青色申告承認申請書”です。これを提出しないと、開業届を出す最大のメリットである節税効果が見込めなくなります。注意しましょう。

提出先

開業届の記入が終わったら、事業を行う拠点(自宅)の最寄りの税務署に提出します。

提出方法

提出方法は以下の3種類があります。

  • 持参して税務署へ提出
  • 郵送で税務署へ提出
  • 時間外収受箱に投函して提出
持参して提出が最も多いですが、混雑している場合もあるのでおすすめしません。ただ、不明点があればすぐに質問できるので、不安な方は直接持参して提出すると良いでしょう。

本業の都合で税務署に行く時間がない場合などは郵送や時間外収受箱を利用しましょう。

しかしその場合は、以下のものを同封する必要があります。

  • 開業届(提出用)
  • 開業届(控え)
  • マイナンバーカード/身分証明書のコピー
  • 切手を貼った返送用封筒
  • その他提出書類(青色申告承認申請書)
欠けていると受理されませんので注意しましょう。特に、青色申告承認申請書は重要です。

提出期限

開業届の提出については、事業の開始から1ヶ月以内に提出しなければなりません。

また、同時に提出する青色申告承認申請書は事業の開始から2ヶ月以内が原則です。しかし、その年に青色申告をするためには1月1日から3月15日までに提出しなければなりません。

例えば2月1日に事業を開始した方は、2ヶ月後の4月1日までに提出すれば良いと考えていると、3月15日を過ぎてしまい、その年に青色申告ができません。注意しましょう。

開業届に関する注意点や疑問をQ&A形式で解説

開業届に関して一般的に抱かれる疑問はこれまでに解説しましたが、以下のような疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。その疑問にもお答えいたします。

複数の事業を開始する場合は2枚以上開業届を提出してもよいのですか?

2枚以上提出することも可能ですが、1枚でも問題ありません。

開業届を提出する時に費用はかかりますか?

かかりません。郵送代や身分証明のコピー代、税務署への移動費程度です。

扶養が外れる基準は?

扶養にも、税制上と社会保険上の扶養があります。社会保険(健康保険)の扶養から外れる基準は130万円です。詳細は加入されている組合にお問い合わせください。

税制上は103万円を超えると所得税が発生し、150万円を超えると配偶者特別控除の控除額が減額します。

業種を変えた・変わった場合は?

新規で開業届を出す必要はなく、確定申告の際に業種を追加できます。

事業開始より早く提出してもよいのか?

問題ありません。事業開始日に明確な定義はありません。

開業届の提出前の経費は申請できないのか?

そのような決まりはありません。ただし、開業届を提出してからの期間の経費は、経費として説得力が増します。

現在住んでいるところが開業届の住所に使えない場合はどうしたらよいか?

大家さんに相談するしかありません。例えば、家賃の増額を元に交渉してみるなどをしましょう。

開業届を出していなくても確定申告できるか?

可能です。しかし、青色申告はできません。

〇〇銀行、〇〇証券、株式会社などの屋号をつけることはできるか?

登記によって得られるものですので、そのようなものは受け付けてもらえません。

開業届とは|まとめ

開業届とは何なのか、メリット・デメリット、提出方法など網羅的に解説してきました。ご理解いただけましたか?

開業届を提出するメリットはなんといっても節税に効果的であることです。ぜひ有効に活用しましょう。

また、デメリットになり得るものも紹介しました。開業届の提出期限を遅れたからといって罰則はありませんので、うまくタイミングを見て提出しましょう。

企業の教科書
記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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