「いくら頑張っても給料が上がらない」「自分の人生を会社に切り売りしている感覚がある」さまざまな雇用不安から、会社を辞めて独立起業や会社設立をしたいと考えている方が増えています。
日本はいま、人口減少社会のまっただ中。最も悪いストーリーでは、2100年の人口が3,000万人を割り込んでしまう見通しもあるほどです。人口が減少すると産業も縮小してしまいます。この状況を戦い抜くには、ビジョンを持った会社設立が必要不可欠。創業者亡き後、その意思を継いでくれるのは会社であり社員です。偉大な100年企業をつくるプロセスこそ、いまの会社設立に欠かせません。
本特集では、会社設立方法だけに終始することなく、「偉大な会社」の作り方をご説明。100年続く会社を作るため、起業準備中や会社設立検討中のあなたに本質的な思考をお届けします。せっかくつくる自分の会社です。この特集を通して、永く続く会社設立を学びましょう。
ベンチャーは3年もたない?
「ベンチャーは創業3年目でつぶれてしまう」というジンクス、聞いたことありませんか? せっかく会社員を辞めて独立しても、消費税が発生する3期目(会社設立から丸2年)のタイミングで納税ができず、会社を畳んでしまう例も後を絶ちません。
毎年必ず発生する法人税は、利益を出さなければせいぜい7万円程度。消費税は設立後2年間は猶予が認められているのですが、3期目(設立から丸2年後)は納税の義務が生じる可能性もあります。
それまでの感覚で現金を使っていた方は、納税の目処が立たずに資金繰りがショートすることも。これが俗に言う3期目の罠です。
会社とは何か?
会社設立しなくても事業を始めることはできます。会社を作らずに起業し自分でビジネスを行っている人を「個人事業主」と呼びます。
しかし、あえて会社を作って事業を始める方もいます。
会社とは、営利を目的とする法人のこと。法人とは、人々の集団に対して、権利や義務の主体となれる資格を与える法的概念です。つまり、会社そのものが不動産などの所有権を持つことも可能ですし、経済活動は自由。基本的人権に近しいものを享受できるのです。
会社には、株式会社や合同会社などの種類があります。
株式会社は人々から出資を集めて会社をつくる、規模の大きな事業を行うことも可能な法人形態です。出資をした人は「株主」となり、株主総会などで経営方針に意見を出すこともできますし、株式会社が利益を出せば利益の一部を配当として受け取ることもできます。
社会的な信頼性や知名度は、株式会社が一番です。会社設立となると最初に思い浮かぶのが株式会社のはず。公認会計士(監査法人)の厳しいチェックを受けて、安定的な収益をあげられる体制を整えて、経営基盤を充実させていけば、証券取引所での「上場」(IPO)が認められるのも株式会社の特徴です。上場を達成すれば、多くの一般投資家から資金を調達することで、さらに大きな事業を展開することも可能です。
一方、合同会社は2006年から始まった比較的新しい会社制度。株式会社より制約された要素がありながらも、構成メンバーの利益配分に関する自由度が高いなど、メリットも大きい会社形態です。会社を作る時には株式会社というイメージを持っている方が多いですが、実は合同会社も多く、現在では会社設立といえば株式会社か合同会社を指すことが一般的です。
株式会社にしても合同会社にしても、会社組織をつくるのは初期費用がかかり、それがネックにもなります。会社の設立には登記手続きが必要ですが、株式会社であれば最低でも21万円、合同会社で6万円の費用がかかります。手続きも複雑なため、行政書士などの専門家に設立手続きを依頼すればさらに手数料が上乗せされます。
「うまくいかないかもしれないのに、会社なんて作れない」と、設立をためらう人がいたとしても、無理もありません。しかし、個人事業主と会社にはメリットに大きな差が存在します。事業を興す時には個人事業主がよいのか、会社を設立した方がよいのかをご検討ください。
有限会社は設立できない!?
以前は会社を作るとなると株式会社か有限会社がほとんどでした。しかし、2006年5月1日の会社法施行に伴い、有限会社法が廃止されました。そのため、現在では有限会社を設立することはできません。
しかし、有限会社の代わりに合同会社という新しい会社形態が誕生しました。
2006年以前では株式会社の設立には資本金1,000万円以上、有限会社の設立には資本金300万円以上という条件がありましたが、現在では資本金は1円でも会社を作ることができます。その意味では、会社設立や法人化の敷居が下がったといえます。
なぜサラリーマンや個人事業主ではなく、会社設立する必要があるのか?
それでも、会社設立による事業展開を行う起業家は少なくありません。中には、サラリーマンとして勤務しながらも、副業を会社組織にしている人さえいます。
当初は個人事業主として事業を進めながら、途中で会社にすることを「法人成り」と呼びました。会社を作るからといって、誰かを雇わなければならないわけではありません。メンバーが自分ひとりしかいない会社を作ることもできますし、世の中には現にたくさんの「一人会社」があります。ひとりで事業を進めると決めた場合でも、個人事業主か会社を設立するかを選択することができるのです。
もっとも、法人成りせざるをえないケースも確かに存在します。法人にしなければ許認可がおりない業種があり、法律上どうしても会社を設立しなければならない場合です。たとえば、ホームヘルパー派遣業やデイサービスなどは会社設立が必須です。
会社設立のメリット
しかし、許認可が必要な業種以外では個人事業主でも行えることがほとんどです。では、法人成りや会社設立のメリットとは何でしょうか。
会社設立のメリット1.継続的に仕事を進めていきたい人
一時的なサイドビジネスではなく、多少の困難には立ち向かって乗り越えながら、継続的にビジネスを進めていきたい方であれば、会社設立した方がいいでしょう。顧客や取引先にも、覚悟が伝わる可能性があります。
今は個人事業主でも、軌道に乗りはじめたら法人成りをした方が比較的低リスクで展開できます。
中には、「法人でない相手とは取引しない」という方針の会社もあります。特にWEBで消費者を相手に仕事をしている方であれば、顧客が「会社概要」などのページを見て「会社だから安心」と思って買ってくれる方もいます。
個人事業主であっても誠実に仕事をしている人がほとんどですが、会社という外形によって社会的な信頼性を問われる場面も決して少なくないのです。
継続的に仕事を進めたい人や社会的な信用が必要な人は個人事業主よりも会社設立を選びましょう。
会社設立のメリット2.事業の拡大を目指している人
「もっと多くの人々に影響を与える仕事をしたい
「世の中を変える仕事をしたい」
そのような大きなビジョンを抱いている起業志願者にとって、会社設立は自然な選択といえます。会社を設立している人は、個人事業主と異なり、会社の資産と経営者個人の給与を明確に区別しています。
個人事業主であれば曖昧に処理してしまうような例も、役員貸付金・役員借入金という勘定科目(会計上のルール)を付け、しっかり記録しなければなりません。
よって、会社が一時的に儲かったからといって、個人的な儲けを簡単に増やすわけにはいかず、会社を拡大しやすいといえます。
また、個人事業主よりも会社組織の方が資金調達しやすくなる、という大きなメリットもあります。信用金庫、都市銀行、政策金融公庫をはじめとするデットファイナンス(融資)のほか、エンジェル投資家、VC(ベンチャーキャピタル)からエクイティファイナンス(投資)するという手もあります。株式会社であれば個人投資家からお金を集める上場(IPO)も可能です。
個人を相手にしてくれる人もいるにはいます。しかし、「個人事業主やサラリーマンをしながら事業をしようかなあ」と思っている人(=本気度の低い人)へ積極的にお金を貸してくれる方は実質的には信用金庫、政策金融公庫の2つしかありません。エクイティファイナンス(投資)は会社のためのものなのです。
会社設立の必然性が理解いただけるかと思います。
キャッシュフローの立ち上がりと収益モデルを理解しよう
自分が行おうとしている事業を深く理解することが大切です。たとえばあなたが八百屋をやりたいのなら、大きなお金はいらないかもしれません。
開業当初から地元のお客様がついて、じわじわと売上が増えていきます。一度ユーザーがつくと、リピートして買って貰えることが多いのが八百屋さんのような商売。リスクも少ないですが、その分、リターン(収益)も大きくは見込めません。リピート客の積み上げにより、常になだらかな成長をしていくのがこのビジネスモデルの特徴です。
今は大企業となった楽天などを代表とするECサイトもこのような成長を描きやすいです。
ベンチャー企業はどうでしょうか。
イノベーションを起こすようなプロダクトが生み出せた場合、最初は一部の利用者が生まれるだけですが、そこから徐々にマジョリティ層に利用が拡大した時、サービスの普及率は爆発的に増加します。
最初は投資のため八百屋さんよりも大きく赤字がでてしまいますが、その分大きな利益を上げられる可能性があるのです。
この収益モデルの場合、大きな赤字を支えるためにはVC(ベンチャーキャピタル)による資金調達が適しています。融資をあてにしていては、融資金額に上限があったり、調達の条件が難しかったりするためです。
こちらはキャッシュフローの伸びが「J」の形に似ている事より、Jカーブと呼ばれます。
では、あなたが作ろうとしている会社はどちらでしょうか。八百屋でしょうか。それともJカーブを描くベンチャー企業でしょうか?
会社設立のメリット3.将来的に事業承継をする見込みがある人
会社組織にしたほうが、家族などの他者に事業を引き渡すとき、複雑な手続きが必要なくなります。個人事業主ですと、事業と個人が密接に繋がっていますが、会社は事業と経営者の存在がお互いに切り離されているからです。
個人事業主の事業を他者に譲り渡す(事業承継)ときには、事業用資産の譲渡に関して贈与税が課されます。もし負債がある場合には、事業を譲り渡す個人が事前に完済させなければなりません。
また、事業を渡す個人は廃業届、事業を譲り受ける個人は新たに開業届を税務署に提出しなければなりません。
その点、会社を事業承継させれば、これらの手続きを省略できます。会社の資産や負債は、そのまま別の経営者へ承継させることができるからです。
将来、事業を譲ることを考えている場合には会社設立をするか、事前に法人成りをすることを考えておきましょう。
会社設立メリット4.税制などで有利
一定水準以上の収入がある場合には、個人事業主に課される所得税よりも、会社に課される法人税のほうが税率を抑えられる場合があります。また、ひとりで事業を進める場合でも、法人にすれば厚生年金や社会保険に加入できるので、経済面でのメリットも得られるのです。
会社組織にすると、節税に繋がることもありますし、仮に赤字が出てしまった年があっても、翌年以降に繰り越して、黒字が出た場合に節税できるようになります。会社であれば赤字は最大9年間も繰り越せますが、個人事業主の場合は3年しか繰り越し期間がありません。この意味でも会社は大変な恩恵を受けることができます。
社長の肩書き、そんなに大事?
「どうせなら社長を名乗ってみたい」「会社を作ったほうが見栄えがいい」と考えて、形から入って会社を設立する場合があります。もちろん、形から入ることが大切な場合もあります。自分の会社を作ったという事実そのものをきっかけに、仕事にますます身が入ることもあるでしょう。事業に愛着が沸くかもしれません。
ただ、すでに述べたとおり、会社の設立には費用がかかります。事業にも立ち上げ時にオフィスやホームページなどに関する契約関係の費用、備品の購入費など、初期投資がかかります。会社設立と事業の早期安定のどちらを天秤にかけるか、慎重に考える必要があります。
たとえ売上が伸び悩む赤字の場合でも、最低でも年間7万円の法人住民税を納めなければならないため、収支ギリギリの場合なら、その納税もかなりの負担感をおぼえることになるでしょう。
本音レベルでは「株式会社の代表取締役社長」という肩書きが欲しいために会社をつくる人もいます。それでも、売上が上がればよいのですが見栄で会社をつくった「社長」の思いやビジョンの薄っぺらさは、どうしても透けて見えてしまうもの。信頼できない社長には顧客や協力者も現れにくく、売上がなかなか向上しません。
売上げが上がるまでは会社設立を我慢して個人事業主で営業し、軌道に乗ったときに満を持して法人成りすることが事業を永く続けていく上でのポイントです。
偉大な会社の作り方
会社を作ることは、お金と一定の時間をかければ可能です。
ただ、会社は経営者の思いによって、いくらでも社会的な影響力を持つようになり、多くの人々を巻き込める存在になれます。
ファンから熱烈な支持を集め、何千人、何万人の従業員を抱えて、海外にも拠点を持つような巨大会社は、最初から潤沢な資本力があったわけではない場合も珍しくありません。「偉大な会社」をつくるためには、どうすればいいのでしょうか。
偉大な会社を作るための4要素
偉大な会社をつくるためには、以下の4つの要素が欠かせません。
- ビジョン
- ミッション
- 価値基準(バリュー)
- 行動指針(クレド)
会社のビジョン(将来像)とは?
ビジョンは、組織のリーダーが目指そうとしている(目指すべき)姿。たとえ失敗を続けても、情熱を持って取り組み続けることができるテーマです。
そして、リーダーはそのビジョンを組織のメンバーに伝えて、納得してもらい、共に行動を起こしてもらう必要があります。つまり、リーダーはビジョンをメンバーと共有し、ともに情熱を燃やす火付け役になるのです。ビジョンが明確で、かつ魅力的なものであると、メンバーの仕事に対するモチベーションは下がりにくくなります。
会社のミッション(使命)とは?
ミッションは、ビジョンを達成するために必要となる、現在抱くべき使命感や達成目標のことを指します。いくらビジョンが素晴らしくても、ミッションに落とし込めていなければ、ビジョンの具体的な実現は遠のいていきます。リーダーが大風呂敷を広げているだけの、単なる「絵に描いた餅」となってしまうのです。
裏を返せば、ビジョンが多少漠然としていても、ミッションが具体的かつ明確であれば、各メンバーは、その組織のために自分がどのようなことにどのようなかたちで貢献できるかを自覚し、積極的に意見を出したり、行動を起こしたりできるようになります。
会社の価値基準(バリュー)とは?
価値基準(バリュー)とは、組織内で共有すべき価値観を意味します。会社全体で共有するバリューだけでなく、社内の個別チームで独自に共有するバリューもありえます。ミッションよりも、より理解をしやすく、具体的なイメージを掴むことができるものでなければなりません。
バリューをうまく共有できると、ミッションも達成しやすくなり、将来のビジョンも実現に近づいていきます。
会社の行動指針(クレド)とは?
行動指針(クレド)とは具体的な行動に起こすためのルールです。バリューまでは多少の抽象論が含まれていても構いませんが、行動指針の段階でも、まだ抽象論やあいまいなメッセージを伝えていては、リーダーは他のメンバーをまとめることはできないでしょう。行動指針は、何をすればいいのかを体感で理解できるメッセージでなければなりません。経営戦略(ストラテジー)も、行動指針に含まれる場合があります。
ビジョン・ミッション・バリュー・クレドの関連性
山のぼりを想像してみましょう。
あなたはチームで山に登っています。
ビジョンとは雲のようなもの。目指すべきものですが、「山頂に登ったらゴール」というわけではなく、けっして到達はできません。
ミッションは、ビジョンに向けて一歩一歩近づくためのステップ(階段)です。ミッションが大きすぎると疲れてしまいますし、そもそも乗り越えられないかもしれません。
バリューは「なぜビジョンに向かうのか」と思う心。そもそもなんで山に登るのか。組織内で自問する心です。
クレドは「この登山道で登ろう」と決めたこと。さまざまな登り方、ビジョンの達成方法があるかもしれません。しかし、どの登山道で登ろうか迷っている段階では、少しもビジョンに近づいていけません。
ビジョンや経営理念を定めて成功した、偉大な会社の例
ビジョンや経営理念を定め成功した偉大な会社にフィリップモリスとディズニーランドの例をご紹介いたします。
フィリップモリスは加熱式たばこiQOS(アイコス)、ディズニーランドはエンターテインメントとして成功しています。
それぞれ、どのようなビジョンを定めたのでしょうか。
iQOSを開発した世界最大のたばこメーカー、フィリップモリス
フィリップモリスの経営理念(ビジョン)は最も実行と成果に優れ、社会的責任を果たし、尊敬を集めるたばこ会社になることとされています。
「尊敬を集めるタバコ会社」というビジョン・ミッションから導き出された革命的な商品が、4,500億円もの巨額の研究費等をかけて開発した「加熱式タバコiQOS」だったといえます。
喫煙による健康の害は大きな社会的な問題です。「ニオイがつく」「副流煙で非喫煙者にも健康リスクがある」と指摘され、喫煙者は居場所を失いつつあります。紙巻きタバコの生産も縮小傾向にあります。こうしたなかでも、副流煙やニオイなどの問題を解決したiQOSが世界的なヒットと新たな市場の創造に繋がったのです。喫煙者だけでなく、非喫煙者にも優しい商品の開発によって、フィリップモリスは経済的な成功だけでなく、社会的な尊敬を集めるようにもなりました。
ディズニーランドをつくった、ウォルトディズニー
世代を超え、国境を超え、あらゆる人々が共通の体験を通してともに笑い、驚き、発見し、そして楽しむことのできる世界が、ディズニーランドの基本理念(ビジョン)です。
そこから、ディズニーランドで働く「キャスト」がどんな振る舞いをすべきなのかを逆算し、具体的な行動マニュアル(クレド)に落とし込んだのです。ミッキーマウスなどのキャラクターを演じるキャストだけでなく、案内担当者や清掃員まで、「夢を見せる」ことに徹しています。
現実社会を思い出させるものは一切何も置かない。そうすることで、顧客はエンターテインメントに没頭でき、リピーター獲得や根強いファンづくりにも繋がっていくのです。顧客の感動は口コミを引き起こし、また新たな顧客を呼びこんでいます。
ビジョン・ミッション・価値基準を作ろう
「ハリネズミの概念」を理解しよう
イギリスの哲学者、アイザイア・バーリン(Isaiah Berlin)が書き残したエッセイ『ハリネズミとキツネ』では、ハリネズミを襲おうとするキツネと、その攻撃から身を守るハリネズミの対立を描いています。
キツネはあの手この手と策を変えながら、ハリネズミに襲いかかろうとしますが、「背中のハリを立てて防御する」という、ひとつの強みの発揮に徹しているハリネズミに敵いません。
なぜなら、ハリネズミは次の3つの事柄を、自分自身で心得ているからだというのです。
- 情熱を持って取り組めること(やりたいこと)
- 自社が世界一になれる部分(できること)
- 経済的原動力になるもの(やるべきこと)
情熱を持ってできるけれども、「経済的原動力(儲け)に繋がらない」ものは長続きしません。趣味やボランティアで終わってしまいますので、他に収入源を確保しなければなりません。
他人よりも得意だし、儲かるけれども、「情熱を持てない」ことも続きません。そこそこの成果でよければいいのですが、情熱や社会的意義を感じられなければ「偉大な会社」にまでは成長しえないでしょう。
情熱はあるし、儲けも出るだろうけども、客観的に自分自身の強みではない、「できない」ジャンルでは、そもそも戦えません。
ビジョンの作り方
ビジョンは、理屈で作ってはいけません。どこかで聞いたことがあるような話の流用では、心を揺さぶられることはありません。いい人材の採用へと繋がらないでしょう。
十分に理解できる未来ではなく、「現代の感覚では理解しにくい未来」をビジョンとして示す必要があります。理解しにくいけれども、まったく理解できないわけではない。そして、その未来が到来すれば、今よりもいい世の中になると信じられる。そんな未来です。
ソフトバンクの孫正義さんは「インターネット革命」を起こそうとし、一代でソフトバンクグループを率いる大きな存在となりました。もともとインターネットが普及していなかった時代にYahoo!BBを立ち上げルーターを無償配布しました。その行動は一見不可解かもしれませんが、彼のたどった思考回路を再現してみましょう。
- ビジョン:インターネット革命
- ミッション:インターネットをすべての家庭に普及させる
- 行動指針:ルーターの無償配布
何もビジョンがないままルーターを配布していたら、それは大盤振る舞いなだけのヤバい会社です。
ビジョンを描くことができれば、メンバーはワクワクして、リーダーに付いていきたくなります。最初はリーダー個人が発するメッセージであっても、ビジョンとして提示する以上は「メンバー全員で描いていく未来」を演出する必要があります。
よって、ビジョンは「感情をきっかけ」にして作らなければなりません。この感情を基にしたビジョン構築は、リーダーの個人的な経験に沿って語られると、メンバーとの共有が円滑に進みやすいです。
ただ、個人的な経験談だけでビジョンを押し通しても、説得力に欠けるのは確か。「できる」という思い込みは大切ですが、メンバー全員が「できる」という思いを共有するためには、客観的な裏付けが必要となります。
よって、著名な実業家のエピソードや学者の学説などを基にしたエビデンスも共に示すことができると、理解が進みやすく、より共有しやすいビジョンができあがります。
日本で起業することの市場優位性を考えよう
では、どんな事業をもとに会社設立すべきでしょうか。
日本で起業することの意味を考えなければなりません。
そもそもシリコンバレーはIT先進国
アメリカ合衆国のシリコンバレーは、Google(Alphabet)、Apple、Facebook、Amazonをはじめとして、世界的に著名で各国で絶大な影響力を及ぼす企業が軒を連ねています。しかし、そこには他のどこにもマネできない、イノベーションを生んで促進するしくみが整えられているのです。
有望なベンチャー企業にはすぐに莫大な投資が入り、失敗するリスクをそれほど顧みない積極的な支援が行われます。そして、まずは証券取引所での上場や著名企業からの買収を目指して、様々な専門家が新しい種を持つベンチャー企業の急成長をバックアップしていきます。
その中から厳選されて、世界的によく知られる企業が生き残っていくのです。最初から一定割合のベンチャー企業が潰れてしまうことを前提として、そのエコシステムが維持されているのです。
ベンチャー企業にリスクマネーが投じられるチャンスが整備されていない日本では、なかなか真似できないしくみですが、シリコンバレーの良い部分を採り入れなければ、日本経済の今後の衰退は止められないでしょう。
ベンチャー企業を立ち上げるうえで、FacebookのようなWebスタートアップを想像する方は多いと思いますが、シリコンバレーの経験に勝つのはなかなか大変です。
クールジャパンはもう古い
日本政府が「クールジャパン」と称して、日本発の漫画やアニメ作品を輸出するようになっています。確かに海外の一部のマニア層には浸透していますが、一般大衆にまで拡大するようなムーブメントにはなっていません。
日本製の商品(メイド・イン・ジャパン)といえば、ハイテクの象徴的存在で、高性能・高品質であり、なかなか壊れないことでも知られています。しかし、世界の一般大衆は、そこそこの低価格でそこそこの安定的な品質のものを求めているのです。確かに、最先端の研究などに使うツールなどでは、日本製のものが他の追随を許していません。一方で、消費者ニーズを掴み切れていないのです。
かつて、隣国の中国は、欧米の大企業が出したアイデアやデザインを請負や受注で、安価な製造の場だけ提供していた「世界の工場」とされてきました。他国のアイデアを平気で真似する文化が国際問題にもなっていました。
しかし、中国は、いまや市場シェア70%の業種をも有する「ものづくり先進国」になっています。中国南部の深セン市は、シリコンバレーにも引けを取らないイノベーションの生産地となり、世界をリードしつつあります。
日本は高齢化先進国
そのような国際情勢の中で、日本が独自の地位を占める可能性がある例が「高齢者問題対策」です。医療水準の向上や少子化などの影響で、全人口に占める65歳以上人口の割合を表す「高齢化率」は、2017年で27.3%にも達し、主要先進国の中では最高水準となっています。平均寿命も世界最高水準です。
「人生100年時代」といわれますが、ダイエットや筋トレ、低GI食などの健康ブームも相まって、日本が世界で最も早く、国民の平均寿命が100歳に達したとしてもおかしくありません。
医療や社会福祉、健康づくりなどに関連するビジネスや研究において、日本は世界をリードすべき立場にあるといえます。つまり、人類がまだ誰も経験したことのない「高齢化先進国」に直面する可能性が高いのです。
ここに事業を起こすヒントのひとつがあると言えます。
シリコンバレーでもなく、中国とも真っ向勝負せず、日本という市場優位性を活かして高齢者向けのビジネスをする。これも立派な価値基準(バリュー)です。
日本の健康市場で支持された新たな「メイド・イン・ジャパン」が、世界を席巻する日も遠くないでしょう。健康のためならお金に糸目を付けない消費者も多くいます。
会社設立後100年続くために
人生100年時代。定年を迎えてから何をして過ごすか。いま大きな課題となっています。
では、それから先のことを考えたことがありますか?
会社は法人。強靱なビジョン・ミッションに裏打ちされた意思と、仕組みさえあれば100年以上生き続ける存在です。
世界最古の存続企業は、飛鳥時代から1500年近く続いている日本の「金剛組」です。世界の大企業を見ても、100年以上続いている例は珍しくありません。いわゆる「100年企業」は、時代が移り変わっても人々のニーズを掴んで提供し続けてきた企業のみが達成できる偉業です。
「サラリーマン・OLの生活が嫌だから」という消極的な理由で起業する人もいるかもしれません。たとえ、最初のきっかけはそうだとしても、いずれは偉大な「ビジョン」を持たなければ、従業員や市場の支持は得られません。人々の最低限の衣食住が満たされている現代において、「ビジョン」を掲げ、「偉大な企業」をつくる。会社設立時点でそんな取り組みが重要となってきているのです。
会社設立の流れ
どんな会社をつくるのか決まったら、いよいよ会社設立の手続きに入りましょう。
簡単に会社設立するために、税理士に依頼するのも良策です。創業初期の多忙な時期に時間を節約する賢い方法です。
会社設立の流れ1.印鑑を用意する
会社設立には最低でも代表者印(法人実印)が1つ必要です。それ以外にも用途に応じて銀行印、社印(角印)などが必要になります。
- 代表者印(法人実印)
- 銀行印
- 社印(角印)
ただし、代表印と銀行印が同じものでも問題ありませんし、角印はほぼ、認め印の役割しか果たしませんので、なくても問題ありません。リスク回避や業務効率化のために銀行印と社印(角印)を別途用意するのが一般的ですが、余裕ができてから作る、でも十分です。
代表社印(法人実印)だけは必ずご用意ください。
会社設立の流れ2.書類をつくる
会社設立に必要な書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 登録免許税分の収入印紙を貼り付けたA4用紙
- 定款
- 発起人の決定書
- 取締役の就任承諾書
- 代表取締役の就任承諾書
- 監査役の就任承諾書
- 取締役の印鑑証明書
- 実質的支配者となるべき者の申告書
- 資本金の払込を証明する書類
- 印鑑届出書
- 登記すべきことを保存したCD-RかFD
- 発行済み株式の50%を超える株式を保有する個人
- 発行済み株式の25%を超える株式を保有する個人
- 事業活動に支配的な影響力を有する個人
- 1~3がいない場合は、代表取締役
を示す必要があります。
起業時に登記する場所によっては提出不要な書類もありますのが、必要な書類は最大で11種類です。法務省のホームページからテンプレート・作成例をダウンロードして作成しましょう。
この準備には慣れもありますが、2週間〜6週間かかります。慣れない書類作成に追われるよりも税理や司法書士に相談したほうが早いかもしれません。
会社設立の流れ3.資本金を準備する
登記(会社設立のための申請)は株式会社の場合、以下の費用がかかります。
- 定款に貼る収入印紙代:4万円(電子認証を依頼する場合無料)
- 定款の認証時に公証人に払う手数料:5万円
- 登記手続きに必要な定款の謄本手数料:約2,000円
- 登記手続きの際の登録免許税:最低15万円(厳密には資本金の額×0.7%)
上記を合わせると、約24.2万円となります。
会社を設立するには、登記費用以外にも「資本金」を用意しておかなければいけません。株式会社を設立する際の平均資本金額は約300万円です。資本金は「初期費用+3ヶ月分の運転資金を用意」「取引先や仕入先の企業規模」を目安に決めましょう。
会社設立の流れ4.定款の電子認証を依頼する
定款とは「会社にとっての法律」を表した書類。会社設立するうえで重要な書類のひとつです。定款には以下の6点の記載必須の項目(絶対的記載事項)があります。
- 事業目的
- 会社の商号
- 本店の所在地
- 資本金の金額
- 発起人の氏名と住所
- 発行可能株式総数
会社設立の流れ5.公証役場で定款認証を受ける
公証役場へ持っていくものは以下のとおりです。
- 電子媒体(CD-R、USBメモリなど)
- 定款をプリントアウトしたもの2通(会社保存用と登記用)
- 発起人(出資者)全員の印鑑証明書
- 電子署名をした発起人以外の委任状(発起人が複数いる場合)
- 認証手数料50,000円
- その他手数料(合計1,700円程度)
- 身分証明書
- 印鑑
事前に公証役場と打ち合わせした日時に、CD-Rを持参して公証役場へ行き、公証人の認証に立ち会います。そのとき、持参した電子媒体に認証済みの電子文書を格納してもらいます。ネットで登記が完了するエストニアなどの国と違い、日本ではインターネット経由では受け取れませんので注意してください。
会社設立の流れ6.銀行口座に資本金を振り込む
「資本金の払込みを証明する書面」を作成します。銀行の入金の控え、もしくは通帳コピーで十分です。必ず、定款認証を受けたあとに資本金を振り込むように注意してください。
発起人が複数いる場合、振込金額と氏名が分かるよう、各発起人が個人名で出資金を振り込むようにしてください。
会社設立の流れ7.法務局で登記申請をする
会社登記の申請は、本店所在地を管轄する法務局で行います。法務局へ登記申請を持って行き、受理された日が会社設立日となります。
郵送での登記やオンライン登記も可能ですが、郵送の場合は書類が法務局に届き、受付した日が会社設立日になるため、特定の日を会社の設立日にしたい場合は直接法務局へ足を運びましょう。
会社設立の流れ8.法務局で登記簿謄本を取得する
数日待ち、無事会社が設立されたら登記簿謄本を取得しに再度法務局を訪れます。
銀行口座の開設や、役所手続きなど、このあとのさまざまな手続きで必要ですので5部くらい発行しておきましょう。
会社設立の流れ9.役所へ必要書類を提出する
登記完了後は、速やかに税務署等へ届出をしましょう。
- 税務署
- 都道府県税事務所および市区町村役所
- 年金事務所
の3箇所に行く必要があります。設立してすぐに正社員を雇う場合、これに加えて労基署にも行かなければなりません。
会社設立をしたら次は資金調達!
会社を設立したらさっそく資金調達をやってみましょう。
あなたの信頼を切り売りしなければならない、投資家から投資を受ける「エクイティファイナンス」という手もありますが、デットファイナンス(融資)も有効です。
会社ができたら事業に集中しよう
無事に会社ができた。では次に何をすべきか?
事務作業ではありません。会社設立後にすべきなのは事業です。
偉大な会社を作るために、さまざまな書類手続きに忙殺されていたかもしれませんが、会社設立してしまえばあとは勢いが重要です。何もしなくても1年に1回決算をしなければなりませんし、税金も発生します。その分、ただしくお金を稼ぎ、事業に集中することが大事なのです。
事業に集中するために、顧問税理士を付け、さまざまな面倒をなくすのも賢い手段です。
良い税理士を見つけ偉大な会社を作る。
すぐに会社がつぶれてしまうこんな時代だからこそ、足下を固めて100年企業の土台をつくること。これこそが会社を設立したとき、まずは考えるべき一里塚となるでしょう。