今や、TV広告などで、すっかり世に浸透したパーソナルトレーニング。
24時間営業しているジムも増え、日夜トレーニングに励む人も増えてきた。
ただ、いざトレーニングしようと思っても、ジム選びに迷う方もいるだろう。こうした悩みを抱えるユーザーとジムをつなぐ、日本最大級パーソナルジムメディア「ヤセラボ」を運営するのが株式会社Limeだ。CEOの斉藤隼生氏(27)は、フィットネスアプリのダウンロード数国内No.1を誇るFiNC Technologies(以下FiNC)の出身。トレーナーとして2000名以上の指導を手掛けてきた。
FiNCは、日本経済新聞社の「NEXTユニコーン」にも選出されるなど、非常に期待値の高いヘルステック企業だ。その成長をダイレクトに感じる環境にいながらも、彼は「迷い」を感じて起業を決意し、今にいたる。
「世の中を変えるサービスをつくりたい」柔和な口調で語りはするが、その内には熱い思いが秘められていた。
トレーニングブームの「ど真ん中」
起業にいたるまでの経緯を教えてください。
前職はFiNCで、トレーナーとしてお客さんのダイエットをサポートしていました。一日約10セッションをこなした時期もありましたね。入社当時はITベンチャーのキラキラしている感じを想定していたんですけど、フィットネスの現場は意外に体育会系で泥臭いんです。毎日掃除をしたり、トレーニングでお客さんの指導をする為の練習をやったり、サポートで水を用意したり。下積みといえる作業もありました。
ただ、仕事の裁量は大きくて、とても刺激的な毎日でしたね。人も事業も急激に拡大していった。入社時は10名ぐらいでしたが、あっという間に100名以上になった。パーソナルトレーニングのブームの「ど真ん中」を体感できたのはありがたかったですね。
そこからなぜ起業しようと思ったのでしょうか?
もともと経営やwebマーケティングのスキルをつけたかったんですが、結果的にはあまり携われなかった。急成長している会社ほど、メガベンチャー出身の優秀な人材や、経験値の高い人が重要なポジションを任されていくんです。僕含め、創業期に入った若いメンバーは、起業か転職を選ぶ人も多かったです。
とはいえ、FiNCでの経験は貴重で、そのなかで起業のアイディアを得た。お客様とジムをつなぐ、マッチングさせるサービスを作りたいなと思った。もともと起業するつもりではあったので、独立するのは自分の中では自然な選択でした。
起業するつもりだったということですが、当時周りからなんと言われていましたか?
FiNCに入る前に、実は起業する選択肢もあった。でも家族の説得をうけて、1回就職するのも悪くないかと思ったんです。実は、その選択を結構後悔していて・・・。
大学を卒業してすぐに起業しようと思っていたが、「一旦就職するべきだ」「とりあえずリクルートに入ったら?」といわれてました。客観的に見ても、確かにその通りだと思う部分はあるものの、起業しておけばよかったと今では思ってるんです。FiNCに入って、僕自身の性格がわかった。どこかの組織で社員としてうまく活躍していくタイプではないので、起業という選択肢しか自分にはないし、そのほうが向いていると思っています。
起業するも「駆け込み寺」に
Lime株式会社の創業期を教えてください。
FiNC出身のメンバーとともに、3人で起業しました。エンジニアとビジネスサイドの人間と起業したんですけれど、プロダクトが立ち上がる前にチームが解散になって。2人ともビジョンには共感してくれていたのですが、お互いの利害関係もあって、折り合いがつかなかったんです。
起業のタイミングで住む場所を探しているうちに、「リバ邸」※の存在を後輩の起業家から聞いた。「現代の駆け込み寺」というコンセプトの通り、FiNCのオフィスに最終出社したあと、タクシーに荷物を放り込んで、そのままリバ邸六本木に入居しました。
※家入一真氏が創設した、「現代の駆け込み寺」をコンセプトに掲げて各地に展開しているシェアハウス。
リバ邸はどんな雰囲気でしたか?
リバ邸六本木は、BASEの創業メンバーを輩出していたこともあり、起業家も何人か集まってたんです。狭い部屋に二段ベッドが置かれて、服が散乱しているような状態ですね。
当時の僕は、起業は「名ばかり」で、具体的なサービスもなければ、稼ぐ力もなかった。だから、そこで出会った起業家の仲間からいろいろ教えてもらいながら、実力をつけていきました。
社長を辞めようと思ったことはありませんでしたか?
正直、ありましたね。リバ邸の中でも、家入さんから出資を受けるドローンの会社とか、「イケてる」社長もいて。その会社を少し手伝っていた時期は、 このまま役員をやっていくのもありじゃないか? と感じたことはあります。
1人からの再スタートでしたが、立て直しは難しかったですか?
立て直しというより、元々の実力だったと思うんです。とにかく「死なない」ように生活水準を下げて、そこから徐々にできるところから積み上げていきました。
起業する人は、前職である程度稼いでいたり、生活水準が平均以上だったりする人が多いと思うんですが、僕は水準を徹底的に下げた。泥臭いですが(笑)。
起業当初は、大きいビジョンや理想を掲げがちですが、理想と現実のギャップに早いうちに気づくものです。僕の場合、まず「生き残る」ことが大変だった。でもそこを乗り越えると、だんだん組織の結束が強くなって、自分自身も成長していく。そうするとまた「フィットネスの領域でナンバーワンを目指す!何百万人の人に価値を提供したい!」っていうビジョンが復活してきたんです。
理想のジブンを手に入れる
パーソナルトレーニングの価値はどこにあると考えていますか?
従来のダイエット手法は、 DVD やサプリメント、高額のエステなどがあった。「 痩せたい」は根源的なニーズ。でも、それをうまく実現できない方が多かった。そのなかで、パーソナルトレーニングができて、劇的に体形を変える人が増えてきた。
お客さんと二人三脚で進めていくので、メンタルケアもしつつ、運動の手法も全部サポートする。そうすると、体型コントロールが「血肉」になっていく。だから根本的な改善ができると思います。運動や食生活の変化を起こし、自分自身の体重や体型を変えられる喜びを伝えたいですね。
今後の展望を教えてください。
フィットネスやスポーツでいうと、日本は後進国といっていいと思います。その根本は社会保険制度が充実していてわざわざ運動しなくても病院に行けば問題ないこと、徴兵制の文化がないことなど、多くの要因があります。国内のフィットネス人口が3%で、欧米諸国より約5倍低い水準なんです。
だから、多くの方が運動を気軽に行う社会を作っていきたい。フィットネスを通して「全ての人の理想の自分へ」をサポートするために、フィットネスプラットフォームになるプロダクトを創っていきます。
「そこそこ自由」で満足か?
世の中を変えるサービスをつくりたいと思ったのはなぜでしょうか?
学生時代に飲食店を経営していたことがあり、先輩起業家の話を聞くことが多かったんです。ただ、あまりビジョンが大きくないと感じていた。「世の中を良く変えていこう!」というより、「そこそこ自由に稼げて、キラキラしていれば満足」という人が多くて。
違和感というか、何か物足りなさはありましたね。一回きりの人生、ここにいてはダメだと感じたんです。めちゃくちゃ難しい目標に向けて挑戦することが、自分の生き方にしっくりくるんです。
お話しを伺う中で、過去にインタビューさせていただいたZEALS株式会社の清水CEOを思い出しました。
実は、彼は大学時代の友だちです。当時の彼は「まずは起業して結果を出して、経済産業省のトップになって、総理大臣になる」って言ってました。こいつはなにかやりそうだなと、最初会ったときに感じました。今では経営者として会社を急激に成長させていますよね。彼に追いつくことは、個人の目標として持っています。
まずは真似からはじめてみる
これから起業する人に向けてメッセージをお願いします。
起業する人は理想が大きいので、現実とのギャップに面食らって挑戦できなくなったり、再起不能になったりする人もいる。そうならないように、うまくリスクマネジメントしておくべきです。再起できる仕組みを考えておけば、誰もが挑戦できます。
経験値やスキルが低い中での起業は失敗することがほとんどです。特にゼロからサービスを創るのはハードルが高い。だから既存事業の掛け合わせでもいい。月数十万円くらい稼ぐという小さな目標から、ステップアップしていくのがいいかもしれません。
そうすれば、理想と現実のギャップを正確に把握できるようになる。明らかにズレた挑戦をして落ち込んでも、そこから清水みたいな人であれば、へこたれずガンガンやれると思いますが、そうじゃないタイプもいるので。最近ではいろんな起業のスタイルがある。自分に近いタイプの人を参考にするといいと思います。
生まれ変わっても起業すると思いますか?
しますね!来世があるなら、部活動もやらずにすぐ起業したいです。ずいぶん長いことサッカーをしてたなぁ。早く起業しておけばよかったです(笑)。