当座資産は、会社の貸借対照表から当座比率を求めるときに必要となります。当座比率とはその会社の短期的な体力を測定・比較することができる、安全性分析のための指標です。この記事では、当座資産や当座比率の求め方、当座資産が役立つ場面、具体的な計算方法、貸倒引当金がある場合の考え方などを解説します。
当座試算を求めれば会社の安定性がわかる!
当座資産とは、会社が保有する資産のうち、すぐに現金化できる資産のことです。企業会計原則に定められた区分や分類によるものではなく、企業の安全性分析の指標である「当座比率」を求める際に必要となります。
当座資産が十分にあれば、急な支払いや売上減少が生じても、しばらくの間は資金繰りに困ることがありません。つまり当座資産を十分に備えている会社は、事故や災害など突発的な危機に備えることができている安全性の高い会社といえます。
当座資産を求めると何に役立つ?
当座資産やそれを使って当座比率を求めることは、次のような場面で役立ちます。
- 自社の経営状況に問題点がないかを分析したいとき
- 自社が外部からどう見えているのか知りたいとき
- 取引先の経営状況を知りたいとき
当座資産の求め方
当座資産は、貸借対照表の流動資産のうち現金や現金化しやすい債権などをいいます。
したがって当座資産を求めるときは、その会社の貸借対照表の流動資産から、当座資産にあたるものを選別することが必要です。貸借対照表の見方について詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください。
当座資産を求めるときに必要!貸借対照表の流動資産とは?
貸借対照表の流動資産とは、会社が保有する資産のうち、流動性の高いものをいいます。貸借対照表では、資産を流動資産・固定資産・繰延資産に分け、流動性の高いものから順に配列することが原則です。
流動資産に分類される資産とは、次の資産のうち、一年以内に回収できるものをいいます。
- 現金及び預金
- 受取手形
- 電子記録債権
- 売掛金
- 契約資産
- 売買目的有価証券及び一年内に満期の到来する有価証券
- 商品
- 製品、副産物及び作業くず
- 半製品(自製部分品を含む。)
- 原料及び材料(購入部分品を含む。)
- 仕掛品及び半成工事
- 消耗品、消耗工具、器具及び備品その他の貯蔵品で相当価額以上のもの
- 前渡金
- 前払費用
- リース資産
- その他の資産で一年内に現金化できると認められるもの
このうち、特に現金化しやすい債権等が当座資産にあたります。
当座資産にあたる勘定科目
流動資産のうち当座資産にあたる資産は、
- 現金及び預金
- 受取手形
- 電子記録債権
- 売掛金
- 売買目的有価証券
です。
勘定科目でいうと、主に次のものが該当します。
- 現金
- 小口現金
- 当座預金
- 普通預金
- 定期預金
- 受取手形
- 売掛金
- 有価証券
個別の貸借対照表ごとに確認する必要はありますが、流動資産のうち棚卸資産(商品など)より上に表示されている資産がおおむねの当座資産といえます。
なお、貸倒引当金がある場合は当座資産から控除することを検討すると、より慎重に安全性を判断することができます。
当座資産を使った会社の安全性の求め方
当座資産は、会社の安全性を分析するための「当座比率」の計算に用いられます。
当座比率は、以下の計算式で求めることができます。
当座比率=当座資産/流動負債×100%
流動負債とは
流動負債とは、次のものをいいます。
- 支払手形
- 電子記録債権に係る債務
- 買掛金
- 契約負債
- 借入金
- 前受金
- 未払金
- 預り金
- 未払費用
- 前受収益
- その他の負債で一年以内に支払いまたは返済されると認められるもの
当座比率はなぜ流動負債から求めるのか
当座資産は、負債とのバランスがとれて初めて安全性を示す指標となります。
たとえば当座資産が1億円あっても、1ヶ月後に返済期限が迫っている借入金が2億円あれば、安全性が高いとは言えませんよね。一般的に当座比率は100%以上あることが望ましいとされます。つまり会社が一年以内に支払いや返済をしなければならない債務よりも、当座資産を多く確保できている状態です。
ただし、当座比率は業種による影響も受けます。在庫の多い業種では、当座比率が100%を下回ることは珍しくありません。
たとえば小売業や不動産販売業など棚卸資産の価額が大きくなりやすい業種はこうした傾向があります。
当座比率の求め方
次の貸借対照表の例から、当座比率を計算してみましょう。(当座比率に関係ない固定資産・固定負債・純資産は合計額のみ表示しています)
資産の部 | 負債の部 | ||
---|---|---|---|
流動資産 | 流動負債 | ||
現金預金 | 250000 | 買掛金 | 150000 |
売掛金 | 150000 | 短期借入金 | 100000 |
有価証券 | 50000 | 未払金 | 40000 |
棚卸資産 | 100000 | 未払法人税等 | 10000 |
前払費用 | 20000 | 流動負債合計 | 300000 |
短期貸付金 | 150000 | 固定負債合計 | 800000 |
流動資産合計 | 720000 | 純資産の部 | |
固定資産合計 | 1280000 | 純資産合計 | 900000 |
資産合計 | 2000000 | 負債・純資産合計 | 2000000 |
当座比率の求め方
【当座資産】
- 現金預金 25万円
- 売掛金 15万円
- 有価証券 5万円
【流動負債】
- 30万円
【当座比率】
(25万円+15万円+5万円)÷30万円×100=150%
続いて自社で建設業も行っている不動産販売業の例で見てみましょう。
資産の部 | 負債の部 | ||
---|---|---|---|
流動資産 | 流動負債 | ||
現金預金 | 200000 | 短期借入金 | 780000 |
売掛金 | 150000 | 未払法人税等 | 20000 |
販売用不動産 | 1000000 | 未成工事受入金 | 30000 |
仕掛販売用不動産 | 500000 | 流動負債合計 | 830000 |
未成工事支出金 | 20000 | 固定負債合計 | 1370000 |
流動資産合計 | 1870000 | 純資産の部 | |
固定資産合計 | 1130000 | 株主資本合計 | 800000 |
資産合計 | 3000000 | 負債・純資産合計 | 3000000 |
当座比率の求め方
【当座資産】
- 現金預金 20万円
- 売掛金 15万円
【流動負債】
- 83万円(うち未成工事受入金3万円)
【当座比率】
(20万円+15万円)÷(83万円-3万円)×100=43.75%
流動負債の「未成工事受入金」とは、建設業の前受金にあたる勘定科目です。
未成工事受入金は売上高に計上するまで負債の扱いとなりますが、実態は債務ではないので、当座比率を計算する際は分母に含めません。
当座比率を上げる方法
当座比率を上げる方法としては、当座資産を流動負債の増加以外の方法で増やす方法が考えられます。
たとえば、売上など収益の計上、固定資産の売却、貸付金や未収金の回収などです。
では当座資産を取得した手段が流動負債の増加によるものであるとき、当座比率は上がらないのでしょうか。
たとえば、金融機関からの融資を受けたときや社債を発行したときなどです。
これは具体的な計算例を2つ見てみましょう。
【例1】
- 当座資産80万円
- 流動資産100万円
- 当座比率80%
上記の会社が、年内に償還する社債を発行して現金20万円を取得した。
仕訳
(借方)現金 20万円 / (貸方)社債20万円
当座比率
当座資産(80万円+20万円)÷流動負債(100万円+20万円)≒83%
→当座比率がやや上がる。
【例2】
- 当座資産100万円
- 流動資産80万円
- 当座比率125%
例1と同じの仕訳を行った。
当座比率
当座資産(100万円+20万円)÷流動負債(80万円+20万円)=120%
→当座比率はやや下がる
当座比率が100%以上ある会社で、流動負債を増やして同額の当座資産を取得すると、当座比率は下がります。
あくまで当座比率の計算上の話ですので、実際に当座比率を上げたいときは、自社の財政状態を踏まえて実行する必要があります。
当座資産以外に安全性を分析する方法
当座比率以外にも会社の安全性を分析できる指標に、自己資本比率があります。
自己資本比率とは、総資産のうち純資産が占める割合をいい、当座比率よりも有名な指標です。
中小企業庁による統計もあり、「令和元年中小企業実態基本調査」によると、中小企業(法人)の平均(※)では、40.92%です。
中小企業庁:令和元年中小企業実態基本調査(平成30年決算実績)
(※)中小企業全体の合算値より計算した全産業加重平均
貸倒引当金があるときの当座資産の求め方
貸借対照表上に貸倒引当金が計上されているときの当座資産の計算方法についてルールは特に定められていません。
しかし当座資産から控除することを検討することで、より慎重に会社の安全性を分析することができます。
貸倒引当金を控除する理由は、回収不能リスクのある債権を当座資産から除くことにあります。
貸倒引当金とは
貸倒引当金とは、売掛金や受取手形、貸付金などの債権について回収不能リスクを考慮し、あらかじめ損失を予測して計上するものです。
将来のリスクを会社の財政状態に正しく反映させるために計上します。
貸倒引当金の表示方法は、どの債権から発生した貸倒引当金かわかるよう、それぞれの勘定科目の下に表示することが原則なのですが、下記のように流動資産(や固定資産)の最後にまとめて表示する「一括間接控除法」が採用されている場合も多いです。
【例:一括間接控除法】
流動資産 | |
---|---|
現金預金 | 200000 |
売掛金 | 100000 |
製品 | 60000 |
仕掛品 | 30000 |
貯蔵品 | 10000 |
前払費用 | 50000 |
貸倒引当金 | △20,000 |
流動資産合計 | 430000 |
貸倒引当金を控除する場合、上記の当座資産は、現金預金20万円と売掛金10万円から、貸倒引当金2万円を控除した28万円となります。
当座資産を求めるときは貸倒引当金の性質を知っておこう
当座資産を求めるときは、貸倒引当金を差し引いたほうがより慎重に安全性を判断できますが、貸倒引当金が何に対して計上された数字であるかも見ておきましょう。
何の債権に対して計上しているかは貸借対照表や注記から把握することができます。
なお貸倒引当金は、あくまで回収不能になる可能性がある金額を、会計上のルールのもと計上しています。
具体的には会社が保有する債権を、一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権の3つに区別し、それぞれの回収不能リスクに応じて貸倒引当金を計上します。
一般債権については、過去の実績に基づく「貸倒実績率法」によって貸倒引当金をまとめて計上しますが、回収不能リスクが具体的に生じているわけではありません。
当座資産を求めるときは、貸倒引当金にはこういった性質があることも把握した上で扱いを決めましょう。
当座資産以外の分析も重要
当座資産についてまとめると、以下のようになります。
- 当座資産とは流動資産のうち特に現金化しやすいもの
- 当座比率を計算する際に用いる
- 勘定科目でいうと、現金預金、売掛金、有価証券等
- 当座比率は100%を超えることが望ましいが業種にもよる
- 貸倒引当金がある場合、決まりはないが控除を検討するとより慎重な判定が可能
当座資産や当座比率からは会社の安全性を分析することができますが、安全性分析だけでなく、収益性分析や効率性分析などと合わせて総合的に評価することが大切です。
収益性分析の主な指標にはROE、効率性分析の主な指標には総資本回転率やROAがあります。ROAやROEについて詳しく知りたい方はこちらも参考にしてください。