代表取締役や取締役、さらには監査役などの役員の報酬はどのように決められているのでしょうか。当記事では、役員報酬が果たして法律で決められているのか、あるいは取締役会で決められるのか、どのように変更をするのかなどについて手続きまで徹底解説します。
はじめに
私の最初のイメージでは、役員報酬は役員会、いわゆる取締役会で決めるものだとして法律に定められていると思っていましたが、実はその他にも役員報酬の規定の仕方や変更の仕方にはバリエーションがあります。
会社法という法律にこれらの規定がありますので、実際に法律の内容を見ながら解説していきますが、法律というと難しそうというイメージが働き、読みづらいですよね。
そこで、当記事では法律の難しいイメージを打ち破るため、法律の解説をする際には具体的なイメージを合わせて掲載します。
ぜひ、当記事を参考に役員報酬の決め方や、役員報酬の変更の仕方について学んで見てください。
役員の種類
役員報酬は役員に支払う報酬のことです。
つまり、役員の種類だけあるということになります。
では役員にはどのような種類があるのでしょうか。
以下のとおりです。
- 取締役取締役とは、すべての株式会社に必ず置かなければならない機関です。取締役会設置会社では、取締役会(会社の業務執行の意思決定機関)の構成メンバーである取締役の中から、業務執行を担う「代表取締役」が選出されます。
- 執行役執行役は、取締役会などで決定された業務を実行する役割を担います。
- 会計参与会計参与は、取締役とともに会社の計算書を作成します。会計参与になれるのは、税理士、公認会計士、または税理士法人、監査法人に限られます。
- 監査役監査役は、取締役の職務内容や会計を中心に、監査する役割を担います。
この他、会計監査人という役員も居ます。 それぞれに報酬が発生するということになります。
※会社法331条以下を参照
電子政府の総合窓口 e-Gov 「第三百三十一条」
役員報酬の決め方
役員報酬はどのように決定されるのでしょうか。
会社法では、役員報酬について「定款または株主総会の決議によって定める」としています。
会社法361条
電子政府の総合窓口 e-Gov 「第三百六十一条」
株主総会で役員報酬の総枠について、承認を得ないといけません。
役員報酬は不相当に高すぎると税務署などから否認される可能性がありますので、適正金額を設定します。 役員が担っている職務内容、一般従業員への給与支給状況、同業他社の給与支給状況のほか、今後の事業計画や法人税と個人税のバランスなど、多角的に検討した上で決定するようにしましょう。
役員報酬の支給形態
現在日本で支払われている役員に対する報酬のうち、代表的なものは以下のようなものがあります。
金銭報酬
- 基本報酬…「定期同額給与」
- 賞与…「事前確定届出給与」
- 業績連動報酬「業績連動給与」
株式報酬
- ストック・オプション(SO)…「事前確定届出給与」
- 株式報酬型ストック・オプション(1円SO)…「事前確定届出給与」または「退職給与」
- パフォーマンス・シェア(PS)…「業績連動給与」
- パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)…「業績連動給与」
- リストリクテッド・ストック(RS)…「事前確定届出給与」または「退職給与」
- リストリクテッド・ストック・ユニット(RSU) …「事前確定届出給与」または「退職給与」
- 株式給付信託…「事前確定届出給与」または、「業績連動給与」
その他(役員持株会・社宅など)
このように様々な種類の役員報酬の支給形態があります。
役員報酬の変更時期と注意点
役員報酬の定め方に関してはそれぞれ見てきましたが、それを変更するにはどのようにしたら良いのでしょうか?
詳しく見ていきます。
役員報酬(定期同額給与)変更の4つのポイント
役員報酬を変更する場合には以下の4つのポイントを揃えるのが必要です。
- 国税庁で定めている要件をクリアし、役員報酬(定期同額給与)の変更を行うこと
- 株主総会などを開催し、正しい手順で変更額を設定すること
- 株主総会などにおける役員報酬(定期同額給与)変更の議事内容を「議事録」として作成し保管すること
- 変更額が大きい場合は、社会保険料の変更に関する手続をすること
また、役員報酬(定期同額給与)の変更手続きは具体的には以下のとおりです。
まず、役員報酬(定期同額給与)の変更は、増額でも減額でも株主総会などで正式に決定しなければなりません。
そしてその際に「議事録」を作成する必要があります。
※議事録とは会議や打ち合わせの内容、経過や結論などを記録しそれを伝えるための文書のこと。
次は議事録について見て行きたいと思います。
役員報酬(定期同額給与)の変更の際に作成する「議事録」
役員報酬(定期同額給与)の変更は、原則として、事業年度開始日から3か月以内までにする必要があります。
たとえば、事業開始が4月1日の会社の場合、3か月経過の6月30日までに役員変更をしなければなりません。
仮に役員報酬(定期同額給与)の変更時期を誤った場合は、 変更後の役員報酬(定期同額給与)は認められず、法人税と個人所得税の2重課税となる
したがって、7月以降に役員報酬(定期同額給与)を変更しても会社の経費(損金)として認められません。もし9月に役員報酬(定期同額給与)を増額しても、増額した部分は損金にならず法人税が発生します。
そしてもう一点注意すべきことは、あくまで役員の収入は増額後で計算されるため個人所得税は増額した分で発生します。
要するに経費として認められなかった増額部分には法人税も個人所得税もかかるということです。
役員報酬の変更は前述のとおり株主総会の決議が必要のため、株主総会ももちろんそれまでに開催しなければなりません。
必然的にその内容を記す「議事録」の日付も株主総会の日となります。
ちなみに、この場合7月以降に役員報酬(定期同額給与)を変更した場合は会社の経費(損金)として認められません。
したがってもし10月に役員報酬(定期同額給与)を減額すると、減額後の金額と減額前の金額との差額部分は損金として認められずそこに法人税が課せられます。
そしてもう一点注意すべき点は、役員個人の収入はあくまで実際に受け取った役員報酬の額で計算されるため個人所得税はすべてに課されます。 要するに会社経費として認められなかった差額部分には法人税も個人所得税もかかるということです。
定期同額給与とは
定期同額給与とは、”毎月同じ金額”の報酬を支給することを言います。
通常、一般的なサラリーマンであれば、
- 残業代
- 休日手当
- 賞与(ボーナス)
などにより、毎月の給与は変動します。
しかし、役員報酬では、一部例外を除き、一定額の報酬を支給しなければなりません。
もし、このルールを破った場合は、変動額に応じて役員報酬の一部が損金算入できないペナルティがあります。
国税庁ホームページでは、定期同額給与について次のように定義されています。
(1) その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
国税庁「役員給与に関するQ&A」より引用
役員報酬は定期同額給与にする
主な理由としては、2つあります。
1. お手盛りの弊害を防ぐ
お手盛りとは、偉い人が思うがままに自己利益を追求することを言います。
もし、役員が自身の報酬である「役員報酬」を自由に変更できると、株主(会社の所有者)の知らないところで”会社財産を毀損させること“にも繋がりかねません。
そのようなお手盛りの弊害を防ぐために役員報酬の変更には、株主総会を開催するなど、所定の手続きが定められています。
2. 利益調整を防ぐ
税務上、役員報酬は、定められた範囲であれば、経費としての損金算入が可能です。
しかしながら、もし、役員報酬を容易に変更できるとなれば、「今期は、利益が増えそうだから、期中に役員報酬を増額しよう」など、過度な節税ができてしまいます。
役員報酬(定期同額給与)の変更時期に例外はあるか
経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じた場合は例外的に役員報酬(定期同額給与)を変更することができます。
このように例外的に役員報酬(定期同額給与)を減額できる理由を「業績悪化改定事由」と呼びます。国税庁はこれに関して、以下のような例を挙げています。
- 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
役員報酬を変更する場合の適性額
まず、会社法では、取締役が自分の都合のよいように役員報酬を決めることを禁じており、金額等の内容については、定款の定め又は株主総会の決議によって定めることにしています。
次に、法人税法では、役員報酬について、法人税法が定めている定期同額給与・事前確定届出給与及び利益連動給与以外の給与の額を損金不算入としています(役員退職給与は除く)。
さらに定期同額給与等に該当するものであっても、不相当に高額であるとされる部分は、損金不算入としています。
※損金不算入とは、たとえ会計上費用に計上しても税法上では損金(費用)として認めないこと
そして、役員報酬の適性額を判断する基準は政令で定められており、その判断材料は以下の3つとされています。
- その役員の職務の内容
- その法人の収益及びその使用人に対する給与の支給状況
- 類似法人(その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの)の役員に対する給与の支給状況等
また、過去の裁判の実例では、類似法人の役員に対する給与の平均額の2.5倍を超えていて、それが不相当に過大であると認定された事例(名古屋地裁平成8年3月27日判決)や、類似法人の最高支給額を超えていて最大であるとされた事例(東京地裁平成28年4月22日判決)などもあります。
従って、その適正額の判定は事前に慎重に行うべきであり、会社としては、その役員報酬の算出根拠を明確に説明できるようにしておくことが重要です。
役員報酬の変更まとめ
ここまでをまとめたいと思います。
- 役員報酬の種類には、役員の種類ごとに分類されている
- 役員の報酬を決定する方法は定款に定めるか株主総会
- 役員報酬変更には以下の4つのポイントを揃える必要がある
- 役員報酬を変更する場合の適性額は3つの判断材料がある
この4点を踏まえて、役員報酬の変更を行いましょう。
報酬の減額は原則できないことなど、しっかりと抑えておかないと思わぬ落とし穴につまがります。
ぜひ、ご参考にしてください。