税金・税務

ちょっとだけめんどくさい源泉所得税や住民税の納付を楽にする方法

ちょっとだけめんどくさい源泉所得税や住民税の納付を楽にする方法

会社や事業者が行う必要のある源泉所得税や住民税の納付。小規模事業者であれば納期の特例制度が利用できることをご存知でしょうか?毎月納付額の計算や納付期限に追われているという場合、負担軽減に有効な制度です。今回は、源泉所得税と住民税の納期の特例の特徴やメリット、注意点などについてご紹介します。

源泉所得税の納期の特例

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源泉所得税は、会社や事業主が従業員に対して支払った給与や賞与、外注先や弁護士、税理士などへの報酬から所得税分を事前に差し引き、従業員本人に代わって国に納める税金です。会社や事業主が計算し、納めることで納税者と税務署双方の負担を減らす意味合いがあります。所得税額は所定の方法に従って計算し、納付します。

源泉所得税は原則として、毎月従業員に給料を支払う際に所得税(源泉所得税)を差し引き、翌月10日までに税務署に納めます。ただし10日が土日祝日の場合は、休み明けの平日が納付期限となります。

源泉所得税の納付が遅れると、納付予定の金額に加えて不納付加算税と延滞税も納める必要があるので、注意が必要です。

納期の特例で源泉所得税は年2回の支払いに

納期の特例を利用すると、源泉所得税の支払いは半年ごとにまとめて納付することができるようになります。つまり特例を適用すれば、支払回数は毎月から年2回へと減らすことができます。

納期の特例の対象

源泉所得税の納期の特例は、対象となる会社、事業者が定められています。

  • 常時10人未満の従業員を雇用する会社や個人事業主
  • 従業員への給与や賞与、退職金、弁護士や税理士など外注先への報酬に対し源泉徴収を行った源泉所得税に限る

つまり、特例の適用には、給与を支給する役員や従業員の数が、平常時9人以下であることが条件となります。繁忙期のみ臨時雇用する人員などについては除外して判断します。

小規模事業者が対象となる理由には、「小規模な会社や事業主は、専属で経理を行う従業員がいない場合も多く、毎月の納付は事務負担が大きい」と考慮されるためです。 ただし、適用対象の源泉所得税以外は、通常通り所得が発生した翌月10日までに納付する必要があります。

納期の特例による納付期限

源泉所得税の納期の特例を適用すると、徴収した源泉所得税は1~6月分と、7~12月分とを半年分ずつまとめて納付できるようになります。

  • 1月~6月分は7月10日までに納付
  • 7月~12月分は翌年1月20日までに納付

ただし、納付期限が土日祝日にあたる場合は、翌営業日が期限となります。

納期の特例を受ける方法

源泉所得税の納期の特例を適用するには、税務署に承認申請書の提出が必要です。申請書は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」というものです。

納期の特例の適用開始時期

納期の特例が認められたら、申請書を提出した翌月に支払う給与等から源泉所得税の特例が適用開始となります。原則として、申請書を提出した翌月末日に承認があったものとみなされるからです。

例えば、1月中に申請書を提出した場合は、1月に支払う分は原則通り翌月2月10日が納付期限となり、2月分から6月分はまとめて7月10日までに納付することになります。

源泉所得税の納期の特例を申請するときの注意点

納期の特例は、1年間を1~6月分、7~12月分で区切るので、期間の途中から適用を受ける場合はその月から6月分まで、もしくは12月分までとなります。6か月分というわけではないので注意しましょう。

例えば2月に申請書を提出して3月から適用を受ける場合は3月から6月分を7月10日までに納付します。

会社を設立した場合はもうひとつ注意が必要です。設立した月から給与を支払っていて、設立後速やかに納期の特例の申請書を提出していても、設立した月の給与等にかかる源泉所得税については、納期の特例を適用できません。適用を受けるまでは、原則通り、支払った月の翌月10日までに納税が必要です。

源泉所得税は納付期限までに納めないと不納付加算税が課される可能性があるので気を付けましょう。

納期の特例が取り消しになる場合

源泉所得税の納期の特例は、下記に該当する場合取り消しとなります。

  • 従業員が常時10人未満ではなくなった場合
  • 国税の滞納があり、且つその滞納税額の聴衆が著しく困難等の事情がある場合
  • 任意に適用を取りやめる場合

常時雇用する従業員が10人以上になった場合は、取り消しを待たずに「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった場合の届出書」を税務署に提出しなければなりません。

その他の理由で取り消しを受けた場合、源泉所得税の納付期限は取り消された月の翌月10日となります。例えば4月に取り消しを受けた場合は、4月に支払った給与等にかかる源泉所得税の納付期限は5月10日となります。

適用要件を満たしている場合でも任意に適用を取りやめることも可能です。もし任意で届出書を提出した場合は、提出した日の属する納期の特例の期間から適用できなくなります。

源泉所得税の納期の特例を活用するメリット

源泉所得税の納期の特例を活用するメリットは、次のような点があげられます。

  • 事務処理の負担軽減
  • 納付が遅れるリスクを減らせる
  • 資金繰りしやすくなる

納期の特例を活用する最大のメリットは、半年分まとめて納付できることです。通常、源泉所得税は毎月納付が必要ですが、事務担当者にとっては月々の処理が負担になりやすいです。

納期の特例により、年2回の納付になれば担当者にとっては大幅な負担軽減につながるでしょう。納付回数が少ない分、うっかり納付し忘れて延滞税などがかかるリスクも減るはずです。事業主にとっては、月々の給与等から徴収した所得税を、一旦預かり金としてプールできるので、資金繰りに運用することもできるメリットがあると考えられます。

納期の特例を活用するデメリット

源泉所得税の納期の特例にはデメリットもあります。事務処理の負担は減りますが、一方で一度の資金負担は大きくなるからです。

また、納付予定の源泉所得税を、事業資金と混同しやすくなる場合もあるので注意が必要です。特例で支払う1月や7月は、賞与や労働保険料の支払いなどと重なることも多いです。混同しないよう別口座で管理したり、毎月納税額を確認するなど、計画的に準備することが大切です。

住民税の納期の特例

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住民税の納付方法は、従業員が個人で納付する普通徴収と、会社や事業主が本人に代わって納付する特別徴収とがあります。

一般的には、会社や事業主が従業員の給与等から差し引いて都道府県や市区町村に納付する、特別徴収が行われるのがほとんどです。普通徴収は従業員が2名以下の場合やまた、他の勤め先で特別徴収をしてもらっている場合、給与が少ない場合や支払いが不定期など、認められる条件が決まっているからです。

住民税の特別徴収では、毎年5月ごろに住んでいる自治体から、従業員一人ひとりの住民税の総額と月々差し引く金額が記載された一覧表と納付書が届きます。事業主は送付された書類と納付書に従い、6月から翌年5月まで毎月給与等から住民税を差し引いて翌月10日までに納付します。

住民税も納期の特例でまとめて納付が可能

源泉所得税と同様、納期の特例が認められています。 住民税の特別徴収税額の納期の特例というもので、通常毎月納付するところ、年2回に半年分ずつまとめて支払うことができます。

納期の特例の対象

住民税の納期の特例は、次のような会社や事業主が対象となります。

  • 社長を含むすべての従業員数が常時10名未満であること

基本的には源泉所得税と同じように、会社や事業所の規模が小さいところは毎月の事務負担が大きい場合が多いため、半年ごとにまとめて納付でかまわないという考え方です。

小規模の会社や事業所は住民税の額も多くない傾向があることも、特例の制度が設けられたことに影響しているようです。すべての従業員という決まりはありますが、短期アルバイトや臨時で雇用する人材については含めません。

ただし、従業員が10名以内でも特例が適用できない例もあります。例えば従業員がA市に9名、B市に6名住んでいる場合、それぞれの市の従業員は10名未満ですが、特例は対象外となります。納期の特例は、全体の従業員数で判断するからです。

ほかにも、住民税の対象者が3名で、アルバイトが30名いる場合も適用できません。住民税の対象になる従業員は3名ですが、あくまで全体の従業員数が10名未満かどうかで適用が判断されるからです。

納期の特例による納付期限

住民税の納期の特例を適用した場合、納付期限は下記の通りです。

  • 6月~11月分は12月10日までに納付
  • 12月~翌年5月分は6月10日までに納付

ただし、納付期限が土日祝日の場合は、翌営業日が期限となります。

例えば1月に特例が認められた場合は、1月の住民税は5月分までをまとめて、6月10日までに納付します。期間の途中から適用を受けた場合は、その月から11月分、または5月分までをまとめて支払うことになります。

納期の特例を受ける方法

住民税の納期の特例を適用するには、納付先の自治体に「特別徴収税額の納期の特例に関する申請書 」を提出しなければなりません。申請書のフォーム当は各自治体のホームページで入手できることも多いです。

納期の特例の適用開始時期

住民税の納期の特例申請を行った場合、基本的に即日承認となることが多いですが、一部の自治体では承認までに数日かかることもあるようです。いずれにせよ、承認が出た月の翌月分から納期の特例の適用が開始されます。

住民税の納期の特例が源泉所得税と異なるポイント

住民税の納期の特例は、対象となる事業所や納付回数などは源泉所得税と同じです。ですが、納付期限が源泉所得税より1か月早いので注意しましょう。住民税の納付期限が源泉所得税とずれるのは、住民税が前年の所得に基づき、6月から新年度の聴衆をスタートするからです。

その他、源泉所得税と異なる点として、市区町村が前年の所得をもとに計算し、納付書を送ってくれるので、事業所で納税額を計算する必要もありません。また、住民税は地方税になるので、納税先は市役所となります。

住民税の納期の特例を適用する場合の注意点

住民税の納期の特例で注意したいことのひとつは、退職者や途中入社をした従業員などが出た場合です。期間の途中で退職者が出た場合は、住民税の移動届出書を提出し、精算する必要があります。納税額が変わることもあるので、必ず確認しましょう。退職者や途中入社以外に、従業員の中で特別徴収に切り替えた人が出た場合や、管轄が違う自治体に住んでいる人を採用した場合も手続きが必要です。

もうひとつ注意したいのは、源泉所得税の場合と同様に、資金繰りに影響が出ないようにすることです。半年分をまとめて納税するので、一度に大きなお金を動かすことになります。運転資金と混同して資金繰りに影響が出ないよう、できれば納税用の預金口座を開設し、別で管理するほうがベターです。

納期の特例の取り消し

住民税の納期の特例も条件を満たさない場合は取り消しの対象となります。

  • 従業員数が常時10人以上になった場合
  • 住民税の滞納がある場合

常時雇用する従業員が10人以上になった場合などは、速やかに自治体へ「特例徴収税額の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を提出しなければなりません。取り消された場合、住民税の納付期限は取り消しされた月の翌月10日になります。

例えば3月に取り消された場合は、3月に支払った給与等にかかる住民税の納付は、4月10日が期限です。

住民税の納期の特例を活用するメリット

住民税の納期の特例を活用するメリットは、源泉所得税同様、事務負担が減ることです。住民税は毎月の支払い額はほとんど同じなので、余計に毎回の支払い手続きが面倒に感じやすいです。特例が適用されれば、効率よく仕事を回す手助けになるはずです。

デメリットは一度にお金が減ること

納期の特例を適用するデメリットは、半年分まとめて支払うことでお金が一度に減ることです。住民税の納付方法は、金融機関の窓口で支払う以外にe-Taxを利用したダイレクト納付やインターネットバンキングから納税する方法もあります。資金繰りに余裕がない場合や、管理が苦手という場合は、毎月支払うほうがやりくりしやすいこともあるかもしれません。

納期の特例手続きで困ったときは税理士に相談を

源泉所得税や住民税の納期の特例手続きは、申請書を提出する必要があり書き方などわからないことがあるかもしれません。そんなときは手続きに詳しい税理士に相談することをおすすめします。煩雑な手続きも安心して任せることができるはずです。

特例の適用にはいくつか注意点やデメリットもあります。税理士に依頼することで、自分の会社や事業所が適用できるか、気を付けなければいけない点はないかも、確認することができるでしょう。

まとめ

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小規模の会社や事業所にとって、毎月の源泉所得税や住民税の納付手続きは面倒になりがちです。納期の特例を適用すれば、事務負担を軽減し、仕事の効率化につながるはずです。

とはいえ、特例の適用には手続きが必要で、まとめて納付することにより資金繰りにも注意が必要です。安心して制度を活用するために、税理士を頼るのもひとつです。

税理士に相談すれば申請の手続きを任せられますし、自分の会社や事業所で注意しなければならないポイントも教えてもらえるでしょう。うっかり納付期限を過ぎて延滞が発生するのを防ぐために、一言声をかけてもらうこともできるはずです。信頼できる税理士とともに、納期の特例制度を最大限活用しましょう。

企業の教科書
記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

東京都千代田区にある税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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