「Firebase」をご存知だろうか?
2011年にシリコンバレーのスタートアップで生まれたmBasS(※)で、アプリケーション開発者向けのサービスだ。iOSやAndroidアプリ、Webサービスまで幅広く対応している。また、リアルタイム同期など豊富な機能が特徴で、開発にかかる時間やコストを大幅に減らすことができるという。2014年にはGoogleに買収されるなど、そのポテンシャルは業界で高く評価されている。
※モバイルのアプリ開発でよく利用される、サーバ側と連携する機能をまとめて提供しているサービス。
出典:Firebase
アプリ開発にかかる時間を一気に短縮することができるサービス。いち早くそこにキャッチアップしたのが、Stamp株式会社だ。「時間を短縮していくことこそが本来のテクノロジーの姿」というビジョンを掲げ、エンジニアのコンサルティングなどを手掛ける。
今回は、Firebase Japan User Groupのオーガナイザーでもありながら、Stamp株式会社のCEOを務める村本章憲氏、COOの前薗謙介氏に起業への思いを聞いてみた。
モチベーションはタスクの大きさに比例する
起業の経緯を教えてください。
村本:Stampを設立したのは2018年の9月ですが、前身となるチームは約5年前からありました。僕が創りたいサービスをメンバーに話して、面白そうだったらやってみる。これを繰り返していました。当時は、毎週TULLY’S COFFEEに通って作業してましたね。
当時抱えていた問題はなんでしょうか?
村本:モチベーションの維持ですね。全員がサラリーマンだったので、仕事が終わったあとの夜に集まっても、みんな疲れているんです。そんな状況で仕事をお願いしても、「しんどい」って断られることも多くなって(笑)。
前薗:方向性の違いも大きくて。じっくり時間をかけて開発しようとする僕らのスタンスと、とにかく早くリリースしようとする他のメンバーで方向性が違っていて、結局辞めてしまった。
村本:ただ、そこでの学びもありました。モチベーションの高さって、作っているものの大きさに比例するんです。いきなり大きな山を登ろうとすると、足がすくんでしまう。この山をいかに素早く小さくするか。小分けにタスクにできるかが重要です。
起業で成功しようとすると、とにかく大きなことをやろうとしてしまうもの。当時は、「iPhoneみたいな傑作を出して一発当ててやろう!」と思っていましたが、それではうまくいかない。
むしろ、毎日毎日、小さくても改善を重ねることが大事で。アプリケーションの開発についても、小さくても日々改善することを意識していました。
それ以降はどのようなキャリアを歩んだのでしょうか?
村本:20人くらいのベンチャー企業に1年半ほど在籍したのち、クックパッドに入社して、新規事業の立ち上げに関わりました。事業の立ち上げからグロースまでを学べたのは大きかったですね。その経験を活かしてフリーランスとして働いていたが、自分だけでは案件を受けきれなくなったので、5年前から一緒にやっていたメンバーに声をかけて、今にいたります。
起業自体に意味はない
小さいころから起業しようと思っていましたか?
村本:そうですね。起業のきっかけは、 10歳のときに参加したプログラミング教室です。街の役場に数台のパソコンが置かれていて。パソコンは、僕にとって「謎の黒い画面の箱」ぐらいの認識でしたが、とにかく格好よく見えた。
プログラミングの内容は、画面に四角や丸を表示させるだけの簡単なものでしたが、とにかく感動したのを覚えています。
そこから数年後、パソコンはブラウン管じゃなく、ノート型になっていって。 急速な進化が、純粋に楽しかった。なんとなくIT分野で、世界を変えてみたいと思いました。
今思えば、一人で「意識高い系」な人になっていたかもしれません。皆が確実に遊んでいる時間に、仕事に没頭していた。ディズニーランドにパソコンを持っていったこともあるので(笑)。
なんとなく起業するかな、社長になるかなって思って、それを目標に一旦置いていたんです。でも、いざ起業してみたら、実際なんてことはなかった。当然ですが、起業すること自体には何の意味もない。ただ、周囲に何かしら影響を与えようとするのは、すごく意味がある。起業はそのための手段の一つでしかないんです。
時間の短縮は「魔法」
今後、Stampが目指す世界を教えてください。
村本:「便利」な世界ですね。便利とは何かというと、時間が短縮されること。そう定義した方がわかりやすい。
たとえば、チャットとメールの違いって、なんでしょう? 少し見た目が変わっただけで、あまり変わらないと思う人もいるでしょう。
ただ、メールを見ようとする際、メールボックスを開くという「見に行く」作業をしなければいけない。それがチャットであればその作業が減る分、確認の時間が短くなっているんですよ。確かにコンマ何秒しか変わってないかもしれません。ただ、それが一月、1年に換算したらどうでしょう? そういう意味で、コンマ数秒でも時間を縮めることができたら、それは革新だと思っているんです。それが極限まで短くなったら「魔法」になると思っていて。
だから、僕たちがコントロールしなきゃいけないのは、いかに時間を短くするか。それさえ考えておけば何でも成功する可能性もあると思っているので、「時間の短縮」にこだわっていますね。
「時間を短縮する」というビジョンとFirebaseはマッチしていますが、課題だと感じられている部分はありますか?
村本:まず、Firebaseの認知度が低いこと。「Google のサービスだ!」と紹介しても、「世界の標準はAWS(Amazon Web Service)だよね?」って言われることも多くて(笑)。そこをクリアにしていくために、いかに分かりやすく伝えるかが課題です。
今、「PostCoffee」っていうサービスを作ってるんですけど、世に出てるものはそのぐらい。あとは、けんすう(古川健介)氏がプロデュースを手掛けたことで話題の漫画サービス「アル」も実はFirebaseで開発しているんです。こういった実績をこれから積み重ねていき、市民権を得ていく必要がありますね。
今後のサービス展開を教えてください。
村本:多くは語れませんが、着実に準備は進めていってます。Twitterでつぶやくのと同じぐらい簡単に、自分の欲しい「体験」が買える。モノではなく、コト消費のサービスを創ろうと思っています。
今の世界に健全な「不満」を
起業するのに必要なことは何だと思いますか?
根気。僕らがあったのはそれくらいです。やる気だけでも技術力だけでも駄目で、それを統括して伸ばしていけるものは、根気しかないと思います。
あとは、今の世界に不満があること。今の世界で満足している人は、起業しないと思うんです。「これじゃ嫌だ」という何かが必要で。社会への不満や否定の気持ちをうまく昇華できるといいかもしれません。
起業する人へのメッセージをお願いします。
前薗:やりたいことを持つことから始めることが大切です。それをどう見つけるかというと、僕は結構哲学的に考えるほうで、死んだ時に周りに誰がいて、なんて声を掛けられたいかを考える。自分のなりたい像を明確にもって、今できることをやり続けることが大事だと思います。
村本:「起業」に目標を置いてほしくないですね。起業はあくまで自分以外の何かに影響を与える手段でしかありません。
そして、外に影響を与えるには、まず自分に目を向けなきゃいけない。とにかく自分を分析すること。自分のできていないところを見つけ、一つひとつ改善を重ねるしかない。いきなり大きなことは成し遂げられないので、地道に実績を積み重ねていく。重ね続けていくと、いずれ大きなものも載せられると思うタイミングが来るので、それまでは地道にやり続けてほしいと思います。