会社設立において、オフィスは必要なものでしょうか?また、オフィスはどのような形態のオフィスを選ぶべきなのでしょう。
オフィスの形は年々変化してきています。数年前までは貸主と賃貸借契約を結び、ビルの1室や1フロアをオフィスとして借り受けることが一般的でした。
しかし、リモートワークや働き方改革の影響を受け、近年ではオフィスの形もさまざまです。シェアオフィスやバーチャルオフィス、サテライトオフィスなど、今までにはなかったオフィスの形が次々と登場しました。
今回はオフィスの形としてスタンダードな賃貸借契約から新しいオフィスの形であるシェアオフィスまで、計7つのオフィスの形態をご紹介します。それぞれのオフィスのメリット・デメリットについてみていきましょう。「会社設立時にオフィスは必要なのか?」という問題を法的な観点から解説します。
法律上はどのオフィスでも問題ないの?
法律上オフィスはこれからご紹介する形態のうち、そのどれを選んでも問題はありません。ただし、会社法第27条3項にある通り、会社を設立するには「本店所在地」が必要になります。
(定款の記載又は記録事項)
第二十七条 株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店の所在地
四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
五 発起人の氏名又は名称及び住所
そのため、本店所在地として登記してもよい住所が必要です。オフィスの形態によっては、本店所在地としての登記が貸主に禁止されている場合や、別途料金が必要になる場合もあります。
特に、自宅開業の場合は注意が必要です。住宅用の賃貸マンション・アパートでは貸主から事務所利用が禁止されているケースが多くあります。その理由には、賃貸物件自体を住宅用として登記しているから、またセキュリティ上不特定多数の人の出入りを嫌うからといったことがあげられます。
どの形態のオフィスを選択したとしても、「本店所在地として登記可能かどうか」は契約時にしっかりと確認の上、サインするようにしましょう。
会社設立時にオフィスは本当に必要か?
会社設立において、オフィスは本当に必要なのかどうか考えていきましょう。
登記上の本店所在地は必ず必要なものです。そのため、登記上はどこかをオフィスに設定する必要があります。
では、物理的なオフィスはどうでしょうか。どこかの街にオフィスとして店舗を構える必要はあるのでしょうか。
対面での打合せが多い事業の方や複数人での作業が多い業種の場合は、物理的なオフィスがあった方が便利でしょう。一同に会して作業を行える場所を固定してしまった方が、必要の都度作業場所の確保を行うことに比べ効率的です。
しかし、個人で仕事をしている方やリモートで作業が完了する場合、またスモールビジネスを開業してすぐの場合には物理的なオフィスはさほど必要ではありません。オフィス契約には初期費用が必要になり、かつ固定費として毎月定額を支出しなければならなくなります。
オフィス契約の費用とオフィスの利用頻度・利用目的のメリット・デメリットを検討の上で、オフィス形態をどうするか決める必要があります。会社設立時に物理的なオフィスがなくても、オフィスは後日移転登記が可能です。必要を感じ始めた段階で検討を開始しても遅くはありません。
事業が軌道に乗る、または対面での作業が増えるまではバーチャルオフィスや自宅開業などを利用し、オフィスの必要性を感じ始めてから物理的なオフィスへの移転を検討しましょう。
多様化するオフィスの形
オフィスの形態は多様化してきています。
今回は7つのオフィスの形についてみていきましょう。
- 賃貸借契約
- シェアオフィス
- レンタルオフィス
- バーチャルオフィス
- コワーキングスペース
- サテライトオフィス
- 自宅開業
賃貸借契約
オフィスの形として、一番スタンダードなのは賃貸借契約です。ビルの1フロアやテナントの一角など、事務所用・オフィス用として貸し出されている物件を借りるため、会社と貸主との間で賃貸借契約を結びます。
古くから利用されているオフィスの形です。賃貸借契約で、オフィス契約を結んでいる会社は数多くあります。
賃貸借契約のメリット・デメリット
賃貸借契約のメリット | 対外的信用度の高さ |
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賃貸借契約のデメリット |
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賃貸借契約でオフィスを借りる契約を結ぶには、会社の登記事項証明書や代表者の印鑑証明書を提出する必要があります。場合によっては、会社の決算書を求められることも。書類を用意するだけでも、時間と手間が必要になります。
それだけでなく、賃貸借契約では初期投資に多額の資金が必要になります。オフィスの敷金・礼金・家賃に加えて、器具備品を買いそろえるための資金が必要だからです。
また、賃貸借契約でオフィスを借りると毎月の固定費が必要になります。設立から間もない段階で、大きな額の固定費の支出が増加するのは避けたいところです。
加えて、賃貸借契約であれば最低限の契約期間が定められていることがあります。最低限の契約期間を超える前に解約してしまうと、違約金の支払が必要になるケースもあります。
シェアオフィス
シェアオフィスとは、ビルやテナントの1フロアを複数の会社でシェアするオフィス形態のことです。1つのオフィスを複数の会社でシェアしたり、コワーキングスペースが併設されていたりと、シェアオフィスごとに様々な特徴があります。
利用者には、設立したばかりの会社や個人で開業している方が多く見られます。
シェアオフィスのメリット・デメリット
シェアオフィスのメリット |
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シェアオフィスのデメリット | 個人情報や機密情報のセキュリティが甘くなる |
シェアオフィスには、さまざまなサービスが付帯していたり設備を使用したりすることができます。例えば、社外の人との打合せに利用できるミーティングスペースが併設されていたり、プロジェクターなどが備え付けられたりしています。
また、賃貸借契約のように複雑な審査を必要としないため、一般的にシェアオフィスの方が契約を結ぶことが簡単です。そのため、賃貸借契約では叶わないような一等地にオフィスを構えることができます。
しかし、複数の企業とオフィスや設備を共同で利用するため、機密情報が外に漏れないよう会話の内容に気を使う必要があります。機密資料の取扱いにも注意が必要です。
レンタルオフィス
シェアオフィスと似た形態のオフィスに、レンタルオフィスがあります。レンタルオフィスは、事前にオフィスとして備品や計器が整えられたオフィスを借りるサービスです。
シェアオフィスと違う点は、シェアオフィスが1フロアや1ルームを他人と共有するのに対して、レンタルオフィスは契約した区画や部屋を1社のみで利用できます。
レンタルオフィスのメリット・デメリット
レンタルオフィスのメリット |
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レンタルオフィスのデメリット | 情報の管理が甘くなる |
レンタルオフィスにはデスクやチェア、ホワイトボードといった備品が備わっていることが多く、自社で設備を整えることなく事業をスタートできます。お金をかけずに、すぐにオフィスが欲しいときに最適です。
しかし、シェアオフィスと共通して情報の管理が甘くなる点がネックです。
また、契約した区画や部屋は1社のみで利用が可能ですが、他のスペースは他社と共有する場合はほとんど。そのため、共有の会議室が埋まっていて利用できなかったり、隣の部屋から声が聞こえてきたりするケースがあります。
バーチャルオフィス
バーチャルオフィスとは、実際にオフィスを構えるのではなく、オフィスとして貸し出している住所や電話番号をレンタルするサービスです。
登記用の住所や郵便物の受取場所として指定できます。しかし、実際に仕事を行う場所はバーチャルオフィスの住所以外の場所になります。
バーチャルオフィスのメリット・デメリット
バーチャルオフィスのメリット |
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バーチャルオフィスのデメリット | 対外的な信頼度が店舗がある場合に比べて劣る |
バーチャルオフィスは賃貸借契約やレンタルオフィスより安い価格で契約でき、ランニングコストを抑えられます。また、バーチャルオフィスの住所で実際に作業を行うことはないため、デスクやプリンターといったオフィス用品を購入する必要もありません。
しかし、実際の店舗がないため対外的な信頼度が店舗がある場合に比べて劣ってしまいます。取引先やお客様と自社で実際に相対する必要性の高い業種には、向いていないオフィス形態になります。
コワーキングスペース
コワーキングスペースとは、様々な会社や個人が同じスペースをオフィスとして契約する形態のことです。海外から広まったオフィス形態で、近年日本でも都心部を中心に展開されています。
複数のフロアに作業スペース・ミーティングエリア・飲食エリアなどを設け、個人が適したエリアで仕事できます。
多数の企業や個人事業主と同じスペースで仕事を行うため、契約者同士のコミュニケーションが盛んです。新しい会社や取引先と繋がったり、社内からは得られない情報を得たい方に最適なオフィス形態です。
コワーキングスペースのメリット・デメリット
コワーキングスペースのメリット |
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コワーキングスペースのデメリット |
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コワーキングスペースは初期費用・ランニングコスト共に安く済むところがメリットです。基本的には月額での契約ですが、場所によっては1時間や1日単位から利用ができます。
また、会議室やモニター、プリンターなどオフィスとして必要なものは一通り揃っているため別途購入をする必要はありません。自分のパソコンとオフィス用のセキュリティカードさえ持っていけば、すぐに仕事に取り掛かれます。
一方、混んでいると希望の席や会議室などが利用できないことがあります。また、周囲の音や声が聞こえてくるため、静かに一人で仕事をしたい方にはデメリットに感じられるでしょう。
サテライトオフィス
サテライトオフィスとは、本社以外の場所に設置されたオフィスのことです。都心での集中勤務を避けるため地方に設置されたり、逆に本社が地方の場合は取引先の集中する都心部に設置されたりします。
通勤時間の削減やBCPの観点から導入が広がっています。
サテライトオフィスのメリット・デメリット
サテライトオフィスのメリット |
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サテライトオフィスのデメリット | 本社とサテライトオフィスで二重にコストがかかる |
サテライトオフィスのメリットは、通勤時間の短縮により社員の満足度向上に繋がったり、いつもとは違ったオフィスで勤務することが気分転換に繋がり生産性が向上するといったことがあげられます。
また、サテライトオフィスを本社とは違った場所に設置すると、本社への通勤が難しい人材をサテライトオフィス勤務前提で採用することができます。人材強化の面でもメリットがあるオフィスの形態です。
一方、サテライトオフィスはコストがかかります。本社とは別にサテライトオフィス分の家賃を支払ったり備品を整えたりする必要があり、二重に支出が必要になる費用が多く出てしまいます。
自宅開業
自宅開業とは、自宅を本店所在地として登録する方法です。自宅で作業を行い、会社として表出す住所も自宅住所となります。
最近はリモートワークや在宅勤務も浸透してきているため、自宅開業でもさほど違和感を持たれることはありません。
自宅開業のメリット・デメリット
自宅開業のメリット | 費用がかからない |
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自宅開業のデメリット |
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もとから支出している家賃以上の費用を必要としないため、まだ利益が出ていない段階や会社設立したばかりの会社に向いています。
一方、デメリットとしては賃貸契約の内容によっては事務所利用が禁止されている場合があることです。その場合は物件の貸主から許可を得なければなりません。
また、自宅と仕事場が一緒になるため、公私の区別が付けづらくなってしまいます。対面での打合せが必要になるときには外部に会議室を借りたり、家族に在宅時間の都合をつけてもらったりと工夫が必要になってきます。
加えて、賃貸借契約で別にオフィスを構えている場合より、対外的信用度がやや低下してしまいます。メリット・デメリットをしっかりと考慮の上決断すべきオフィス形態です。
ミーティングスペースが欲しいとき
オフィスとして固定された場所が必要なほどではないけれど、取引先と打ち合わせるためにミーティングスペースが欲しいこともあるでしょう。
一時的にミーティングスペースがほしい場合、ご紹介する4つの方法を参考にしてみてください。
コワーキングスペース
コワーキングスペースには、会議室が併設されている場合が多いです。契約者であれば、短時間限定で外部の人を招いての打合せが可能です。他社と共有のスペースであるため、事前に予約が必要なケースがあります。
また、自身と取引先のどちらもがドロップインで1日のみコワーキングスペースを利用する手段もあります。
貸し会議室
会議室として必要なものが揃っている部屋を、会議利用目的専用に貸し出しているサービスが貸し会議室です。フォーマルな会議や打ち合わせの際に向いています。
貸し会議室は1時間単位や1日単位で利用できます。プロジェクターやお茶など、設備やサービスによっては別途料金が必要です。大人数での会議でも対応可能な広いスペースの貸し会議室もあります。
レンタルスペース
レンタルスペースとは、さまざまな利用目的で使用できるスペースのことです。場所によってはキッチンやダンススタジオ、イベントスペースなどに特化したものもあります。ミーティングでも利用可能です。
マンスリーマンション
1か月や2か月など月単位のプロジェクトの場合、マンスリーマンションを契約した方が他の方法より安く済むケースもあります。マンスリーマンションであれば、室内は自身と取引先のみで自由に利用が可能です。個人情報や機密を取り扱う際に向いています。
ただし、自身で掃除やオフィスとしての設備を整える必要があるため、使用頻度と支出を秤にかけて利用するかどうか検討しましょう。
おわりに
オフィスにはさまざまな形態があります。「本店所在地」の登記が可能であれば、どのオフィス形態でも法律上は問題ありません。
会社設立時にどのような形態のオフィスで登記をするかは、実店舗の利用頻度と予算の兼ね合いをみて決めるようにしましょう。対面で仕事をする必要性がない場合や、まだ売上がほとんどない場合には、無理に店舗型のオフィスを選択する必要はありません。
対面で仕事をする必要性がない場合や、まだ売上がほとんどない場合は、自宅開業やバーチャルオフィスから始めてみてもいいでしょう。
会社がまだ軌道に乗っていない状態で固定費を抱えることは、キャッシュフローに大きなリスクを抱えることになってしまいます。本店所在地は移転登記が可能です。会社が落ち着いてきてから、実店舗を検討してみても遅くはないでしょう。