ビジネスアイデアや税金などを総合的に考慮した結果、日本ではなく海外での起業を志す方も増えてきました。海外起業で成功するには、日本とは異なるポイントを押さえつつ、海外で起業する目的を明確にするのが大切です。
当記事では海外起業のメリット・デメリットや成功するためのポイント、海外起業・事業拡大で使える融資・補助金制度などを解説します。
海外で起業するメリット・デメリットは?
日本を選ばず海外で起業する経営者がいるのは、相応のメリットがあるからです。しかし同時に、海外でのビジネスならではのデメリットも存在します。海外で起業するメリット・デメリットをご紹介します。
海外起業のメリット
海外起業のメリットとして、「海外でのビジネスチャンスを掴める」「資産・ビジネス面でのリスク分散ができる」「節税につながる可能性がある」「ブランドイメージが向上する」の4つが挙げられます。
海外でのビジネスチャンスを掴める
海外で起業する大きなメリットは、未開拓の海外市場にてビジネスチャンスを掴める点です。なぜ掴みやすいのか、その理由は次のとおりです。
- 日本にいる約1億2,000万人以外の顧客にもリーチできる
- 現地の新鮮な情報をスピーディにチェックできる
- 現地の人脈やネットワークを構築してビジネスを拡大しやすくなる
- グローバル人材の育成・獲得を期待できる
- 日本では広まらなかったビジネスでも成功できる可能性がある
日本とは異なる地でビジネスをすること自体が、新しいチャンスにつながる可能性を広げてくれます。日本の文化・気候・地形などに囚われない、柔軟な商品・サービスが展開できるでしょう。
資産・ビジネス面でのリスク分散ができる
海外で起業した場合、資産やビジネス面に関してさまざまなリスク分散ができます。具体的には次のとおりです。
- 円以外の通貨での取引による為替リスクの分散
- 日本円よりも高い銀行金利による恩恵
- 日本で発生した不景気や天災などによる、日本の資産喪失や営業停止のリスクの回避
- 海外企業との取引の際の、スムーズな資金決済や手数料面での優遇による低リスクな経営
日本だけでのビジネス展開だと、全国各地にオフィスや店舗を設置するなど地域レベルでの分散が限界です。国の経済や文化レベルのリスク分散を望む場合は、海外でのビジネス展開を利用するのが効果的になります。
逆に海外で起業した後、日本で第2・第3の法人を設立するのもよいでしょう。
節税につながる可能性がある
日本と海外では、使える税制や適用税率などが大きく異なります。日本は社会保障が優れている反面、所得税や法人税(実効税率含む)などの税金は高い傾向にあるのが現実です。
そこで日本よりも税率が低い国で起業することで、節税につなげる方法があります。課税の著しい軽減や完全免除となっている国や地域を、タックスヘイブン(租税回避地・低課税地域)と呼びます。
ただし、タックスヘイブンは脱税行為やマネーロンダリングなどの違法行為に利用されることが多いのも事実です。
タックスヘイブンを極端に利用したビジネスは、いくら自分が違法行為しないよう務めても、自然とグレーゾーンの人脈が集まったり企業・個人としての信頼が損なわれたりするリスクはあります。
海外起業を節税につなげたい場合は、グレーギリギリまたは違法となる経営実態や法人設立ではなく、常識の範囲内での対策に留めておきましょう。
ブランドイメージが向上する
「海外でビジネスしている」という事実は、企業のブランドイメージ向上につながります。
単純な話ではありますが、顧客や取引先から「海外に拠点があるのは軌道に乗っている証拠」「能力が高い人がビジネスしている」と、好印象を与えられるのです。
また、海外で働くことを希望する優秀な人材へのアピールポイントにもなります。採用活動においてもプラス要素となるでしょう。
海外起業のデメリット
海外起業のデメリットは、とにかく想定通りにビジネスを進めるのが日本での起業以上に難しい点です。具体的にみていきます。
カントリーリスクなどの海外特有の問題が発生する
カントリーリスクとは、海外株式への投資や貿易などを行う際に、対象となる国の政治・経済・その他社会環境の変化によって、収益や取引に悪影響が出る可能性のことです。
起業予定の地域の状況・将来予想を事前に分析しておかなければ、急激な情勢変化に対応できずビジネスが破綻する危険性があります。予想される具体的なリスクは次のとおりです。
- 法改正により税制や法人の扱いが変わる
- 戦争によって経済状況や採用状況が変わる
- 賃金水準の上昇によって人件費が高くなる
- 円高・円安の影響で日本にある企業との連携が取りづらくなる
人件費が安くなるとは限らない
かつて東南アジアなどは「日本より人件費が低いから、同じ作業でも日本人を雇うより安上がり」と言われていました。
しかし、2022年現在だと日本の賃金上昇の停滞や新興国の経済成長などの要因が重なり、必ずしも日本より安上がりになると言えない状況になっています。
海外起業を成功させるポイント|ビジネスアイデアの見つけ方
海外起業を成功させるには、次のポイントを押さえることが大切です。
- どの国で起業するかしっかりと選定すること
- 現地の市場調査は必ず行うこと
- 現地の言語や文化を学ぶこと
- 海外企業で有効な人脈形成や採用計画を立てること
- 資金調達の手段を確保しておくこと
どの国で起業するかをしっかりと選定すること
海外のどの国で起業するかについては、ビジネスの成功確率に大きく関わります。事前にしっかりと選定しましょう。選定のポイントの例は次のとおりです。
- 自社のビジネスがその国の市場(人口、流行り、自社ビジネスとの相性)に合うか
- 起業や販売が国の法律や文化に相反しないか
- 日本人に対する感情はどうか
- 日本とのやり取りはやりやすいか
- 起業のために必要な手続き、日数、費用はどれくらいか
世界銀行が発行していた「ビジネス環境ランキング」では、企業活動しやすい国がランキング形式で発表されていました。2020年時点で4年連続1位を獲得したニュージーランドを含め、よくランクインしていた国を参考程度にご紹介します。
- ニュージーランド
- シンガポール
- デンマーク
- 中国(香港)
- 韓国
- 台湾
- フランス
- アメリカ
- イギリス
- カナダ
- ドイツ など
また上記の国以外では、経済成長や日本との関係を踏まえて、フィリピンといった東南アジアでの起業も選択肢に入るでしょう。
現地の市場調査は必ず行うこと
実際に起業する前に、現地での市場調査は必ず行いましょう。重要なのは実際に足を運ぶことです。インターネットや書籍で集めた情報だけでは正確性に乏しく、また地元民しか知らない部分をキャッチしきれないでしょう。
現地調査すべき情報の例は次のとおりです。
- 市場規模
- 経済状況
- 国民性や需要(国の傾向として何が好きで何が苦手かなど)
- 文化背景・歴史的背景
- 宗教
- 出店予定地周辺のアクセス
- 従業員の労働環境や生活環境
- 現地にある人気企業や卸企業
- 仕入・販売ルート
「日本で売れているから・人気だから・品質がよいから」という理論は、海外では通じないことも珍しくありません。成功のポイントは、現地での市場調査による地道な分析です。
現地の言語・文化を学ぶこと
ネイティブレベルとまでは言わないものの、経営者自身が起業予定国の言語・文化を学ぶことは大切です。言語や文化を通じ、ビジネスパーソンとしての立ち振舞いやビジネスマナーを身に付けることが、海外起業を成功させるポイントの1つとなります。
日本では許されても、特定の国では通じないマナーや表現は数多く存在します。外国人の立場に甘えて一切を身に付けなければ、肝心な商談のときに失敗して破談になるかもしれません。
例えば「海外はレディーファースト文化」と言われますが、最近だと行き過ぎたものに関しては敬遠される傾向が見られます。もちろんレディーファースト1つを取っても、国や地域によっては程度も変わってきます。
こうした細かなビジネスマナーや表現方法の是非を、言語や文化の中から学んでいきましょう。
資金調達の手段を確保しておくこと
海外で起業する際、異国の地で安定した資金調達手段を確保しておくことは非常に重要です。最初は日本の金融機関や各省庁を利用するのも手ですが、現地での資金調達手段を作っておいたほうが手間やコストを省けます。
海外起業・販路拡大関係の融資制度や補助金は何がある?
起業の際に、開業資金が大切になるのは海外起業でも同じです。しかし、いきなり現地の金融機関や人脈を利用して資金調達を受けるのは、実績面でハードルが高いのも事実。
直接金融(貸手と借手が直接やり取りする)が主流のアメリカなどでは、銀行を通さない分だけ資金調達の審査ハードルは低いものの、優れた事業計画やプレゼン能力がなければ融資は受けられません。「安心・信頼感ある日本の支援を受けたい」と思う方も多いのではないでしょうか。
そこでここからは海外起業・販路拡大関係が対象となる、日本が提供元の融資制度や補助金を紹介します。
ものづくり補助金グローバル展開型
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)とは、中小企業庁や独立行政法人 中小企業基盤整備機構が実施する補助金制度です。
中小企業や小規模事業者が取り組む、新しい商品・サービスの開発や生産プロセスの改善などを支援する目的で設立されました。
このものづくり補助金制度には、海外事業拡大・強化などを目的とした場合に適用できる「グローバル展開型」が存在します。補助金額は1,000万円~3,000万円です。
海外展開・事業再編資金
海外展開・事業再編資金とは、日本政策金融公庫が実施する、海外展開を画策する事業者が対象となる融資制度です。
海外展開および海外展開をしている事業の再編などを行う場合に、最大で7,200万円(うち運転資金4,800万円)の融資が受けられます。返済期限は設備資金で20年以内、運転資金で7年以内です。
スタンドバイ・クレジット制度
スタンドバイ・クレジット制度とは、海外の金融機関から現地流通通貨にて融資を受けたいときに、日本の金融機関や保証会社が信用状(スタンドバイ・クレジット)を発行する制度です。
この信用状は、「融資相手からの返済が滞ったときは代わりに弁済する」という証明になります。そのため海外の金融機関の立場からしても、安心して事業者へ融資しやすくなるのです。
補償の限度額は、利用する機関によって異なります。例えば日本政策金融公庫の制度の場合は、1法人あたり4億5,000万円です。
各省庁による支援制度
経済産業省や厚生労働省、特許庁などの各省庁は、海外展開する事業者をサポートする制度を設立および支援しています。例えば次のものが挙げられます。
支援制度 | 概要 |
---|---|
海外進出支援奨励金 | 厚生労働省が実施する海外留学や海外出向を助成する制度 |
コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金 | 経済産業省が支援する日本発のコンテンツ関係(ローカライズ&プロモーションやストーリー性のある映像の制作・発信事業など)の事業を支援する制度 |
外国出願補助金 | 特許庁が実施する海外で取得予定の特許・商標の出願にかかる費用を助成する制度 |
→特定非営利活動法人映像産業振興機構 コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金
株式会社国際協力銀行(JBC)の融資制度
株式会社国際協力銀行(以下、JBC)とは、日本産業の国際競争力の維持・向上や海外における開発および取得の促進などを目的とする組織です。
JBCでは、中小企業・中堅企業を中心に輸入輸出金融や投資金融、出資、補償などのさまざまな支援を提供しています。融資事業も実施中です。
海外で起業する方法は?
最後に、実際に海外で起業する際の具体的な方法について解説します。
海外進出する際の形態を決める
現地で法人化する際に、どのような形態にするのかを決めましょう。1から起業するなら現地法人の設立、事業拡大が目的なら駐在員事務所や支店とするのが一般的です。また、現地パートナーを見つけて共同運営する現地パートナー方式と呼ばれる方法もあります。
最近では、海外での煩雑な手続きや採用活動などを代行するGEO(Global Employment Outsourcing)や、人事サービスに特化したPEO(Professional Employment Organization)といった、法人設立をせずに海外進出ができる雇用代行サービスも登場しています。
各国の申込み手順に従って設立する
市場調査や事業計画などの事前準備が完了したら、各国の申込み手順に従って法人を設立します。必要な手続きは、大まかにいうと次のとおりです。
- 法人設立(法人登記)を行う(定款作成や各種契約書の準備など)
- 銀行口座を開設する
- 労働許可や就労ビザを取得する
- ビジネスライセンスを取得する
- 住居予定地を探す
より詳細な設立手続きについては、日本貿易振興機構(ジェトロ)の公式サイトにて各国の「会社設立手続き・必要書類」がまとめられています。
海外起業については専門家に相談するのもおすすめ!
海外法人や支店などは手順さえ踏めば問題なく設立できるものの、慣れない土地・言語の中で手続きを進めるのは簡単ではありません。日本で起業するにも知識や時間が必要であると考えると、海外起業となると心理的ハードルはさらに上がります。
海外起業を検討する方は、海外の法人に詳しい司法書士や税理士などの専門家への相談をおすすめします。専門家に依頼するメリットは次のとおりです。
- 海外進出サポートの専門家なら知識や経験から確実な手続きを期待できる
- 海外起業に関するさまざまな経営や節税アドバイスを受けられる
ただし海外サポートを掲げていても、専門家によって得意とする国や事業内容に違いがあります。事前に得意分野やサポート範囲を確認しておきましょう。