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仕組債と投資信託の違いは?リスク・リターンや安全性を比較

仕組債と投資信託の違いは?リスク・リターンや安全性を比較

一般的な債券とは一線を画す利回りの高さから、富裕層などに注目されてきた仕組債(しくみさい)。しかしその仕組みの複雑さから、とくに投資初心者にとってわかりづらい金融商品となっています。

当記事では仕組債の概要や、金融商品としてポピュラーである投資信託との比較から見るリスク・リターン、安全性などの特徴について解説します。

仕組債とは?ノックインなどの仕組みや主な種類

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債券とは、企業や国などが投資家からお金を借りる目的で発行する有価証券のことです。定期的に発生する利息や、償還日(満期日)に額面価額分の返還などが受けられます。仕組債は債券の1つです。

仕組債とは、特別な仕組みを組み入れた債券のことで、安定さが特徴である一般的な債券とは大きく異なる金融商品となっています。

まずは投資信託と比較する前に、あらためて仕組債の概要や種類、償還例などについて解説します。

仕組債の概要

仕組債の特別な仕組みとは、スワップ(金利や通貨を交換する取引)やオプション(将来の決まった日に約束した価格で売買する権利)など、いわゆるデリバティブ(金融派生商品)のことを意味します。

債券+デリバティブ=仕組債というイメージです。

このデリバティブの組み入れ方は銘柄によって多種多様です。投資金額やリスク許容度など、購入者の希望・状況に応じたものを選択できます。

富裕層向け商品の中には、投資家自身が自由に条件を組み合わせられるオーダーメイド仕組債の購入が可能です。

仕組債の大きな特徴は利回りの高さ。一般的にローリスク・ローリターンで安全性が高いと言われる債券と異なり、デリバティブを組み入れた影響による利回りの変動によって、高利回りの運用ができます。

個人向け債券の平均利回り約0.05%に対して、利回り5%以上の仕組債も珍しくありません。

しかし一方で仕組債特有のリスクや開示情報の少なさなど、運用におけるハイリスクさがデメリットとして挙げられます。2022年には金融庁からもさまざまな指摘が入っていることから、運用には十分な注意が必要になるでしょう。

仕組債の仕組み|早期償還とノックインについて

仕組債の額面価額や利率は、参照指標(特定銘柄の株価・株価指標・為替など)が変動することで変化します。

具体的に言うと、仕組債は決められた範囲を超えた値動きをすると、いつもより早く償還されたり、償還金額が減少したりなどが発生します。一般的な債券には見られない仕組みです。

参照指標の価格があらかじめ決まった水準と同等、または超えると「早期償還(ノックアウト)」となります。逆に決まった水準を下回ると「ノックイン」となります。

早期償還になると、満期償還日を待たずに直ちに償還されますが、償還後から満期までの利息は受け取れません。

次にノックインになると、満期償還日まではそのまま運用できるものの、最終評価日までに一定上の価格(行使価格)に戻らないと、元本割れで償還されるのが一般的です。

要は、最終評価日に行使価格を上回っているか下回っているかで、満額で償還されるか少なくなるかが決まります。

次のグラフは、ケース別に早期償還やノックインの状態についておおまかにまとめたものです。

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①は早期償還の条件を満たしているので、早期償還の対象になります。

②は一度ノックイン判定となっているものの、その後早期償還の条件を満たしているので早期償還の対象になります。

③は早期償還・ノックインのいずれにもなっていません。通常どおりの満期償還がされます。

④は一度ノックイン判定となっているものの、判定日には行使価格を超えました。この場合は、通常通りの満期償還がされます。

⑤はノックイン判定後、判定日になっても行使価格を下回っているので、通常よりも償還価額が少ないノックイン価格や利率を基に償還されます。

なお、これはあくまで単純な例です。実際は細かい条件によって償還価額や償還日は変わります。また投資信託の中には、この仕組みを取り入れた「ノックイン投信」という商品が存在します。

仕組債特有のリスク

デリバティブが仕組債には、特有のリスクが存在します。

・あらかじめ決まっている参照指標を基に利子が決定される仕組債は、参照指標の変動によって受取利子が減少するリスクがある
・あらかじめ決まっている参照指標を基に償還金額が決定される仕組債は、参照指標の変動によって受取償還金に差損が発生するリスクがある
・デフォルト(債務不履行)事由が発生した場合も損失となるリスクがある
・商品性におる償還金の差損の発生や、償還金に代わって有価証券による償還が行われるリスクがある

参考:日本証券業協会 「仕組債」とは?

また同時に仕組債は、信用リスク、価格変動リスク、為替変動リスク、流動性のリスクなど一般的な債券が持つリスクも共通して持っています。

これら以外にもリスクは存在するので、商品情報については目論見書や販売会社への問い合わせなどで確認しておきましょう。

仕組債の主な種類

仕組債は、主に「EB債」と「リンク債」の2種類に分けられます。

EB債(他社株転換可能債)

EB債とは、償還金の代わりに株式や上場投信など、債券発行元とは異なる組織の有価証券で償還される可能性がある仕組債のことです。

原則としては、ノックインかつ行使価格まで上がらないまま償還日を迎えたときに、有価証券で償還されます(行使価格と同等または超えた場合は現金での償還)。

リンク債

リンク債とは、株価指数や株価などの変動によって償還価格が変動する仕組債です。

例えば日経平均リンク債という商品だと、日経平均株価の変動に応じて償還価額や利率が変わります。日経平均株価が早期償還判定基準を上回れば早期償還、ノックイン判定かつ最終評価日までに行使価格を上回らなければ償還価額が減少します。

仕組債と投資信託の違いは?リターン方法や利回りなどを比較

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ここまで解説した仕組債と投資信託を実際に比較すると、リターン方法や利回り、開示情報などで大きな違いが存在します。

投資信託とは、投資家などから集めたお金を1つの資金(ファンド)として集めた後、運用の専門家による運用成果によって分配金が還元される金融商品です。専門家による運用や分散投資効果などによって、比較的ローリスクローリターンの運用ができます。

ここからは仕組債と投資信託の違いを、双方の特徴を深掘りしながら見ていきましょう。

仕組債 投資信託
リターンの決定方法 参照指標や行使価格などに応じた複雑な仕組みで決まる 原則としては安く買って高く売れば利益が出る
利回り 全体的に高いが購入には注意が必要になる 商品によるが比較的安定している傾向にある
運用・流動性 商品のカスタマイズ性が高いが流動性が悪い 運用は専門家に任せるが流動性は悪くない
情報の透明性 不明瞭なことが多い 透明性が高い
最低購入価格 数十万~数千万円と高額設定になっている 100円から可能な商品がある

リターンの決定方法の違い

仕組債は原則として、参照指標が大きく変動してもノックイン判定かつ行使価格を下回らなければ、リターン金額は一定のままです(満期の償還価額+利率に応じた利息)。

逆に言えば、参照指標が爆発的に上がったとしても、リターン金額は変わりません。このケースだとそもそも早期償還の基準を超えた時点で、満期の償還価額と償還までに利息が金額として確定します。

むしろ早期償還になるほど参照指標が上がると、満期まで受け取れるはずだった利息が受け取れない可能性があります。利回りがよい仕組債とはいえ、その恩恵を100%受けられなくなるのです。

また仕組債は受取利益が限定される反面、逆にノックアウト事由が発生したときには、参照指標によっては損失が大きくなる可能性があります。

オプション取引などではよく「売り手は利益限定、損失無限大」と言われますが、仕組債の場合は売り手が私たち投資家で、買い手が金融機関となるのです。高い利回りの代償とも言えるでしょう。

一方で投資信託の場合は、原則として参照指標などに応じた基準価格や分配金になります。仕組債のような複雑すぎる仕組みはなく、「安く買って高く売る」ができれば、利益を出せます。利益の上限や損失の下限はありません。

利回りの違い

仕組債は債券の中でも利率を高く設定でき、利回りも5%以上、中には10~20%クラスの商品も存在します。一般的な債券と比較しても、非常に高いと言えるでしょう。

しかし、利回りの恩恵を100%の受けられるのは、早期償還やノックインによる元本割れなどがないケースです。

金融庁は手数料も加味して「リスク対比のリターンが株や債券などと比べて悪く、リスクに見合ったリターンが得られていないと考えられる」と指摘しています。購入前の参照指標の状態や条件設定、コストの確認が非常に重要になるでしょう。

一方で投資信託の場合は、平均利回りが3~10%と言われています。原則としては利回りが低いほど、安定した運用が可能です。

運用・流動性方法の違い

仕組債は他の株式や債券と同じく、自分で運用するのが基本です。とくに富裕層向けのオーダーメイド仕組債であれば、自身の経験や希望を反映した投資が可能になります。

とはいえ仕組債は途中売却が難しい金融商品であるため、他の債券と同じく償還日までホールドするのが基本となるでしょう。例えば参照指標が暴落の傾向が見られてノックインを避けようとしても、すぐに償還ができない流動性の低さがデメリットです。

投資信託の場合だと、運用・管理は専門家に一任します。投資初心者でも安心な反面、運用の自由度は自分で購入した株式などのほうが高いでしょう。

投資信託の流動性は、商品によって変わります。MRFやMMFのように即日換金できるものから、一定期間換金できないものまでさまざまです。平均としては、4~5日ほどで換金できます。

情報の透明性の違い

仕組債は、複雑な仕組みや価格の不明瞭さ(仕組債の価格に購入手数料が含まれているなど)から、目論見書や契約関係の書類に目を通す必要性がとくに大きな金融商品です。

金融庁の「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」によると、「顧客からの苦情・相談から判断すると、商品性を十分理解しないままに仕組債を購入している例が少なくないと考えられ、金融機関側の説明が不十分であることがうかがわれる。」と指摘されています。

一方で投資信託は、購入手数料や運用管理費用、売買委託手数料、信託財産留保額などのコストは目論見書などで確認が可能です。基準価格も毎営業日に公表されている他、監査法人などに監査も受けています。金融商品の中でも、透明性が高いと言えるでしょう。

購入価格の違い

仕組債の購入価格は、額面で数十万円単位・数百万円単位と高額な傾向にあります。オーダーメイド仕組債になると、最低購入金額が1,000万円以上にも上ることもあります。

とはいえ仕組債は償還価格や利率を比較的自由にできるものもあることから、実際の価格は販売会社ごとに大きく変わるでしょう。

投資信託の場合は、100~1,000円から始められる商品も多いです。金融商品の中でも、少額投資に向いていると言えます。

仕組債と投資信託のどっちを購入すべき?

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仕組債は高い利回りが魅力である反面、償還条件や情報の不明瞭さから、ハイリスク・ハイリターンの金融商品となります。利益を狙うには、情報収集力や市場を読む力などが必要です。

2022年現在では、金融庁の指摘や購入者からのクレームもあり、仕組債の販売を取りやめる大手・中堅金融機関が増えつつあります。こうした事情を踏まえ、慎重に購入を検討すべきです。

一般的な債券と異なり、投資家として経験のある方や、富裕層レベルの資産を持つ方が購入を検討すべき商品と言えるでしょう。

一方で投資信託は専門家による運用、情報の透明性の高さ、少額投資可能などから、投資初心者でも購入しやすい金融商品です。これから投資を始めたい方は、投資信託の購入からスタートするのもおすすめです。

なお仕組債と投資信託はいずれの場合も、購入前には目論見書の確認などをしっかりと行ってください。どちらも元本割れのリスクを孕んでいるので、原則としては余剰資金で生活に影響のない運用を心がけましょう。

購入する金融商品は安全性や自身の資産状況によって検討しよう

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仕組債と投資信託は、比較すると商品性や利回りに大きな違いがある金融商品です。

とくに仕組債は仕組みの複雑さや購入価格の高さ、情報の透明性などの観点から、購入前の検討が非常に大切になるでしょう。オーダーメイドの仕組みに魅力を感じたり、投資に自信があったりする方は、チャレンジするのもよいかもしれません。

一方で安定志向が強い方は、投資信託を始めとする他の金融商品を検討してみてください。

もし老後に向けた資産形成や、退職金の運用などの資産運用に関する相談があれば、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)やFP(ファイナンシャルプランナー)、金融機関のアドバイザーなどの、資産運用の専門家に相談するのも1つの手です。

企業の教科書
安藤 正道
記事の監修者 安藤 正道
きわみアセットマネジメント株式会社 取締役

金融商品仲介業「きわみアセットマネジメント株式会社」取締役。
きわみアセットマネジメント株式会社は特定の金融機関に属さず、お客さまのライフプランに最適なアドバイスができるIFA法人です。お客さまの一生涯のパートナーとなり、寄り添います。ご相談は無料ですのでお気軽にお問合せください。

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