会社を設立する際に忘れてはいけないのが、社会保険に加入すること。これまで会社員だった人はする必要のなかった保険の手続きですが、起業すると社会保険への加入は義務になり、社長が責任を持って行わなければなりません。
しかし、社会保険は複数あり、狭い意味では厚生年金、健康保険、雇用保険のこと、広い意味では労災保険、介護保険も含めた5つの保険で構成されているので混乱しがちです。
本記事では、会社設立前に知っておきたい保険の情報と、それに伴う会社に必要な業務をご説明します。これから会社の設立を考えている方は参考にしてください。
会社設立前に知っておきたい社会保険の種類
会社設立時の義務の1つである、保険への加入。法律によって定められており(件封建報第3条、厚生年金保険法第9条)、会社の規模や人数に関係なく加入しなければなりません。
社会保険への加入が必要なのは、法人か適用業種の従業員数が5名以上の個人事業主です。個人事業主の場合には業種や従業員数によっては社会保険への加入は必須ではありませんが、法人の場合には必須です。
社長一人だからといって国民年金、国民健康保険のままというわけにはいきません。未加入のまま運営を続けた場合、最大で過去2年間の保険料を徴収されることもあるので、必ず加入しておきましょう。
ここでは、加入すべき2つの保険について、加入条件や加入のタイミングをご説明します。
社会保険とは、厚生年金、健康保険、雇用保険、労災保険、介護保険の5つの保険で構成されています。それぞれどのような保険なのか、見ていきましょう。
厚生年金
国民年金に上乗せする形で納入・支給される年金制度のこと。厚生年金を支払っておくと、65歳以上になったときに受け取れる年金の額が上がります。年金だけではなく、障害手当や遺族手当の金額も上がります。
厚生年金はよく年金制度の2階部分と表現されます。基礎年金である国民年金が1階部分で、そこに上乗せする厚生年金が2階部分です。厚生年金は会社員や公務員が加入し、原則的に65歳から老齢厚生年金を受け取ることができます。
厚生年金は、会社で働く全ての人(正社員)、また正社員の労働時間の4分の3以上働いているパートやアルバイトにも当てはまります。加入のタイミングは、加入条件に当てはまった日から5日以内と定められています。
健康保険
健康保険に入ると発行される「保険証」を提示することで、怪我や病気などで病院にかかったときに、支払う費用を負担してくれる制度のこと。仕事を休んだり、亡くなったりしたときの手当も含まれます。
健康保険は会社員に適用される公的医療保険です。加入している健康保険協会から健康保険証が交付され、病院で提示することで従業員の医療費負担が3割で済みます。中小企業は協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入することが多いですが、特定の業種向けに総合型健康保険組合もあります。
健康保険も厚生年金と同様に、会社で働く全ての人(正社員)、また正社員の労働時間の4分の3以上働いているパートやアルバイトに加入義務があります。加入のタイミングは、加入条件に当てはまった日から5日以内です。
雇用保険
退職した後に支払われる、次の仕事が見つかるまでの間の生活費を保障する制度のこと。育児や介護などを理由に休業した場合にも適用されることもあります。手当を受けとるには条件がありますが、最高1年間給与の一部を受けとることができます。
雇用保険は週の所定労働時間が20時間以上で31日以上雇用の継続が見込まれる従業員(パート、アルバイト含む)を雇った際に加入する必要があります。
労災保険(労働者災害補償保険)
労働者が勤務中や出勤中などに怪我をしてしまったときや労働が原因の病気になってしまったときに手当が支払われる制度のこと。療養のために休業する際の休業給付、障害が残った際の障害給付などもあります。保険料は全額会社が支払い、働けない間の給与も支払われます。
労災保険はパート、アルバイトも含め従業員を1名でも雇った場合には加入義務があります。
介護保険
40歳以上の方は加入する必要があります。高齢者や介護が必要となる方のための制度で、自身に介護が必要なときには最大で介護費用の9割まで負担してもらえる制度です。
社会保険に加入しなかった場合どうなるか
社会保険には加入義務がありますが、加入しなかった場合であっても罰則はありません。ただし、未加入の会社には定期的に社会保険に加入を勧める通知書が届きます。それでも加入しない場合には年金事務所から連絡がきたり、立ち入り調査をされたりする、といったこともあります。
年金事務所は。社会保険に強制的に加入させる権限を有しています。そのため、加入しなかったとしても強制加入手続きを取られ、過去に納めるはずだった保険料(最大2年分)を徴収される可能性もあります。
ただし、社会保険の加入には例外もあります。
役員報酬がない場合(代表の給料がゼロの場合)には社会保険には加入できません。また、役員報酬が保険料を下回る場合には、年金事務所から社会保険への加入を断られる、といったこともあります。
起業直後で売り上げが確保できず、自分に給料を支払うことができないという場合には下記のような代替制度を利用することができます。
健康保険の代替手段1.国民健康保険への加入
健康保険の代替手段として、国民健康保険の継続という手段があります。
国民健康保険は、他の保険に加入していない場合には誰でも加入できますので、社会保険の資格喪失証明書をもって役所で手続きを取ることで加入できます。
保険料は地域によって変わりますし、家族構成によっても変動します。
健康保険の代替手段2.協会けんぽの継続
健康保険の代替手段として、協会けんぽを継続するという手段もあります。
ただし、協会けんぽは会社を退職してから2年間しか継続できませんし、定められている加入期限を超過すると加入できなくなるので注意が必要です。
国民年金保険は扶養家族1名につき1名分の保険料がかかるのに対し、協会けんぽは扶養家族を含めても1名分の保険料で済むので、家族構成次第では国民年金保険よりも安くすむ場合があります。
社会保険加入時に必要な書類
社会保険に加入するにはさまざまな必要書類があります。健康保険と厚生年金保険は事業所の所在地を管轄する年金事務所に、雇用保険はハローワーク(公共職業安定所)に、労災保険は労働基準監督署に提出する必要があります。
健康保険・厚生年金加入時の必要書類
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
健康保険、厚生年金に加入する際に提出。
現在事項全部証明書(会社の登記簿謄本)の添付が必要 - 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
役員、従業員、被保険者となる全員分を提出 - 健康保険被扶養者(異動)届
役員、従業員に扶養家族がいる場合提出。
被扶養者の健康保険被保険者証の添付も必要。
扶養者の年間所得が103万円以上130万円未満の場合には課税(非課税)証明書も必要
雇用保険加入時の必要書類(ハローワークに提出)
- 雇用保険適用事業所設置届:従業員を雇ってから10日以内に提出
- 雇用保険被保険者資格取得届:雇用した日の翌10日までに提出
- 就業規則届:従業員を10名以上雇う場合に提出
労災保険加入時の必要書類(労働基準監督所に提出)
- 保険関係成立届:雇用した日から10日以内に提出
- 労働保険概算保険料申告書:保険関係が成立した日から50日以内に提出
意外に高額な社会保険料
労災保険の保険料は会社が負担しますが、他の保険料は会社と従業員で半分ずつ支払います(労使折半)。年齢や業種によりますが負担率は従業員が14%、会社が15%です。
従業員の給料が20万円なら毎月3万円、年間で35万円の会社負担、給料が30万円なら毎月4万円、年間で50万円の会社負担が発生します。
そのため、会社にとっては大きな負担となります。特に、法人成りをされる方にとっては、個人事業主のときには発生しなかったものが発生することになり、経費としての比率も非常に大きいものがあります。
社会保険加入のメリット・デメリット
このように会社にとって大きな負担となる社会保険ですが、加入することにメリットがあります。
社会保険加入のメリット
- 年金額が高くなる
- 採用面で強くなる
また、現在では企業はどこも社会保険に入っています。そのため、仮に自社が社会保険に入っていないとなると採用面で他社に競り負けてしまい、優秀な従業員の雇用機会を失うことにもなりかねません。
社会保険加入のデメリット
- 事務手続きが煩雑
- 保険料の負担
会社設立と社会保険まとめ
会社を設立すると、社会保険の加入は必須です。従業員が自分1人だけであったとしても加入しなければいけない保険もあるので、必ず確認しておきましょう。
社会保険には5つの種類があり、保険によって加入できるタイミングが違うので、あわせて確認しておきましょう。
- 厚生年金
- 健康保険
- 雇用保険
- 労災保険
- 介護保険
また、保険料の納付にも関係する経理業務は多岐に渡ります。会計士や税理士などの手を借りながら行うのもおすすめです。 会社を設立するときには、保険の加入を忘れずに行いましょう。