起業をする際には「会社の形態をどのようにするのか」検討する必要があります。日本の会社形態は、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4つです。
会社の設立をするとき、一般的には株式会社を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、近年では「合同会社」の設立事例が増えています。
本記事では、低コストで会社設立が可能な「合同会社」に焦点をしぼって解説します。
合同会社とはどんな会社?
合同会社とは、2006年5月1日施行の会社法で新しく設けられた会社形態です。1977年にアメリカで誕生したLLC(Limited Liability Company)をモデルとして導入されたため、合同会社は「LCC」「日本版LLC」と呼ばれることもあります。
Limitedは「有限」、Liabilityは「責任」、Companyは「会社」を意味し、直訳すると「有限責任会社」です。「有限責任」という言葉のとおり、会社をつくるためにお金を支払う人(出資者)は、出資した金額以上の責任を負わなくても済むのです。
会社の経営が悪化して大きな負債をかかえながら倒産した場合でも、出資者は会社設立時に払い込んだ金額の範囲内だけで責任を負えば済みます。
たとえば、ある合同会社が500万円の債務超過に陥って倒産したとしても、100万円を出資した人であれば100万円を失うだけです。そのため、100万円以上の金額を請求されることはありません。
また合同会社は、お金を出す人(出資者)と経営する人(社員)が同一です。そのため、自由度が高く迅速な意思決定が可能となります。
しかし、株式会社では「お金を出すオーナー」と「オーナーの依頼を受けて経営する人」というように、出資者と経営者が別に存在します。これを「所有と経営の分離」といいます。
増え続ける合同会社の設立
e-Statによると、2019年に設立された法人数は、118,532社です。そのうち合同会社は30,566社で全体の5.7%となっています。
合同会社という会社形態が2006年に誕生してから、設立件数は継続して増加しています。
実は合同会社である有名企業
合同会社は、オーナー(出資者)と経営者が一体化した会社です。合同会社と耳にすると小規模な組織を連想する人が多いですが、有名な大企業も「合同会社」という形態で事業展開しています。
- アマゾンジャパン合同会社
- Apple Japan合同会社
- エクソンモービル・ジャパン合同会社
- グーグル合同会社
- 合同会社西友
- 東燃化学合同会社
- P&Gプレステージ合同会社
GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の日本法人4社のうち3社(Google、Apple、Amazon)が合同会社です。化粧品SK-Ⅱの販売を行っているP&Gプレステージやエクソンモービル・ジャパンなどの外資系企業も合同会社で事業展開しています。
合同会社は「経営と所有が分離していない」ことから、自由度の高い経営と迅速な意思決定を実現できます。外資系企業は、自由度の高い経営と迅速な意思決定ができるため合同会社を選択していると考えられます。
また、全国に300店舗以上のスーパーを展開する西友は、2005年に米ウォルマートの子会社となりました。そして、2009年に合同会社へ組織変更しています。なお、ウォルマートは2021年3月に85%の株式を売却しています。
合同会社を設立するメリット・デメリット
会社設立を検討している方は、「個人事業主でやるべきか?会社をつくるべきか?」「会社をつくるのであれば、株式会社と合同会社のどちらにするべきか?」と悩んでいるのではないでしょうか。
ここでは、合同会社を設立してビジネスを展開するメリット・デメリットを解説します。
合同会社のメリット
合同会社は、低コストでの設立ができ自由度の高い経営が可能です。
- 設立手続きが簡単で設立費用も安い
- 自由度が高くスピーディーな経営ができる
- 決算を公表する必要がない
- 利益の配分が自由
- 社債や私募債の発行で資金調達できる
設立手続きが簡単で設立費用も安い
※電子定款の場合は定款印紙代が不要
※定款の謄本交付には別途手数料が発生
会社を設立するためには「定款認証」と「設立登記」が必要です。
株式会社は定款認証に5万円の費用がかかりますが、合同会社では定款認証が不要となります。また、法務局で設立登記をする際に必要な「登録免許税」は、6万円で株式会社より安い費用で登記可能です。
そのため、合同会社は費用を抑えて会社設立したい人にとって最適な会社形態といえるでしょう。
自由度が高くスピーディーな経営ができる
合同会社は、「社員」と呼ばれる出資者が経営に参加します。合同会社では、原則として社員全員が代表権をもっているため、スピーディーな意思決定ができるのです。
合同会社の「社員」に任期はなく、永続的に業務執行権をもちます。
しかし、株式会社の役員には任期があります。通常は2年(監査役は4年)、上場していない株式会社(非公開会社)の場合は、最長10年までです。
また、株式会社では重要な意思決定をするとき「取締役会」「株主総会」などの機関決定が必要となり、決裁に時間がかかります。合同会社では社員(経営者)の間で合意がとれれば、自由に組織を運営することができるのです。
決算を公表する必要がない
合同会社は、決算公告の義務はありません。なぜなら、合同会社の出資者(社員)は経営者だからです。合同会社では、決算公告のための計算書類などの準備や広告に係る費用も発生しないのです。
しかし、株式会社の出資者は「株主」であり、経営者とは別の存在です。そのため、株式会社は株主に対して経営成績や財政状態を開示する義務である「決算公告」をしなければなりません。
利益の配分が自由
合同会社では、出資割合に関係なく自由に利益の分配ができます。
しかし株式会社では、原則として「株式」の出資金額に応じて利益が還元されます。
たとえば、「お金持ちの投資家Aさん」と「高い技術力をもったBさん」が2人で合同会社Lを設立した場合、上記のように自由に配当決められます。
合同会社は、「投資家」と「アイデアや技術をもっている人」が共同で事業を行うことにも適している会社形態です。
ただし、配当割合や配当金額によっては税法上の損金(経費)として認められない場合もあるため注意が必要です。複数の出資者(社員)で合同会社の設立をする際は、税理士に相談して「将来のお金のトラブル」を防ぎましょう。
社債や私募債の発行で資金調達できる
合同会社は、株式会社と同様に「社債」の発行による資金調達ができます。
しかし、個人事業主は銀行や信用金庫といった金融機関から資金調達することになります。
合同会社のデメリット
日本で「合同会社」という会社形態を知っている人はまだ少ないです。合同会社のデメリットは「合同会社」という名称そのものによるものと、合同会社特有のルールによるものがあります。
- 社会的な知名度や信用力に欠ける
- トップの肩書は「代表社員」
- 社員の退職による資金不足
- 合同会社は上場できない
社会的な知名度や信用力に欠ける
合同会社、株式会社に比べて「知名度」や「信用度」が欠けています。
日本では合同会社の会社形態が少ないことから、対外的な信用度を上げることが難しくなりがちです。小規模なオーナー企業と見られてしまい、「金融機関の融資」「新規顧客開拓」「アルバイト人材募集」などで不利になることもあります。
トップの肩書は「代表社員」
合同会社の代表の肩書は「代表取締役」ではなく「代表社員」です。「代表社員」という肩書きを知っている人が少ないため、名刺や会社案内での肩書が気になる人もいるでしょう。
社員の退職による資金不足
合同会社の出資者である「社員」が退職した場合には、出資金が払い戻されるため会社が資金不足なる可能性があります。
また合同会社の出資者は、全員が対等の立場です。属人的な組織であるがゆえに、社員間で対立が生じると「スピーディーな意思決定」という合同会社のメリットを発揮できなくなってしまいます。
合同会社は上場できない
合同会社は株式会社ではないので、上場できません。
「東証一部・二部」「マザーズ」といった株式市場に上場できるのは、株式会社に限られます。
事業を拡大して将来上場を目指すなら、合同会社ではなく株式会社を選択すべきでしょう。社員の総意があれば、将来的に合同会社から株式会社へ組織変更できます。
合同会社に向いている業態や業種
合同会社が向いている業態や業種とはどのようなものでしょうか。
具体的には、下記のような業態や業種があげられます。
- サラリーマン起業
- 介護ビジネス
- 店舗型ビジネス
- インターネットビジネス
- FX運用ビジネス
サラリーマン起業
合同会社は低コストで設立できるため、会社員が副業として起業するのにも向いているといえるでしょう。家族や友人同士でスモールサイズから展開するビジネスにも向いているといえます。シニア世代が退職後に合同会社を設立する事例も増えています。
介護ビジネス
デイケアなどの介護事業を行うためには法人を設立した上で、都道府県からの許認可を得る必要があります。多くの介護サービス企業が合同会社の形態をとっています。
店舗型ビジネス
「飲食店」「エステ」「雑貨店」などの店舗型ビジネスは、会社名ではなく屋号(店舗名)で営業するため、合同会社で法人化するケースが多くなります。
店舗型事業は、モノやサービスを直接個人に提供する「BtoC」ビジネスであるため、「BtoB」ビジネスと比較すると対外的な信用力が重視されません。そのため、合同会社が選ばれるケースが多いです。
インターネットビジネス
Webデザイン、アフィリエイト、SEOコンサルティングなどインターネット関連事業で起業する人が増えています。オフィスを構える必要もなく、スキルと人脈がものをいうビジネスであるため、合同会社が適している業態の1つといえるでしょう。
FX運用ビジネス
個人でFX運用する際のレバレッジは、口座の25倍が上限となっています。レバレッジの範囲を拡大するために、合同会社を設立するケースも多くなっています。
合同会社を設立する方法
合同会社を設立するためには、申請書と必要書類を法務局へ提出します。
ここでは、申請に必要となる書類や手順について解説していきます。
合同会社の設立登記に必要となる書類
合同会社を設立するためには「設立登記」をする必要があります。
合同会社の設立登記で必須となる書類は以下のとおりです。
- 合同会社設立登記申請書
- 登録用紙と同一の用紙
- 定款2部(会社保管用と法務局提出用)
- 代表社員の印鑑証明書
- 資本金の払込証明書と通帳のコピー
- 印鑑届書
設立登記申請手続きの流れ
設立登記を法務局に申請するまでの具体的な手順は、以下のとおりです。
定款作成
定款(ていかん)とは、会社名や事業目的などといった会社の基本的な重要事項が記載された資料で「会社の憲法」ともいわれています。
株式会社の設立では公証役場で定款の認証を得る必要がありますが、合同会社は定款認証が不要です。いずれにせよ、定款は設立登記の申請に必要となるため、申請前に「会社名」「本店所在地」「事業目的」「資本金」「代表社員」「事業年度」を決定しておきましょう。
会社名(商号)
会社名は、ABC合同会社、合同会社ABCといったように「合同会社」という文字をいれなくてはいけません。取引の混同を防ぐ観点から、「銀行」「信託」という文字は、銀行業・信託業を行う会社のみ使用することができます。また、「三菱」「三井」「住友」といった大企業の商号を使用することも認められていません。
本店所在地
本店所在地は、会社の住所です。
自宅のみならずレンタルオフィス、バーチャルオフィスでも登記することができます。本店所在地は、定款に必ず記載しなければならない事項の1つで、会社の設立登記をする前に決めておく必要があります。
事業目的
設立する会社が行うビジネスの内容を決定します。会社は、定款に記載される「事業目的」に定められた事業のみ行うことができます。
定款に記載のない事業は、行うことができないため注意が必要です。そのため、将来的に展開する可能性のある事業も含めて記載することをおすすめします。
定款の事業目的の最後に「前各号に付帯関連する一切の事業」という文言を入れて、会社の守備範囲を広くしておくことが一般的です。
下記の業種は、都道府県や保健所の許可・認定・届出・登録などが必要です。
- 理容・美容業
- クリーニング業
- 旅館業
- 食品営業
- 医療機器販売
- 薬局
- 高圧ガス・LPガス販売
- 農薬販売
- 廃棄物処理業
- 貸金業
- 倉庫業
- 建設業
- 自動車運送業
- 労働者派遣事業
- 電気工事業
- 旅行業
- 駐車場業
資本金
資本金の金額が総額いくらなのか、誰がいくら払うのかを決定します。合同会社は、資本金が1円以上あれば設立できます。
しかし、極端に少ない金額の資本金は対外的な信用を得られにくいデメリットとなります。基本的には、3か月以上の運転資金を資本金として設定することをおすすめします。
資本金は、土地や建物といった不動産や債権など「現物」の出資額を計上することも可能です。これを現物出資といいます。
代表社員
代表社員とは、合同会社の代表で株式会社の代表取締役に該当します。代表社員は一人でも複数でも(出資者全員でも)選任できます。
代表権をもたない社員は業務執行社員と呼ばれ、株式会社の取締役に該当します。
事業年度
日本では国の事業年度が4月から始まるため、多くの企業の事業年度は4月1日から3月31日です。事業年度(何月決算にするのか)は、会社設立時に自由に決定することができます。
決算月は経理の処理などで忙しくなるため、繁忙期を考慮して事業年度を設定するのも良いでしょう。たとえば、小売業界は閑散期である2月を決算月にしている会社が多いです。また、外資系企業は12月決算の企業がほとんどです。
印鑑(実印)の作成
合同会社の実印は、法務局への印鑑登録によって実印として利用できます。
合同会社の実印は「ABC合同会社 代表社員之印」などとするのが一般的です。代表者の肩書は株式会社とは異なるため、「代表取締役印」としないよう注意が必要です。
印鑑の種類 | 使用用途 |
---|---|
実印 | 設立登記や申請書・契約書への押印で使用 |
銀行印 | 銀行などの金融機関の口座開設 |
角印 | 印鑑証明が不要な日常的な書類作成で使用 |
ゴム印 | 会社名・代表者名・住所の押印で使用 |
「銀行印」や「角印」は、通常の法人と同じ作成方法で特に問題ありません。また、会社名・代表者名・住所を押印できる「ゴム印」があると契約書作成の際に便利です。
資本金の払込
定款の作成が終了したら、社員が出資金を銀行口座に振り込みます。振込先は代表社員の個人口座(普通口座)に行いますが、新規ではなく既存口座も使用できます。
資本金の払込で注意すべきことは、以下の2点です。
- 振り込んだ社員の氏名が確認できるようにする
- 振込日が定款作成日以降である
資本金の払込が終了した後に「払込証明書」を作成します。
払込証明書には払込を受けた金額、銀行口座に資本金が振り込まれた日付、住所・商号・代表者指名を記入して会社の実印を捺印します。払込証明書の提出には、払込を受けた銀行口座の通帳のコピー(表紙・裏表紙・振込金額)を添付し、製本して提出すると良いでしょう。
法務局で登記申請
合同会社の登記申請には、事前に準備が必要な「定款」「払込証明書」に加えて「印鑑届出書」「合同会社設立登記申請書」などがあります。法務局でも用意されていますが、事前にダウンロードすることも可能です。
また社員が一人の場合、管轄の法務局に書類を持参することなく、設立登記をオンラインで申請することができます。
会社設立は税理士へ相談
合同会社は低コストで会社設立ができ、自由度の高い経営ができます。合同会社の出資者は「社員」として、経営に参加します。そのため、社員全員に代表権があり、スピーディーな意思決定ができるのです。
また、合同会社の登記申請手続きや資金調達方法は、会社設立に強い税理士に相談しましょう。余計な時間がかかることもなく、経営全般に関する相談も可能です。
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