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相続放棄すると代襲相続は発生しない? 仕組みや注意点を解説

相続放棄すると代襲相続は発生しない? 仕組みや注意点を解説

相続放棄の手続きによって、相続に関する財産・権利の一切の放棄を検討される方は数多くいます。相続放棄は借金などの負債も対象になるので、「代襲相続の対象となる子どもに負債が渡るのでは?」と心配になる方もいるのではないでしょうか。

当記事では、相続放棄と代襲相続の関係や、さまざまなモデルケースについて解説します。

相続放棄すると代襲相続が発生しない理由

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相続放棄すると、相続人の子どもや甥姪への代襲相続は発生しません。他の相続人へ相続権が移ります。

つまり「親が相続放棄して、祖父の借金を無理やり子どもへ引き継がせようとしている」といった悪質なケースは成立しません。

以下では代襲相続や相続放棄の仕組みを踏まえて、なぜ相続放棄では代襲相続が発生しないかを解説します。

代襲相続の仕組み

代襲相続とは、相続人となるべき人物が「死亡」または「廃除か欠格」に該当していた場合に、その人物の直系卑属(子どものこと、養子も含む)が代わりに相続人となる制度です。

死亡・廃除・欠格の概要は次のとおりです。

発生するケース 概要
死亡 相続人となる予定の人物が、実際に相続が発生する前に死亡している
廃除 相続人が被相続人に対して重大な侮辱や虐待、その他非行を行っている際、被相続人が生前に家庭裁判所へ請求して相続権を剥奪する
欠格 被相続人や他の相続人について「殺害または殺害未遂した」「殺害についての告発しない」「詐欺や脅迫によって遺言を妨げる」「遺言書の破棄・偽装・捏造」が発覚した際に相続権を剥奪する

代襲相続の対象となるのは、「被相続人の孫(被相続人の子の子)」と「被相続人の甥姪(被相続人の兄弟姉妹の子)」の2パターンが挙げられます。

孫への代襲相続

被相続人の子どもが死亡・廃除・欠格のいずれかに該当するときは、被相続人の孫への代襲相続が発生します(胎児も含む)。相続割合は、子どもと同じく1/2です。

もし孫も死亡などしているときは、ひ孫以降へ相続権が移ります。ひ孫以降への代襲相続を「再代襲相続」と呼び、ひ孫以降の人物を再代襲相続人といいます。

ただし子どもが養子であり、当該養子と被相続人が養子縁組を結ぶ前に生まれた連れ子に関しては、代襲相続・再代襲相続の対象になりません。

なぜなら法律上、養子縁組の日から養親との血縁関係が生じると定められているためです。血縁関係が生じる前に誕生した連れ子は、被相続人とは血縁関係がないと判断されます。

代襲相続の対象となるには、養子縁組の日以降に生まれた子どものみです。

甥姪への代襲相続

被相続人の兄弟姉妹に相続権があるとき、その兄弟姉妹が死亡・廃除・欠格のいずれかに該当するときは、その子どもである甥姪へ相続が発生します(胎児も含む)。

孫への代襲相続との違いは、再代襲相続が発生しない点です。例えば甥姪が死亡して甥姪に子どもがいたとしても、その甥姪の子どもへの再代襲相続は行われません。

相続放棄の仕組み

相続放棄とは、被相続人から相続されるはずだった財産のすべてを放棄する法的な手続きのことです。相続権そのものを放棄します。

相続放棄がよく選択されるケースとして、次のものが挙げられます。

  • 借入金や未払金などのマイナスの財産が多すぎる
  • 相続関係のトラブルに巻き込まれたくないと考えている
  • 事業承継時など特定の相続人に財産や権利を集中させたい

なお通常通りの相続を行うことを単純承認、マイナスの財産を精算した上でプラスの財産のみを受け取ることを限定承認といいます。

相続放棄だと「そもそも相続人ではない」判定

ここまでの説明だと「相続放棄したら、自分の子どもに代襲相続できるのでは?」と思う方もいるかもしれません。

相続放棄を行うと、当該相続人は「そもそも相続人ではなく、初めから相続権を持っていない判定」になります。このことは民法第939条にて規定されています。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

引用 e-Gov 民法

つまり相続放棄した後に代襲相続しようにも、移せる相続権が存在しません。以上のことから、相続放棄を選択すると、放棄した人物の子どもや甥姪への代襲相続は発生しないことになります。

なお、相続放棄の効力は被相続人ごとです。

たとえば「A男からの財産を放棄したが、B女の代襲相続の対象となっている」といった特殊なケースにおいては、A男の財産について相続放棄しても、B女の代襲相続人となる可能性があります(詳しくは後述)。

相続放棄後は誰に相続権が移る? ケース別に解説

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相続放棄によって手放した相続権は、次の相続順位の人物に渡ります。ここではあらためて、相続順位についてみていきましょう。

相続は常に配偶者+最高順位の人物に発生します。配偶者は、原則として必ず相続人となります。

配偶者がすでに死亡している場合は、すべて最高順位の相続人への相続です。同じ順位の相続人が複数いるときは、同じ順位同士で均等に分け合います。「第1順位と第2順位」といった、他の順位同士の相続はありません。

相続順位および、配偶者が生きている場合の相続割合は次のとおりです。

被相続人との間柄 相続割合 1,200万円を分ける場合の例
第1順位 ・子ども
・代襲相続人(孫、ひ孫)
1/2 ・配偶者:600万円
・子ども:600万円
第2順位 ・父母
・祖父母
1/3 ・配偶者:800万円
・父母:400万円
第3順位 ・兄弟姉妹
・代襲相続人(甥姪)
1/4 ・配偶者:900万円
・兄弟姉妹:300万円

なお被相続人が遺言を残しており、相続先や割合が指定されている場合は、原則として遺言書に従います。

放棄したときの相続権の移り方

相続放棄したときの相続権の移り方について、具体的にみていきましょう。

  1. 配偶者が相続放棄した場合は、第1順位に100%、第1順位がいないときは第2順位に100%、第1・第2順位がいないときは第3順位に100%相続となります。
  2. 第1順位が相続放棄した場合は、原則は第2順位へ、第2順位がいないときは第3順位へ相続権が移ります。
  3. 第2順位が相続放棄した場合は、原則は第3順位へ相続権が移ります。
  4. 第1~3順位全員が相続放棄した場合だと、配偶者がいる場合は配偶者に100%。他に誰も相続人がいない場合は、被相続人の債務の精算に使われた後、国庫に帰属します。

代襲相続人が相続放棄できる?

代襲相続人にも相続放棄する権利があります。代襲相続人の相続放棄の扱いは、他のケースと同じです。家庭裁判所へ相続放棄の申立てを行いましょう。

2つ以上の相続権があるときの相続放棄・代襲相続

相続の状況によっては、1人に対して2つ以上の相続権が発生するケースがあります。

前述にも記載したとおり相続放棄は被相続人ごとに発生するため、「一方の相続は放棄しつつ、もう1つの財産を代襲相続人として受け取ること」は可能です。

具体的に表すと、「父親は借金があったので父親の相続を放棄した。一方で祖母の財産はプラスだったので、父の代襲相続人として祖母の相続は受け入れた」は成立します。

相続手続きは、父親と祖母の分をそれぞれ別々で行います。

注意すべき「再転相続」について

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再転相続とは、熟慮期間(相続方法について選択できる期間で、原則3ヶ月)中、相続方法を選ぶ前に相続人が亡くなったことで、次の相続人への相続が発生することです。

例えば、「祖父が死亡した上に、相続人の母親が相続方法を決める前に亡くなったので、子どもの自分が相続する」といったケースが挙げられます。この場合、祖父の死亡が第一相続、母親の死亡が第二相続と呼びます。

再転相続における承認・放棄の組み合わせの可否

再転相続では、ケースによって一次相続・二次相続の承認や放棄における可否の組み合わせが変わります。上記のケースを基に、選択可否について表でまとめました。

一次相続(祖父母) 二次相続(父/母親) 選択の可否
相続 相続 可能
相続 放棄 不可
放棄 相続 可能
放棄 放棄 可能

「一次相続(祖父/母)の財産のみ相続し、二次相続(父/母親)の財産を放棄する」の組み合わせのみできません。

これは父/母親の死亡時に、父/母親がすでに「祖父/母の財産の相続について権利」を有しており、子どもへの相続には「父/母親の相続財産」+「祖父/母の財産についての権利」が含まれている点が関係しています。

もし子どもが父/母親の相続財産を放棄すると、同時に父/母親の財産に含まれる祖父/母の財産についても放棄することになります。

再転相続と代襲相続の違い

ここであらためて再転相続と代襲相続の違いを確認します。

前述にて「父親の財産は放棄したが、祖母の財産は代襲相続人として受け取った」というケースがありました。

このケースはあくまで、祖母の財産を受け取るときに父親がすでに死亡している、代襲相続だからこそ成立します。

これがもし「祖母が先に死亡して父親が熟慮期間中に死亡した」という再転相続だと、父親の財産のみを放棄するという方法が選べません。

たとえ父親に相続放棄の意思があったとしても、熟慮期間中の死亡で放棄手続きが行われていなければ代襲相続が発生します。

再転相続と代襲相続の違いは相続人が死亡した順番といえるでしょう。

代襲相続や相続放棄の際に必要な手続きについて

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代襲相続が発生する際、代襲相続人が行うべき手続きはとくにありません。家庭裁判所へ申立てたり、不動産や預貯金などの財産に関して特別な手続きをしたりなどはなく、他の相続人と同じように進めていきます。

ただし、「相続人が死亡している事実」と「自分が代襲相続人である事実」の2点を証明する必要があります。必要な戸籍謄本を揃えておきましょう。

一方で相続放棄を行う際は、証明のための戸籍謄本や相続放棄申述書などの必要書類の準備が必要です。必要書類を揃えた後、家庭裁判所へ申立てを行います。

相続放棄の手続きや書類については、「相続放棄の手続きに必要な書類とは?流れや費用についても解説」の記事にて詳しく解説しています。

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代襲相続が関わる相続放棄についての注意点

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代襲相続人が相続放棄する場合は、次の点について注意しておきましょう。

  • 他の相続人と事前に話し合っておくこと
  • 相続財産をしっかり確認してから判断すること
  • 相続放棄しないときは代襲相続関係のトラブルに気をつけること

他の相続人と事前に話し合っておくこと

相続放棄すると、マイナスの財産を含めて他の相続人同士が分け合います。

もし誰にも相談せずに放棄手続きを進めてしまうと、「あいつは自分たちに借金を押し付けた」と思われ、その後の関係性にヒビが入る可能性があります。

相続放棄を行う際は、他の相続人と事前に話し合っておきましょう。

とはいえ孫や甥姪の立場だと、被相続人や他の相続人と疎遠であるケースも珍しくありません。他の方々に混じって話し合いを進めるのは、少し気が引ける方が多いのが実情です。

しかし、代襲相続であっても正当な相続人です。相続財産について調べたり、「関係が薄いくせに生意気だ」といった他の相続人からの圧力に対抗したりなど、相続人としてできる限りのことを行いましょう。

相続財産をしっかり調査してから判断すること

相続放棄は、一度認められると原則として二度と撤回できません。手続きに踏み込む前に相続財産をしっかり調査し、「本当に相続放棄すべきか」を判断しましょう。

相続財産の内容によっては、相続放棄せずに相続人同士の話し合い(遺産分割協議など)にて「自分は相続しない」と主張する遺産放棄(財産放棄)も視野に入れましょう。

遺産放棄であれば相続権を放棄せずに済むので、後からプラスの財産が見つかっても権利を主張できます。

代襲相続関係のトラブルに気をつけること

代襲相続人として相続を受け入れる際は、代襲相続関係ならではのトラブルに注意しましょう。例として挙げられるのは次のとおりです。

・他の相続人と関係性が遠いことも多いので、コミュニケーション関係が上手くいかない
・被相続人に近しい相続人の事情を無視して権利を主張し、煙たがれてしまう
・事前に相続人であることを知らず、突然知らされて手続きや話し合いのスケジュールを組むのが大変になる
・他の相続人が代襲相続人に分からないよう財産を隠し、自分たちが有利になるように遺産分割協議を進める可能性がある

相続放棄や代襲相続についての相談は弁護士や司法書士へ!

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相続放棄や代襲相続関連を進める上では、他の相続人との話し合いが困難になるケースも珍しくありません。

また相続放棄や代襲相続が重なると、誰が相続人かがわかりにくくなったり、相続放棄選択の期限である3ヶ月以内で判断するのが難しくなったりなどのトラブルが考えられます。

もし相続関係でお困りの際は、弁護士や司法書士などの相続関係の専門家に相談しましょう。専門家であれば相続に関するアドバイスから、書類作成の代行などにも対応してくれます。

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増山 晋哉
記事の監修者 増山 晋哉
弁護士法人 きわみ事務所 代表弁護士

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