2020年6月1日に労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行され、社会全体のパワーハラスメントへの意識が高まっています。その中でも本記事で取り上げるのは、近年増加している「逆パワハラ」です。概要や現状を整理したうえで、対策や対処法まで明らかにします。
逆パワハラについて理解を深めることは、働きやすい職場環境を作るために重要であり、結果として個人のキャリアやライフスタイルを豊かにすることにつながります。会社の環境を整える管理部門にとって、逆パワハラの知識は必要不可欠なのです。
本記事は、現在逆パワハラに悩んでいる人はもちろん、今後マネジメントする立場に就くであろう、若い世代の人にも是非参考にして欲しい内容です。現状への解決だけでなく、これからのキャリア設計にも役立つでしょう。
逆パワハラって何?
まずは、そもそも逆パワハラとは何かを整理しましょう。
逆パワハラとは?
逆パワハラとは、部下から上司、または後輩から先輩へのパワーハラスメントのことです。
逆パワハラが発生している実情を明らかにしましょう。下記は、厚生労働省が公表している、パワハラの加害者と被害者の関係性を表したデータです。
引用:平成28年度 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書 p61|厚生労働省
「部下から上司へ」「後輩から先輩へ」といった事案が確かに発生しており、相談内容の半数近くはパワハラに認定されていることが分かります。
逆パワハラは国でも定義されている
逆パワハラは、国によっても明確に禁止されています。関連する法律や国の提言を見ていきましょう。
下記は、2020年6月1日施行の改正労働施策推進法(パワハラ防止法)における、パワーハラスメントに関する条文です。
第八章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等
(雇用管理上の措置等)第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
この中から、パワハラの定義としてポイントとなる部分を抜粋すると、下記のとおりとなります。
- 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 雇用する労働者の就業環境が害されること
このうち、「優越的な関係を背景とした言動」の内容として、パワハラ防止法の施行に伴って打ち出された指針内で下記のとおり定められています。
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
このように、部下から上司への言動も、「パワーハラスメント」の一種だと明確に定義されているのです。逆パワハラは、国でも取り上げるほどの社会的な問題となっていることが分かりますね。
逆パワハラが原因で自殺したとされるケースがある
過去には、逆パワハラが原因と見られる死亡事件も発生しています。下記はその事例です。
被害者 | 静岡市の男性職員(50代) |
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事件発生年月 | 2014年12月 |
事件内容 | 同年4月に異動した先の部署で部下から仕事の協力を得られず、月100時間近くの労働超過状態であった。 部下からの度重なる罵倒も重なり、10月にうつ病と診断され、12月に職場で首をつり自ら命を絶った。遺族は逆パワハラと長時間労働が自殺原因だとして2015年5月に公務災害を申請し、2019年3月に認定されている。 |
逆パワハラを行った部下に大きな要因がありますが、長時間労働や上司への罵倒への対策を取らなかった企業側全体の責任でもあります。逆パワハラは、加害者と被害者だけの問題ではなく、企業全体の問題として捉える必要があるのです。
逆パワハラの例
引用:平成28年度 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書 p60|厚生労働省
特定の行為が逆パワハラに該当する訳ではなく、その事例は多岐に渡ります。
参考までに、上記のグラフは、パワハラの相談内容と認定件数をまとめたものです。逆パワハラにおいても、上記のような事案が起こりうると言えます。
ここからは、逆パワハラに該当する言動例を詳しく見ていきましょう。
逆パワハラの事例:話しかけても反応しないなどの精神的攻撃
逆パワハラにおいて精神的攻撃は多く、「話しかけても反応しない」、「わざと大勢いる前で上司を罵る」などが代表的な行為です。
先ほど紹介したグラフでも、精神的な攻撃が圧倒的に多いことが分かります。逆パワハラにおいても、精神的攻撃はもっとも注意すべき内容なのです。
逆パワハラの事例:暴行などの身体的攻撃
ここまで極端な例はあまりありませんが、上司を殴る、蹴るといった身体的な攻撃も逆パワハラとして起こりうるのです。場合によっては、刑事事件に該当する場合があります。
逆パワハラの事例:SNSなどを利用した誹謗中傷
上司本人を直接攻めるのではなく、SNSを用いて上司の評価を下げるというケースもあります。これまでの2つに比べると、上司が気づきにくいことが特徴です。不平不満を公開するだけでなく、事実と異なる悪口を拡散されることもあります。
逆パワハラの事例:執拗にパワハラだと騒ぎ立てる
些細なことでも執拗にパワハラだと騒ぎ立て、上司の悪い印象を周囲に植え付けるケースもあります。飲み会に誘っただけ、仕事を振っただけなのにパワハラだと言われることが一例です。
逆パワハラが起こる原因は?
逆パワハラが起こる原因はひとつではなく、様々な要素が絡み合っています。要因となり得る問題について、詳しく見ていきましょう。
逆パワハラの原因:上司のマネジメント不足
逆パワハラは必ずしも部下だけに要因がある訳ではありません。上司が部下を指導できない、指揮を取れていない、などマネジメント不足による不満や怒りが募って起こることがあります。
上司は部下への監督指導責任があるため、必要な場面での指導は重要です。
ただし、マネジメント不足を意識し過ぎると、いざ逆パワハラが発生してしまった際に、自分の責任だという考えから周囲に相談しにくくなってしまいます。マネジメント不足は、あくまで要因のひとつだと理解しておきましょう。
逆パワハラの原因:モンスター社員が部下になる
モンスター社員とは、思考や行動があまりにも常識外れで、周りの人に怒りや不満の矛先を向ける社員のことです。そんなモンスター社員が部下になると、上司に何の非がなくても、自分の都合で逆パワハラをしてくることがあります。
正当な指導にも「パワハラだ」と反抗してくるため、上司は何も言えない悪循環に陥ってしまいがちです。
逆パワハラの原因:実力主義への移行により、能力が高い部下が上司を見下す
近年の日本企業は、古くからの年功序列を撤廃して実力主義に移行する傾向が強くなっています。そのため、部下の能力や経験が上司を上回ることで、上司を見下すような態度をとることがあるのです。
能力で勝っている部下に上司が強気の姿勢を取れないことで、逆パワハラがどんどん悪化していく危険性があります。
逆パワハラの原因:部下の権利意識が高まっている
パワハラが社会現象になっていることで、社会全体の部下の権利意識が高まっています。上司が強く抵抗できないことを良いことに「上司よりも自分達の方が偉い」「何かあればパワハラだと訴えれば良い」という意識が逆パワハラを生む一因となるのです。
また、近年は「360°評価」と言われる、部下が上司を評価する人事評価制度が広まってきています。これは上司からのパワハラを軽減する意味ではメリットが期待できますが、気にいらない上司に低評価をつけたりと逆パワハラを起こす可能性もあるのです。
逆パワハラの対策
事前に逆パワハラへの対策を取ることで、発生確率を少しでも抑えることが重要です。逆パワハラを未然に防ぐための、2つの対策を見ていきましょう。
逆パワハラの対策:上司のマネジメント能力を高める
逆パワハラが起こる要因のひとつに上司のマネジメント不足がありました。そのため、各部署のリーダー層を集め、マネジメント力を高める研修や講習を実施しましょう。情報交換の場にもなりますし、もしその時点で逆パワハラに悩んでいる社員がいれば相談するきっかけになるかもしれません。
マネジメント能力を高め、日ごろから部下との信頼関係を築くことは、逆パワハラの対策としてだけでなく職場環境を良好に保つうえでも重要です。
逆パワハラの対策:全社員に対して研修や講義を行う
全社員に対して教育の場を設けることで、逆パワハラの周知と共通理解を図ることも重要です。
逆パワハラの防止に役立つだけでなく、部下側がこれまでの態度を振り返るきっかけになったり、身近で発生した際の報告体制を整えることに役立ちます。
逆パワハラの対策:普段から必要な指導は怠らない
普段から必要な場面での指導を怠ると、部下から「この上司には舐めた態度をとっても大丈夫」と思われてしまいます。上司には指導監督の権限があるため、良好な職場関係を築くためにも部下への指導は大切なのです。
指導が必要な場面とそうでない場面を見極められるようになるためにも、前述したようにマネジメント能力を高めることが重要です。
逆パワハラの対策方法とは?
いくら対策をとっていても、逆パワハラが起こってしまうことがあるでしょう。もし発生した場合はできるだけ速く、そして確実に対処することが重要です。ここからは、逆パワハラが発生してしまった場合の対処法を見ていきましょう。
逆パワハラの対策方法:証拠を残す
会話の録音やSNSで誹謗中傷を受けている画面のスクリーンショットなど、被害を説明できる証拠を残しておきましょう。
部下の権利性が高まってきているため、逆パワハラは証拠がないと認められにくい可能性があります。被害を立証するために、まずは証拠を残すことが重要なのです。
逆パワハラの対策方法:上層部や社内の専門窓口に相談する
逆パワハラが発生してしまったら、本人だけで状況を改善させることは困難です。
そのため、会社の上層部や社内の専門窓口に相談することが大切です。逆パワハラは組織全体の問題でもあるため、上層部を含めて解決する必要があります。
逆パワハラの対策方法:外部の専門窓口を利用する
もしかしたら社内だけで解決できない場合や、個人的な事情で上層部に報告できない場合があるかもしれません。
そのような場合は、外部の専門窓口を利用するのも対処法のひとつです。より客観的な立場で対処法を考案してくれるので、問題が解決しやすくなります。
逆パワハラの対策が難しければ転職もひとつの選択肢
逆パワハラは社会的な問題となってきており、実際に心身不調や死亡事故に繋がる事案も発生しています。事前に対策を取ることで発生を抑えることはできますが、今の職場ですでに逆パワハラが起きていたり、逆パワハラが発生しそうな職場環境なのであれば転職もひとつの選択肢です。
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選択肢のひとつとして転職を考え、転職支援サービスに登録することも考えておきましょう。