従業員の仕事とプライベートを良好に保つだけでなく、心身を休めて仕事の生産性・効率性を上げるためにも、自社の休暇制度を整えることは重要です。
また、良好な職場環境を整えることは企業のブランディングにもつながり、人材確保の面でもメリットがあります。本記事では、慶弔休暇を有効に運用するための実務的な内容も取り上げるので、管理部門の人は是非参考にしてください。
慶弔休暇とは?
まずは、慶弔休暇の基本的な内容について見ていきましょう。慶弔休暇への理解を深めるためには、どのようなときに取得できる休みなのか、制度として導入しないことは違法ではないのか、などの基本的事項を知ることが重要です。
慶弔休暇はどんな休み?
慶弔休暇とは、お祝い事やお悔やみの際に取得できる休暇制度のことで、福利厚生の一種です。慶弔とは、慶事と弔事を組み合わせた言葉。例として、下記に身近な出来事をあげました。
- 慶事:結婚や出産など、自分自身や身内にお祝い事があった場合
- 弔事:葬式や通夜など、身内に不幸があった場合
一般的に冠婚葬祭に該当するような行事が対象です。いずれも人生において特別なライフイベントであるため、慶弔休暇を利用して心置きなく休めることは、従業員にとって大きな安心となります。労働者が職場への満足感を得ることにも繋がるでしょう。
慶弔休暇は法律に定められていない
慶弔休暇は、法律に定めがない法定外休暇です。そのため、企業側に制度として導入する義務はなく、慶事や弔事のための休みが設けられていなくても違法とはなりません。実際に導入していない企業もあります。
また、法律で決まりがないため、導入の有無だけでなく休暇の内容も各企業が自由に決める権利を持っています。そのため、休める日数や取得するための条件などは企業によって異なるのです。
慶弔休暇有給か?無給か?
慶弔休暇を有給・無給のどちらにするかも、各企業が自由に決めて問題ありません。
「無給にしたら意味がないんじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、そうすると、慶事や弔事で休む際は年次有給休暇を消費するか欠勤扱いとなります。そのため、無給だとしても労働者側にはメリットがあるのです
ただし、有給としている企業の方が多いため、それが一般的だと思っている従業員が、無給であることに不満を感じる可能性はあります。これから慶弔休暇の導入を検討しているのであれば、まずは有給とすることから検討してみてください。
慶弔休暇を導入している企業はどのくらい?
慶弔休暇を導入するか否かは企業側の裁量によりますが、内容の違いはあれど、ほとんどの企業が導入しているのが現状です。
裏付けとなる調査結果を確認してみましょう。下記のグラフは、企業における「福利厚生の実施状況」を調査したもので、各制度をどのくらいの企業が導入しているかをまとめています。
引用:企業における福利厚生施策の実態に関する調査 p3|独立行政法人労働政策研究・研修機構
様々な福利厚生制度がある中で慶弔休暇の導入率は最も高く、9割以上の企業が実施しています。
このように、慶弔休暇はすでに広く浸透しているため、労働者は基本的に慶弔休暇があるものだと認識している可能性が高いです。新入社員には、自社の制度内容や、仮に慶弔休暇を導入していないのであれば、その旨を詳しく説明するようにしましょう。
また、同様の調査では、「必要性が高いと思う福利厚生」についての回答も得ています。下記のグラフは回答結果を引用したものです。
必要性が高いと思う制度・施策
引用:企業における福利厚生施策の実態に関する調査 p12|独立行政法人労働政策研究・研修機構
慶弔休暇が必要と答えた割合は、全体で2番目に高く、労働者にとって必要性が高い制度であることが分かります。まだ導入していない企業は、導入を前向きに検討すると良いでしょう。
慶弔休暇を導入するためには?
慶弔休暇を適切に運用するためには、社内制度として導入する必要があります。ここからは、導入するための流れや手続きを見ていきましょう。実用的な内容なので、少しでも導入を検討している場合は、是非参考にしてください。
慶弔休暇の手順:ルールを決める
慶弔休暇を導入するために、まずは休暇の内容やルールを決める必要があります。下記は、厚生労働省が公開しているモデル就業規則です。こちらを参考にしながら、就業規則に盛り込むべきポイントを確認していきましょう。
慶弔休暇のルール:申請者との関係性と付与日数
まずは、「申請者本人とどのような関係性であれば何日休みを付与するのか」を決める必要があります。下記にいくつかの例をあげました。
【付与日数の例】
- 本人が結婚した場合:5日
- 1等身(両親や子など)が亡くなった場合:5日
- 2等身(祖父母、配偶者の父母など)が亡くなった場合:3日
なるべく詳しく決めることで、従業員が慶弔休暇を取得する際の手続きがスムーズになります。また、5日とは連続した5日間なのか、2日と3日に分けて取得して良いのかなど、休暇の取り方も明確にすると良いでしょう。
慶弔休暇のルール:非正規雇用労働者への適用をどうするか
正社員だけでなく、パートなどの非正規労働者にどの範囲まで適用させるかもポイントとなります。
ここで注意すべきなのが、2020年4月1日から同一労働同一賃金が施行されたことで、正社員と非正規雇用労働者の待遇格差が図られている点です。国が公表している、同一労働同一賃金のガイドライン内の記載を見てみましょう。
短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の慶弔休暇の付与並びに健康診断に伴う勤務免除及び有給の保障を行わなければならない。
この内容から考えると、非正規雇用労働者にも、正社員と同様の慶弔休暇を適用することが望ましいと言えます。ただし、同ガイドラインでは、正社員と非正規雇用労働者における慶弔休暇の相違が問題とならないケースとして、下記のとおり記載されています。
A社においては、通常の労働者であるXと同様の出勤日が設定されている短時間労働者であるYに対しては、通常の労働者と同様に慶弔休暇を付与しているが、週2日の勤務の短時間労働者であるZに対しては、勤務日の振替での対応を基本としつつ、振替が困難な場合のみ慶弔休暇を付与している。
例として、週2日勤務の短時間労働者には正社員と同様の慶弔休暇を付与しなくても問題ないことが記載されています。つまり、非正規雇用労働者については、就労の実情に応じて休暇制度を適用しても良いのです。正社員と同様の適用を基本としつつ、状況に応じて柔軟に設定すると良いでしょう。
慶弔休暇のルール:入社後まもない社員の取り扱い
入社後まもない従業員に適用するかどうかも、検討する必要があります。
もし適用しないのであれば
- 3か月間の使用期間を終えた社員
- 入社後半年経過した社員
- 入社後1年経過した社員
など、条件をハッキリ設定しましょう。
慶弔休暇の手順:就業規則に明記する
慶弔休暇のルールを決めたら、その内容を就業規則に明記する必要があります。職員に共通の理解を図るためにも、会社のルールとして明確に定めることが重要です。
なお、休暇の名称は必ずしも「慶弔休暇」である必要はありません。たとえば、結婚休暇や忌引き休暇、特別休暇などと定める場合があります。
慶弔休暇導入のポイント
ここからは、慶弔休暇を導入する際に注意すべきポイントを見ていきましょう。いずれも、制度を正確且つ公平に運用するために大切なポイントです。
慶弔休暇のポイント:事前の周知を徹底する
慶弔休暇の導入や制度内容について、従業員への周知を徹底することが重要です。慶弔休暇があることをハッキリ分かった状態とそうでない状態では、従業員の安心感が違います。
また、せっかくルールを決めても、従業員が誤って理解していれば無意味なものになってしまいます。ただ周知するだけでなく、内容を理解できるように丁寧に説明しましょう。
慶弔休暇のポイント:制度を厳格化し過ぎない
慶事や弔事は必ずしも事前に把握できる訳ではなく、予定より早く子どもが産まれそう、身内が急に亡くなった、など本人も予期せず休みが必要な場合があります。そのため、「必ず事前に申請すること」などルールを厳しくすると、目の前の大切な出来事に集中できなくなります。
ルール化すること自体は重要ですが、急ぎのときに本人が自分の行動に専念できるよう、柔軟に対応できる体制を整えておきましょう。
慶弔休暇を取得するまでの手続き
慶弔休暇を導入するうえでは、休みを取るまでの流れを明確にしておくことが大切です。流れを統一することで、休暇を取得するまで時間がかからずに済みます。管理部門においては、事務の煩雑化を防ぐ利点があるのです。
慶弔休暇の申請書を準備する
慶弔休暇を申請するための様式を準備しましょう。管理のしやすさから、口頭やメールではなく、紙の申請書や保存できる電子データなどで準備することをおすすめします。
また、申請書のフォーマットを作成する場合は下記の項目を盛り込みましょう。
- 申請者の氏名
- 休む期間
- 休む目的(出産、結婚、葬式など)
- 申請者との関係性
- 連絡先
基本的に上記の項目を盛り込めば問題ありませんが、必要に応じて他にも項目を設定してください。
上司に提出する
申請書を作成したら、忘れずに上司に提出しましょう。上司は、部下がいつ休むのかを把握しておく必要があります。
ただし、親族が急に亡くなった場合など、必ずしも事前に提出できる訳ではありません。そのときは、取り急ぎ口頭で休むことを伝え、後日忘れずに申請書を提出するようにしましょう。
慶弔休暇の濫用を防ぐために、葬儀の案内状(写)などの提出書類を義務づける場合もあります。その場合は、申請書と一緒に提出するのが一般的です。
導入後に内容を変更するのは不利益変更になる可能性がある
一度社内規定に慶弔休暇を明記すると、その後の変更は不利益変更に該当する場合があります。具体的に、付与日数を5日から3日に減らす、休暇を取るための条件をさらに限定するなど、従業員にとって不利となる変更の場合です。
一度制度化したあとの変更は容易ではなく、協議や従業員の合意など、数々の手続きが必要となります。そのため、後から不利益変更をすることがないよう、検討段階でよく吟味することが重要です。
慶弔休暇は従業員とその家族のために大切な制度
慶弔休暇は、従業員が安心してライフイベントに専念するために大切な制度です。慶事や弔事は家族に関連するものがほとんであるため、従業員だけでなく、家族の安心にも繋がります。
未導入の企業は、是非前向きに導入を検討してみてはいかがでしょうか。その際は、本記事で紹介したポイントを参考にしてください。
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