前事業年度に一定額以上の法人税を納めた場合、法人税の前払いを行う中間申告の義務が当事業年度に発生します。手続きが少し手間になるものの、負担が重くなりがちな法人税を分割で支払える制度とも言えます。
納付方法によっては税負担をさらに抑えられるので、うまく利用しましょう。当記事では法人税の中間申告の概要や対象法人、中間納付金額の計算方法、納付期限、手続きについて解説します。
法人税の中間申告とは?対象となる条件を解説
法人税の中間申告とは、前事業年度に法人税を納付した一定の要件を満たす法人に義務付けられる中間納付の手続きです。
そして法人税の中間納付とは、事業年度の開始日から6ヶ月を経過した日を基準として、納付すべき法人税を前払いする制度です。一般的に、法人化している事業者の売上規模を考えると、ほとんどの法人が中間納付の対象になると言われています。
「今年に納めるべき法人税の半分を、前払いで支払っておく」というイメージです。
中間申告の対象となる税金は、国税だと消費税、地方税だと法人事業税・法人住民税などがあります。近い制度として、所得税の予定納税が挙げられます。それぞれで対象法人や手続きが異なりますが、当記事では法人税の中間申告にフォーカスしました。
中間納付が必要になる法人
中間納付が必要な法人は、原則として「前事業年度の確定法人税額が20万円を超える法人」です。正確には「前期実績基準額が10万円を超える場合」に、中間申告が必要になります。
前期実績基準額とは、次の計算式で算出した金額です。
前期実績基準額(※)=前事業年度の確定法人税額×中間期間の月数/前事業年度の月数
※100円未満は切捨て
中間申告の計算は法人税法に定められた第1法を用いることから、正確には次の計算順番を適用します。
前期実績基準額(※)=前事業年度の確定法人税額÷前事業年度の月数×中間期間の月数
※100円未満は切捨て
前事業年度の確定法人税額とは、前事業年度に支払った法人税のことです。
中間期間の月数とは、「当事業年度の開始日から6ヶ月経過する日の前日」までの期間になります。事業年度の上半期のことです。
計算式に当てはめると、次のようになります(前事業年度は12ヶ月とする)。
<前事業年度の確定法人税額が20万円の場合>
20万円×6ヶ月÷12ヶ月=99,999.999…≒99,900円
<前事業年度の確定法人税額が20万1円の場合>
20万1円×6ヶ月÷12ヶ月=100,000.5≒10万円
中間納付が必要ない法人
中間納付が必要ない法人は、主に次のとおりです。
- 前事業年度の確定法人税額が20万円以下の法人
- 前事業年度が存在しない設立1年目の法人
- 特定非営利活動法人(NPO法人)などの非営利型の一般社団法人
前事業年度が存在する設立1年目の法人として、合併などを行って誕生した新設法人などが該当します。
個人事業主から法人成りしたケースについて
前事業年度途中に個人事業主から法人成りしている場合、法人成りまでの期間に発生した所得は所得税扱いになるので、法人税の中間納付は発生しません。
しかし、法人成りまでの期間を確定申告した結果、所得税の予定納税や消費税の中間納税が発生した場合は、当事業年度にて予定納税と中間納税が必要です。
とはいえ、別途手続きを行えば予定納税と中間納税を回避または軽減できます。予定納税は予定納税額の減額申請を、消費税の中間納税は事業廃止届出書の提出を行いましょう。
なぜ中間申告制度が設立されているのか
なぜ中間申告制度が設立されているかというと、法人の納税負担を軽減させるのが目的だと言われています。
法人は納める税金が高額になる傾向にあり、確定申告時に一括払いでの納税だと、一度に多額の資金が必要になります。
日々の取引額や経費が高額となりやすい法人の資金繰りは、個人事業主以上に苦労するケースが多いです。そのため一括納付だと、法人によっては納税分の資金を捻出できない可能性があります。
そこで中間申告制度によって納税額を分散させることで、法人側の負担を均一化しているのです。
中間納付は国側にもメリットがあります。事業年度途中での倒産や資金繰り悪化による法人税滞納などによる、税金の不回収のリスクを防ぎやすくなる点です。滞納や徴収漏れを防ぐことで、予算を立てやすくなります。
法人税の中間申告の種類とは?計算方法も解説
法人税の中間申告の方法は、「予定申告」と「仮決算」の2種類です。予定申告は前年度をベースに計算した納税額、仮決算は事業年度の上半期の決算結果から算出した納税額になります。
仮決算による中間申告書を提出しなかった場合は、みなし申告として予定申告での納付を行います。それぞれの詳細を見ていきましょう。
前事業年度のほぼ半額を支払う予定申告
予定申告は、前述した「前期実績基準額=前事業年度の確定法人税額÷前事業年度の月数×中間期間の月数」で算出した金額を基に法人税を支払います。
中間期間6ヶ月・確定法人税額70万円とした場合の、予定申告の中間納付額は次のとおりです。
70万円÷12ヶ月×6ヶ月=349,999.999…≒34万9,900円(100円未満切捨て)
前事業年度に支払った法人税額の半分を支払うイメージになります。
計算の際に注意したいのは、計算の順番です。例えば、計算順を変えて「70万円×6ヶ月÷12ヶ月」としたり、12分の6を2分の1として「70万円×1/2」としたりすると、金額が35万円と異なる結果が出てしまいます。
法人税法上では、34万9,900円が正解です。
事業年度の上半期の決算を基にする仮決算
仮決算とは、事業年度の上半期のみの実績で決算を行い、その決算結果を基に算出された所得金額・法人税額にて中間納付を行う方法です。
事業年度の開始日から6ヶ月経過した日の前日(中間期間)を1事業年度とみなし、確定申告と同じ要領で法人税額を計算します。
その計算した法人税額が前期実績基準額を超えないときにのみ、仮決算での中間申告が可能です。超えるときは、予定申告での納付になります。「前期実績基準額を超えないとき」という規定は、2011年の税制改正によって定められました。
出典:国税庁|平成23年度 法人税関係法令の改正の概要|中小企業者等の法人税率の特例の延長
仮決算で中間申告を行うメリットは、中間納付額を抑えられる点です。
例えば、好調だった前事業年度と比べて当事業年度上半期の売上・利益が減っていた場合でも、予定申告だと好調の前事業年度を基にした法人税の支払いが発生します。
好調時の法人税を不調のときに支払う必要が出るので、資金繰りが苦しくなることも珍しくありません。そこで仮決算による中間申告を行うことで、当事業年度の経営実態に合った納付額で納付できます。
ただし、事業年度の半分とは言え通常の決算や税務と同じ作業が発生するので、計算や手続きに労力がかかるというデメリットも考慮しなければなりません。
中間申告のみなし申告について
中間申告のみなし申告とは、中間申告を期限までに行わなかった場合に、申告期限において中間申告書が提出されたものとみなすことです。
この場合は予定申告扱いとなり、前期実績基準額に基づいた中間納付を行います。予定申告の場合だと、中間申告書の提出義務が実質ありません。ただし、中間納付は納期限までに行う必要があります。
みなし申告は予定申告の場合のみに適用される制度です。仮決算を希望する場合は、中間申告にて所得金額や法人税額を申告しましょう。
申告・納付期限はいつまで?間に合わなかった場合のペナルティ
中間申告の申告・納付期限は、「事業年度の開始日以後6ヶ月経過した日から2ヶ月以内」となっています。
例えば、4月1日から事業をスタートした場合は、10月1日が6ヶ月経過した日に該当します。そこから2ヶ月以内なので、申告・納付期限は12月31日です。1月1日開始であれば、7月1日~9月30日が中間申告期限になります。
納付方法
中間納付は国税の納付になるので、確定申告と同じ方法に準じます。中間納税における主な支払い方法は次の通りです。
中間納付の方法 | 概要・特徴 |
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現金納付 |
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電子納付 |
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クレジットカード納付 |
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QRコード |
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納付先は、確定申告と同じく所轄の税務署になります。
納付期限が過ぎると確定申告と同じくペナルティあり
中間申告が納付期限に間に合わないと、確定申告と同じく追徴課税のペナルティが課せられます。発生する追徴課税は次の通りです。
中間申告で発生する追徴課税 | 概要 |
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延滞税 |
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過少申告加算税 |
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無申告加算税 |
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重加算税 |
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法人税の中間申告手続きの方法
予定申告の中間申告手続きは、原則として所轄の税務署から送られてくる通知書を基に行います。予定申告は中間申告書を提出しなくてもみなし申告となるので、実質的には中間納付を行うのみで問題ありません。
もし前事業年度の確定申告をe-Taxで行っていた場合は、通知書の送付ではなくe-Taxのメッセージボックスに「予定(中間)申告のお知らせ」が、予定申告の申告期限付きの上旬に届きますので、そちらを利用しましょう。
仮決算での中間申告の場合は、次の書類の作成・提出が必要です。
- 中間期間分の法人税の申告書(各記載事項は中間申告分の部分に記載すること、事業年度の部分には「中間」と記載すること)
- 中間期間分の財務諸表(貸借対照表や損益計算書)
- 中間期間分の勘定科目内訳明細書
- 中間期間分の株主資本等変動計算書または社員資本等変動計算書
法人税の申告書(中間申告書)の記載箇所は、本来の法人税の確定申告の場合と若干異なるので注意しましょう。必要書類を作成したら、所轄の税務署へ提出し中間納付を行います。
法人税の中間申告の義務を負う法人は、同時に法人事業税や法人住民税の中間申告も行う必要があります。こちらの手続きも忘れないようにしましょう。予定申告か仮決算になるかは、法人税の中間申告で選択したものと同じになります。
中間申告を行った事業年度の確定申告
中間申告を行った事業年度の確定申告は、中間申告で納付した金額については法人税を支払う必要がありません。「確定申告で算出した確定法人税額-中間申告で納付した法人納税額」が、確定申告時に納付する法人税額です。
とはいえ、確定法人税額を算出する必要があるので、確定申告作業は通常通り行います。
中間申告の義務がある法人はしっかり対応しよう!
前事業年度の法人税額が20万円を超えている場合は、事業年度の上半期が終了したタイミングで中間申告の義務が発生します。
予定申告を選択した場合は、前事業年度の確定法人税額の約半分を支払いましょう。上半期の利益が低く、中間納付金額を少なくできそうなときは、仮決算による中間申告を選ぶのも1つの手です。
いずれの方法も納付期限を過ぎると、追徴課税のペナルティが発生します。申告に不備がないよう、しっかりと対応しましょう。法人税の中間申告を検討している場合は、事前に専門家である税理士に相談することがおすすめです。キャッシュフローを良い状態に保つためにも、中間申告の制度をうまく活用していきましょう。