印紙税とは、契約書や領収書などビジネスシーンでは欠かせない書類に対して課せられる税金です。取引関係の書類の取り扱いが多い企業は、納付忘れがないように「どの書類が対象になるのか」「いくらから課せられるのか」などをしっかり把握しておきましょう。
当記事では、印紙税の概要や対象書類、印紙税がかかる金額や納付額、収入印紙の貼り方などを解説します。
印紙税とは?対象となる書類について
印紙税とは、印紙税法に定められた書類を作成する際に課せられる国税の一種です。契約書や領収書、不動産関係の書類など、ビジネスの取引には欠かせない書類が対象となっています。
印紙税の徴収目的は、「文書の作成行為の背後にある経済的利益、文書を作成することに伴う取引当事者間の法律関係の安定化という面に担税力を見出して課税している租税であり、税体系において基幹税目を補完する重要な役割」とされています。
自身が仕事などで書類を作成するときには、当該書類が印紙税の対象になるかを事前に確認しておきましょう。以下では、印紙税の詳細について解説します。
印紙税の対象となる書類の条件
印紙税の対象となるのは、以下に示した3つの条件に当てはまる書類です。
- 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている、20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること
- 当事者の間において、課税事項を証明する目的で作成された文書であること
- 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により、印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと
印紙税の対象になるかどうかは、文書に記載してある内容に基づいて合理的に判断すると決められています。作成文書の詳細な意味合いは、作成者および相手方が独自に使用する用語、文言、呼称、ルールによって変わることが多いため、実質的な意味を汲み取って確認する必要があるためです。
例えば国税庁のWebサイトに記載されている売掛金の請求書の例だと、実質的な意味の汲み取りとして次のものが挙げられていました。
- 取引金額が書いていないものの、記載されている単価、数量、記号などによって当事者同士が取引金額を計算できる場合は、その計算金額を記載金額とする
- 売掛金の請求書に済・了という表示が使われており、当事者同士にとってその表示が了解事項である
課税文書に該当するかは、言葉のルールや書式などによって形式的に決まっている訳ではなく、取引状況や文書の内容によって柔軟に判断されるので注意が必要です。
印紙税法に定められた20種類の課税文書
印紙税法別表第1に掲げられている20種類の課税文書を、以下の表にまとめました。
文書の区分 | 課税文書の種類 |
---|---|
第1号文書 |
|
第2号文書 | 請負に関する契約書 |
第3号文書 | 約束手形、為替手形 |
第4号文書 | 株券・出資証券、もしくは社債券または投資信託・貸付信託・特定目的信託、 もしくは受益証券発行信託の受益証券 |
第5号文書 | 合併契約書または吸収分割契約書もしくは新設分割計画書 |
第6号文書 | 定款 |
第7号文書 | 継続的取引の基本となる契約書 |
第8号文書 | 預金証書、貯金証書 |
第9号文書 | 倉荷証券、船荷証券、複合運送証券 |
第10号文書 | 保険証券 |
第11号文書 | 信用状 |
第12号文書 | 信託行為に関する契約書 |
第13号文書 | 債務の保証に関する契約書 |
第14号文書 | 金銭または有価証券の寄託に関する契約書 |
第15号文書 | 債権譲渡、または債務引受に関する契約書 |
第16号文書 | 配当金領収証、配当金振込通知書 |
第17号文書 |
|
第18号文書 | 預金通帳、貯金通帳、信託通帳、掛金通帳、保険料通帳 |
第19号文書 | 消費貸借通帳、請負通帳、有価証券の預り通帳、金銭の受取通帳などの通帳 |
第20号文書 | 判取帳 |
上記に該当しない文書は、不課税文書と呼びます。上記の書類に該当しつつ、印紙税の対象となる条件を満たすと、課税文書として印紙税の対象になります。
ビジネス上でよく用いられているのは、第2号文書の「請負に関する契約書(工事請負契約書、物品加工注文請書、広告契約書など)」や、第7号文書の「継続的取引の基本となる契約書(売買取引基本契約書、特約店契約書、業務委託契約書など)」などです。
経営者が用いる課税文書としては、第3号文書の「約束手形、為替手形」や第6文書の「定款(持株会社や相互会社設立時に作成される原本のみ)」などが挙げられるでしょう。
詳細な種類は、国税庁の「印紙税額の一覧表」にて確認できます。
印紙税が発生するタイミング
印紙税が発生するタイミングは、原則として課税文書を作成した時点です。正確な定義は「課税文書となるべき用紙に、課税文書によって証されるべき事項を記載し、これをその文書の目的にしたがって行使すること」とされています。
一方で、課税文書の種類や特定の条件によっては、課税文書の作成とみなされるケースがあります。具体的には次に挙げられるケースです。
- 手形の金額を記載しないまま振り出し・引き受けをした後に、手形金額が補充される場合に手形を作成したとみなす(納税義務者は補充者)
- 通帳や判取帳を1年以上継続して使用する場合、作成日から1年経過した日以後最初の付け込みをしたときに、新たにそれらの通帳等を作成したものとみなす
- ある一の文書に、更に課税事項を追記する、または通帳として使用するために付け込むなどをした場合、追記・付け込みをした人が新たに課税文書を作成したものとみなす
- 通帳に第1号文書、第2号文書、第17号文書によって証されるべき事項の付け込みがなされた場合で、一定の金額を超える場合は新たに当該の課税文書を作成したものとみなす(2024年3月31日までに作成される文書に対する印紙税の軽減措置)
- 国・地方公共団体や印紙税法別表第2に掲げる者(以下、国等)と共同作成した課税文書のうち、国等・公証人が保存する課税文書は課税対象になる
印紙税が発生する記載金額や納付額
課税文書に発生する印紙税の金額は、書類に記載されていた特定の金額が一定以上かどうか、または書類の種類によって決まります。書類は1通または1冊ごとに課税対象になります。
例えば第1号文書なら「10万円超え、50万円以下で400円」、第5号文書なら「一律4万円」、第18号文書なら「1年ごとに200円」などです。原則として税抜価格が基準になります。消費税額等が明らかでない場合は、税込価格を基準とします。
具体例として、第17号文書「金銭または有価証券の受取書、領収書」にかかる印紙税額を見ていきましょう。
売上代金の受取書の場合 | 税額 |
---|---|
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円超え200万円以下 | 400円 |
200万円超え300万円以下 | 600円 |
300万円超え500万円以下 | 1,000円 |
500万円超え1,000万円以下 | 2,000円 |
1,000万円超え2,000万円以下 | 4,000円 |
2,000万円超え3,000万円以下 | 6,000円 |
3,000万円超え5,000万円以下 | 1万円 |
5,000万円超え1億円以下※ | 2万円 |
受取金額の記載がないもの | 200円 |
※1億円超え~10億円超えの印紙税は国税庁の印紙税額に記載あり
売上代金以外の受取書 | 税額 |
---|---|
5万円未満 | 非課税 |
5万円超え | 200円 |
受取金額の記載がないもの | 200円 |
第1~20までの課税文書の印紙税額については、国税庁のWebサイトにすべて記載されています。
印紙税が課税されないケース
課税対象の文書であっても、条件によっては非課税になる非課税文書に該当するケースがあります。
例えば課税文書のうち記載金額ごとで段階的に課税額が変わるタイプのものは、一定金額未満だと非課税になります。第3号文書だと記載金額が10万円未満、第17号文書だと5万円未満で非課税文書です。さらに以下では、非課税文書となるケースについて解説します。
電磁的に作成された文書
電子契約によって発行した契約書など、PDFファイルといった電磁的に作成された文書は印紙税の対象外になります。
印紙税法基本通達44条第1項によると、印紙税が発生するのは「相手方に交付する目的で作成される課税文書 当該交付の時」と定められています。電磁的に作成された文書をデータとして送信することは、この条文の交付に当たらないと解釈されているのです。
実際にあった参議院の答弁の記録として、「文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。」と明記されたものが残っています。
しかし一方で、「課税の適正化および公平化を図る観点等から、何らかの対応が必要かどうか、文書課税たる印紙税の性格を踏まえつつ、必要に応じて検討してまいりたい。」ともあるので、今後は電子契約で交わした書類なども課税対象になる可能性は残っています。
クレジット販売の領収書
顧客がクレジットカードにて買い物を行い、その買い物について領収書を発行する場合、第17号文書に該当せず印紙税が発生しません。
これはクレジット販売における信用取引(クレジット会社が立て替えた後でお金が引き落とされる取引)によって成り立っており、この時点の領収書は金銭・有価証券の受領事実がないためです。もし記載金額が5万円以上でも、印紙税は非課税になります。
ただし、領収書にクレジット販売を行った事実を記載しなければ、第17号文書としてみなされて課税文書として扱われます。
特定の災害に見舞われた場合
東日本大震災や新型コロナウイルス感染症、その他2016年4月1日以降に自然災害等の被害に遭った人が作成する契約書などは、非課税文書として扱われる可能性があります。
このように、災害状況や世情によって特例的に印紙税が非課税になるケースもあり得ます。
印紙税の納付|収入印紙や還付について
印紙税は原則として、課税文書を作成した人が、印紙税相当額の「収入印紙」を課税文書に貼り付けることで納付します。1,000円の印紙税がかかるときは、1,000円分の収入印紙を課税文書に貼り付けることになります。
収入印紙とは、手数料や税金、その他国に納める金銭を徴収する目的で政府が発行する証票です。印紙税の他にも、不動産登記の登録免許税や国家試験の受験料納付などで収入印紙が利用されます。種類は31券種(1円から10万円まで)存在します。
以下では印紙税の納付について、収入印紙や還付、納付方法などを見ていきましょう。
収入印紙の購入場所
収入印紙を購入できる場所は、主に次のとおりです。
- 郵便局
- 法務局
- コンビニ(原則として200円の収入印紙のみ)
- 金券ショップ
郵便局であれば、ほぼすべての券種が揃っている上に近くの郵便局にて購入できるメリットがあります。原則は郵便局を利用するとよいでしょう。
法務局は施設数が少ないのものの、全券種の収入印紙が購入できます。
収入印紙の貼り方・消印
収入印紙の貼り方は、切手と同じように書類左上のスペースに貼るのが一般的です。指定の場所がある場合は、その指定の場所に貼るのがよいでしょう。
原則として収入印紙を貼り付ける場所に法律上の決まりはないので、左上や専用スペースがなければ、どこか空いているスペースに貼れば問題ありません。
収入印紙を貼り付けた後は、文書の作成者または代理人が消印を押します。押さなければ印紙税の納付が認められないので注意しましょう。消印は印鑑や社判の他にも、シヤチハタやゴム印などでも認められます。
収入印紙を貼らずに納付できる方法
課税文書の大量作成や事務処理の機械化などのケースで、課税文書に収入印紙を貼り付けるのが困難な場合は、収入印紙貼り付け以外の方法で納付できます。方法は次のとおりです。
印紙税の納付方法 | 概要 |
---|---|
税印 |
|
印紙税納付計器の使用による納付(特例) |
|
書式表示による納付(特例) |
|
預貯金通帳等に係る一括納付(特例) | 特定の預貯金通帳等は、通帳を作成しようとする場所の 所轄税務署長の承認を受けることで、金銭にて その預貯金通帳等にかかる印紙税を一括納付できる |
納付忘れなどがある場合は過怠税
収入印紙の貼り忘れや消印漏れなどで印紙税を納付しなかった場合は、過怠税(かたいぜい)のペナルティが課せられます。過怠税の金額は、本来納めるべき印紙税の3倍です。400円の納付忘れなら1,200円ですが、10万円だと30万円にまで高くなります。注意しましょう。
ただし、税務署による調査で発覚する前に自主的に申し出た場合は、1.1倍に軽減されます。
印紙税の還付
誤って過大な印紙税を納めてしまった場合、所得税や法人税などと同じく払いすぎた分の税金の還付を受けられます。還付の対象になるものは次のとおりです。
- 課税文書に貼り付けた収入印紙が過大になっている
- 印紙税の対象にならない文書に収入印紙を貼り付けた
- 課税文書に収入印紙を貼り付けたが、使用する見込みがなくなった
印紙税の還付を受けるには、印紙税過誤納[確認申請・充当請求]書を作成し、納税地の税務署長に提出します。申請時には過誤納となっている文書が必要になります。
また、還付申請ができるのは、その請求をすることができる日から5年を経過するまでです。その後は請求権が消滅します。
印紙税を忘れずに納付しよう
印紙税は、さまざまな契約書や受領書などを扱う仕事をする企業ほど、注意すべき税金です。収入印紙の貼り忘れや課税文書の認識違いなどで納め忘れると、納付額が3倍となる過怠税の対象になるので注意しましょう。
一方で印紙税は電子契約であれば発生しないので、企業内でDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることが印紙税の節税につながります。業務効率化を目指す意味でも、取り組んでみてはいかがでしょうか。