会計・税務などについての計算結果・結果報告などをまとめた決算書(決算報告書)は、原則としてすべての企業に作成が義務付けられています。また企業は、この決算書を税務署や株主などへ開示する義務があり、適切な形で公表しなければなりません。
当記事では、決算書の開示義務の詳細や開示する決算書の種類、開示相手、社外の人間が決算書を確認する方法などを解説します。
企業には決算書の開示義務がある
決算書は必要に応じて、国や株主などへ開示すべしと法律にて定められています。これを決算書の開示義務と呼びます。
決算書の開示義務がある理由は次のとおりです。
- 決算内容が正しいかどうかを確認するため
- 金融機関や株主に企業の経営状況を知ってもらうため
開示範囲は企業の規模や形態によっても変わります。とはいえ、小規模かつ株式会社でない法人であっても、確定申告という形で税務署へ開示しなければなりません.
開示すべき決算書の種類
決算書とは、企業の収支や資産状況について、第三者や従業員へ報告するための書類です。また企業の経営活動において、現状把握や事業計画策定などを行う際の参考資料としての重要な役割を持っています。
企業が開示すべき決算書の主な種類を解説します。
貸借対照表
貸借対照表(B/S、バランスシート)とは、企業のある一時点の財政状態をまとめた計算書です。
出典 国税庁 所得税青色申告決算書(一般用)【令和2年分以降用】
原則として、貸借対照表には決算日(法人は事業年度末・個人事業主は12月31日)における数値を記載します。記載内容は次の3種類です。
- 現金や設備などのプラスの財産である「資産」
- 借入金や未払金などのマイナスの財産である「負債」
- 資産-負債で算出される資本や純利益関係を表す「純資産」
貸借対照表からは、「どのような資産を持っているのか」「借金の返済能力や状況はどうなっているのか(素早く現金化できるのか)」「資本力がある会社なのか」などが読み取れます。
損益計算書
損益計算書(P/L 、プロフィットアンドロスステートメント)とは、企業のある一定期間の経営成績をまとめた計算書です。
出典 国税庁 所得税青色申告決算書(一般用)【令和2年分以降用】
上記は確定申告用の正式なフォーマットです。少し見やすくした図が次のとおりです。
損益計算書では、「企業が得た収益」と「収益を出すのに必要だった費用」の差額を計算し、いくらの当期純利益(当期において最終的に企業に残った利益のこと)になるかを算出します。
純利益の発生過程にて、次の4つの利益も算出されます。
売上総利益(粗利) | ・売上高から売上原価を差し引いた利益 ・売上高-売上原価 |
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営業利益 | ・本業の経営活動で得られた利益 ・売上総利益(売上高-売上原価)-販売費及び一般管理費 |
経常利益 | ・本業以外での事業で得られた収支を含めた利益 ・営業利益+営業外収益-営業外費用 |
税引前当期純利益 | ・経常利益に固定資産売却損益や災害による損失など臨時的な収支を含めた利益 ・経常利益+特別利益-特別損失 |
損益計算書からは、「本業の収益性はどれくらいなのか」「実質的な利益はいくらなのか」「収益と費用のバランスは適切か」などが読み取れます。
株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書とは、貸借対照表における純資産の、1事業年度の変動を計算した書類です。見本として、トヨタ自動車株式会社のものを引用します。
出典 トヨタ自動車株式会社
株主資本等変動計算書では、資本を次の4つに分類して記載します。
株主資本 | 資本金、資本剰余金(資本準備金・その他資本剰余金)、利益剰余金(利益準備金、任意積立金、繰越利益剰余金など)、自己資本などの「株主からの出資や純利益」のこと |
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評価・換算差額等 | 繰延ヘッジ損益、土地再評価差額金、その他有価証券評価差額などの「資産を時価評価した際の含み損益」のこと |
新株予約権 | 「あらかじめ決められた金額や条件で株式会社の株式を取得できる権利」のこと |
少数株主持分 | ・「親会社以外の株主の持分」のこと ・親会社が100%出資していない子会社の財務諸表を連結する場合に記載 |
株主資本等変動計算書では、貸借対照表や損益計算書では確認が難しい資本の変動をチェックできます。
例えば「増資・減資したのか」「純利益のうちどれくらいを株主への配当に回しているのか」「企業が持つ株式に動きがあるのか」などを読み取れます。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書とは、1会計期間において、企業がどのように資金を動かしているのかを表す書類です。
出典 トヨタ自動車株式会社
キャッシュフロー計算書では、主に次の3要素に区分して記載します。
営業活動によるキャッシュフロー | 自社の営業活動におけて発生した収支 |
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投資活動によるキャッシュフロー | 固定資産の購入や貸付金の貸出・回収などの資産運用・投資活動によって発生した収支 |
財務活動によるキャッシュフロー | 経営活動を維持するための資金調達や返済などによって発生した収支 |
キャッシュフロー計算書からは、「本業でどれくらい稼いでいるのか」「投資にいくら回しているのか」「金融機関からの借入と返済はどうなっているか」などを読み取れます。
個別注記表
個別注記表とは、各計算書類に記載されている注記を一覧にして表示する決算書の1つです。計算結果を示すものではなく、各書類を正確に読み取るための説明文をひとまとめにしています。
記載する注記の例は次のとおりです。
- 継続企業の前提に関する事項
- 重要な会計方針に関する事項
- 貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書などの計算書に関する事項
- 税効果会計に関する事項
- リースにより使用する固定資産に関する事項
- 関連当事者との取引に関する事項
- 1株あたり情報に関する事項
- 重要な後発事象に関する事項
- 連結配当規制適用会社に関する事項
- その他に関する事項
企業はどこで決算書を開示するの?開示相手について
企業が持つ決算書の開示義務は、会社法・金融商品取引法・法人税法によって定められています。それぞれの法律に則り、必要な相手に開示を行います。
開示義務として挙げられるのは主に次の3つです。
- 税務署への開示義務
- 金融商品取引法に基づく上場企業・大企業の開示義務
- 株主や債権者からの請求に基づく開示義務
税務署への開示義務
事業規模を問わず、事業活動によって利益を得るすべての企業は、決算書を税務署へ開示する義務があります。いわゆる確定申告手続きです。
税務署は企業から提出された決算書・確定申告書(税務申告書)を確認し、書類の不備、税金の計算、収支状況などの決算内容について判断します。
開示する決算書は主に次のとおりです。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- 個別注記表
金融商品取引法に基づく上場企業・大企業の開示義務
金融商品取引法において、上場企業や大企業(資本金5億円以上または負債の合計額が200億円以上)は、決算書を開示しなければなりません。有価証券報告書としてまとめて開示されるのが一般的です。
上場企業・大企業の開示義務には、主に株主(投資家)・取引先企業に対して、業務報告や経営活動の詳細などを伝える目的があります。
株主や取引先は開示された決算報告書を確認することで、今後の投資判断や取引継続の可否などを決められます。
株主や債権者からの請求に基づく開示義務
会社法442条3項において、議決権比率3%以上の株主や債権者(融資している金融機関や給与を受け取る従業員など)は、企業に対して株主報告書を請求する権利が認められています。原則としてすべての企業はこの請求を拒否できません。
もし開示義務に従わないときは、企業へペナルティが課せられる可能性があります。
有価証券報告書や財務諸表と決算書の違いって?
決算書について調べていくと、有価証券報告書や財務諸表、計算書類といった言葉が出てきます。
決算書という呼び名はあくまで一般的なものです。提出する目的に応じて、決算書の呼び名は変わります。会社法や税法上では計算書類、金融商品取引法上では財務諸表です。
財務諸表のうちの貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書は、財務三表とも呼ばれます。
次に有価証券報告書とは何かというと、証券取引所に上場した企業といった一部の企業のみに発行が義務付けられた書類です。投資判断を誤らせないことを目的に、投資家やその他ステークホルダーへ向け、金融商品取引法に基づいて発行・公表します。
有価証券報告書の発行は、原則として決算日より3ヶ月以内です。
有価証券報告書の中には、企業や事業、設備の状況などを報告する書類に加え、経理状況を伝えるための財務三表も入っています。「有価証券報告書の中に決算書が含まれている」との解釈がイメージとして近いでしょうか。
なお有価証券報告書とは別に、決算日より45日以内に発行する速報的な意味合いを持つ報告書を決算短信と呼びます。こちらにも各財務諸表が記載されています。
社外の人間が決算書を見る方法
社外の人間が決算書を見る方法について、上場企業・規模が大きい非上場企業・その他の非上場企業の3つに分けて解説します。
上場企業の決算書
上場企業の決算書は、有価証券報告書として一般公開されています。開示場所は次のとおりです。
- 各社の公式サイトのIR情報
- EDINET(金融商品取引法に基づく開示文書に関する電子情報開示システム)
- 四季報オンラインや四季報の書籍シリーズ
- 日経会社情報DIGITAL
- Yahoo! ファイナンス
非上場企業のうち規模が大きなところの決算書
原則として、非上場企業にも決算公告による決算開示の義務があります。しかし、実情としては従っていない非上場企業が多く、貸借対照表や損益計算書を確認できないケースは珍しくありません。
とはいえ非上場企業のうち、大企業レベルのところや有名企業の決算書は確認できる場合が多いです。例えば、四季報の未上場会社版にて確認できます。
非上場企業の決算書
官報や日刊紙、公式サイトにて決算公告をしていない非上場企業の決算書は、原則として社外の人間がチェックするのは困難です。経営者に頼んで直接見せてもらうくらいしかありません。
非上場企業に出資している・お金を貸しているといった株主・債権者の場合は、前述した「株主や債権者からの請求に基づく開示義務」によってチェックできます。
とはいえ非上場企業の議決権比率を3%も持ったり、経営者に直接相談できる人脈があったりなどの条件を満たさなければ請求できません。現実的ではないでしょう。
決算書を任意開示をおすすめする2つのケース
決算書の開示義務がない場面でも、相手によっては開示したほうがよいケースが存在します。決算書の任意開示をしたほうがよいケースを2つ紹介します。
金融機関から融資を受けるとき
金融機関は融資の可否を決める際、企業の決算書から読み取れる財務状況を判断材料にします。金融機関へ融資の相談をする場合、決算書の開示は必ず求められるはずです。
仮に金融機関からの開示請求を拒否したときは、拒否した企業への融資が認められることはほぼないでしょう。
将来的に別の融資を受けることを想定して信用度を上げる意味でも、金融機関には決算書を開示することをおすすめします。
取引先から求められたとき
取引先が上場企業だったり大企業だったりする際は、取引前に決算状況について確認される場合があります。
規模が大きな企業であるほど、リスクヘッジやコンプライアンスの考えから、与信状況を把握し「本当に債権を回収できるか」「取引が滞らないか」などを検討するためです。可能な限り開示することをおすすめします。
決算書の開示の際には誤りがないようにしよう
決算書を開示する際は、経営内容や計算結果などに誤りがないように注意しましょう。内容が間違っていると、追徴課税や脱税についての刑事罰の対象となったり、株主や取引先などからの信頼が低下したりなど、経営活動において致命的なダメージを負う可能性があります。
正確な会計や税務、経営活動についての言語化などで失敗したくないときは、会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家のサポートを受けるのがおすすめです。企業経営に強い専門家であれば、決算書に関する悩みだけでなく、企業全体の営業や経理などについてもアドバイスを受けられます。