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給料の締め日・支払日|いつにすればいいか?関連する法律は?

給料の締め日・支払日|いつにすればいいか?関連する法律は?

会社が従業員に給料を支払ううえで重要な日が、「締め日」と「支払日」です。多くの会社は月給制のため、ひと月単位で計算をおこないます。慣例的に25日が支払日の会社が多いでしょう。

締め日は会社によってさまざまですが、いったいいつに設定すればいいのでしょうか? 25日より手前の10日、15日、20日が考えられます。給料支払いにとって大切な法律である労働基準法24条や、給料の締め日・支払日の間隔を決めるときのポイント、締め日・支払日を変更するときの注意点などについて解説します。

給料の締め日・支払日のルール

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従業員はできるだけ給料の締め日から支払日までの日数が短いほうが嬉しいです。一方、会社にとっては間隔が長いほうが、資金繰りが楽になるというメリットがあります。会社が一方的に従業員の不利益になることをしないよう、労働基準法24条に給料(賃金)のルールが定められていますので紹介します。

 

給料の締め日・支払日に関わる「賃金支払いの5原則」とは?

労働基準法第24条に定められている賃金支払い5原則は重要です。法令違反にならないためというのはもとより、法律のベースには従業員の権利を守る、という考え方があるからです。

第24条(賃金の支払)

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は命令で定める賃金について確実な支払の方法で命令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

② 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので命令で定める賃金(第89条第1項において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

引用:労働基準法第24条

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それぞれの原則について説明します。

 

給料の支払ルール1.通貨払いの原則

賃金は通貨で支払う必要があります。通貨とは、国内で一般に通用する貨幣のことです。外国通貨や小切手は価値が変動したり換金しにくかったりするため認められていません。

また、現物給与も同様に価値の変動や換金が不便といった理由で原則利用できません。

 

給料の支払ルール2.直接払いの原則

賃金は直接労働者に支払わなければなりません。労働者の法定代理人や労働者から委任された任意代理人への支払いは違反です。子どもの給料はたとえ親であっても受け取れません。

ただ、労働者本人が病気などで直接受け取れないときは、家族の生活がままならないといった事情があり、不合理です。配偶者などを「使者」としてあつかい、支払えます。

現在は、銀行振込が通例となっていますので、本人以外の口座に振り込むことはないでしょう。

 

給料の支払ルール3.全額払いの原則

賃金は全額を支払うという原則です。当たり前ですが、賃金から積立金などの名目で支払いを留保したり、貸付金と相殺したり、分割払いしたりはできません。ただし、源泉徴収税や市町村民税、社会保険料などの法令にもとづく控除は認められています。

労働者と会社との間で労使協定が締結されているときは、賃金の一部控除が可能です。

 

給料の支払ルール4.毎月1回以上の原則

賃金は必ず毎月1回以上支払うという原則です。1回以上なので、給料支払日が2回でも問題ありません。臨時に支払われる賃金や賞与等についてはこの限りではありません。

 

給料の支払ルール5.一定期日払いの原則

賃金は一定の期日に支払う必要があります。従業員にとって給料の支払日が変わると支払いができなくなるなどの不都合が生じます。従業員の日々の暮らしにおける資金繰りにとって、支払日の固定は必須です。毎月20日、25日などの日にちを決めてもいいですし、毎月末日や、第3月曜日などと指定する方法も認められています。

会社の資金繰り事情を勘案して決められます。

 

違反したときの罰則

法律に違反した場合、雇用者である会社には罰則が適用されますので注意が必要です。労働基準法120条によって、30万円以下の罰金が課せられます。また、労働基準監督署から調査を受けることもあるでしょう。

新型コロナウイルスや天災などの影響によって、経営状態が悪化してしまうケースが考えられます。給料支払日に支払えない状況になる前に、助成金などを利用できる場合がありますので、就業規則や労働関係の法律は常にチェックしましょう。

 

給料の締め日・支払日を設定するときのポイント

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労働基準法24条によって、毎月一定の給料支払日を設定しなければなりません。慣例的に正社員の給料を毎月25日に支払う会社が多いのは、売掛金の回収期日が20日である場合が多かったことに起因するでしょう。

ただし、会社ごとの資金繰り事情は業種や業態によって大きく異なるため、5日、10日、15日、20日、月末日といった支払日も候補になります。これらの日に支払うためにさかのぼり、さまざまな要因を加味しながら給料の締め日を決めることが重要です。

締め日は支払日が2回であれば2回になりますが、ここでは毎月1回の締め日、支払日を想定します。たとえば毎月15日が締め日であれば、毎月16日から翌月15日までがひと月のくくりになります。

 

給料の締め日・支払日のポイント:所定時間外手当の計算

給料には、さまざまな内訳があります。正社員の場合、基本給に加えて扶養家族手当や住宅手当などの毎月固定で支払われるのが「基準内給与」いわゆる月給です。毎月変動する「基準外給与」に、所定時間外手当があります。

所定時間外手当は、締め日までの1か月間の所定時間以外に働いた時間を集計しなければなりません。計算式は「所定外時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率」です。勤務した時間によって割増率が変わります。

締め日と支払日が近いとき、給料支払いの担当者は忙しくなり、余裕がなければミスを犯す原因になりかねません。

 

給料の締め日・支払日のポイント:社会保険料の計算

社会保険料には、健康保険料と厚生年金保険料がありますが、4~6月の3か月の給料で月額算定届を提出します。給料の改定があったときに、見直すためのものです。新しい標準報酬月額にもとづいて9月から従業員の社会保険料は反映されます。実際に会社が支払うのは翌月です。

締め日が月末で支払日が翌月の場合は、実際に支払う月が9月であっても8月分の給料なので、前の標準報酬月額で計算されます。切替時には、給与ソフトなどの設定変更をしなければならないため、あまりにも時間的にタイトであると対応が困難です。

 

また、注意したいのが新入社員と退職する従業員の社会保険料です。月末日に在籍していた場合のみ社会保険料を控除しますので、15日や20日の締め日に退職した場合は、その月の社会保険料は必要ありません。

逆に月の途中の締め日から月末まで在籍していた場合は、翌月分の少ない支給額から社会保険料を控除するため、マイナス支給になる可能性があります。

給料計算事務の煩雑さを避けるための方策が、締め日を月末に設定し、前倒しで当月の25日に支払うことです。資金繰りに余裕がないとできませんが、実際に採用している会社もあります。

 

給料の締め日・支払日のポイント:有給休暇の管理

有給休暇は、労働基準法39条によって付与日数が定められています。給料に関係するのは、有給休暇を使い果たした社員の場合です。欠勤によって給料を控除するときに、有給休暇の取得日数を考慮して計算をします。

締め日と有給休暇付与日が異なっている場合は注意が必要です。労務管理と給料支払いは密接に結びついていますので、時間的に余裕がなければ労働基準法違反になる可能性があります。

有給休暇について詳しい内容が知りたい方はこちらを参考にしてください。

 

給料の締め日・支払日のポイント:年末調整の計算

年末調整は、12月に支払う給料が確定しなければできません。翌年1月の給与で過不足を精算する場合は、12月の給料が確定してから計算できるので時間的に余裕があります。しかし、12月支給の給料で精算するときは時間に追いつめられるでしょう。そのため、20日が締め日で25日が支払日で12月の給料で精算するのは、現実的に不可能です。

 

給料の締め日・支払日のポイント:インターネットバンキングの利用

もはや給料支払日に現金を手渡ししている会社は皆無といえるでしょう。振込においても銀行窓口やATMに出向いて従業員の口座に振込処理をする会社はなく、インターネットバンキングを利用する会社がほとんどです。

インターネットバンキングでの「給与振込」は給与ソフトのデータを全銀協フォーマットで出力することで簡便化できます。社員数が多くても一括でインターネットバンキングで取り込めば、ミスも防げて作業時間が大幅に短縮できます。また、1件ずつ入力しても振込手数料が通常の振込よりも安いのがメリットです。

ただし、多くの銀行で当日振込ができず、三菱UFJ銀行では他行口座宛ての場合は3営業日前となっています。

そのため、20日が締め日で25日が支払日のときは、土日や祝日は営業日としてカウントされません。したがって連休があるときは給料計算が間に合わなくなります。

 

給料の締め日から支払日までの日数は何日が最適か?

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締め日と支払日の設定における注意すべきさまざまなポイントを見てきました。現実的には締め日から支払日までは10日間の間隔は必要でしょう。ただし、月末が締め日で翌月の10日が支払日という場合は、年末年始には対応が困難です。そのため、現実的に15日が締め日で25日支払日という会社が多いと考えられます。

月末締めの当月25日支払いでは、所定時間外手当の計算が不可能です。そのため給与規定で、所定時間外手当は翌月支払いにするというイレギュラーな対応になるでしょう。そうすることで、25日までのいつでも給与計算ができることになり、給料支払い担当者は気持ちが楽になります。

 

給料の締め日・支払日を変更するときの注意点

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給料の締め日と支払日の変更は可能です。ただし、会社が独断で一方的に変更できません。従業員にも暮らしを守る権利があるからです。

会社にとって、給料の締め日と支払日は資金繰りに直結する大きな問題です。大口の得意先が変わり、売掛金の回収日が今までと異なったり、仕入先の支払い条件に変更が生じて前倒しで資金が必要になったりと、資金繰りに影響することはよくあります。

 

給料の支払いを通常通りしたくても、経営を圧迫してしまえば、会社にとっても従業員にとっても辛い結果になりかねません。そのため、給料の締め日および支払日を変更する、という方法を採用する会社もあるでしょう。留意したいポイントを見ていきましょう。

資金繰りについて詳しい内容が知りたい方はこちらを参考にしてください。

 

給料の締め日・支払日を変更するときの注意点:就業規則の変更

給料の支払いについては、労働基準法24条の5原則を守る、という前提条件があります。そのため、変更月に1回も給料が支払われないという事態は避けなければいけません。また、労働基準監督署に提出する就業規則や給与規定の変更をおこなう必要があります。

 

給料の締め日・支払日を変更するときの注意点:通知はすみやかに

従業員にも生活があり、住宅ローンの支払いをはじめさまざまな資金計画があります。そのため、給料の支払日を変更するときは、なるべく早く通知します。また、賞与支払い月に変更すれば、1回も支払いがないことの回避が可能です。

また社会保険の月額変更届が煩雑になるため、4~6月は避けるほうがいいでしょう。

 

給料の締め日・支払日の設定は資金繰りの要

従業員への給料を支払うときの締め日と支払日は、会社の経費のなかでも固定費になり、経営に大きな影響をあたえます。取引先からの回収や仕入先への支払いの条件によって臨機応変な対応が求められます。

また、締め日から支払日までの間隔も、所定時間外手当の計算やインターネットバンキングの利用条件によって、事務処理をおこなうための日数が必要です。労働基準法24条を守りながら、会社経営を継続させるために、給料の締め日と支払日を見直してみるのもいいでしょう。

企業の教科書
記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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