税金・税務

所得税の予定納税の仕組みは?計算方法や還付・減額申請・延滞税などを解説

所得税の予定納税の仕組みは?計算方法や還付・減額申請・延滞税などを解説

予定納税とは、前年分の確定申告で納税額が15万円以上になる見込みの場合に、納税額の3分の2を先払いする制度です。分割して納付することで、事業主の負担を軽くする目的があります。また、予定納税で税金を納めすぎた場合は還付される仕組みにもなっています。予定納税は計算方法や支払時期、納付方法が決まっているため、事業を行っている人であれば押さえておきたいところです。今回は予定納税の基礎知識として、その仕組みや概要、支払いができなかったときの対応などについてご紹介します。

所得税の予定納税の仕組み

予定納税は、所得税の金額が一定以上になる見込みのとき、概算で割り出した納税額から一部をあらかじめ納付する制度です。予定納税の制度には、高額の税金を分割して支払うことで、事業者の資金繰りの負担を減らしたり、税金の払い忘れを防いだりする目的があります。対象者には税務署から通知が届く仕組みとなっています。

予定納税は、「予定」という文字がついているものの、納税義務のある税金には変わりなく、まとめて納付はできません。通知が届いた場合は、決められた期限内に一定額を納付する必要があります。

なお、予定納税の有無により、確定申告により納める所得税額に影響があるため、確定申告の書式が変わってきます。確定申告の書式にはAとBがありますが、予定納税がある場合は確定申告書Bを用いて作成することになります。また、確定申告時に収める所得税も、年間の所得税額から予定納税の金額を差し引いた額となります。

ちなみに法人の場合、予定納税は所得税以外に法人税も対象となります。さらに、法人税場合は、予定納税の前に予定申告も行うのが原則です。

予定納税基準額の計算方法

予定納税基準額は、基本的に前年分の所得税額をもとに割り出されますが、下記に該当する場合は、前年分の所得税額がそのまま予定納税基準額となります。例えば株の売買や退職金、生命保険の一部金などの臨時収入があった場合や、災害によって被害を受け、所得税の軽減措置を受けた場合などです。

【前年の所得税額が予定納税基準額となる場合】

  • 前年分の所得金額のうち、分離課税所得(山林所得、退職所得等)と譲渡所得、一時所得、雑所得、臨時所得(平均課税を受けたもの)など、特別な収入が含まれない場合
  • 前年分の所得税について災害減免法の適用を受けていない場合

一方、前年に臨時収入を得た場合や、災害減免法の適用を受けた場合は、別の方法で割り出します。具体的には、前年分の課税総所得金額および分離課税の上場株式等にかかる課税配当所得等の金額にかかる所得税額から、源泉徴収税額を控除した金額および復興特別所得税額の合計額が予定納税基準額となります。

所得税の予定納税の有無は前年分の確定申告で判断

所得税の予定納税を行う必要があるかどうかは、その年の5月15日時点において確定している、前年分の予定納税基準額が15万円を超える場合に発生することになります。つまり、前年分の確定申告における納税額で判断されます。予定納税基準額とは、確定申告の所得金額や納税額をもとに計算した金額をいいます。

なお、法人税の予定納税については、前年度の法人税額が20万円以上の場合に対象となります。法人税の予定納税は予定申告が必要ですが、予定申告は前年度の実績による予定申告と、仮決算による予定申告とが選択できます。

予定納税額は確定申告時に控除する

予定納税で納めた金額は、その年の確定申告時に算出した納税額から控除します。つまり、予定納税額の分は差し引いた不足分を納めることになります。あくまで、その年の確定申告時に支払うべき税金を先払いしているだけだからです。

予定納税の支払時期

予定納税の支払時期は、第1期(7月1日~7月31日まで)と、第2期(11月1日~11月30日まで)との年2回に分かれています。7月と11月とで、概算で割り出した所得税額のうち、3分の1ずつを納付することになります。つまり、合計で3分の2を予定納税として納めるということです。

例えば、前年分の確定申告で30万円の所得税をおさめていて、本年は概算で60万円の所得税額になる見込みであれば、7月末と11月末との2回で、計40万円を予定納税で納めることになります。

予定納税は、対象者に対し、税務署から書面にて通知や納付書が確定申告上の住所へ届く仕組みとなっています。通知は6月15日までに届くようになっているため、通知が届いた場合は内容や金額を確認しましょう。

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予定納税の納付方法

予定納税には、3つの納付方法があります。それぞれの方法や特徴を押さえておきましょう。

直接納付

予定納税の直接納付は、税務署や金融機関に納付書を持参し、現金で納付する方法です。納付額が30万円以下の場合は、コンビニ払いも可能です。ただしコンビニ払いの場合、バーコード付き納付書の発行が必要です。バーコード付き納付書は税務署に依頼することで発行してもらえます。その他、国税庁のサイトから、納付に必要な情報についてQRコードを作成・出力したものを用いた場合でもコンビニ払いは可能です。

直接納付は、税務署や金融機関等に出向く必要がありますが、領収書ももらえますし、きちんと支払ったという確認をとれるのがメリットです。また、税務署で納付すれば、不明点がある場合、その場で相談することもできるでしょう。一方、現金以外のクレジットカードや電子マネーは使えないことや、納税証明書の発行に3週間程度かかるのがデメリットといえます。

振替納税

予定納税の振替納税は指定した金融機関口座から振替で納付する方法です。口座振替依頼書を提出するだけで手続きは完了し、直接支払いに出かける手間がかからないのがメリットです。また、自動的に口座から振替され、さらに予定納税の振替記録が残るので、支払い忘れの心配もなくなるでしょう。

なお、「国税クレジットお支払サイト」を利用すれば、クレジットカードでの予定納税納付も可能です。ただしすでに振替納税の手続きをしている場合は、二重の引き落としにならないよう、前もって所轄の税務署へ連絡し、振替納付しないように手続きする必要があります。

電子納税(ダイレクト納付)

電子納税(ダイレクト納付/インターネットバンキングによる納付)は自宅で自宅のパソコンからオンラインで予定納税の納付ができる方法です。電子納税も支払いにいく手間がかからないのがメリットです。さらに、窓口の時間を気にせず手続きできるので、振替納税よりも利便性は高いでしょう。

ただし、ダイレクト納付の利用には、事前に「e-Taxの開始届出書」や「ダイレクト納付利用届出書」の提出が必要です。ダイレクト納付利用届出書の提出から利用できるまでは、1カ月ほど時間がかかります。余裕を持って手続きをしないと、他の方法で納付するしかなくなることもあるので注意しましょう。

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予定納税は減額申請できる場合も

所得税の予定納税は、概算で割り出した納税額を年2回に分けて支払うことになりますが、資金繰りの状態によっては予定納税ができない場合もあるでしょう。例えば前年は事業が大きく伸びたが、今年は一転売上が落ち、所得が大幅に減っている場合などです。そんなとき、条件を満たせば、予定納税の減額申請を行い、予定納税の金額を減らせる場合があります。

減額申請の条件は、下記の理由によって、その年の6月30日時点で所得税および復興特別所得税の見積額が、予定納税基準額より低くなることです。

【減額申請に必要な理由】

  • 廃業、休業
  • 経営悪化、業績不振
  • 災害、盗難
  • 重大な疾病による多額の医療費の発生
  • 寄付金控除の適用
  • 所得控除の増加(配偶者控除等)
  • 新規の住宅借入金等特別控除の発生

予定納税の減額は申請書の提出・承認が必要

所得税の予定納税の減額は、先に述べた条件に該当するだけでは認められません。7月15日(土日祝日にあたる場合はその翌日)までに所轄の税務署長に対し、予定納税額の減額申請書や損益計算書等を提出する必要があります。予定納税額の減額申請書は国税庁のサイトからダウンロードが可能です。提出した申請書が承認されることにより、予定納税が減額されます。

なお、第2期分のみを減額申請する場合は、その判断を10月31日時点の見積もりで行い、11月15日(土日祝日にあたる場合はその翌日)までに減額申請書を提出します。

ただし、災害による減額申請の場合は、災害を受けた日によって申請できる期限が決まっているので注意が必要です。

予定納税の減額申請は通らない場合もある

予定納税の減額申請は、申請書を提出しても、100%認められるわけではありません。予定納税の支払いが難しいことを、帳簿など客観的証拠で証明できなければ、一部のみ承認される場合や、却下される場合もあります。後日、税務署から通知が届いたら、承認されたかどうか忘れず確認しましょう。

資金繰りに余裕があれば減額申請をしないほうがいいケースも

予定納税の減額申請は、予定納税の税額を本来の税額へ減額するだけなので、早く払うか遅く払うかの違いはありますがその年に収める所得税額が減るわけではありません。ただ、予定納税は概算で割り出されるため、払いすぎた場合は所得税の確定申告をしたあと還付加算金がついた状態で還付されます。

もし、資金繰りに余裕があれば、減額申請をせず予定納税をして、還付申請をするほうがいいこともあるでしょう。減額と聞くとお得なイメージがあるかもしれませんが、資金繰りの状況も把握しながら判断することが大切です。

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予定納税の支払いをしないと延滞税がかかる

予定納税の注意点として押さえておきたいのは、支払いをしないと延滞税が加算されることです。延滞税は原則として、延滞期間に応じて下記の通り発生します。本来より多くの税金を支払うことになるので、必ず期限までに納付するようにしましょう。

延滞期間 年率(いずれか低い方)
2カ月未満 7.3%もしくは「特例基準割合+1%」
2カ月以上 14.6%もしくは年「特例基準割合+7.3%」

なお、特例基準割合は財務大臣が前年の12月15日までに告知するもので、毎年変動します。その年の数値は国税庁のホームページで確認しましょう。

予定納税の支払いが遅れ、延滞税がかかるのを防ぐ方法には、納税専用口座である納税準備預金を利用するのもひとつです。納税準備預金は、銀行によっては高金利が設定されていることや、預金利息に対し発生する、通常20.315%の税金免除などのメリットもあります。

予定納税を払いすぎたときは還付申告できる

所得税の予定納税は概算なので、確定申告時に実際の所得金額で計算すると予定納税で支払った税額より実際の所得税額が少なくなることもあり得ます。そんなときは還付申告を行い、払いすぎた分の税金を返還してもらうことができます。

さらに、還付申告をすると、還付金に加えて還付加算金と呼ばれる利息も受け取ることができます。還付加算金は金利が高いのが特徴で、年7.3%もしくは「特例基準割合+1%」おいずれか低い方が適用されます。

なお、還付申告は翌年の1月1日から5年間の間、いつでも申請できます。確定申告とは期限が異なるので注意しましょう。また、還付金は申告書に記載した口座以外に、最寄りの郵便窓口でも受け取りが可能です。

ただし、還付申告をするためにも、予定納税をしたことを申告しなければなりません。予定納税について、その年分の確定申告時に予定納税額の記載漏れがないよう気を付けましょう。

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予定納税について悩んだときは税理士に相談を

所得税の予定納税は、その年の5月15日時点において確定している、前年分の予定納税基準額が15万円以上だった場合に、申告納税額の一部を年2回に分けて納める制度です。「予定」とはいえ、その年に収める税金を先払いする制度なので、支払いを忘れると延滞税がかかることに注意しましょう。

予定納税は、支払いが難しければ減額申請もできますが、場合によっては還付申告し、還付金を受け取るほうがお得になるケースもあります。悩んだ時は税理士に相談しながら、状況に合わせた対応をしていきましょう。

企業の教科書
記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

東京都千代田区にある税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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