株式交付費とは、株式募集に関するさまざまな費用のことです。原則は費用として計上する株式交付費ですが、財務活動にかかわるものは繰延資産(すでに発生・支払いが発生している支出のうち、年度をまたいで費用化できるもの)として計上できます。償却扱いによって、最大3年間に分けての費用処理が可能ということです。
当記事では繰延資産とできる株式交付費の詳細について解説していきます。
株式交付費とは?繰延資産にできる特別な営業外支出
株式交付費とは、新株の発行や自己株式の処分(保有する自己株式を売却や交付、償却すること)など、株式募集に関するものへ直接支出した費用です。
企業会計基準委員会の「実務対応報告第19号繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」によると、次の支出が株式交付費の例として挙げられています。
- 株式募集のための広告費
- 金融機関の取扱手数料
- 証券会社の取扱手数料
- 目論見書・株式等の印刷料
- 変更登記の登録免許税
- その他株式交付等のために直接支出した費用
以前は新株発行費という名称が使われており、対象となる経費も新株の発行のみでした。2006年より、自己株式処分費用を対象に加えた、株式交付費の名称に変更となっています。
株式交付費は本来だと営業外費用として処理します。しかし、一定の条件を満たした支出であれば、費用ではなく繰延資産として計上が可能です。
株式交付費の繰延資産計上は認められる
企業の財務活動(企業規模拡大、組織再編の対価としての株式交付など)に関する株式交付費であれば、特別に繰延資産として計上できます。
繰延資産として計上する場合は、定額法に定められた3年以内に償却しなければなりません。言い換えれば、支出額が多大になることも多い株式交付費を、繰延資産で計上すると最大3年間に分割しての処理が可能ということです。
例えば1,500万円の広告費や取扱手数料がかかった場合、繰延資産の株式交付費として3年間で500万円ずつ費用計上できます。
株式交付額は会計上だけでなく法人税上も繰延資産になり、償却額の全額を損金扱いにできます。繰延資産として計上するかは任意であるため、1年目で一気に利益圧縮を行うか、数年間で少しずつ費用計上するかの選択が可能です。
ただし、財務活動以外で使用した株式交付費は、繰延資産計上の対象となりません。例えば、株式分割や株式無償割当など、資金調達とはかかわりのない費用が該当します。
株式交付費を繰延資産として計上した場合の仕訳
株式分割や無償割当など繰延資産の対象とならない株式交付費を処理する場合、勘定科目の株式交付費として仕訳するのが一般的です。他の費用と同じく、借方に費用の勘定科目を、貸方に減少する資産の勘定科目という処理を行います。
会計上の処理は、販売費および一般管理費での計上になります。
借方 | 貸方 |
---|---|
株式交付費 1,500,000 | 普通預金 1,500,000 |
株式交付費を繰延資産として計上する場合も、同じく株式交付費の勘定科目で仕訳ができます。ただし、損益計算書に記載する費用ではなく、貸借対照表に記載する資産としての計上になる点に注意しましょう。
借方 | 貸方 |
---|---|
株式交付費 1,500,000 | 当座預金 1,500,000 |
計上した株式交付費の減価償却は、株式交付費償却の勘定科目を用いて行います。定額法に定められた3年以内で償却できるよう処理しましょう。上記のケースで3年かけて償却する場合の仕訳は、1,500万円÷3年=500万円の株式交付費償却になります。具体的には次のとおりです。
借方 | 貸方 |
---|---|
株式交付費償却 500,000 | 株式交付費 500,000 |
株式交付費償却は、営業外費用扱いになります。
会社法上で繰延資産として認められる他の費用について
会社法上(会計上)にて繰延資産として認められる費用は、株式交付費を加えて5種類存在します。残りの4種類は次のとおりです。
- 社債発行費
- 創立費
- 開業費
- 開発費
株式交付費以外にも上記の費用に該当する場合は、繰延資産への計上を検討してみてください。それぞれの費用の詳細を解説します。
社債発行費
社債発行費とは、株式交付費のようなイメージで社債関係にかかる費用のことです。具体的には次の費用が該当します。
- 社債募集のための広告費
- 金融機関の取扱手数料
- 証券会社の取引手数料
- 目論見書・社債券等の印刷費
- 社債の登記の登録免許税
- その他社債発行のため直接支出した費用
社債発行費を繰延資産で計上する場合は、社債の償還までの期間にわたって利息法による償却を行う必要があります。継続適用を条件として、定額法による償却も認められています。新株予約権の発行にかかる費用に関しては、新株予約権を発行したときから定額法に定められた3年以内で償却をしなければなりません。
費用で計上する場合は、支出時に営業外費用として処理します。
創立費
創立費とは、会社の設立に際して発生した費用のことです。具体的には次の費用が該当します。
- 定款および諸規則作成のための費用
- 株式募集その他のための広告費
- 目論見書・株券等の印刷費
- 創立事務所の賃借料
- 設立事務に使用する使用人の給料
- 金融機関の取扱手数料
- 証券会社の取扱手数料
- 創立総会に関する費用
- その他会社設立事務に関する必要な費用
- 発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額および設立登記の登録免許税
創立費を繰延資産で計上する場合は、会社の設立のときから5年以内の効果がおよぶ期間にわたって、定額法による償却が必要です。費用で計上する場合は、営業外費用として支出時に処理します。
開業費
開業費とは、開業の準備に関する費用のことです。具体的には次の費用が該当します。
- 土地の賃料
- 建物等の賃借料
- 広告宣伝費
- 通信交通費
- 事務用消耗品費
- 支払利子
- 使用人の給料
- 保険料
- 電気・ガス・水道料
開業費を繰延資産で計上する場合は、開業のとき(その営業の一部を開業したときも含む)から5年以内の効果がおよぶ期間にわたって、定額法による償却が必要です。費用で計上する場合は、営業外費用または販売費および一般管理費で処理できます。
開発費
開発費とは、新しい技術や新経営組織の採用、資源の開発、市場開拓など、開発に関する費用のことです。生産能率向上や生産計画変更のための、設備の大規模な配置換えも開発費に含みます。ただし、経常費(行政サービスや行政維持などのために必要な費用)と思われるものは該当しません。
開発費を繰延資産で計上する場合は、支出のときから5年以内の効果がおよぶ期間にわたって、定額法その他合理的な方法による規則的な償却が必要です。
費用で計上する場合は、売上原価または販売費および一般管理費で処理します。
税法上の繰延資産として認められる費用について
税務上の繰延資産は、会社法上で認められるものよりも範囲が広くなっています。具体的には会社法上で認められている株式交付費、社債発行費、創立費、開業費、開発費に加えて、次のいずれかに該当する、支出の効果がその支出日以後1年以上におよぶものです。
イ 自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
ロ 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用
ハ 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
ニ 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
ホ イからニまでに掲げる費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用
株式交付費に関する消費税の扱いについて
繰延資産として計上した株式交付費にかかる消費税は、当該課税仕入れが発生した日に属する課税期間において消費税法の適用を受けます。償却したタイミングではなく、あくまで支払った日に消費税が発生したというイメージです。
例えば株式交付費1,500万円を繰延資産として3年に分けて償却した場合でも、1,500万円にかかる消費税分の仕入税額控除は、当該課税仕入れをした課税期間にて全額控除します。
国際的な会計基準では取り扱いが変わる
株式交付費は、一旦繰延資産として計上した場合でも最終的には償却によって全額が費用処理になります。
一方で国際的な会計基準だと、株式交付費は費用として処理されません。資本取引に付随する費用として資本から直接控除とします。このように、株式交付費における日本と国際標準には違いがあります。
企業会計基準委員会によると、株式交付費を国際基準に合わせなかった理由として次のものが挙げられていました。
① 株式交付費は株主との資本取引に伴って発生するものであるが、その対価は株主に支払われるものではないこと
② 株式交付費は社債発行費と同様、資金調達を行うために要する支出額であり、財務費用としての性格が強いと考えられること
③ 資金調達の方法は会社の意思決定によるものであり、その結果として発生する費用もこれに依存することになる。したがって、資金調達に要する費用を会社の業績に反映させることが投資家に有用な情報を提供することになると考えられること
株式交付費は繰延資産として計上するか否かを確認しよう
株式交付費は原則として営業外費用ですが、資金調達などを目的としたものであれば繰延資産として計上できる可能性があります。償却費として数年に分けて計上できるので、利益額と株式公募関係の費用をうまく相殺できます。法人税額のコントロールに利用が可能です。
株式交付費を繰延資産とするか検討するときは、専門家である税理士に相談することをおすすめします。対象の支出が繰延資産の対象になるか、自社の状況的に繰延資産として計上すべきかなどを確認し、最適な計上方法を検討することが重要です。