貸倒引当金とはどのようなものか、計算方法や仕訳方法について解説します。貸倒引当金の存在は簿記の原則から外れているので扱いがよくわからないかもしれませんが、それほど難しくはありません。
概要、計算のやり方、仕訳のやり方を押さえておけば、間違いなく処理できるでしょう。
貸倒引当金とは
貸倒引当金とは、売掛金が回収できなかった場合などのために準備しておくお金のことです。特に日本ではお客様は神様という考え方があります。そのため、支払いの期限を決めていなかったり、期限を決めていても買い手側に強く催促できない、といった事情があります。
そうすると結果的に商品、サービスを売却したお金を回収できない、もしくは回収できても時期が遅くなり、倒産につながってしまうケースも考えられます。
そして売掛金を回収できないために資金繰りが苦しくなり、最後は倒産に至ってしまう事例も少なくありません。売掛金の回収がうまくいかない企業が多いにも関わらず、それを問題視して対策できている企業が少ないのです。
そして主に売掛金の未回収に備えるためのお金が貸倒引当金です。本来回収できて資金繰りに使えるはずのお金が手元になかった場合に、貸倒引当金を資金繰りに充てる目的で用意しています。
ただし簿記の原則として、現実の取引として発生していないことは計上できません。買掛金や売掛金のようにまだお金自体は動いていない取引も計上できますが、取引自体は発生している必要があります。
貸倒引当金の場合、まだ発生していない取引なので、簿記の原則からみると例外的な項目です。
貸倒引当金の計上方法
貸倒引当金の計上方法は、評価方法によって異なります。評価方法は二つあり、一括評価と個別評価です。基本的には一括評価を使用することになるでしょう。
貸倒引当金の計算方法:一括評価
一括評価では繰入限度額は以下のように計算されます。
繰入限度額=期末一括評価金銭債権の帳簿価額×貸倒実績率(5.5%(金融業は3.3%))
一括評価では貸倒実績率を使いますが、法定繰入率を用いて計算することもできます。法定繰入率は業種ごとにあらかじめ数字が決まっています。法定繰入率を用いる場合の計算方法は以下です。
繰入限度額=(期末一括評価金銭債権の帳簿価額-実質的に債権とみられない金額)×法定繰入率
また業種ごとの法定繰入率は以下のようになっています。
卸売業及び小売業10 / 1000、製造業8 / 1000、金融業及び保険業3 / 1000、割賦販売小売業並びに包括信用購入あっせん業及び個別信用購入あっせん業13 / 1000、その他6/1000、となっています。
貸倒引当金の計算方法:個別評価
多くの場合貸倒引当金の評価には一括評価が使われますが、例外的に個別評価が用いられる場合もあります。どのような例外かというと、たとえば売掛金を回収する企業が倒産寸前の状態、倒産寸前とまではいかなくても資金繰りに窮している、などの状況です。
このような状況ではリスクが高く、また売掛金の一部ではなく全額回収できない、今後も回収の目途が立たない、といったことが考えられます。そのため、貸倒引当金も多めに見積もる必要があるのです。
相場としては、回収できない可能性の高い金額の50%程度を貸倒引当金として見積もれるようになっています。ただし、完全に自己申告で貸倒引当金を計上できるわけではありません。
無条件に貸倒引当金が認められると脱税の原因になるため、税務署に証明する必要があります。相手企業のことなのですべてを把握できるわけではありませんが、貸倒引当金を個別評価で計上したのであれば何かしらの理由はあるはずです。
なるべく客観的な証拠を税務署に提出することで、貸倒引当金の個別評価を否認されずに済みます。逆に言えば、客観的に見て適正な理由がなければ貸倒引当金を個別評価することは認められないということです。
貸倒引当金の節税効果
貸倒引当金は経費になります。ただし貸倒引当金を経費にするためには、確定申告書に貸倒引当金に繰り入れた金額の明細の記載が必要です。経費になるので貸倒引当金の分節税効果があります。
貸倒引当金を使わなかった場合は、経費から外して資産に戻します。
一括評価で貸倒引当金にできる対象
貸倒引当金にできる対象には制限があります。上では売掛金を例に出しましたが、具体的には、貸付金、未収加工賃、未収手数料、未収地代家賃、貸付金の未収利子、受取手形などが挙げられます。
逆に、貸倒引当金の対象にはならない金銭債権も多いです。具体的には、保証金、敷金、預け金、手付金、前渡金、前払給料、概算払旅費、前渡交際費、仕入割戻しの未収金、預貯金、公社債の未収利子、個人的な貸付金、などです。
まとめると、本業と直接的な関係がない債権等は貸倒引当金の対象にはなりません。
貸倒引当金の繰り入れ方法
貸倒引当金の計算方法は二通りあるとご説明しました。そしていずれの場合も、最終的には帳簿に落とし込む必要があります。その際に、どのように帳簿付けすれば良いのでしょうか。
仕訳方法も二種類あり、具体的には洗替法と差額補充法です。
貸倒引当金の仕訳方法:洗替法
洗替法は名前の通り、すべての貸倒引当金を年度ごとに総とっかえする方法です。たとえば、まず最初の年度に貸倒引当金を10,000円繰り入れた場合、以下のようになります。
貸倒引当金繰入 10,000 貸倒引当金 10,000
借方に貸倒引当金が入り、貸方に貸倒引当金が入ります。この貸倒引当金を使わなかった場合、翌年度は前年度の貸倒引当金を戻し、翌年度分の貸倒引当金を計上します。その場合の仕訳は以下です。翌年度に用意する貸倒引当金は20,000円とします。
貸倒引当金 10,000 貸倒引当金戻入 10,000
貸倒引当金繰入 20,000 貸倒引当金 20,000
一年目に繰り入れた貸倒引当金を全額繰り戻し、その後改めて翌年度分を全額貸倒引当金として繰り入れています。すべて洗い替えるという意味で、洗替法という名称になっています。
貸倒引当金の仕訳方法:差額補充法
差額補充法は、その名の通り差額を補充する方法です。洗替法同様に、具体的な数字を入れてシミュレーションしてみます。まず初年度の仕訳は洗替法同様に以下のようになります。
貸倒引当金繰入 10,000 貸倒引当金 10,000
初年度は同じですが、2年目の20,000円の仕訳が異なります。
貸倒引当金繰入 10,000 貸倒引当金 10,000
翌年度の20,000円の差額である10,000円を補充しています。
逆に翌年度の貸倒引当金を初年度よりも減らす場合、以下のようになります。1000円減らすという想定です。
貸倒引当金 1000 貸倒引当金繰入 1000
初年度の貸倒引当金を1000円減らすので、初年度の仕訳とは借方と貸方が逆になっています。
貸倒引当金は負債
貸倒引当金は貸借対照表の負債として仕訳されています。まだ発生していないお金なので費用でないことはなんとなくわかるかと思いますが、将来発生するかもしれないお金の分の負債として計上されます。
また発生するかもしれないお金ということは、なくなるかもしれないお金です。このことからも、負債であることは明確でしょう。
貸倒引当金を使用した場合の仕訳
負債である貸倒引当金を使用しなかった場合、そのまま戻す仕訳を行うと説明しました。では、貸倒引当金を実際に使用した場合はどのような仕訳を行えば良いのでしょうか。
例として、10,000円の貸し倒れが発生した場合を想定します。その場合の仕訳は以下です。
貸倒引当金 10,000 売掛金 10,000
以上のようになります。貸倒引当金を売掛金と相殺するイメージです。
ただし、貸倒引当金が足りない場合もあるでしょう。その場合、以下のような仕訳になります。上の貸し倒れが10,000円という条件は同じで、貸倒引当金が5,000円しかなかった場合を想定します。
貸倒引当金 5,000 売掛金 10,000
貸倒損失 5,000
まず前年に貸倒引当金として用意した5,000円は売掛金と相殺します。しかしその5,000円だけでは売掛金をすべて相殺できるわけではありません。残りの5,000円は、貸倒損失となります。
また貸倒損失として処理していたものが支払われた場合、以下のように処理します。 普通預金 5,000 償却債権取立益 5,000 貸倒損失をそのまま貸方に持ってくるのではなく、償却債権取立益として処理することがポイントです。借方は普通預金となっていますが、現金で受け取る場合は現金となります。借方は受け取る方法によって変わってきます。
貸倒引当金の処理は簡単
貸倒引当金の計算方法、仕訳方法は二通りずつありますが、いずれも処理は難しくありません。そして一定の節税効果があります。