会社設立

起業しない理由は資金不足とリスク/起業者の8割は借り入れ無し

起業しない理由は資金不足とリスク/起業者の8割は借り入れ無し

日本政策金融公庫が「起業と起業意識に関する調査」を行い、その結果を公表しました。そこでは、起業に興味がありながらも踏み切れない理由などが回答されています。そこで、まずはこれらのデータから起業経験者や起業に関心を持つ人の実情を理解し、起業に対して何が問題となっているのか考えていきましょう。事業を立ち上げる段階で負う具体的なリスクや、費用についても紹介していきます。長く企業活動をしていくにはリスクを把握して対策を考えることが重要です、起業をしてみたい、もしくは起業に関心があるという方は参考にしてください。

起業に踏み切れないのは資金とリスク

日本政策金融公庫の調査では、全国の18歳から69歳までの男女にアンケートを取りました。

  • 起業経験のある者
  • 起業の経験はないが関心のある者
  • 関心もない者

に分けて意識調査を行っています。

このうち、2の半数以上は起業したいと考えていることが分かっています。しかしなぜ起業をしたいと考えながらも踏み切れていないのか、主に以下の2点が関係しているという結果が得られています。

起業しない理由1:資金の不足

起業に関心を持つ者がまだ起業していない理由として、最も大きな割合を占めたのは「自己資金が不足している」という項目でした。以下の図のように53.1%もの割合を占め、起業に踏み切れていない者の半分以上は資金の不足を感じているということが分かっています。

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出典:日本政策金融公庫

起業しない理由2:リスクが大きい

資金不足に次いで起業をしていない理由に掲げられたのは「失敗したときのリスクが大きい」でした。35.5%がリスクを理由に起業を踏みとどまっています。何をリスクとしているかいうと「事業に投下した資金を失うこと」が80.3%と最も高く、他にも

  • 借金や個人保証を抱えること
  • 収入が安定しないこと
  • 家族に対する迷惑

などが50%以上の割合でリスクと認識されています。

この結果から、金銭的な問題がネックとなって起業できていない人が多いと分かります。そこで次に、実際に起業をした人がどの程度費用をかけ、借入を行ったのかどうか、そして起業に必要な費用の種類についても紹介していきます。

起業資金・費用の実態

起業経験者への調査でも起業費用にいくらかけたのか、借入をしたのかどうかなど、さまざまな内容でアンケートが取られています。例えば立ち上げた事業の業種はサービス業が多いということや、起業家の4割は副業として事業を行っているということも分かっています。起業をすでに経験した人のデータを見るとともに、起業をする場合に最低限必要になる費用についても見てみましょう。

起業費用は100万円未満が多くを占める

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出典:日本政策金融公庫

起業費用については36.3%が「100万円未満」と回答しています。「100~500万円未満」「500~1000万円未満」「1000万円以上」と起業費用が増えるにしたがい回答割合は低くなっています。

比較的少ない費用で立ち上げた割合が高いものの「起業費用の調達額に対する満足度」は高く、74.7%が「希望どおり調達できた」と答え、起業費用の調達に不足を感じた者の割合は25.3%にとどまっています。

起業経験者の約8割は資金借り入れをしていない

多くの起業関心層が自己資金に不足を感じているということは上で説明しました。しかし起業をするのに自己資金を多く用意することは必ずしも必要ではありません。金融機関などから借入を行うことで資金調達は可能だからです。

しかし、金銭的なリスクを特に避けようとする傾向があり、下図「起業時の金融機関借入の有無」の結果を見てみても82.3%と多くの起業者が借入をしていないことが分かっています。起業費用の金額別にみるとやはり費用が少ないほど借入もしておらず、最も割合の大きかった100万円未満のグループでは95.5%とほとんどの起業者が借入をしていません。逆に500万円以上の費用をかけて起業しているグループでは半数近くの起業家が借入をしています。

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出典:日本政策金融公庫

起業費用の種類

起業をする場合、最低限納めなければならない費用がいくつかあります。起業の方法によってもこれは変わってきます。

起業の形態として最も一般的なのは株式会社の設立でしょう。ほとんどの会社は株式会社として立ち上げられています。株式会社の場合、定款と登記に費用がかかってきます。定款とは会社の目的や組織、業務執行に関する根本規則となるもので、従業員の労働に関してさまざまな取り決めをまとめた労働規則よりも広範、会社そのものの存在に欠かせられないものです。

これに対して会社設立登記は、会社が確かに存在することを正式に公表することに意義があります。株式会社の設立を成立させるには、その過程で出資や役員との契約などもありますが、まずは定款の作成およびその認証を受けること、そして設立登記を行うことが必要です。そうして法人格が取得されます。

定款の作成自体は起業する人自身で行えば、費用はかかりません。しかし作成した定款は公証人の認証を受けなければならず、手数料として5万円を支払わなければなりません。さらに書面であれば、定款に貼る印紙代4万円も必要です。ただし印紙代については電子署名とすることで不要になるため、覚えておくと良いでしょう。 また、定款謄本手数料も必要です。費用は謄本1ページにつき250円ですが複数枚必要になることが通常で、2000円が相場と言われています。

設立登記では登録免許税が最低でも15万円は必要です。厳密には資本金の0.7%が設立登記の費用となりますが、多くの場合にはこの計算でいくと15万円以下となるため、下限である15万円が必要になることが多いと覚えておくと良いでしょう。

ちなみに合同会社では定款認証にかかる手数料が必要ないこと、登録免許税の下限が6万円であるなど、初期費用の少なさから注目されています。また、自営業やフリーランスのような個人事業の場合だと法人でもなく初期費用は必要ありません。

起業資金で覚えておくべきポイント

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事業を継続していくとなれば、多少なりともリスクを背負って活動することになります。また起業をする段階で発生するリスクなどもあるため、起業を視野に入れている方はよく理解しておくようにしましょう。リスクのほか抑えておくべきポイントもいくつかあります。

起業資金のポイント1:個人事業主は無限責任を負う

個人事業主は、無限責任である点で株式会社よりもリスクがあると言えます。一般に株式会社ほど大きなお金の流れがなく、リスクの大きさ自体は比較的小さいものとなりますが、何か問題が生じたときに事業主個人がすべての責任を負わなければなりません。株式会社であれば実質代表者1人が経営をしていたとしても責任追及には限度があるため、一定範囲で個人財産が守られることになります。

個人事業の立ち上げ段階では特段注意すべきリスクはありませんが、ポイントとしては青色申告承認申請書の提出が挙げられます。自分で経理業務や確定申告などをしなければなりませんが、青色申告を行うことで特別控除が受けられるなど、節税面でさまざまなメリットが受けられます。 注意すべきポイントとしては、開業することで失業手当がもらえなくなる可能性があります。

起業資金のポイント2:募集設立では現物出資の補てん義務を負う

株式会社は他者の投資を募って立ち上げることのできる会社形態です。そのため多くの人から協力が得られる場合には募集設立という形で起業することが可能です。

株式会社の設立方法には発起設立と募集設立の2パターンがあり、多いのは発起設立です。起業者のみで立ち上げる起業方法で、手続きも比較的簡素にできるというメリットがあるためです。

しかし、多くの資金を集めたい場合には募集設立という方法を採るのも一つの手です。この起業方法によって、自己資金の不足を解消することができます。ただ利害関係者が増えるため、発起設立に比べて厳格な手続きが必要になります。そして募集設立に限った話ではありませんが、出資は現金以外にも、現物出資をすることが許されています。例えば自動車を出資し、その価値の分だけ株式を割り当てることで株主になる権利が与えられるというものです。 しかし現物出資では現金のように価値が明確化していないため価格調査をする必要があります。これには他の株主に不平等が生じないようにするためという意味合いもあります。

たとえば現物出資された自動車が500万円分の価値があるとして株式が当てられていたにもかかわらず、実際には数十万円の価値しかなかった場合、出資者は不足分を出資しなければなりません。さらに募集設立の場合には発起人(≒起業者)もこれを補てんする義務を負わされてしまうのです。

発起設立の場合には職務を行うにつき注意を怠らなかったことの証明をすれば免責されますが、募集設立ではこれが認められていません。また、どちらの設立方法でも検査役が現物出資の調査をしていれば免責されますが、価格が少ない場合には検査役は選任されないことがあります。

起業資金のポイント3:会社不成立の場合の責任を負う

発起人が負う責任はほかにもあります。例えば会社設立の手続きに重大な瑕疵、つまり大きなミスがあると会社が不成立になることがあります。会社成立から2年間は株主などには「会社の設立無効の訴え」を提起する権利があり、不成立となった場合には、発起人は設立に関してした行為について責任を負わなければならず、支出した費用を負担することになります。これは無過失責任であり、発起人が職務を怠っていたなどの理由がなかったとしても負担しなければなりません。そのため会社設立の手続きはミスのないようにしなければなりません。

起業資金のポイント4:疑似発起人になっていないか注意

発起人とは、会社設立の企画をして定款にその署名がある者のことです。形式的に要件を満たせば発起人とみなされるため、知り合いの起業をサポートする場合などは注意しなければなりません。募集設立の募集広告に自分の氏名などの項目が記載されていると発起人と扱われ、実質何もしていなかったとしても上記の責任を負うことになってしまいます。

起業資金のポイント5:借入の保証契約に注意

金融機関などから借入を行う場合もあるかと思います。この場合、法人として借入を行えば債務を負うのは法人となり、起業者であっても原則は責任が限定的になります。しかし金融機関からは保証契約を求められるケースが多く、起業者や代表者が連帯保証人になることが考えられます。この場合、会社が支払えないと連帯保証人になっている個人に対して請求をされてしまいます。

会社が支払いきれない場合には、法人として自己破産をして会社名義の債務をすべて消滅させることができます。しかしこの場合であっても請求を避けることはできず、最終的に法人、個人ともに自己破産せざるを得ない事態も起こります。 そのため、法人化したからといって個人財産が守られるとは限らないことは覚えておきましょう。主債務が法人にあっても、連帯保証により個人もリスクを負うのです。

まとめ

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多くの起業関心層が思慮するように、起業にはリスクが付き物です。特に起業者は、従業員より負うリスクは大きいです。株式会社を設立することで有限責任にすることができますが、結局借入では連帯保証人になるケースが多く、責任を逃れることはできません。 しかし起業をするということは、従業員として働くよりさまざまな可能性を広げることにもなります。やりたいことができる、高収入が得られるなど、事業を成功させることで得られるメリットはかなり大きなものと言えるでしょう。

リスクばかりを見ていると起業が危険な行為のように思えるかもしれませんが、リスクの小さい起業からリスクの大きな起業まで、実態はさまざまです。どちらにしても、事業を継続していくためにはどのようなリスクが起こり得るのか知ることが重要です。どんなリスクがあり、それを避けるためにはどうすれば良いのか、解決策を模索するようにしましょう。

金銭面の問題は多くの方が不安視していますが、節税対策を施すことで心配を軽減することができるため、具体的な解決策については税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。日々のランニングコストを下げるだけでなく、本業に専念できるというメリットも得られます。

企業の教科書
記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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