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【支配人?】会社設立のキホン!支配人の権限や選び方とは?

【支配人?】会社設立のキホン!支配人の権限や選び方とは?

「支配人」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。「ホテルの支配人」や「支店の支配人」、「レストランの支配人」などその場を預かる責任者が頭に浮かんできますよね。

このように一般的に使われている「支配人」と、法律用語としての「支配人」には大きな差異があります。一番大きな差は「登記」をし、法的に支配人であると認められているかどうかです。

登記している支配人としていない支配人とでは、まったくの別物です。

起業を考える方は将来支配人を選任する可能性もあるでしょう。用語としての意味を整理する上では「使用人」も知っておく必要があります。本記事では、支配人や使用人がどのような者を指す言葉なのか丁寧に解説していきます。

支配人とは?

支配人とは、一般の従業員とは違って強い権限を持った立場の使用人のことです。社員と同じく会社に雇用されている使用人ではありますが、一般の従業員が決裁できないようなことでも決裁できる立場にいます。

支配人の立場にいる人は、日本全国でみてもあまり多くはありません。会社が支配人を置くには登記を行い届出をする必要がありますが、その件数は毎年500~1000件程度となっています。

日本国内に数百万社の企業があることを考えると、支配人を置いている企業は少数派であることがわかります。

一方、支配人と似た言葉に「表見支配人」という言葉があります。これは支配人として正式に選ばれた者ではなくても、そのように扱われている者のこと。

例えば、会社の本店または支店の事業主任者が、登記された支配人ではなくただの使用人であったとしても、外部の人間から見れば登記された「支配人」のように見えるでしょう。

このような場合の「支配人」は、対外的には「表見支配人」として扱われることがあると法的に規定がされています。

(表見支配人)

第十三条 会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。

引用:会社法第13条|e-Gov

表見支配人は、相手方が支配人でないことの事実を知らない場合のみ適用されます。もし相手がその事実を知っていれば表見支配人として扱うことはありません。

具体的にいうと、「ホテルの支配人」や「レストランの支配人」という立場の人たちも、登記されていれば法的に認められた「支配人」となります。ただし、従業員であるならば「表見支配人」ということになるのです。この点、間違えないように注意しましょう。

支配人の法的な意味

「支配人」とは部長やマネージャ―のように会社が決めた役職名ではありません。法律で定められている言葉です。

(支配人)

第十条 会社(外国会社を含む。以下この編において同じ。)は、支配人を選任し、その本店又は支店において、その事業を行わせることができる。

引用:会社法第10条|e-Gov

会社法ではこのように「支配人」という言葉が条文に出てきます。会社法第10条をみると、支配人とは会社に選ばれるものであることがわかるのです。

同じく会社法の第11条では支配人の代理権について定められています。

(支配人の代理権)

第十一条 支配人は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

2 支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができる。

3 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

引用:会社法第11条|e-Gov

支配人は会社に代わって裁判上、裁判外の行為を行う権利があることが法的に認められています。

また、支配人については商法でも会社法と同じように規定されています。自営業として活動する個人商人でも支配人の選任を行うことができ、この場合は会社法ではなく商法が適用されることになるのです。

商法第20条、21条と会社法第10条、11条は同じ条文です。会社法上の支配人と商法上の支配人は同等の立場なのです。

(支配人)

第二十条 商人は、支配人を選任し、その営業所において、その営業を行わせることができる。

(支配人の代理権)

第二十一条 支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

2 支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができる。

3 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

引用:商法第20条、21条|e-Gov

加えて、支配人は登記を行い、誰が・どこの営業所の支配人であるかを明らかにする必要があります。

(支配人の登記)

第二十二条 商人が支配人を選任したときは、その登記をしなければならない。支配人の代理権の消滅についても、同様とする。

引用:商法第22条|e-Gov

上記の法律により、支配人は選出後登記をする必要があります。

支配人は使用人の一種

支配人は会社に雇われている「使用人」の一種です。使用人とは、一言で説明すると「従業員」のこと。会社と労働契約を結び会社の仕事に従事する人のことを指します。

従業員は、ともすると「社員」という言葉と混同されがちです。しかし、この2つの言葉は厳密には意味が違ってきます。法律上での社員とは、出資者であり会社の所有者でもある「株主」のことを指します。使用人は会社と労働契約を結んだ従業員であるため、明らかにこの2つの立場は異なってるのです。

支配人は、使用人・従業員に該当します。支配人は従業員の中から会社によって選ばれ、登記された人が就くことのできる役職です。

支配人と社長・代表取締役の違い

社長とは、会社のトップを指す名称です。会社に一人しかおらず、代表取締役が複数いる場合はそのうちの一人がそう呼ばれています。社長=代表取締役を表す場合、代表取締役社長と呼ばれることもありますね。

一方、代表取締役は複数いるケースもあります。代表取締役とは、会社法で定められた呼び方です。法律上の会社の代表責任者が該当し、複数人選任できます。

社長は法的に定められた名称ではないため、今回は法律上の支配人と法律上の代表取締役の違いについてみていきます。

会社での立場 行使の範囲
支配人 使用人の立場 登記された営業所のみ
代表取締役 使用人を使用する立場 会社に関するすべて

第一に、支配人はあくまで使用人の一種であり、会社に使用されている人間です。一方、代表取締役は支配人を使用する側の立場であり、支配人を選任する人間の一人でもあります。支配人と代表取締役はこの点で大きく立場が異なっているのです。

第二に、行使できる力の範囲が大きく異なっています。支配人の代理権が行使できる範囲は、登記された営業所に関することだけです。一方、代表取締役は会社や事業に関することすべてに対して影響を与えることができます。

このような点で、支配人と代表取締役はまったく違う立場であると言えます。混同しないように注意しましょう。

支配人ができること

支配人が法的に認められた役職ですが、「支配人」は具体的にどのようなことができるのでしょうか?

従業員とはどこが違っているのかみていきましょう。

支配人ができることの具体例

支配人は法律によって「代理権」が認められています。

(支配人の代理権)

第十一条 支配人は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

2 支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができる。

3 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

引用:会社法第11条|e-Gov

そのため、会社に代わって事業の一切に関する行為を行うことができます。従業員の選任や解任、さらには裁判上の行為ですら行う権限を持つのです。

ただし、支配人の代理権が及ぶ範囲は定められた営業所に関わることのみです。会社や事業のすべてに関して会社に代わって代理権を行使できるわけではありません。

支配人として置かれた営業所や支店における、ほぼすべての行為を会社に代わって行うことができます。この点が一般の従業員と支配人の大きな違いです。

代理権を持つメリット

支配人がこれほどにも強い代理権を会社から任されている理由は、重要な意思決定と事務処理を迅速に行うためです。

営業所や従業員の多い会社では、企業規模の小さな会社に比べて意思決定までに長い時間がかかってしまいます。その間ずっと待っていたのでは効率が悪く、また意思決定の早い会社にチャンスを先取りされてしまうリスクがあるのです。

そのため、会社は支配人に代理権を与えることで意思決定と事務処理をスピーディーに行えます。

なかでも消費者金融では訴訟により債権回収を行う場面が多いため、支店長等を支配人として選任しているという実情もあります。会社規模が大きく扱っている件数が多いほど訴訟の数も増え、すべてを会社の上層部で決裁するのは効率が悪いからです。

また、銀行などでも同じように融資を行う一部の支店長などを支配人としていることがあります。しかし、こちらは消費者金融とは意図が異なります。

消費者金融のように裁判上の行為を迅速に行うためではなく、担保実務にあたり、実印を押せる人員を増やすということに活かされているようです。

支配人の選び方

ここでは支配人の選び方についてみていきます。支配人はどのようにして選ばれているのでしょうか?

取締役の過半数の一致で決める

支配人は取締役によって決定される事項です。そのため、複数の取締役がいる場合にはその過半数が支配人の設置に賛成する必要があります。

過半数の賛成を得ることができれば、会社の意思決定として支配人を置くことができ、取締役会が設置されている会社ならば、取締役会にて決議を行うことになります(会社法362条)。

支配人の選任に際しては「取締役の過半数の一致を証する書面」や「取締役会議事録」を記録として残しておくようにしましょう。登記手続きの際に必要になります。

支配人は過半数の一致で選任し、解任をする場合でも同じように決定できます。

原則的には取締役が定める事項とされていますが、定款で「株主総会にて支配人を決める」という旨の規定を置けば、株主の意見を取り入れて決めることもできるのです。

個人商人でも選任できる

自営業者でも支配人を置くことはできます。ただし、小商人に該当する場合には支配人を置くことはできません(商法7条、20条)。

小商人とは営業の規模が特に小さな商人のこと。具体的には、営業の用に供する財産の最終の営業年度における貸借対照表に計上した額が50万円未満の場合です。

50万円を下回ると小商人に該当し、支配人を置くことはできなくなります。

支配人が決まった後は「登記」手続きを

取締役過半数の賛成を得て支配人が決まった後には、「登記」を行う必要があります。「登記」とは、届出を行うことで権利や義務の効力を発生させたり関係を明示するために行います。「不動産登記」が有名です。

支配人が決まったときにもこの「登記」を行う必要があります。登記を行っていなければ、社外の者に法的に認められた正式な「支配人」であると主張することはできません。

登記は「本店の所在地」にて行います。支配人の選任後、遅滞なく申請を行わなければなりません。登録申請をいつまでも先送りにしていると過料を課せられることもあります。登記申請はできるだけ速やかに行うようにしましょう。

支配人の登記に必要な事項は、

  • 支配人の氏名及び住所
  • 支配人を置いた営業所

の2つです。営業所を指定することで、支配人の権利の範囲を明確にします。登記された営業所以外では、この支配人の代理権は発揮できないことになります。

一般的に登記には添付書類が必要です。取締役や監査役、会計参与のように役員であれば就任承諾書が添付書類として必要になります。

しかし、支配人の選任の際は就任承諾書を作成しません。そのため、添付書類は「取締役の過半数の一致を証する書面」や支配人を選任したときの「取締役会議事録」を提出することになります。

登記に必要な登録免許税は、会社の場合でも個人の場合でも3万円です。この金額は1件あたりの料金であり、支配人1人あたりではないことは覚えておくと良いでしょう。

複数人を選任する予定があるのであればまとめて登記をしたほうが、余分に費用がかからなくて済みます。

自営業として活動する個人商人でも、支配人を選任する場合には登記を行う必要があり、この場合、登記の申請を行う義務者は商人となります。商法において登記義務者は当事者本人であるケースも多いため、混乱のないように注意しましょう。

支配人に関する注意点

支配人を選任しておけば、普通の使用人には任せられないことをできるので便利です。ただし、いくつか注意点があることは把握した上で運用していかなければなりません。

役員との兼任ができない場合がある

支配人は役員と兼任ができないケースがあります。

例えば、支配人と代表取締役は兼ねることができません。支配人は一使用人であり、会社と結んだ雇用契約に従って仕事をしています。そのため、使用者を使用する側の人間であり、会社の代表者である代表取締役と兼任することはできません。

そもそも代表になるのであれば、使用人としての立場を残して代理権を得る必要もないでしょう。代表取締役であれば代理権を使わずして職務を行うことができるため、支配人として登記をして代理権を得る必要はありません。

一方、多くの会社では支配人と取締役との兼任は可能です。しかし、指名委員会等設置会社の取締役にはなれません。

また、この場合には会計参与および監査役にもなることができません。加えて、監査等委員会設置会社における監査等委員である取締役にもなることができないのです。

これらの場合における取締役は、会社の業務執行を行うことが仕事の主ではなく、会社の見張り役としての役割を持っています。そのため、業務を執行する立場にある支配人の役割とは兼任が難しいためです。

競業の禁止

支配人には単なる従業員である一般の使用人にはない義務が課せられます。支配人は重要な立場で強い権限を持つ者として、競業が「法的に」禁止されているのです。

(支配人の競業の禁止)

第十二条 支配人は、会社の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。

一 自ら営業を行うこと。

二 自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすること。

三 他の会社又は商人(会社を除く。第二十四条において同じ。)の使用人となること。

四 他の会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。

2 支配人が前項の規定に違反して同項第二号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって支配人又は第三者が得た利益の額は、会社に生じた損害の額と推定する。

引用:会社法第12条|e-Gov

支配人は、基本的には「自ら営業を行うこと」「自分または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすること」「他の会社の使用人・役員等になること」は禁止されています。

この法律により、支配人として従事する会社のノウハウを活かして、自分で同種の事業を立ち上げたり、同種の会社に勤めたりして利益を得ることはできません。

仮に自分や第三者のためにした同種の事業によって利益を得た場合には、その金額が会社に生じた損害の額と推定され、法的に罰せられる可能性があります。このことは次の③特別背任罪の適用につながっています。

特別背任罪の適用

会社の財産に手をつけやすい取締役や監査役等が悪事を働かないように抑制する意味合いも含め、会社法では罰則規定が設けられています。そのうちのひとつが「取締役等の特別背任罪」です。

(取締役等の特別背任罪)

第九百六十条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

六 支配人

引用:会社法第960条|e-Gov

自分や第三者の利益のために任務に背く行為をはたらき、そして会社に財産上の損害を加えた場合には処罰するという内容です。上記の通り、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が課せられます。その両方である可能性も。

「取締役等」の特別背任罪とありますが、「六 支配人」と表記されている通り、この取締役等の中には支配人も含まれています。他には「発起人」や「会計参与」「監査役」「執行役」などが該当します。

おわりに

支配人は会社法・商法で認められた立場です。支配人は登記を行うことでその役割を明確にし、登記された営業所において代理権を行使できるようになります。会社に代わって事業運営に関わるさまざまな行為を行えるようになるため、意思決定や事業執行の迅速化に繋がることになるのです。

しかし、支配人にはさまざまな法的制限がついて回ります。支配人の設置を考えられている場合は、このような制限についてしっかりと理解した上で選任を行うようにしてください。

企業の教科書
金子 武弘
記事の監修者 金子 武弘
税理士法人 きわみ事務所 所属税理士

東京都千代田区にある税理士法人きわみ事務所の所属税理士。
日本一周中に税理士合格を果たすなど、アクティブでフランクに頼りやすいところがポイント。
徹底した経営者目線を大切に、なんでも対応ができるオールラウンダーな税理士を目指す。

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