業務で電車などの公共交通機関を利用した場合、領収書を証拠として提出していますか?会社では、私鉄や在来線の領収書をあえて添付しなくてもよいことになっているかもしれませんが、それはあるべき姿なのでしょうか?
また、電車の領収書をもらったとしても「宛名」は書かれていません。そのような領収書であっても問題ないのでしょうか?この記事では電車の領収書に代表されるような小さな取引の証憑について考えていきます。
電車の領収書はそもそも必要なのか?
会社の経理処理においては、原本保管の観点から原則として電車などの領収書は必要です。支払いの根拠として領収書を示すことによって、その交通費は会社の経費として取り扱われます。
電車の領収書は、切符を購入した場合には販売機に領収書発行ボタンのついているものもありますし、私鉄のWebサイトにおいても原則としてその場で発行できるとされています。また、交通系ICカードの利用明細については、Web上で利用履歴の明細を取得できます。
交通費は損益計算書上では営業費や販売費にあたり、同じように公共交通機関を利用する通勤手当については、その申請に間違いがあると後々税金に影響する場合もあります。
不正防止という意味でも業務における領収書の添付は有効な方法と言えます。
したがって、前提としては業務上で電車などを利用した場合においては領収書を添付するのが原則です。
電車の領収書添付は必須?
例えば、会社から毎回同じ顧客の元に同じルートで電車を使って行くとします。
このような場合、現実的には電車の領収書添付は必須なのでしょうか?
実際の運用における効率化重視
実際には、交通費精算の際に会社に提出する領収書には公共交通機関のものは必須ではないところが多いでしょう。出張で新幹線や飛行機を使うような高額かつ、割引や同じ便でもグレードの異なる座席がある場合などには、取引内容を証明するために領収書添付が必須となっているケースは多いかと思います。出張手当の相場が知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
出張手当の相場はいくらがよいか|出張旅費規程の日当の決め方について解説
業務中にすべての交通機関で、駅員に領収書を発行してもらうことは現実的ではありませんし、たとえ個人の交通系ICカードで業務に使った利用明細が提出できるとしても、そこまで求めている会社はそう多くはないでしょう。
つまり、実運用を考えると日常的に公共交通機関を利用する場合、領収書については省略が許されている現状があるということです。
電車の領収書は取引を証明する書類
電車の領収書の添付省略についてきちんと考えることは、実は「証憑」について深く考えることにつながります。
そもそも、「証憑」とは証拠のことで、「証憑書類」といえば取引の証拠、根拠となる書類のことです。似たような用語に「証票」があります。証票は、ある行為を証明するための用紙や札(票)のことです。したがって、電車の領収書そのものは「証票」にあたります。厳密にいえば、電車の「証票(領収書)」はその人と電鉄会社の取引における「証憑書類」となります。
また、受取りの事実を証明するものとしては「領収書」と「領収証」は同じ扱いをして問題はありませんが、受領した者が受取った事実を証明するために提示した証拠という意味では「領収証」です。
なお、領収書が発行されなくても、例えば契約書などに取引金額や支払方法が取り決められている場合には、その契約書や銀行の入出金明細が証憑になります。すべての取引について領収書が交付されるとは限りません。
では、証憑書類の必要性について考えて見ましょう。
電車の領収書の扱いは法人税法・消費税法で定められている
会社として領収書の有無が気になるのは、究極的には税務調査などで証憑がないために、その電車代が認められないことを心配するからです。
領収書など証憑書類について参考となる法律は法人税法と消費税法です。
法人税においては領収書などの保存ルールについて、消費税法においては領収書の記載ルールについて定めています。それぞれについてみてみましょう。
電車の領収書の保存は法人税で規定
電車の領収書など書類の分類や保存の必要については法人税法に規定されています。
法人税法では、業務で利用した電車の領収書などは保存すべき書類とされています。
青色申告法人は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない。(法人税法第126条1項)
当該帳簿書類は次の4種類あり、電車の領収書は取引書類にあたります。
種別 | 種類 | 代表的な例 | |
---|---|---|---|
1 | 帳簿 | 会計帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、補助元帳、固定資産台帳 |
2 | 決算書類 | 貸借対照表、損益計算書、棚卸表、その他決算書類 | |
3 | 書類 | 取引書類 | 相手方から受領した取引の書類、自己が発行した書類の控え |
4 | 電子取引による書類 | 電子取引関連の書類 |
また、法人が保存しなければならない「取引書類」として次のものが挙げられています。
取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し
これらの書類については、法人税法は7年(欠損金があれば10年)間の保存を求めています。
なお、取引関係書類は現物(紙媒体)保管でなくとも、一定の要件を満たし、届出をすれば電子帳簿保存が認められています。ここでは触れませんが、国を挙げて従来の紙の保存からデータの保存へ移行する動きがあります。
このように法人税では、電車の領収書などについては、「取引関係書類の10年間保管」というルールが設けられています。
法人税法について詳しく知りたい方はこちらも参考にしてください。
電車の領収書の取り扱いは消費税で規定
消費税法においては、電車の領収書などについては特例的な取扱いがあります。
消費税とは会社が預かった消費税から支払った消費税の差額を納付するしくみですが、売上にかかる消費税から仕入にかかる消費税を控除することを仕入税額控除といいます。
現行の消費税では仕入税額控除が認められるためには、「区分記載請求書等」と呼ばれる領収書などの書類を7年間保存しなければなりません。
区分記載請求書等保存方式による請求書等に記載すべき事項は次のとおりです。
- 発行者の氏名又は名称
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率かどうか)
- 取引金額
- 交付を受ける事業者の氏名又は名称
この「区分記載請求書等」に次のような特例的な取り扱いがあります。
課税仕入に係る支払対価の合計額が3万円未満である場合には、請求書等の保存は要せず、法定事項が記載された帳簿の保存のみで足りる(消費税法第30条7項、消費税法施行令第49条1項)
ここでいう法定事項とは上記①~⑤までの取引内容です。したがって、仕入税額控除をするためには、取引書類の保存は必要とされず、その代わりに経費精算の時には上記①から⑤の情報があればよいのです。
さらに、やむを得ない場合の取り扱いというのがあります。
3万円以上で請求書等がないときに、やむを得ない理由がある場合は、法定事項が記載された帳簿にそのやむを得ない理由及び相手方の住所等を記載しているときは、適用要件を満たしているものとして取り扱われる(消費税法第30条7項、消費税法施行令第49条1項)
3万円以上であっても入場券、乗車券、搭乗券等のように証明書類が先方により回収されたような場合には「やむを得ない」とされ、理由を付して経費精算すれば税務上は問題ないとされます。
消費税法について詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください。
宛名のない電車の領収書は要注意!
現行の消費税法では、「宛名のない」領収書も認められています。
消費税法では、不特定多数を取引先とする小売業、飲食店業、タクシー業などを営む事業者が交付する領収書については、交付を受ける事業者の氏名又は名称の記載を省略できます。
したがって、電車の領収書などに宛名が記載されなくても問題はないということです。
会社の旅費規程に「旅費は、目的地までの最も経済的な通常の経路及び方法によった場合の旅費により計算する。」とか、「移動に利用する交通機関は、鉄道、バス等の公共交通機関とする。」などの文言を入れ、一定の精算ルールを運用しているのが多いですが、これも消費税の要件にあてはまっています。
しかし、3万円未満でも宛名のない「交際費などの領収書」は極力避けるようにしましょう。
なぜなら法人税法では、交際費については独自の考え方があり、交際費とするための要件が厳しいからです。交際費については、交通費とは異なり、悪用の可能性や二重請求のリスクを避けるために、「区分記載請求書等保存方式」の原則に従いましょう。
「宛名のない」領収書には注意が必要です。
電車の領収書は電子化が進む!
通常、何げなく処理をしている交通費の領収書は、法人税において保存すべき書類のカテゴリーに分類されつつも、消費税法の特例により領収書の省略が可能という結果となりました。
ところで、今般改正された電子帳簿保存法では、新幹線や航空機の領収書を携帯電話のスクリーンショットで保存することも可能となりました。今後はさらにペーパーレス化が加速し、そのうち「取引書類」という考え方がなくなるかもしれませんね。