政府は中小企業・小規模事業者の資金繰りを安定させる目的で、対象事業者の経営改善計画策定を促進・支援する「経営改善計画策定支援事業」を発足させました。「早期経営改善計画策定支援事業」は、その支援事業の1つです。
当記事では早期経営改善計画策定支援事業の概要や補助金額、具体的な支援内容、もう1つの支援事業である「経営改善計画策定支援事業(405事業)」などについて解説します。
早期経営改善計画策定支援(ポストコロナ持続的発展計画事業)とは?
早期経営改善計画策定支援事業(ポストコロナ持続的発展計画事業)とは、事業者が資金繰りや経営計画を見直して計画を策定する際、その実務と金銭面をサポートする取り組みです。
中小企業の成長を支援する「独立行政法人 中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)」を運営主体とし、各都道府県に設置している「経営改善計画センター」が主な窓口になっています(運営資金は国が補助)。
2017年5月にスタートした本制度ですが、2021年現在は、新型コロナウイルス感染拡大によって売上減少・借入額増大で苦しむ事業者を支援する目的でも運用されています。
(出典:中小機構)
本事業は他の補助金・助成金制度と比べると、補助額上限が20万円と少額です。しかし、本事業のメリットは、問題点の早期把握によるトラブルの回避や経営判断力の向上など、実務面がメインと言えます。
早期経営改善計画策定支援の支援内容や目的
早期経営改善計画策定支援は、認定経営革新等支援機関(以下、認定支援機関)の支援を受けながら作成する経営改善計画にかかる費用を2/3まで補助します。上限は20万円です。たとえば税理士によるコンサル料が30万円を10万円で受けられます。
認定経営革新等支援機関とは、中小企業を支援する能力があると国から認められた専門家のことです。認定を受けた金融機関や士業、商工会などが該当します。
本事業の目的は、事業者に将来に向けての現状分析や計画策定を促進することです。
事業者のなかには「今後どのように資金を調達すべきか」「どの部門ならびに商品で利益・損益が出ているのか」などについての分析・計画が不十分で、将来の見通しが立たないところも多いと中小企業庁が公表しています。
また経営計画を準備していないせいで、金融機関に情報開示がうまくできない事業者も少なくありません。もしコロナ後に向けて動こうにも、金融機関に具体的な相談や融資申請ができないなどの問題が発生しています。
そこで本事業は経営計画を立てていない、または立て方がわからない事業者の「経営改善のための取組」を金銭的に支援することで、積極的な専門家への相談・自発的な経営改善計画策定を促すことを目的としています。
早期経営改善計画を実施するメリット
本事業を利用し、早期経営改善計画を実施するメリットは次のとおりです。
- 過去の資金繰り状況や問題点を分析することで、今後の資金計画を綿密に策定できる
- 自社の経営課題を把握することで、今後行うべき具体的なアクションが明確になる
- 計画策定から1年後に専門家によるフォローアップを受け、計画の進捗が確認できる
- 専門家によるコンサルティングが安価で利用できる
- 事業の将来像や現状について金融機関へ明確に伝えやすくなる
金銭的補助以上に、信頼できる専門家による経営サポートや、金融機関との関係づくりが大きなメリットになります。
早期経営改善支援策定支援の利用をおすすめする事業者
早期経営改善計画策定支援の利用をおすすめする中小企業・小規模事業者は次のとおりです。
- 新型コロナウイルスの影響で売上や顧客数が減少している
- 新型コロナウイルスの影響で融資や借入金の活用・返済計画を不安に思っている
- 将来に備えて経営上の問題点や改善点を今のうちに把握・整理しておきたい
- 初めてお願いする専門家が少し不安なので、金銭的補助を受けてお試しで利用してみたい
- 専門家からの経営アドバイスや具体的な提案を受けて事業を立て直したい など
本事業を受ける際、売上高や業種などによる応募要件はありません。過去に中小企業再生支援事業や経営改善計画策定支援、本事業を受けていない事業者以外が利用できます。
早期経営改善計画支援で作成する計画内容
早期経営改善計画支援にてサポート対象となるのは、計画策定における基本的なプロセスについてです。具体的には以下4つの計画作成です。
- ビジネスモデル俯瞰図
- 資金実績・計画表
- アクションプラン
- 損益計画(数値計画)
上記の経営改善計画について、専門家と協力しながら作成します。その他にもさまざまな面で支援(ローカルベンチマークなど)してくれますが、メインは上記の4つです。具体的にみていきましょう。
ビジネスモデル俯瞰図
ビジネスモデル俯瞰図とは、関係事業者や商流など経営周りの情報をまとめでデザイン化し、自社と自社周囲を見える化するものです。
ビジネスモデル俯瞰図を作成してサプライチェーン(調達、製造、販売、消費などの一連の流れ)を把握することで、現状の事業構造や損益構造(儲けの仕組み)、事業の強みなどを明確にできます。
たとえば製造業だと、部品の仕入先・製品の販売先・本社ビルの賃貸契約先・販売商品の売上・従業員数・実施事業・販管費などの、事業活動に関わるあらゆる動きを図に表します。
(出典:大分県|ビジネスモデル俯瞰図と業種別論点)
ビジネスモデル俯瞰図を作成するメリットは次のとおりです。
- 金融機関担当者や自社の経営担当者などの第三者が商流を容易に把握できる
- 問題点・改善点の抽出がスムーズになる
- 商品・製品・サービスの販売先に関する特徴(周辺状況・年齢層・季節性・時間帯など)が分析できる
- 棚卸作業の状況を可視化できる
- その他原価や販管費が見やすくなる など
資金実績・計画表
資金実績・計画表とは、現金収支にかかわる現状の実績と将来計画をまとめたものです。金融機関に新規融資や返済条件の変更などを申し込む際、提出を求められます。
資金実績・計画表には、月ごとの売上高・借入金・借入金の返済・借入金の残高・現預金残高を記載します。中小企業庁のサンプルでは、実績は過去を含めて3期分、将来の見通しは向こう6ヵ月分までが記載範囲となっていました。
(出典:中小企業庁)
資金実績・計画表を作成するメリットは次のとおりです。
- 実際のキャッシュと会計上の資産・負債状況との数値のズレが確認しやすくなる
- 過去の資金繰り実績を分析して、実態に沿った将来的な資金計画を策定できる
- 事前に資金ショートの予兆や売掛金貸倒損失・不良在庫などを把握しやすくなる
- 帳簿だけでは説明しづらいキャッシュの動きを金融機関に説明しやすくなる など
アクションプラン
アクションプランとは、ビジネス俯瞰図や資金実績・計画表から抽出した経営課題と、経営課題を解決する具体的な行動をまとめたものです。いつやるか・誰がやるか・どうやって解決するか・解決するとどんなベネフィットが得られるかなどを記載します。
(出典:中小企業庁)
アクションプランを作成するメリットは次のとおりです。
- 今後実施すべきタスクが明確になる
- タスクを従業員の作業として落とし込みやすくなる
- アクションに対する進捗状況が把握しやすくなる
- 目標の変更や協力関係の強化などの計画途中での臨機応変な対応ができる
- 小さなゴールを達成し続けることで従業員のモチベーションにつながる など
損益計画(数値計画)
損益計画(数値計画)とは、経営計画どおりに事業を進めると、どれくらいの利益や損失が出るのかを記載するものです。
損益計画に載せるのは、収益・費用・利益や、そこから算出した原価・税引前の利益などです。ようは確定申告時に提出する、損益計算書の内容になります。
記載事例は次のとおりです。
記載事項 | 概要 |
売上高 | 商品やサービスの売上など |
売上原価 | 商品やサービスの販売に直接かかった費用 |
原価率 | 売上高に対する売上原価の割合 |
売上総利益(粗利) | 売上高-売上原価 |
粗利率 | 売上高に対する売上総利益の割合 |
販売費および一般管理費 (販管費) |
人件費や広告費など商品やサービスの売上に間接的にかかった費用 |
人件費 | 人に関する費用 |
減価償却費 | 時間経過で価値や性能が下がる固定資産の減少額 |
その他経費 | その他売上原価以外の経費 |
営業利益 |
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営業外収益・費用 |
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経常利益 |
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特別利益・損失 |
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税引前利益 | 法人税等を差し引く前の利益 |
法人税等 | 支払予定の法人税(所得税)や法人住民税など |
当期純利益 | 税引き後に残った最終的な利益 |
借入金残高 | 返済すべき借入金の残高 |
簡易CF | 当期純利益+減価償却費 |
(出典:中小企業庁)
損益計画は、金融機関へ融資を申請するときに必ず確認されます。しっかり作り込むことで、金融機関に具体的な提案ができるため、金融機関からの信用獲得につながるでしょう。
損益計画を策定するには、前段階で問題点の抽出や具体的なアクションをまとめることが大切です。
早期経営改善計画申請の流れと必要書類
ここから早期経営改善計画策定支援事業の申請の流れと必要な書類を解説します。書類の提出先が経営改善支援センターと金融機関と分かれるため、混同しないように注意しましょう。
早期経営改善計画策定支援の必要書類
早期経営改善計画策定支援を受けるために必要な書類は次のとおりです。
- 利用申請書
- 申請者の概要
- ポストコロナ持続的発展計画ひな型
- 履歴事項全部証明書(登記簿謄本)原本
- 認定支援機関であることを証明する認定通知書の写し
- 申請者に対する認定支援機関の見積書の写しおよび単価表
- 金融機関の事前相談書
計画策定後に補助金支払いを受ける際、提出する書類は次のとおりです。
- 経営改善支援センター事業費用支払申請書
- 早期経営計画書(ビジネス俯瞰図・資金実績・計画書・アクションプラン・損益計画)
- 業務別請求明細書
- 従事時間管理表(業務日誌)
- 外部専門家の請求書類
- 申請者と外部専門家が締結する本事業にかかる契約書
- 申請者の費用負担額の支払いを示す証憑類
- 金融機関に早期経営改善計画書を提出したことを証明する書面
最後に、本事業におけるモニタリングにかかる費用支払いに際して提出する書類をみていきましょう。
- モニタリング費用支払申請書
- モニタリング報告書
- 業務別請求明細書
- 従事時間管理表(業務日誌)
- 申請者と外部専門家が締結するモニタリングにかかる契約書
- 外部専門家の請求書類
- 申請者によるモニタリング費用負担額の支払いを示す証憑類
早期経営改善計画策定支援の申請の流れ
本事業を進める流れを以下でおおまかにまとめました。
制度の利用申請
認定支援機関に、早期経営改善計画に関する相談を行います。そのうえで認定支援機関と事業者の連名の利用申請書を、経営改善支援センターへ提出します。
提出の際は、取引先金融機関から受け取る事前相談書も添えましょう。認定支援機関が金融機関である場合、事前相談書は不要です。
早期経営改善計画の策定と提出
経営改善支援センターによる審査を通過したときは、センターから認定支援機関へ文書による通知が行われます。通知後は、実際に早期経営改善計画を策定します。策定が終わったら、必要書類と一緒に金融機関へ早期経営改善計画を提出しましょう。
支払申請
早期経営改善計画を金融機関へ提出した後は、経営改善支援センターへかかった費用に関する支払請求を行います。必要書類を提出した後はセンターが審査し、問題なければ費用の2/3,最大20万円の補助が受けることが可能です。
もしここで補助額が上限20万円に達しなかった場合は、モニタリングにかかった費用をさらに請求できる可能性があります。
モニタリング
モニタリングとは、計画策定から1年を経過した最初の決算時、計画どおりの経営改善効果や進捗となっているか、認定支援機関がチェックすることです。モニタリングにかかった費用は、2/3の上限5万円まで補助されます。
ただし計画策定の補助額と合わせて20万円であるため、すでに20万円を受け取っている場合はモニタリングの補助は受けられません。計画策定の補助を18万円受け取った場合は、2万円が上限になります。
もう1つの事業である経営改善計画策定支援事業(405事業)とは?
経営改善計画策定支援事業(405事業)とは、認定支援機関の支援を受けながら本格的な経済改善計画を策定する事業者を支援する制度です。
早期経営改善計画のような予防ではなく、すでに借入金返済条件の変更が必要といった、資金繰りを助けてほしい事業者が対象になります。
(出典:中小機構)
具体的な支援内容は次のとおりです。
- 経営改善計画の策定
- 借入金の返済条件の変更
- 融資行為(借換融資・新規融資)
補助金額は費用の2/3と早期経営改善計画策定支援と同じですが、上限が200万円となっています。金銭的支援の側面が強い事業といえます。
実際に専門家からサポートを受けて立て直しを図りたい事業者は、経営改善計画策定支援の利用がよいでしょう。
早期経営改善計画策定支援で将来のトラブルを防止しよう!
早期経営改善計画策定支援は、専門家による経営改善計画のコンサルティング費用などを最大20万円まで補助する制度です。本事業は補助金額も魅力的ですが、それ以上に専門家からもらった経営に関するアドバイスを活かしたり、将来を見据えた事業計画を作成できたりなど、実務面でのプラス大きなメリットになるでしょう。
これまで経営に関してしっかりと計画を立てていなかった事業者は、経営見直しのきっかけとして早期経営改善計画策定支援を利用してはいかがでしょうか。