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医療法人の事業承継の基礎知識|株式会社との違いや承継スキームを解説

医療法人の事業承継の基礎知識|株式会社との違いや承継スキームを解説

医療法人の事業承継は、医療法人が持つ独特の性質が原因となり、株式会社の事業承継と異なる点が非常に多いです。専門的な知識や医療法人ならではの注意が必要になるので、事前に留意すべきところを意識しておきましょう。

当記事では医療法人の事業承継に関する基礎知識として、株式会社との違いから見る注意点や事業承継の一般的なスキームなどを解説します。

医療法人の事業承継事情|対策を考えるべき理由とは

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帝国データバンクの「全国企業 後継者不在率動向調査(2022)」によると、全国の全業種約27万社の後継者不在率は57.2%です。長年60%を超えていた不在率は、2020年を境に改善の兆しが見えています。

これはコロナ禍を経て後継者問題を考える経営者が増えたり、事業承継に関する支援策や民間サービスが整ったりなどが理由と考えられます。

しかし医療業界に関しては後継者不在率が68%と、専門サービス68.1%次いで第2位です。70%を超えていた前年よりも低下しているものの、医療法人の事業承継はまだまだ今後も業界全体の課題となるでしょう。

以下では医療法人の事業承継事情や、対策を考えるべき理由を解説します。

医療法人の経営者の高齢化が進む

厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計(2020年度)」によると、「病院(医育機関附属病院を除く)や薬局の開設者または法人の代表者」の平均年齢は、次のようになっていました。

2020年の平均年齢 2008年の平均年齢
医師 64.7歳 63.1歳
歯科医師 55.1歳 51.4歳
薬剤師 58歳 58.1歳

徐々にではあるものの、医療経営者の高齢化が進んでいると推測されます。

また帝国データバンクの「全国社長年齢分析調査(2021年)」では、社長の平均年齢が60.3歳で1990年以降右肩上がりの状況が続き、31年連続で過去最高を更新したと明記されました。

日本全体で高齢化が進んでいる傾向があり、今後も医療法人を含めた事業承継が活発化していく可能性があります。

医療施設の推移|個人経営から法人へ

以下の表の数値は、医療施設である病院・一般診療所・歯医者の数の推移を表したものです。

2011年 2014年 2017年 2020年 2021年
病院 総数 8,605 8,493 8,412 8,238 8,205
274 329 327 321 320
公的医療機関 1,258 1,231 1,211 1,199 1,194
医療法人 5,712 5,721 5,766 5,687 5,681
個人 373 289 210 156 137
その他 988 923 898 875 873

 

一般診療所 総数 99,547 100,461 101,471 102,612 104,292
85 532 532 537 545
公的医療機関 3,632 3,593 3,583 3,523 3,997
医療法人 36,859 39,455 41,927 44,219 45,048
個人 46,227 43,863 41,892 40,310 40,304
その他 12,244 13,018 13,537 14,023 14,398

 

歯医者 総数 68,156 68,592 68,609 67,874 67,899
3 4 5 4 3
公的医療機関 280 273 265 262 261
医療法人 11,074 12,393 13,871 15,161 15,635
個人 56,481 55,588 54,133 52,103 51,650
その他 318 334 335 344 350

参考:令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況|統計表

三菱UFJ銀行

注目したいのが医療法人と個人の数値の推移です。病院・一般診療所・歯医者のいずれにおいても、個人経営の施設数の減少が見られる一方で、医療法人の数が増加しています。個人経営から医療法人への転換、M&Aの活発化などが原因と推測されます。

医療法人の事業承継が地域にとって重要な理由

医療法人の事業承継は、経営者一族だけではなく地域やその他ステークホルダーにとっても重要です。主な理由は次のとおりです。

  • 事業承継できずに廃業になると、患者の健康に大きな影響が出る
  • 周辺地域の医療体制の改変が必要になる
  • 医療法人で働いていた人材の雇用が失われる
  • 医療機器や医薬品の販売会社などの取引先に影響が出る

医療法人は、人の健康と直接関わる数少ない法人です。株式会社以上に事業承継が大切になるとの意見もあり、医療法人の経営者はじっくりと検討する必要があると言えるでしょう。

医療法人の概要|出資持分あり・なしの違い

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医療法人の事業承継について理解を深めるという意味で、医療法人の事業形態について軽くおさらいします。

医療法人とは、医療法に基づいて医師・歯科医師などが常時勤務する病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院の開設を目的に設立される法人です。

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一般的な株式会社と医療法人における、大まかな目的・名称・権利などの違いをまとめた表は次のとおりです。

項目 株式会社 医療法人
(出資持分あり)
医療法人
(出資持分なし)
営利/非営利 営利 非営利
役員の名称 取締役 理事
代表者 代表取締役 理事長
出資者 株主 出資した社員 出資なし
議決権 持ち株枚数に応じる 社員1人につき1個
剰余金の配当 可能 禁止
残余財産の帰属 株主 出資者 国・地方公共団体等

医療法人の大きな特徴は、「出資持分ありの法人」と「出資持分なしの法人」に分けられる点です。出資持分あり・なしでは、経営者の退職や相続などの関係で大きな違いが出てきます。

より細かな分類として「出資額限度法人」や「基金制度を採用した医療法人」などがあります。また大分類としては「財団医療法人」と「社団医療法人」が存在しますが、現在は9割以上が社団医療法人です。

以下では、出資持分あり・なしの違いなどについて詳細を解説します。

出資持分あり・なしとは

出資持分あり・なしの違いは、よく「財産権があるかないか」で例えられます。出資持分とは、医療法人にある資産に対して、出資額に応じて得られる財産権のことをいいます。

例えばAが50万円・Bが50万円ずつ出資し100万円を出資金とした場合、AとBのそれぞれの出資持分は50%です。この状態で医療法人の財産が1億円になると、AとBはそれぞれ5,000万円分の財産権を持つことになります。

出資持分ありの条件は、定款にて「社員の退社に伴う出資持分の払戻し」および「医療法人の解散に伴う残余財産の分配に定め」を設けていることです。

簡単に言えば、医療法人を解散させたり退職したりするときに、出資持分だけ出資者へお金を渡すか否かになります。また、経営者が亡くなったときに医療法人の財産を相続人へ相続させられます。

  • 医療法人を解散させたときに、出資者へお金を払い戻す
  • 医療法人を退職するときに、退職した出資者へ持分だけのお金を渡す
  • 出資者が死亡したときに、医療法人の財産を相続人へ相続できる

一方で持分なしだと、こうした財産に関する受け渡し関係の権利がありません。

  • 医療法人を解散させたときは、残余財産を受け取れない(国庫へ帰属する)
  • 退職したときは、出資割合に応じた財産の返還を求められる
  • 財産権がないので、財産の相続が認められない(相続税も発生しない)

なお、2007年4月の医療法改正により、出資持分ありの医療法人の設立はできなくなりました。

医療法人の営利性

医療法人は非営利法人です。剰余金の配当が行えません。医療法人の役員やその親族が株主となっている企業との取引で、相手を優遇するような取引も禁止です。

また、営利法人は医療法人の社員や役員になることもできません。

医療法人と株式会社の違い|なぜ事業承継対策が必要なのか

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医療法人は株式会社との経営体制などの違いから、事業承継対策をいかに講じるかが非常に重要です。とくに出資持分ありの医療法人は、資金・税金面の負担が大きく関わってきます。

なぜ医療法人の事業承継対策が必要になるのか、医療法人と株式会社の違いを見ながら解説します。

剰余金の配当禁止による税金負担や払戻し負担増

株式会社の場合、剰余金を株主への配当に回せます。一方で医療法人は剰余金の配当が禁止されているので、多くの場合内部留保として医療法人の財産になります。

ここで何が起きるかというと、事業承継や相続で貯まっていた財産を移すときに、多額の金銭的負担が発生する可能性があるのです。

長年、内部留保として蓄積された財産を基に相続税・贈与税などの税金や、出資分払戻しの計算が行われます。先のA50万円・B50万円の出資で1億円まで財産を築いたと仮定しましょう。そうなると、以下の事態が発生します。

 

  • Bが退職するときに、5,000万円の払戻し請求をされる(出資持分が50%であるため)
  • 親族へ医療法人の財産を相続させるときに、相続財産が多いほど相続税が高くなるので、キャッシュが必要になる

子どもが2人いて医療法人関係の相続をする場合、事業を承継する子どもに経営権を、経営に関係のない子どもに財産を渡す傾向があります。

このとき、財産を受け取った子どもには多額の相続税が課される可能性があり、相続税の支払いが難しい事態が発生するかもしれません。この子どもが納税用のキャッシュを捻出するために、医療法人へ払戻し請求を行うと、医療法人側の負担が大きくなります。

議決権の違いによる後継者指名の困難化

株式会社では、持ち株に応じた議決権が得られるので、株を多く持っている人ほど影響力があります。後継者へ多くの株式を引き継ぐと、後継者がそのまま実質的な支配権を持つことが可能です。

一方で医療法人の場合は、出資割合や出資持分、株の所有の有無に関係なく、社員1人につき1個の議決権を有しています。株式会社に見られる資本多数決の原理が取られていません。出資していない社員も、議決権の行使が可能です。

つまり、事業承継で多額の出資持分の移転などを後継者予定の人に行ったとしても、出資持分に関わらず支配権を得られない可能性があります。例えばM&Aで医療法人を買収した場合でも、既存社員からの同意がなければ新しい社員としての入社ができなくなります。

既存社員へメリット・ベネフィットをいかに掲示し、賛同を得られるかが医療法人の事業承継のポイントとなるでしょう。

理事会設立条件による意思決定の難しさ

医療法人では、株式会社の取締役会に値する理事会の設立を行います。理事会には、原則として3人以上の理事を置かなければなりません。

3人以上の理事の中から選任された理事長は、医療法人を代表して医療法人の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為を行う権限を持ちます。

理事は社員総会によって選任されます。また原則として、理事長は理事のうち医師または歯科医師の者からの選出が必要です。さらに社員総会で選ばれた1人以上の監事を置き、医療法人の財産状況や業務内容が正常であるかを監査します。

このように、理事会および理事・理事長の選任にはさまざまな条件をクリアしなければなりません。社員のからの賛同を得ることに加え、医師・歯科医師の後継者や監査に適した人材を育成しておくことが大切になります。

医療法人の事業承継スキームの種類

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医療法人における事業承継は、「親族内承継」「親族外承継」「第三者承継」の3種類が存在します。

親族内承継は、事業承継が比較的受け入れられやすいこと、後継者として早めに育てられることなどがメリットです。しかし、実質的には親族が医師や歯医者でなければ、後継者として指名するのが難しくなるでしょう。

親族外承継は、経営者としての資質を持つ人や能力が高い人へすぐに事業承継できる点がメリットです。ただし事業承継を断られたり、内部体制を大きく変えられたりなどのリスクがあります。

M&Aによる事業承継の場合は、事業規模の拡大や別企業のノウハウの流入などのメリットがある反面、既存社員・新規社員同士のトラブルや経営権の問題などが発生する可能性があります。

以下では、持分あり医療法人における事業承継のスキームについてより詳しく見ていきましょう。

親族内・親族外承継のスキーム

親族内・親族外承継を行う場合は、「出資持分の移転」「出資持分の払戻し」「認定医療法人の活用」の3つのスキームが考えられます。

出資持分の移転

親族内承継を行う場合は、主に医療法人の理事長が後継者へ、自身の出資持分を移転する方法があります。ただし前述の通り、医療法人において出資持分を譲渡しただけでは経営権の移動はできません。

そのため経営権の承継のためには、後継者に賛同する社員の確保や社員の入れ替えなどを行い、後継者が社員総会にて問題なく選任されるようにする必要があります。

出資持分の移転は手続きの容易さや雇用・取引関係への影響なしといったメリットがあります。また、社員の確保ができれば必ずしも入れ替えしなくてもよい点も注目すべき点です。

一方で、多額の相続税・贈与税や、出資持分の買い取り資金が必要になる点がデメリットです。

出資持分払戻し

出資持分払戻しは、前理事長などの出資者が医療法人を退社したときに出資持分の払戻しを受け、その後に後継者があらためて出資して入社するスキームです。

移転と同じく社員の入れ替えが必要なく、手続き自体も比較的簡単となります。さらに移転と異なるメリットは、後継者に贈与税や相続税、譲渡による所得税・住民税が発生しない点です。相続人との調整も必要なくなります。

ただし、払戻しを受けた人は生じた利益について総合課税の配当所得の納税義務が生じます。

認定医療法人の活用

認定医療法人とは、持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行を決定し、厚生労働大臣から移行計画について認定を受けた医療法人です。

本来、持分あり医療法人から持分なし医療法人に移行すると、出資持分の放棄・定款変更が必要です。このとき出資持分を放棄すると、放棄した出資分は他の出資者へ回されます。

すると出資分を回された他の出資者へは、「放棄された分の出資持分に相当する利益を贈与された」とみなされるので、他の出資者や医療法人へ相続税や贈与税が発生してしまいます。

しかし、認定医療法人制度に認定されていれば、相続税・贈与税の課税に関する猶予を受けることが可能です。さらに相続税の場合は移行期限までに相続人が出資分を放棄、贈与税の場合は持分なし医療法人への移行後6年経過すると免除されます。

このスキームのメリットは、持分の払戻しを受けるための資金が不要な点、税務リスクなどがなくなる点などです。しかし、認定要件を満たす必要がある点と、出資持分の払戻しを受けられない点といったデメリットがあります。

第三者承継(M&Aによる事業承継)

第三者承継(M&Aによる事業承継)の場合、「出資持分の移転」「出資持分の払戻し」に加えて、「合併」「事業譲渡」という選択肢が増えます。

合併

2つ以上の医療法人が1つの医療法人になることを、合併と呼びます。合併には吸収合併と新設合併があります。

合併の種類 概要
吸収合併 合併により消滅する側の医療法人の権利義務を、すべて合併後に存続する医療法人が承継する方法
新設合併 2以上の医療法人の合併において、消滅する医療法人すべての権利義務を新しく設立する医療法人に承継させる方法

合併の場合、煩雑な手続きにかかる時間・労力や簿外債務などが発生するデメリットがあるものの、経営基盤強化・業務効率化・コスト削減などのメリットがあります。

事業譲渡

事業譲渡は、事業の全部または一部を他の医療法人へ譲渡することです。譲渡する資産や権利義務関係は、事前の契約に定めておきます。また、相手方の社員への同意・承諾を取得する必要があります。

手続きが煩雑になる点や許認可が必要になるデメリットがあるものの、承継する権利義務の取捨選択によってリスクを事前に排除できるのがメリットです。

医療法人の事業承継は慎重な対策が必要

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医療法人の事業承継は、株式会社とは異なる点で注意すべき点が多いです。出資持分に応じた相続税・贈与税が発生したり、社員の賛同が必要だったりなど、事前に慎重な対策を検討することが大切になるでしょう。

医療法人の事業承継に関しては、M&Aや事業承継に強い専門家と協力して進めることをおすすめします。医療法人の事業承継の実績・経験を持つ機関を選定し、相談してみてはいかがでしょうか。

企業の教科書
安藤 正道
記事の監修者 安藤 正道
きわみアセットマネジメント株式会社 取締役

金融商品仲介業「きわみアセットマネジメント株式会社」取締役。
きわみアセットマネジメント株式会社は特定の金融機関に属さず、お客さまのライフプランに最適なアドバイスができるIFA法人です。お客さまの一生涯のパートナーとなり、寄り添います。ご相談は無料ですのでお気軽にお問合せください。

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