経営理念は、事業拡大や業績向上などには直接関係ないように思えるかもしれません。しかし経営理念の本質は、企業経営の根幹に関わる重要なものです。社内・社外から共感を得られる経営理念を掲げることは、さまざまなメリットにつながります。
当記事では、経営理念の重要性や経営理念の具体的な作り方、経営理念を社内に浸透させる方法を解説します。
経営理念とは?なぜ必要なのか理由を解説
理念とは、「このようにあるべきだ」という、事業や計画などの根本となる考え方・想いのことです。
そして経営理念とは、主に経営者が表明する、企業活動における考え方や行動方針のことです。行動指針や企業の抽象的・理念的な目的、規範、理想、価値観などを包括的に表したものと言い換えられます。
「なぜこの企業が存在しているのか」「目指すべき方向はなにか」「事業活動でどんなことを達成したいのか」といった、経営の基軸や経営者の想いを表す経営理念。作り方を解説する前に、経営理念はどうあるべきかについて考えてみましょう。
経営理念が必要な理由|重要性について
経営理念は、企業が将来的に歩いていくべき道筋や、従業員が取るべき行動など、企業に関する行動の方針・目標を表したものです。また、組織・従業員個人・その他ステークホルダーの3方において、企業への評価の際に指標とされるものでもあります。
自社の事業・利益を拡大したり、顧客を獲得し続けたりするための基軸になる、非常に重要な存在であると言えるでしょう。
経営理念はただ作成して掲げておくだけでなく、社内に浸透させる必要があります。経営理念が十分に組織に浸透すると、次のようなメリットを得られるようになります。
- 従業員が普段の業務や営業活動において、どのように行動すべきか自律的に判断・行動できるようになる
- 経営理念に共感した優秀な人材を惹きつけることで、採用活動のプラスになる
- 従業員のエンゲージメントやモチベーションが向上し、生産効率の向上が見込める
- 社外に経営理念を発信することで、事業を通じて社会へ広めたい価値・貢献を株主や顧客へ伝えられる
また、株式会社ワークポートが転職希望者386人に対して実施したアンケート調査によると、「経営理念に対してどれくらい理解・共感しているか」について、次の結果が出ていました。
- 勤務先の経営理念を認識していると回答したのが55.4%
- 勤務先の経営理念に共感していると回答したのが54.0%
- 転職時に経営理念を重視すると回答したのが70.2%(現在の仕事に入社したときに重視しなかった人は65.6%)
- 転職時に経営理念に共感できない企業への応募意欲が下がると回答したのが53.6%
アンケートの回答の中には、「企業がどれくらい社会に貢献しているかを見る」「事業戦略・組織体制と経営理念が乖離していると気になる」といった声がありました。
在職時や転職活動時に経営理念を意識している人は少なくありません。経営理念が採用活動にも影響を及ぼしていることがわかります。
経営理念と企業理念の違い
経営理念と近い意味の言葉に、企業理念があります。企業理念とは、創業から継続して重要視する、企業としての価値観や考え方を明確化したものです。
企業理念は、一般的に途中で変更されることがありません。経営者が他の人になっても、同じ事業活動が続くなら企業理念も継続されます。
一方で経営理念は、経営者が代わると変更される可能性があります。経営理念は、あくまで経営者の考え方とされるからです。また、時勢・トレンドとのズレや業績とのバランス、経営者や従業員の違和感などによっては、途中で変更することも珍しくありません。
以下ではさらに、経営理念と似た意味の用語をまとめました。
経営理念と似た言葉 | 意味 |
---|---|
ミッション | 企業・組織の目標や果たすべき使命・存在意義を表すもので、 経営理念と同一視したり経営理念の一部として考えたりなど、 企業によって捉え方が変わる |
ビジョン | 経営理念にもとづいて、ある時点までに「こうなっていたい」と考える、 経営・事業における到達点のこと |
バリュー | 企業として社会や顧客へ提供する具体的な価値、 ミッションやビジョンを達成するための具体的な行動指針を表す |
行動指針 | 経営者や従業員1人ひとりの具体的な行動の方向性のことで、 クレドとも呼ぶ企業もある |
経営理念の作り方!考え方の4つのステップ
経営理念の作り方に、決まった型はありません。とはいえ、考案する際には押さえておくべきポイントがいくつかあります。ここからは経営理念の作り方について、以下4つの考え方のステップを解説します。
- 経営者の願望や事業で達成したい目的を書き出す
- 企業の現状を分析する
- 押さえるべきポイントに沿って案を出す
- 推敲や定期的な見直しを行う
経営者の願望や事業で達成したい目的を書き出す
経営者や企業にとっての根幹となる経営理念は、経営者が事業を通じて何を達成したいかを客観視することが大切です。
まずは、経営者の願望を何でもよいのでひたすら書き出してみましょう。お金を稼ぎたい、会社を大きくしたい、M&Aで会社を売りたい、取引先・顧客の両方が満足する商品・サービスを提供したいなど、なんでも構いません。
経営理念は、経営者本人の言葉かつ本音でないと意味がないためです。もし共同経営者や従業員がいる場合は、一緒に考えて、意識を共有しておきます。
反対に、絶対にやりたくないことも同時に書き出します。考え方が合わない人と付き合わない、意見を一方的に主張する企業とは取引しない、無理な売り込みはしないなどです。
参考として他社の経営理念を見る方法もありますが、他社の言葉に引っ張られて自分の本音とかけ離れたものになる可能性があります。独自性を出すためには他社の事例に引っ張られすぎず、参考程度に留めるのがおすすめです。
企業の現状を分析する
願望や達成したい目標を書き出したら、次に自社の規模・リソース・スキルなどを踏まえて、本当に実現可能であるか現状を分析します。立派な経営理念を考えたとしても、あまりにも現実離れしていると、ステークホルダーからの共感を得られません。
企業の得意・苦手分野、業界での立ち位置、取り組むべき課題などを客観的に見極めましょう。
押さえるべきポイントに沿って案を出す
書き出した願望・目標や企業の現状を基に、実際に経営理念の案を出しましょう。経営理念を考える上で、押さえるべきポイントは次のとおりです。
- ビジョン(将来像)・ミッション(使命)・バリュー(価値)の3つを意識する
- 経営者だけでなく、従業員の行動指針として相応しい内容になっているか(経営者の独りよがりな言葉ではないか)
- 従業員のマインドにも影響する、経営者の想い・情熱や社会的意義のある内容になっているか
とくに重要なのは「一緒に働きたい」「この企業のサービスを利用したい」と、取引先・従業員・顧客・求職者などから思ってもらえることです。
作る案は1つだけでなく、複数の案を出してから広げていくのが作成のコツです。
推敲や定期的な見直しを行う
作成した案や仮決めの経営理念は、推敲・修正を繰り返しましょう。チェックすべき点は次のとおりです。
- 他社の理念と似通っていないか
- 手垢にまみれた表現になっていないか
- 従業員・顧客などから共感を得られる内容となっているか
- 当初の願望・目的や社会的意義から逸脱した内容になっていないか
作成してすぐには結論を出さず、数日間置いてから客観視するのも効果的です。足りない言葉、より優れた表現、不要な文言などが見つかる可能性があります。
また、一度決定した経営理念は、経営状態や時代にあわせて定期的に見直すことも大切です。とはいえ、何度も変更するとステークホルダーからの信頼を損なうリスクがあるので注意してください。
経営理念を社内に浸透させるには?
いくらよい経営理念を掲げても、従業員に浸透していなければ効果が見込めません。社外に広める際も説得力に欠けてしまいます。
経営理念が社内に浸透しない理由として、周知が足りない、意味が正しく伝わっていない、大切さを理解できていない、経営陣が作っただけで満足しているなどが考えられます。
こうした事態を回避して経営理念を社内に浸透させる手法として、次のような方法が挙げられます。
- 社内パンフレットやホームページなどで掲示する
- 研修や朝礼などで定期的に触れさせて単純接触効果を狙う
- 従業員と一緒に経営理念を作成し自分ゴトにしてもらう
- 評価制度や評価項目に理念を反映させる
- 経営層や管理職が手本となり行動する
- 社内制度に経営理念を反映する
経営理念を実現させるために
作成した経営理念を実現させるためには、社内への浸透と同様に税理士や弁護士など顧問契約をしている士業の方にも共有をすることが重要です。
資金調達や事務所の展開など経営上の大きな決断の際には、税理士や弁護士などによる手続きが発生するものです。その際に士業の方が経営理念を理解していると、より効果的な手法や手続きを提案してもらえる可能性が高くなります。
経営理念や経営者の考えが十分に共有されていないと、一般的な手続きとして処理されてしまいかねません。経営理念の実現には、経営上の大きな決断を行う際に関わる関係者への浸透もまた重要になってくるのです。
経営理念を企業の成長につなげよう!
経営理念は、組織全体の方向性を一致させたり、社外のステークホルダーへ存在や社会的意義を伝えたりするためには重要なものです。多くの人の共感を得られる経営理念は、企業の生産性の向上や、優秀な人材の獲得などを達成してくれるでしょう。
経営者の情熱や提供する事業の具体的な価値が伝わる経理理念を作り、企業の成長につなげてください。