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リーンスタートアップとは?|ローリスクなリーンスタートアップを解説!

リーンスタートアップとは?|ローリスクなリーンスタートアップを解説!

リーンスタートアップという言葉をご存知でしょうか。リーンスタートアップはアメリカで生まれた概念で、コストや人材などの事業資源を必要最小限で投資し、テストを繰り返して製品やサービスを昇華させ、ローリスクで起業を成功させるメソッドです。日本でも起業家への社会的期待が高まる中、リーンスタートアップが起業を着実に実現させるための手法として注目されそうです。今回は、このリーンスタートアップについて説明します。

リーンスタートアップとは何か?

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リーンスタートアップ(Lean Startup)とは、アメリカの起業家エリック・リース(Eric Ries)が発案した起業メソッドです。1978年生まれのリースは2001年に名門イェール大学を卒業後、シリコンバレーに移住してソフトウェアエンジニアの職を得ます。就職から二年後、ウェブベースの3Dバーチャル・プラットフォーム開発スタートアップ企業を立上げますが、この会社は起業して間もなく経営破綻してしまいます。

リースはその後、すぐに別のスタートアップ企業のIMVUを立上げ、2006年にベンチャーキャピタルから100万ドル(約1億1千万円)の資金調達に成功します。シリコンバレーの水準では比較的少額とされたその資金調達の背景には、「必要最小限の資金しか集めない」というリースの固い信念があったとされています。

IMVUはその後1800万ドルの本格的な資金調達を成功させ、リースはIMVUを後にします。なお、IMVUはその後、本格的なアバターソーシャルプラットフォーム開発企業として世界中でユーザーを獲得し、現在までにそのビジネス上の地位を固めています。

リースはその後、ベンチャーキャピタルでいくつかのベンチャー投資を行いながら、それまでの起業経験からいくつかの原則を導き出し、リーンスタートアップというコンセプトを構築しました。2011年にリースは書籍「ザ・リーンスタートアップ」(The Lean Startup)を出版、ベストセラーとなります。

リーンスタートアップは、今日のアメリカのベンチャー投資の世界では知らない人がいないくらい一般化し、今では多くのスタートアップ企業がリーンスタートアップで企業を経営しています。

リーンスタートアップの5つの原理

リーンスタートアップは、以下の五つの原理で構成されています。具体的に見てみましょう。

リーンスタートアップの原理1.「起業家はどこにでも存在している」

リーンスタートアップの五つの原則の第一として、リースは「起業家はどこにでも存在している」と主張します。Appleのスティーブ・ジョブズのように、起業家は自宅のガレージの中だけに存在しているのではありません。起業家はGEのような大企業・国税局・ハリウッドの世界にも存在しています。

「リーンスタートアップとは何か?」という問いかけに対し、リースは次のように答えます。「リーンスタートアップとは、リスキーな製品やサービスの開発に取り組んでいる人々のグループのことです。そうしたグループは大手石油会社のエクソンや、アメリカ海兵隊の中にも存在しています」

つまり、リースは、「起業家とはスタートアップ企業の中だけに存在しているわけではない。それは大企業や役所などの組織の中にも存在している。そして、果敢にリスクをとってチャレンジする人々こそ、リーンスタートアップを構成する第一の原理なのだ」と主張しているのです。

リーンスタートアップの原理2.「起業とはマネジメントのことである」

リーンスタートアップの第二の原理は「起業とはマネジメントのことである」です。スタートアップとは単に製品やサービスを生み出すのみならず、それ自体が組織です。それゆえ、組織のマネジメントが求められるのです。しかも、組織の目的実現のための最適なマネジメントが求められるのです。

スタートアップ企業は、どちらかというと製品やサービスの開発に集中するあまり、組織のマネジメントをおろそかにしてしまう傾向があります。リースは、この原則を5つの原則に取り入れることで、スタートアップ企業の経営者達に的確なマネジメントを取り込むように促しているのです。

リーンスタートアップの原理3.「バリデーテッド・ラーニング」

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リースによると、スタートアップ企業の存在理由はお金を稼ぐことでも顧客に奉仕することでもありません。スタートアップ企業の存在理由とは、「持続可能なビジネスを構築する方法を学習すること」なのです。

「持続可能なビジネスを構築する方法を学習する」ために、リースは彼が「バリデーテッド・ラーニング」(Validated Learning)と名付けた仕組みを提唱します。「バリデーテッド・ラーニング」とは、直訳すると「実際に検証された学習方法」になりますが、モニターユーザーなどに実際に製品・サービスを使ってもらい、「ニーズなどの検証」をしながら学習する仕組みです。この仕組みが社内にないと、当てずっぽうな市場予測をもとに大規模な投資を行い、結果的に事業立上げに大失敗したりするリスクを抱えたりすることになります。

リーンスタートアップの原理4.「イノベーション会計」

スタートアップ企業の結果を最大化するために、スタートアップ企業は社内に「イノベーション会計」を導入する必要があります。事業立上げの進捗状況を測定し、マイルストーンを設定し、それぞれの仕事に優先順位を付ける必要があります。そのために新しいタイプの会計の仕組みを用意する必要があります。

リーンスタートアップの原理5.「ビルド・測定・学習」

第五の原理は「ビルド・測定・学習」です。「ビルド・測定・学習」は、リーンスタートアップの根幹をなす原理です。スタートアップ企業の基本的な活動はアイデアを製品・サービス化し、見込み客の反応を観察・測定し、改良点や問題点などを把握して学習することです。成功するために、スタートアップ企業はこのサイクルを構築し、製品や・サービスのクオリティを最大化する必要があります。

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リーンスタートアップの要!MVPを創造せよ

MVPというコンセプト

ところで、リーンスタートアップではMVPというコンセプトを多用します。MVPとはMinimum Viable Productの略で、直訳すると「実用最小限の製品」になります。上述した第五の原則「ビルド・測定・学習」では、サイクルの最初にアイデアを製品・サービス化すると説明しましたが、その際、必要最小限の機能をもった製品・サービスを、できるだけコストなどのリソースをかけないで開発するといったイメージです。

MVPについてリースは、「MVPとは最小限の努力で得られる、チームに最大の学習情報を獲得させる新製品のことだ」と説明しています。

例えば、クラウドベースの顧客管理アプリケーションを開発する場合、最初から多くの機能を盛り込んだ豪華なアプリケーションとして開発するのではなく、あくまでも必要最小限の機能だけを持たせて開発するのです。それを見込み客にテスト利用してもらい、反応を測定して学習し、改善を施すのです。

MVPを提供することでユーザーの反応もシンプルでわかりやすくなり、学習もしやすくなるため、結果的に製品そのものの品質が高まってゆくのです。また、MVPであれば開発にかかる時間も最小限に短縮できるというメリットもあります。

MVPの例

では、実際のMVPの例を見てみましょう。MVPの好例としてよく引用されるのがYahoo!です。Yahoo!は、1994年にスタンフォード大学の学生ジェリー・ヤンとデービッド・ファイロの二人が構築した検索システムです。検索システムとはいうものの、二人が構築した最初のYahoo!はおよそ検索システムとは言い難い、ひとつのHTMLページからなる単なる「リンク集」でした。

リンク集からスタートしたYahoo!は、ユーザーからのフィードバックを基に改善と機能拡張を続け、本格的な検索サービスの提供を始めたほか、今日までにYahoo!ニュース、Yahoo!ファイナンス、Yahoo!メール、Yahoo!エンターテインメント、Yahoo!スポーツといった、様々なジャンルのサービスを総合的に提供する巨大サイトに成長しました。

また、FacebookもMVPの例としてよく引用されます。Facebookは2003年にマーク・ザッカーバーグとエデュアルド・サヴェリンの二人のハーバード大学の学生が構築したソーシャルメディアです。当初はハーバード大学の女子学生の美人投票システムとして誕生したFacebookは、その後シンプルなメッセージング機能を持つようになり、会員間がメッセージをやり取りするウェブサイトとして再構築されました。当初は、このシンプルな仕組みが提供されていましたが、その後タイムライン機能や各種のアプリケーションなどを搭載するようになり、今日の巨大ソーシャルメディアに成長しました。

Yahoo!もFacebookも、最初は必要最小限の機能の提供からスタートし、ユーザーのフィードバックを得ながら改良を加え、リーンスタートアップのサイクルを実現していったのです。両社のサイクルは未だに続いており、進化はまだまだ続くでしょう。

リーンスタートアップの3つのリスク

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リーンスタートアップのリスク①技術的リスクまたは製品リスク

ところで、リーンスタートアップを展開する際に注目すべき三つのリスクがあります。まずは技術的リスクまたは製品リスクです。

技術的リスクまたは製品リスクとは、技術的な理由により製品そのものが完成しないリスクです。リーンスタートアップはIT系スタートアップ企業などで多用されますが、例えば、AIやブロックチェーンなどの新技術を使った新サービスの立ち上げを目指すといった場合に、技術が不足するなどの理由から実際には構築できないといったリスクです。IT以外でも医療系スタートアップ企業などでもこのリスクに直面するケースが少なくありません。上述のMVPを設計するに際し、自社および周辺の技術的リソースを使って本当に開発が可能なのか、十分に検証する必要があります。

リーンスタートアップのリスク②カスタマーリスクまたは市場リスク

次にカスタマーリスクまたは市場リスクです。これは文字通り市場や消費者からの支持を十分に集められないというリスクです。MVPを設計し、テストと学習を繰り返すにせよ、その製品・サービスがそもそも市場に受け入れられないリスクは存在し続けます。また、テストを実施するアーリーアダプターの評価が高い場合でも、実際に市場に投入しても反応が芳しくない可能性もあります。つまり、MVPの評判がよくても、市場に受け入れらないリスクは依然として残るのです。このリスクを回避するには、「ビルド・測定・学習」のサイクルの精度を高めるしかないでしょう。

リーンスタートアップのリスク③ビジネスモデルリスク

さらにはビジネスモデルリスクです。ビジネスモデルリスクとは、市場において会社を存続させるためのキャッシュを生み出すビジネスモデルが作れないというリスクです。Googleは、今でこそリスティング広告をはじめとする各種の広告を販売して巨大な利益を上げていますが、立上げ直後はキャッシュを生み出すビジネスモデルが長らく見いだせなかったのは有名な話です。あのGoogleですらビジネスモデルリスクに直面していたわけですが、ましてや一般のスタートアップ企業においては、このリスクは相応に高いと考えるべきでしょう。

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まとめ

いずれにせよ、リーンスタートアップは現在もシリコンバレーのテック系企業を中心に支持を集めています。リーンスタートアップの成功事例としてDropboxやWealthfrontがよく紹介されますが、リーンスタートアップはGEなどの大企業にも利用されています。

リーンスタートアップはまた、日本においてもベンチャー企業を中心に利用が進んでいます。特に事業のスクラップアンドビルドが激しいITやウェブ関連の企業で利用が進んでいます。

これから起業を予定している人や、すでに起業していて、事業の立ち上げが思ったように上手くいっていないという人には、リーンスタートアップを実践してみることをお勧めします。リースの著書「ザ・リーンスタートアップ」は、日本語にも翻訳されているので、リーンスタートアップを学びたい人は一読されるといいでしょう。

企業の教科書
高桑 哲生
記事の監修者 高桑 哲生
税理士法人 きわみ事務所 所属税理士

東京都千代田区にある税理士法人きわみ事務所の所属税理士。
「偉ぶらない税理士」をモットーに、お客さんに喜んでもらえるサービスを提供。
税務処理だけでは終わらない、プラスアルファの価値を提供できる税理士を目指す。

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