資金調達で必要になってくる「事業計画書」は書き方に迷う方も多いです。とくに初めて事業を始める方には、わからないことが盛りだくさんです。
事業計画書は事業の詳細や見通しについて記載していきます。どのような事業を行うのか、事業はどう伸びていくのか、社会や消費者にどのようなメリットをもたらすのかまで予測して作成する必要があります。
金融機関や投資家にとって、事業計画書とはその事業や企業の将来性を推し量るためのものです。「この事業は伸びる見通しがある」「この企業を応援したい」と思ってもらえなければ、資金調達を成功させることはできません。
良い事業計画書とは「誰にでも理解でき、達成可能な数値で十分に検証された」ものです。事業計画書に決まったフォーマットはありませんが、ほとんどの場合で記載されている13個の項目があります。事業計画書の作成目的と合わせてみていきましょう。
事業計画書とは?
事業計画書とは、新たな事業の今後の計画をまとめたものです。
市場規模や収益予測、競合他社の状況など、さまざまな観点から事業の今後を予測して文書化していきます。今後どのように事業を進めていくのか、またその事業はどうなっていくのかを明確な根拠のもと計画書としてまとめます。
事業計画書は、金融機関や銀行の融資の際に提出する必要のある書類です。そのため、いい加減なものを作成してしまうと審査に差し障りが出てしまいます。「計画書」であっても、根拠のある見通しを作成する必要があるのです。
一方、「計画書」とある通り事業計画書は、あくまで「計画」にもとづいて作成されるものです。そのため、当然起こった事実と結果でズレが出てしまうケースもあります。
事業計画書のとおりにいかない場合でも、事業計画書には活用の機会があります。事業計画書と何が違ったか、どこがずれたから結果が変わってしまったのか、確認ができるのは事業計画書があってこそです。
事業計画書がどこから変わってしまったのか、なぜ変わってしまったのか分析して、今後の方針を立てるのにも事業計画書は一役買ってくれます。
事業計画書は必要?事業計画書の目的
事業計画書の作成目的は、3つあります。
- 事業の解像度をあげる
- 資金調達をする
- 事業計画を他者と共有する
事業を行っていく上では、欠かすことのできない目的です。事業計画書作成の際は、目的を忘れることのないよう取り組みましょう。
事業の解像度をあげる
事業計画書を作成することは、経営者の事業に対する解像度をよりクリアなものとする目的があります。
事業計画書は事業に対する深い理解と、正確な根拠に基づいた計画がなければ作成できません。そのため、事業計画を何度もブラッシュアップする必要が出てきます。
事業計画書の作成過程で、作成者は事業に対する理解をより深めていきます。今まで憶測であった部分の根拠を探したり、競合他社について研究をし商品やサービスに改良を加えたりするなど、事業計画がより洗練されたものへと昇華されます。事業の解像度がより明確なものとなるのです。
資金調達をする
事業計画書は、どのような事業を行うのかといった基本的な情報から、今後その事業がどの程度収益を上げていくようになるのかといった情報まで事業に関わる包括的な情報を確認できる書類です。
金融機関や銀行の融資では、事業計画書の提出が求められます。また、個人投資家も事業計画書をみて投資先を判断します。個人投資家たちにとって事業計画書とは、事業の将来性を図るための書類です。
事業計画書を確認することで、資金を融資する側は貸したお金が本当に返済されるのか、また利益をあげられるのか、社会の役に立つものなのかといった事柄を確認していきます。
とくに、お金を貸す側にとって回収見込みは非常に重要なポイントです。計画がしっかり立てられておらず、収益に根拠がないと思われてはお金を貸してもらえません。そのため、数値化された明確な根拠を元に事業計画書を作成する必要があります。
また、事業や企業に対する理念や代表者自身も、個人投資家にとっては融資を判断するポイントになります。「この事業を応援したい」「この代表者を後押ししたい」と思ってもらえるような事業計画書に仕上がっていると、資金調達は有利でしょう。
事業計画を他者と共有する
事業は複数人で推進することが多く、役員や従業員、取引先など周りの人々と一緒に作り上げていくものです。事業計画書は従業員と事業に対する認識を共有するためにも役立ちます。
事業がどのようなものなのか、今後どうしたいのか記載する項目があるため、事業計画書を読めば事業の情報を作成者と読み手の間で共有できます。説明の都度資料を用意していては手間がかかりますが、融資用の事業計画書を他者とも共有すれば一つの資料で、事業計画を他者と共有する目的も達成できるのです。
【事業計画書の書き方】事業計画書の代表的な記載項目
事業計画書には「必ずこれで書かなければならない」と決められたテンプレートはありません。しかし、事業計画書の必須項目ともいえる代表的な13項目があります。
- 会社のプロフィール
- 創業者(代表者)のプロフィール
- 事業のビジョン
- 事業の概要
- 商品・サービスの説明
- 顧客のメリット
- 市場規模
- 競合他社の動向
- 自社の強み
- 販売戦略
- 生産方法や仕入先
- 収益予測・計画
- 財務計画
基本項目は、会社や事業を説明する上で欠かせない項目です。
インターネットを検索するといくつかフォーマットを見つけられます。利用しやすいものを元にして項目を追加・削除しながら作成するといいでしょう。
会社のプロフィール
会社の基本的な情報を記載する必要があります。たとえば下記の項目です。
- 商号(社名)
- 所在地
- メールアドレス
- 電話番号
- 会社サイトのアドレス
- 主力製品
- 主力サービス
- 株主の構成
- 代表者
- 役員
- 従業員数
会社サイトの「会社案内」に掲載されているような内容が該当します。
創業者(代表者)のプロフィール
創業者がどのような人なのかプロフィールを記載します。氏名、学歴、過去の職務経歴、保有資格などの基本情報や、創業の動機やきっかけといった事業への繋がりがわかる情報も含まれているといいでしょう。
とくに、過去の職務経歴や保有資格は重要になります。
経験が少ない人より経験が豊富な人に事業を任せたいと思うものです。なぜなら、経験した職務や保有資格が事業に関連しているかは、事業に対する代表者の経験度合いを図るものの1つになるからです。
事業のビジョン
事業に対するビジョンを語りましょう。なぜこの事業を始めたいのか、誰に届けたいのか、事業を始めることでどのような結果をもたらしたいのかなど、事業を通して思い描く未来を言葉にします。
創業者のプロフィールと違い事業の今後について記載できる項目です。
過去の経歴が事業と直結していない人はより力を入れるといいでしょう。事業への想いをアピールするチャンスです。いかに事業に対する想いを伝えられるかで資金調達の結果に大きく影響を与えます。
「これから何を目指したいのか」や「どうしてもその事業を成し遂げたい」という想いが、読み手に伝わるよう文章化することが大切です。読んでいる人に「共感できる」「この事業を応援したい」と思ってもらえるような内容を目指しましょう。
事業の概要
事業の概要も説明します。
どのような事業を行うのか、ターゲットは誰なのかを明確に伝えます。図やグラフを利用し、可視化するのも一つの手段です。「どのようなことを行うのか」を読み手が理解できるように、下記のことをわかりやすく説明しましょう。
- 誰に商品やサービスを提供する事業か
- 何を提供する事業か
- 顧客にどのように商品やサービスを提供する事業か
商品・サービスの説明
事業で取り扱う商品やサービスについて詳細に説明をします。何を・誰に・どのように提供するのか明確に記載しましょう。おおよその価格帯が決定している場合は、価格情報も記載します。
事業全般の商品・サービスの説明に加えて、主力となる商品・サービスがあれば記載します。なぜその商品が主力となりうるのか、明確な根拠を添えられるとより信用度が増します。
また、他社と比べて優位なポイントがあれば、アピールするといいでしょう。セールスポイントになり得る情報は、積極的に記載するべきです。
顧客のメリット
事業を行うことで、商品やサービスの顧客がどのようなメリットを得られるのか明示します。
顧客の現状と事業による商品・サービスを使うことで変わる今後が比較できるように記載するといいでしょう。読み手が今後を想像できることで、事業に対する理解度が増します。
事業計画書での顧客とは、単に商品やサービスの消費者のみを指すのではありません。事業で結果的に利益を得る人を対象に記載しましょう。
たとえば、「事業を通してこの商品を提供することで紙の使用料を30%減らせる。地球環境に優しい(=環境保全にメリット)」といった、直接の消費者でないもののメリットを指します。
事業を行うことで、社会にどのような影響を与えられるのかを考えながら作成するといいでしょう。
市場規模
展開予定の商品・サービスの市場規模がどの程度か記載します。
現状どのくらいであるのか、また今後の社会の動きを加味すると、市場はどのように増加・減少していくのか記載します。商品やサービスを海外でも展開する見通しであれば、海外の市場規模も視野に入れましょう。
市場規模は、憶測ではなく何か明確なデータにもとづいて算出する必要があります。一人で作成することが難しければ、プロの力を借りるとよいでしょう。
競合他社の動向
展開予定の商品・サービスに競合がいる場合、他社の動向や情報を記載しましょう。新たに動きがある会社の情報は、しっかりと掴んでおく必要があります。競合他社は日々情報をキャッチアップするよう心掛けましょう。
また、競合他社と呼べる企業が何社くらいあり、競合他社が市場シェアのうちどの程度を占めているのかも記載します。
知名度が高い会社が大規模のシェアを占めている・新しい会社が均等にシェアを取り合っているなどの傾向が見えると、読み手にとって今後の事業の行く末を予想する重要な判断材料となります。
自社の強み
会社自体に、または扱っているサービスや商品にどのような強みがあるのか記載します。
自社の良いところをアピールできる項目です。コスト面や社会貢献度など、さまざまな観点から考察を行いましょう。数値を用いて明示できるとより効果的です。
他社との違いや、社会に貢献できる事柄なのかなど、読み手に「この会社を応援したい」「魅力的な会社だ」「投資先として十分な価値がある」と受け取ってもらえる強みを記載しましょう。作成者が感じている強みだけでなく、第三者から見た強みも取り入れられるとより魅力的なものとなります。
販売戦略
事業展開する商品やサービスの販売戦略を記載します。
どんな顧客層にどのようなルートでアピールをし、どのような販売チャンネルを利用して商品を売っていくのか記載しましょう。仕入・販売・広告に関する事項を整理し、読み手にわかりやすく伝える必要があります。
また、「この販売戦略が効果的である」という確証も添えるといいでしょう。さまざまなデータを駆使して、その広告媒体を利用することが自社のターゲット層獲得に有効なことを立証しましょう。
数十年前までのテレビ・新聞主体の販売戦略とは違って、近年はSNSやYouTubeなど顧客にアプローチする方法が多様化しています。時代の流れにあった販売戦略を行うことが重要です。
生産方法や仕入先
生産方法や仕入先がすでに決定している場合は、記載しましょう。取引先に大手企業が決まっているならば、読み手へのアピールに繋がります。
また、展開する事業の商品は安全なものでなければいけません。商品の品質面や生産方法が安全であることを示しましょう。
収益予測・計画
収益予測・計画は事業計画書の中でも重要な部分です。事業を始めることで、どのくらいの収益が見込めるのかや根拠を記載していきます。
利益は「売上-費用」で算出されます。そのため、売上と費用も記載する必要があります。売上を予測するには、市場規模や自社の優位性を考慮しなければなりません。
また、費用を予測するには、生産体制や原材料についてしっかり検討を重ねている必要があります。
新規事業のため、最初は赤字になることもあるでしょう。赤字になった場合は、いつから黒字になりそうなのか予測も書き添えます。グラフを利用して、黒字化までの推移を明確に示せると良いでしょう。もちろん、黒字に至る根拠も記載する必要があります。
財務計画
資金調達を含めた財務計画も記載が必要です。
何にお金を使うのか、今いくらあるのか、また今後どこかから融資する予定はあるのかなど記載しましょう。すでに借り入れを行っている場合は、どこからいくら借り入れているのかという情報も必要です。
どのくらい外部の資金が入っているのかは、事業計画書を元に投資や融資を行う人にとって重要な判断材料となります。
良い事業計画書の条件
事業計画書の作成が終了したら、必ず見直しを行いましょう。見直しの際には、3つの観点から事業計画書を読むことをおすすめします。
- 他人が読んでも理解できる
- 達成可能な数値
- 十分な検証
上記3つは事業計画書において重要なポイントです。上記3つが備わっていない事業計画書は「計画書」として不十分であるともいえます。納得がいくまで作り込みましょう。
他人が読んでも理解できる
事業計画書の作成後、必ず自分以外の人に事業計画書を読んでもらうようにしましょう。
事業計画書は自分の考えをアウトプットするものでもありますが、「他者に事業について伝える」ために作成する側面が強い書類です。そのため、他人が読んで理解できない事業計画書では、いい事業計画書とはいえません。
他者に事業計画書を読んでもらい「どのような事業をしたいのか?」「何のために行う事業なのか?」などが他者に伝わる文章になっているのか、確認を行いましょう。そのためには、事業の関係者や共同経営者といった事業に関する知識を持っている人を避け、まったく事業に関係のない人に読んでもらった方がベストです。友人や家族・親戚などに協力を仰ぎましょう。
できるだけいろいろな立場の人に読んでもらうようにし、抜け落ちている情報や観点がないか、独りよがりな伝え方になっていないか入念に確認しブラッシュアップを行っていきます。
達成可能な数値
事業計画書の内容は、あくまで「計画書」です。しかし、達成可能なものでなければなりません。
たとえば、市場規模が10億円程度に対して売上高を100兆円と計画するような達成不可能な計画は、計画書に記載すべきではありません。「見込みが甘い」「市場調査ができていない」「正確性に欠ける」として融資を断られかねないでしょう。計画書であっても、達成可能な数値を見込む必要があるのです。
収益予測や財務計画といった専門的な知識が必要になる計画を立てるときは、専門家に意見を仰ぐことをおすすめします。普段から経営に携わる機会の多い人に見てもらうことで、計画に現実性があるのか、また数字の流れにおかしい点がないのか確認できます。
十分な検証
事業計画書を作成する際は、根拠を数値化して示しましょう。根拠はできる限り最新の情報を利用する必要があります。古い情報をもとに作成してしまうと、世情を反映できません。
リーマンショックや新型コロナウイルス感染症のような世界的に大きな影響を与えた事象が発生した場合、その事象の影響を加味したデータと、加味していない過去のデータを利用した計画とでは、計画上の数値に大きな違いがでてしまいます。
根拠となるデータは、できるだけ最新のものであることを確認した上で事業計画書に記載しましょう。
たとえば、日本政策金融公庫の総合研究所による調査や、中小企業庁の統計情報などは、参考になる統計データなどが公開されています。うまく活用しましょう。
おわりに
事業計画書は、決まったテンプレートはありません。
「事業のビジョン」や「顧客のメリット」では、事業をどのようなものにしたいのか、またどうして事業を展開したいのかなど、事業の想いを記載しましょう。「顧客にメリットがある」「社会貢献になる」など、読み手が事業の意義を理解できるように書き方を工夫する必要があります。
また今後の予測を立てる際には、信用のおけるデータを元に作成しましょう。「収益予測・計画」や「財務計画」を作成するときは、事前に税理士や会計士などへ相談することをおすすめします。
税理士や会計士は、日頃から多数の会社の経営に触れているため、見通しが甘い点や算出根拠が不明な点があれば指摘をしてもらえます。アドバイスを元にブラッシュアップを重ねていけば、より精度の高い予測を事業計画書に組み入れられるでしょう。
事業計画書は、金融機関や投資家が融資の判断材料にする資料です。事業の意義や将来性をしっかりと伝えられる資料に仕上げることが大切です。