総資本回転率は、会計書類のなかにも記載されることがあり、耳にする機会の多い会計用語です。「率」と聞くだけで難しく感じられるかもしれませんが、計算式は意外とシンプルです。
企業が効率よくビジネスをおこなっているかを表す総資本回転率。その計算方法や重要な理由、同じ「回転率」と名のつく3つの指標を確認し、企業分析や転職先選びに活用しましょう。
総資本回転率とは?
総資本回転率とは、1年間で売上によって何回総資本が入れ替わったかを表す指標のことです。この計算で算出された結果は「回」または「回転」の単位で呼ばれます。「総資産回転率」と呼ぶこともあり、このふたつは同じものを表しています。
計算式は【総資本回転率=売上高÷総資本(総資産)】。
総資本は「総資産」と呼ぶこともあり、負債と純資産を合わせたものです。売上高は経費を差し引く前の金額(=年商)の数字を当てはめて計算します。
総資本回転率がどうして大事なのか
総資本回転率は効率的に稼いでいるかがわかる指標です。会社の財産を有効活用して、売上につなげているかどうかを判断するために重要となってきます。
ビジネスの場面では、仕入れから売り上げ、代金の回収までをスムーズにできることが重要です。この「仕入→売上→売上代金の回収」という一連の流れを「資本のサイクル」と呼びます。
資本のサイクルの回転数が多くなるほど、少ない資本で売り上げを出しているということ。少ない資金で大きな売り上げを出すことがビジネスでは良いとされています。
総資本回転率の計算例
実際に総資本回転率を計算してみましょう。下記のような実績の2社があったとします。
A社 | B社 | |
総資本 | 800円 | 100円 |
売上高 | 1,000円 | 1,000円 |
A社の総資本回転率は、【総資本回転率=売上高÷総資本(総資産)】の計算式に当てはめてみると、1,000(売上高)÷800(総資本)=1.25(回転)です。
一方、B社の総資本回転率を計算式に当てはめて計算してみると、1,000(売上高)÷100(総資本)=10(回転)となります。
A社、B社の総資本回転率の計算からからわかることは、B社のほうが少ない総資本で売上高を高くしているということ。総資本に比べて売上が大きければ総資本回転率は大きくなり、反対に総資本に比べて売り上げが小さければ総資本回転率は小さくなるからです。
ただし、この計算はあくまでも例。中小企業庁の統計によれば、平成30年度は1.12回ほどが平均的な数値です。
参考:平成30年中小企業実態基本調査速報(要旨)|中小企業庁
A社 | B社 | |
総資本 | 800円 | 100円 |
売上高 | 1,000円 | 1,000円 |
総資本回転率 | 1.25回転 | 10回転 |
総資本回転率を業種別でみる
平成30年度の各産業の総資本回転率は以下の通りです。
業種 | 総資本回転率(回転) |
建設業 | 1.32 |
製造業 | 1.02 |
情報通信業 | 1.06 |
運輸業・郵便業 | 1.17 |
卸売業 | 1.70 |
小売業 | 1.78 |
不動産業・物品賃貸業 | 0.35 |
学術研究・専門・技術サービス業 | 0.66 |
宿泊業・飲食サービス業 | 1.03 |
生活関連サービス業・娯楽業 | 1.05 |
サービス業(他に分類されないもの) | 1.22 |
参考:中小企業実態基本調査 / 令和元年確報(平成30年度決算実績) 確報|中小企業庁
総資本回転率が高い水準となっている小売業や卸売業は、少しでも短いスパンで高い売り上げを確保しなければ成り立たない業種です。そのため総資本回転率が高い傾向になります。
しかし、商品が売れず在庫を抱えることになると不良在庫になってしまう可能性もあり危険です。だからこそ総資本回転率をチェックしておくことが必要になります。
一方で、不動産業・物品賃貸業は総資本回転率が低くなりがちです。原因は、売れる数より持っている土地や部屋のような賃貸物品のほうが多くなるから。
長期にわたって継続的に発生する売り上げのため、1年で見ると総資本に対して売り上げが少なく計上されやすい傾向になります。1年単位で見るのではなく、数年単位でどう変化しているのかを見ると安心です。
総資本回転率を見る際の注意点
総資本回転率の目安は「1.0」と言われることもありますが、目安に惑わされるのではなく、同業種や競合他社と比べることが必要になります。
たとえば回転率の速さが命である小売業と、回転率の動きが遅い不動産業を比べても意味がありません。あくまでも競合他社や同業種で比べることが重要です。
また、1年だけで見るのではなく、数年間分見ておくとさらに安心できます。1年だけで見ると、たまたま今期だけ回転率がよかっただけの場合や、反対に今年だけ悪かったことも考えられ、善悪を判断できないからです。
総資本回転率が低い2つの理由とその対応
総資本回転率が低い理由にはふたつの原因が考えられます。
- 売上が少ない(低下した)
- 無駄な資本がある
貸借対照表(B/S)の流動資産や固定資産の回転率を高めると、結果的に総資本回転率が高くなります。まずはどこに無駄があるのかを探すのがいいでしょう。
総資本回転率が低くなる理由:売上が少ない・低下した
総資本回転率が低くなる理由のひとつが売上が少ない、または低下したこと。総資産が同じでも、売上が低ければ総資本回転率は変わってきます。
たとえば総資産が同じ100円の2社があったとしましょう。【総資本回転率=売上高÷総資本(総資産)】の計算式に当てはめて総資本回転率を計算してみます。
A社は売上高1,000円だとすると、1,000÷100=10回
一方のB社は売上高100円だとすると、100÷100=1回
A社が10回転しているのに対し、B社は1回転しかしておらず、A社のほうが効率的に収入を得ていることがわかります。これは極端な例ではありますが、売上が変わると総資本回転率も変わることがわかったのではないでしょうか?
この場合は、売り上げをアップするために市場調査をしたり、支払期間を見直したりして対応するのがベスト。ただし、人的要因のような他の原因も考えられなくはないので、まずはよく調べる必要があります。
総資本回転率が低くなる理由:無駄な資本がある
総資本回転率が低くなる理由のふたつ目は無駄な資本がある可能性です。総資本の中に売上に貢献していないものがあるということ。
たとえば、高額な設備を導入したものの、あまり稼働していなかったり、余剰在庫を抱えてしまっている可能性が挙げられます。
このような場合には早期に売却するのも手。時間が経つと売却価格が下がってしまう可能性もあるため、売却等の決断はできるだけ早く行うことが重要になってきます。
総資本回転率以外の3つの回転率
実は総資本回転率以外にも回転率が名前につく指標があります。
- 売上債権回転率
- 棚卸資産回転率
- 固定資産回転率
これらを見比べてみることで、どこに無駄があるのか見えてくることもあるので知っておきましょう。
総資本回転率以外の回転率:売上債権回転率
売上債権回転率とは、売上債権がどのくらいの回転率で売上に貢献しているかを表した指標です。計算式は【売上債権回転率=売上高÷売上債権】。
総資本回転率以外の回転率:棚卸資産回転率
棚卸資産回転率とは、棚卸資産が売上にどれほど貢献しているかを表した回転率のことをいいます。計算式は【棚卸資産回転率=売上高÷棚卸資産】。
総資本回転率以外の回転率:固定資産回転率
固定資産回転率とは、固定資産がどれほと売上につながっているかを表した指標です。計算式は【固定資産回転率=売上高÷固定資産】になります。
総資本回転率が低くなる原因を探ってみる
以下のような条件の企業があったとしましょう。
- 売上高:1,000円
- 総資本:800円
この時、計算式に当てはめて計算してみると総資本回転率は1,000÷800=1.25回転です。どこに無駄があるのかを考えていくために、以下の値を使って計算してみましょう。
- 売上債権:100円
- 棚卸資産:200円
- 固定資産:600円
- 売上債権回転率=1,000(売上高)÷100(売上債権)=10回転
- 棚卸資産回転率=1,000(売上高)÷200(棚卸資産)=5回転
- 固定資産回転率=1,000(売上高)÷800(固定資産)=1.25回転
上記の計算結果から、固定資産回転率が低く、固定資産に問題があるということがわかります。次いで棚卸資産をチェックするとよさそうですね。
このように、総資本回転率を計算したうえで、別の指標をみることで、自社(または応募企業)のどこに問題があるのかをはっきりさせることができます。
総資本回転率で企業の健全性をチェックしよう
総資本回転率は1年間で売上によって何回総資本が入れ替わったかを表す指標です。「仕入→売上→売上代金の回収」といった資本のサイクルを、どのくらい効率よく回しているかを表す指標で、単位は「回」や「回転」。多いほど効率的に運用ができているということでした。
総資本回転率の他にも、3つの回転率があり、それぞれを計算することで問題がどこにあるのかを知ることにつながります。
会計用語は漢字ばかりのものが多く、一見するととっつきにくい印象を受けるかもしれませんが、実は計算自体はシンプルなものが多いもの。知っておくことで企業の健全性を調べることができるので、積極的に確認していきましょう。