就業規則とは、各会社や事業所ごとにつくられる雇用主と労働者のあいだのルールを定めたものです。働く条件や服務規程などの基本的なルールが記載されており、双方がこれらのルールを守ることで安心して働くことができます。
また、創業者の思いや社是などを伝える役割もあり、社員(労働者)の労働意欲を向上させる側面もあります。今回は就業規則が必要とされる理由や関係する法律、作成や運用のポイントなどについて考えてみましょう。
知っておきたい!就業規則の基礎
就業規則は、雇用主と労働者のあいだのルールですが、このルールは労働基準法や民法などに基づいた規則でなければならず、会社の意思だけで好きなように作られる訳ではありません。
労働者保護の観点が大きいように感じられますが、素行の良くない労働者から会社を守る側面も大きく、雇用者・労働者どちらも保護されるものといえます。
就業規則と法律の関係
就業規則で定められる労働条件や服務規程などは、労働基準法や民法などの法律にのっとっている必要があります。もし、就業規定に労働基準法などの法律に違反するような内容が含まれていた場合は、無効となることが定められています。
就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
就業規則は10人以上の職場に必要
就業規則は、労働基準法によると、10人以上の労働者がいる職場において必要とされ、その職場を管轄する労働基準監督署(行政官庁)に届け出なければなりません。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
労働基準法の「10人以上の労働者」とは?
労働基準法89条による「常時10人以上の労働者」とは、事業場単位に10人以上の労働者がいるかどうかを指します。つまり、会社全体で10人以上在籍していても、A事業所で8人、B事業所で6人といった場合には、就業規則を作成しなくてもよいことになっています。さらにA事業所で12人、B事業所15人といった場合には、AとBそれぞれの事業所で別の就業規則が必要になります。
また、ここでの労働者とは、正社員だけでなくパート・アルバイト、期間社員などを含むすべての社員のこと。つまり、社員1人、ほかパート9人だった場合でも、就業規則が必要となります。
就業規則がない場合には罰則も
常時10人以上の労働者がいる事業所であるにも関わらず、就業規則の届け出を怠っていた場合には、法律違反となり30万円以下の罰金が課されることもあります。また、就業規則を変更したにも関わらず、届け出ていなかった場合も同様です。
労働基準監督署では立ち入り調査を行うことがあり、就業規則がないことがわかれば、是正勧告が行われます。小規模企業の中には就業規則が定めていない、というところも多いというデータがありますが、是正や勧告・罰金などが課されることのないよう、経営者は就業規則を作成し、届け出を行っておきましょう。
混同しやすい就業規則と社内規程。どこが違うの?
よく似た名前の会社のルールとして就業規則と社内規程がありますが、具体的にどこが違うのでしょう。
どちらも社内のルールであることには間違いないのですが、意味合いは大きく異なります。
- 就業規則:雇用主と労働者のあいだで定められる就業ルール
- 社内規程:経営の意思決定の方法、会計の手順、人事面での決定方法など社内すべてのルール
この社内すべてのルールという考えから、就業規則も社内規程ともいえますが、法律的に決まりごとの多い就業規則はわけて捉えることが一般的です。
就業規則を作成するメリットとは
「就業規則には届け出義務などがあるのはわかるけれど、作成には手間がかかるため手をつけたくない」という経営者の方もいるかもしれません。しかし、就業規則があると、会社を効率よく運営することやリスクを回避することにもつながります。どんなメリットがあるのかをみてみましょう。
就業規則のメリット:労働者との労使トラブルを防げる
労使トラブルでよく見受けられるのは、不当解雇として訴えられる、退職後の残業代請求などです。これらを予防するには、就業規則に解雇や残業代の規則があることが必要です。もし、退職者が労働基準監督署に訴え出たとしても、就業規則が解決の根拠となります。
就業規則のメリット 社員の意欲が向上する
出世や昇給の条件、育児制度についての詳細、退職金の仕組みなどについて、就業規則に明確に定められていれば、労働者の会社に対する信用度や意欲が向上し、結果的に会社の業績も向上することも可能です。
就業規則のメリット:助成金の申請ができる
厚生労働省などの助成金制度では、就業規則を作成・届け出されていることが要件となっていることがあります。就業規則の届け出は10人以上の労働者がいる事業所が対象となっていますが、これから助成金利用を考えている企業であれば、10人未満であっても就業規則を作成しておいたほうがよいでしょう。
就業規則未作成により起こりうるリスク
就業規則が未作成の場合、次のようなリスクが考えられます。
就業規則がないリスク:労働基準法違反となり是正を勧告される
就業規則作成の対象となっている事業所なのにも関わらず、就業規則が作成されていなかった場合、労働基準監督署の是正勧告を受けることがあります。また、罰金を課されることもあります。
就業規則がないリスク:社員に問題があっても懲罰処分などが難しくなる
無断欠勤が多い、情報漏洩を行なったなど、問題がある労働者に対しても規則がないため、懲罰処分などが難しくなることがあります。
就業規則がないリスク:対応があいまいになる
昇給の条件(処遇)などに決まりがないため、ケースバイケースで対応することになり、社員が不満を持ち、労働意欲の低下を招くことがあります。
就業規則がないリスク:労務トラブルに対応できない
不当解雇として訴えられる、退職後の残業代請求などの労使トラブルを解決する根拠となる就業規則がなく、問題が大きくなる可能性があります。
新たに就業規則を作るには
就業規則を新たに作成するには法律などの知識がなくてはならず、なかなか難しいもの。どんなふうに作成すればよいのでしょうか。
厚生労働省のモデル就業規則が役立つ!
平成31年3月、厚生労働省は「モデル就業規則」を発表しました。働き方改革にも対応したつくりとなっており、外国語バージョンもあるなど時代に合ったつくりになっています。word形式になっていますので、これをダウンロードして作成すれば、最低限の就業規則が作成可能です。
細かい解説もあるので、就業規則作成に役立つでしょう。
参考:厚生労働省モデル就業規則
就業規則作成支援ツールを活用
また、厚生労働省では、「就業規則作成支援ツール」を発表。これは、支援ツールを使うことで、就業規則を作成できるというものです。
就業規則についての知識が必要とされる項目もありますが、入力フォームに沿って作成すれば労働基準監督署に届け出ができる就業規則となります。これから起業する人など、ぜひ活用してみてください。
参考:就業規則支援ツール
会社に応じた就業規則が必要
厚生労働省モデル就業規則や、就業規則作成支援ツールは便利なものではありますが、それぞれの事業所の状況を踏まえたものではありません。
就業規則は、会社の規模や業務内容、雇用の人数などによって変わってくるものです。たとえば、病院とデパートなどでは働き方は大きく異なりますね。それなのに同じ就業規則を作成してしまっては、役に立たないものとなってしまいます。その会社、事業所にとって本当に必要な就業規則を作成することが大切といえます。
もし、作成が難しいと感じた場合には、弁護士や社会保険労務士などプロの手を借りるのもよいでしょう。
パート・アルバイトなどへの就業規則はどうすべき?
もし、就業規則が一つしかなかった場合には、法律的にはパート・アルバイトにもその就業規則が適用するとみなされることがあります。そのため、就業規則はパート・アルバイトのほか契約社員や期間社員など、すべての雇用に対応している必要があります。
対応の方法としては、すべての雇用に対応する就業規則を作成する方法と、雇用形態ごとにわける方法とがあります。どちらを採用するかは企業次第ですが、雇用形態ごとにわけたほうが労働条件がわかりやすくなるというメリットがあります。
「同一労働同一賃金」を考慮に入れよう
各雇用で就業規則を作成するときには、令和2年4月から「同一労働同一賃金」が施行されていることを考慮に入れましょう。
「同一労働同一賃金」とは、業務内容が同じであれば、賃金・待遇において同じにするという制度です。つまりパート・アルバイトの雇用でも正社員の職務と変わりないのであれば、同じ賃金を支払い、同じ待遇をする必要があります。
ちなみに、派遣社員などの直接雇用ではない従業員に対しては、派遣会社などの就業規則が適用となりますので就業規則をつくる必要はありません。
新たに就業規則を作成するときの注意点
新たに就業規則を作成する場合、いくつか注意が必要です。まずは必要事項からみていきましょう。
就業規則の注意点:絶対的必要事項
絶対的必要事項とは、労働や賃金、退職、解雇などに関することで下記のように定められています。
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇 並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
就業規則の注意点:就業規則の相対的必要事項
相対的必要事項は、賃金の詳細や経費、安全衛生、教育、懲罰に関することとなり、下記のように定められています。
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
就業規則の注意点:任意的記載事項とは?
絶対的必要事項と相対的必要事項は法律に定められたものですが、任意記載事項は法律の定めがないものを指します。かといって重要でないということでなく、任意記載事項には社訓や社風、仕事への姿勢なども記載できるため、最もその会社の特徴が出る事項でもあります。
公序良俗に反しない限り、会社が自由に定められるものであり、労働者の意思統一にも役立ちますので、しっかりと決めておきたいものですね。具体的には下記のようなものを指します。
- 社訓
- 開業の精神
- 服務規程
就業規則の運用のポイント
就業規則を運用するに当たっては、法律違反でないか、周知義務がなされているかがポイントとなります
就業規則の運用のポイント:法律・条例などに違反していないかチェックを
就業規則は、法律・条例などに違反していた場合、無効となります。たとえば、試用期間だからと最低賃金より低い時給を設定する、有給取得には正当な理由が必要である、といった規則は法律と異なる規則となるため、無効となります。
もし、法律などに違反していないか心配なときは、弁護士などに確認するとよいでしょう。
就業規則の運用のポイント:就業規則は労働者に周知することで有効に
就業規則は、労働者に周知することではじめて効果が発生します。もし、 就業規則があるのにもかかわらず、労働者がその存在を知らないことがあれば、その就業規則は無効となります。これを周知義務といい、雇用者の義務の一つです。この周知義務は、就業規則を変更したときにも必要なので注意しましょう。
就業規則の運用のポイント:周知義務の方法
周知については労働基準法において下記のように定められています。
使用者は、(中略)就業規則(中略)を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
つまり、労働者が見やすい場所、掲示板などに掲示すること、労働者に書面として手渡すこと、ホームページなどに掲載することなどがその方法として考えられます。
就業規則は雇用者・労働者の双方を守る!
就業規則の基礎や作成の方法、運用のポイントについてみてきました。この就業規則は社内のルールですので、厳格に守ったほうが雇用者・労働者が安心して働ける環境を与えることとなり、双方の保護にもつながります。含みを持たせて運用するのでなく、社内の規則として正しくつかいましょう。