補助金・助成金

男性の育休に使える助成金・給付金制度一覧まとめ!取得のメリットも解説

男性の育休に使える助成金・給付金制度一覧まとめ!取得のメリットも解説

2021年7月に厚生労働省公表した「雇用均等基本調査」によると、2020年度に育休を取得した男性は12.65%と、初めて1割を超えています。2019年度7.48%、2018年度6.16%と比べても、徐々に男性育休取得率は上がってきました。

実際に日本政府は男性の育休取得を支援するため、事業者・従業員(労働者)を支援する助成金・給付金制度を設けています。従業員の育休取得は経営面でもメリットがあるため、積極的に育休を取れる環境風土づくりも、経営者は検討していきましょう。

当記事では男性の育休を対象にした助成金・給付金制度の概要や、助成金の申請条件と手順、育休を取得させるメリットなどを解説します。

※当記事ではわかりやすさを重視し、育児休業と育児目的休暇をまとめて育休と称しています。個別に解説が必要なときは分けて記載しています。

男性育休に関する助成金・給付金などの制度一覧

育休(育児休暇)とは、申請によって子どもが1歳(一定条件下では2歳まで)に達するまで休暇を取れる制度です。育児・介護休業法が根拠です。

日本では男性の育休取得率の低さが問題視されています。しかし日本でも「2025年までに取得率30%」「法改正によって2022年4月より育休を取りやすい制度整備の義務付け」など、さまざまな取組を進めている最中です。

実際に男性育休に関する助成金・給付金がいくつか存在します。男性に育休を与えた事業者も支援対象です。当記事では事業者が使える、男性育休に関係する以下4つの制度を解説します。

  • 両立支援等助成金(出生時両立支援コース)
  • 育児休業給付
  • 育休中の社会保険料免除
  • 男性職員による育児に伴う休暇・休業の取得促進

両立支援等助成金(出生時両立支援コース)

両立支援等助成金とは、「働く人が仕事と家庭生活を両立できる職場環境づくり」を支援する助成金です。

そのなかに男性の育休を対象にした「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」があります。

出生時両立支援コースとは、育児休業または育児目的休暇(※)で休業・休暇を取った男性従業員が事業所にいるときに支給される助成金です。

助成金額は、以下の条件によって変わります。

  • 育休を取得した従業員が1人目から2人目以降か(支給は1年度10人まで)
  • 2人目以降の従業員の取得した育休が何日か
  • 個別面談の実施といった育休取得を後押しする取組を導入・実施したときは、助成金を加算する「個別支援加算」があるか
  • 厚生労働省が規定する生産性要件(3年度前より生産性が伸びている、金融機関から事業性評価を得ているなど)を満たしているか

具体的な支給金額は以下の表のとおりです。

中小企業 中小企業以外
1人目 57万円(72万円) 28.5万円(36万円)
1人目の個別支援加算 10万円(12万円) 5万円(6万円)
2人目 5日以上:14.25万円(18万円) 14日以上:14.25万円(18万円)
14日以上:23.75万円(30万円) 1ヶ月以上:23.75万円(30万円)
1ヵ月以上:33.25万円(42万円) 2ヵ月以上:33.25万円(42万円)
2人目の個別支援加算 5万円(6万円) 2.5万円(3万円)

※()内は生産性要件を満たしたときの金額

さらに育児目的休暇制度(※)を導入した後、男性従業員による利用実績が出たときも支給されます。ただし1事業主につき1回までです。

中小企業 中小企業以外
助成金額 28.5万円(36万円) 14.25万円(18万円)

申請条件や申請方法は後述します。

なお両立支援等助成金等には、介護休業を対象にした「介護離職防止支援コース」や、男性・女性の育休に限らず対象になる「育児休業等支援コース(新型コロナウイルス感染症対応特例含む)」があります。

※育児目的休暇とは小学校に入学するまでの子の育児に関する目的で取った休暇のことです。

育児休業給付(2022年4月施行の制度含む)

育児休業給付とは、育休中の従業員に対し、育休期間中の収入を保障する制度です。一般的に浸透しているの育休支援といえばこちらになります。

1~2歳未満の子の育児をする、雇用保険被保険者の従業員へ支給されます。

事業を直接支援する給付金ではありません。しかし「育休中の賃金を肩代わりして離職を防ぐ=雇用を守る」と考えると、事業者の資金繰りを間接的に助ける制度ともいえます。

支給額の基本的な計算式は次のとおりです。

休業開始時賃金日額(※)×支給日数×67%(育休開始から6ヵ月後は50%)

また夫婦で同時に育休が取得しやすくなる制度「パパ・ママ休業プラス」や、妻が出産後8週間以内の育休を取ったときはもう一度給付対象となる「パパ休暇」などもあります。

申請自体は原則として、従業員からの申請を受けた事業主が、事業所を管轄するハローワークにて行います。提出書類は次のとおりです。

  • 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
  • 育児休業給付受給資格確認票
  • 育児休業給付支給申請書(初回のみ)

なお法改正によって、1歳未満の子について2回まで給付が受けられる「育児休業の分割取得」や、子どもが生後8週間以内であれば4週間まで休暇が取得できる「産後パパ育休」が、2022年4月より創設されます。

※育休を開始する前の6ヵ月の賃金を180で除した金額

育休中の社会保険料免除

育休中の社会保険料免除とは、育休中の従業員にかかる社会保険料を免除する制度です。従業員分だけでなく、事業主が負担する金額も免除になります。

期間は育児休業を開始した日が含まれる月から、育児休業終了した日の翌日が含まれる月の前月までの期間です(子が3歳に達するまで)。

申請する際は、事業主が「健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者申出書」を年金事務所または健康保険組合へ提出します。

【公務員】男性職員による育児に伴う休暇・休業の取得促進

公務員はもともと3歳までの育休と、1年間の育児休業手当金などの制度が整っています。
しかし日本が進めている男性の育休取得の促進運動は、民間企業だけではなく公務員も対象です。

たとえば2020年には、男性公務員が1ヵ月以上の育休を取りやすいよう「男性職員による育児に伴う休暇・休業の取得促進」が公表されました。これには「民間企業を含めた国全体での育休取得率を上げる目的」があります。

こうした動きから、民間企業・従業員個人向けの助成金制度が、今後もより拡充される可能性があります。

【男性育休の助成金】出生時両立支援コースの申請条件や申請の流れ

ここからは経営者が申請できる助成金として、中小企業以下の規模の事業者を想定した、出生時両立支援コースの申請条件や申請の流れを解説します。

なお当該コースにおける中小企業の定義とは、以下の資本金(出資金)または従業員数のどちらかに該当する場合です。

資本金額または出資の総額 常時雇用する従業員の数
小売業(飲食店含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

出生時両立支援コースの申請条件

出生時両立支援コースの支給を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 男性従業員が育児休業(育児目的休暇)を取りやすい環境風土づくりの実施
  2. 男性従業員が育児休業(育児目的休暇)を5日以上取得
  3. 男性従業員が育児休業(育児目的休暇)を取る前に育児休業制度などを労働協約または就業規則にて規定
  4. 次世代育成支援対策推進法に基づいた一般事業主行動計画の策定と届出
  5. 対象の男性従業員が休みを取得してから助成金申請日まで雇用保険被保険者として雇用

以下より1~4について概要を解説します。

育休を取りやすい環境風土づくりの実施

育休を取りやすい環境風土づくりとは、事業所にいる男性従業員“全員”を対象にした取組を意味します。個人を対象にした取組は、個別支援加算の対象です。

環境風土づくりの例は次のとおりです。

  • 男性の育休に関する勉強会・研修の実施
  • 育休利用を促進するチラシや資料の配布
  • 企業ぐるみで取得を推進しているとの経営者や管理職からの呼びかけ
  • 厚生労働省のイクメンプロジェクトサイトを使ったイクボス宣言やイクメン企業宣言の実施(詳細は公式サイトより)

上記の取組を、支給対象の男性従業員が育休をスタートさせる前に実施し、なおかつ雇用期間中に行う必要があります。

育休の5日以上取得

中小企業の場合、支給対象の男性従業員が、育児休業または育児目的休暇を5日取得したときが助成対象です。

対象になる育児休業は、子どもの出生後8週間以内の日です。5日以上連続で取得かつ、そのうち4日以上は所定労働日でなければなりません(対象の男性従業員が2人目以降かつ14日以上取得の場合は9日以上)。

次に対象になる育児目的休暇は、子どもの出生後6週間~8週間までの間の日です。こちらは連続取得でなくても問題ありません。また所定労働日でなくても大丈夫です。

労働協約・就業規則にて育児休業制度を規定

労働協約または就業規則(10人未満の事業者は労働者への周知)にて、以下の制度をすべて規定する必要があります。

  • 育児・介護休業法第2条第1号に規定する育児休業
  • 育児・介護休業法第23条に規定する「育児のための所定労働時間の短縮措置
  • 育休にかかる手続き・賃金取扱の規定と範囲内での運用

一般事業主行動計画策定と届出

一般事業主行動計画とは、「従業員の仕事と子育ての両立を行うための雇用環境・労働条件などの整備」に関する対策やスケジュールを決めるものです。

出生時両立支援コースを受けるには、一般事業主行動計画の策定と届け出を行い、申請時には有効にしておく必要があります(プラチナくるみん認定を受けている場合は除く)。

策定と届け出の方法は、厚生労働省の公式サイト「一般事業主行動計画の策定・届出等について」をご覧ください。

出生時両立支援コースの申請の流れ

出生時両立支援コースの申請先は、「人事労務管理の機能を持つ部署がある自社の事業所(本社など)」の所在地がある、労働局雇用環境・均等部(室)です。

受付窓口へ直接行く、または配達記録付きの郵送をする方法があります。

中小企業の育児休業の申請期限は次のとおりです(開始日から起算)。

育休取得者 申請期限
1人目の育児休業 5日を経過する日の翌日から2ヵ月以内
2人目以降の育児休業 5日以上の育休 5日を経過する日の翌日から2ヵ月以内
14日以上の育休 14日を経過する日の翌日から2ヵ月以内
1ヵ月以上の育休 1ヶ月を経過する日の翌日から2ヵ月以内

次に育児目的休暇の場合は、「出生前6週間~出生後8週間の間に取得した休暇の合計が5日経過する日の翌日~2ヵ月以内」です。

男性の育休に使える助成金・給付金制度一覧まとめ!取得のメリットも解説の画像1

(出典:【2021】両立支援等助成金パンフレット

必要書類は数十枚程度と多めになります。くわしくは「【2021】両立支援等助成金パンフレット」をご覧ください。

申請後は、労働局で申請内容の審査を行います。数ヶ月程度かかるため、できる限り早めに手続きを済ませましょう。

経営者が男性従業員に育休を取らせるメリット

経営者が男性従業員に育休を取らせることには、助成金・給付金が支給される以外にも経営上のメリットがあります。以下では経営者(企業)側と従業員側のメリットをそれぞれみていきます。

経営者(企業)側のメリット

「男性が育休を取得できる企業」として、社内・社外問わずイメージアップにつながるメリットがあります。具体的には次のとおりです。

  • ワークライフバランスを重視する優秀な就活生・転職活動者採用時のプラスになる
  • 育児や家事について理解が深まり、女性従業員とのコミュニケーションが円滑になる
  • 従業員のモチベーションアップにより企業への帰属意識が生まれ離職率が下がる

従業員側のメリット

育休参加によって夫婦関係の強化につながり、男性従業員のプライベートを充実されられます。具体的な効果は次のとおりです。

  • 子育ての心配が減り仕事のパフォーマンスが向上する
  • 妻側の負担減や夫側の育児への理解により夫婦関係が円満になる
  • 妻の復職やキャリアアップに寄与し世帯収入向上が見込める

経営者が男性従業員に育休を取らせる際の注意点

男性従業員の育休取得は、人員不足や職場の雰囲気などの要因で難しくなるのも事実です。以下では経営者(企業側)と従業員側で気をつけるべき注意点を解説します。

経営者(企業)側の注意点

助成金や給付金制度を活用しても、育休によって一時的に人員が減ることに変わりはありません。育休を取った男性従業員の代替要員を確保する必要があります。

「令和2年東京都男女雇用平等参画状況調査」によると、男性の育休取得に当たっての課題として、「代替要員の確保が困難」が67.2%ともっとも高い数値となっています。

育休制度を整備する際は、育休を取った従業員にかかる人員補充や引き継ぎの方法なども検討しておきましょう。

従業員側の注意点

男性の育休に関して職場の理解が浸透していないと、育休を取得した従業員に対し、職場からの風当たりが強くなる可能性があります。職場の雰囲気の悪化・従業員の離職のリスクにつながるかもしれません。

経営者ができる対策として、研修・勉強会の開催で育休の考えを浸透させたり、業務への影響を最低限に抑える制度を整えたりなどが考えられます。

助成金・給付金で男性の育休取得を推進できる企業へ!

男性の育休に関して、事業者は両立支援等助成金の出生時両立支援コースや、育児休業給付などの助成金・給付金制度が利用可能です。男性従業員の育休取得は欠員・理解に関するリスクがあるものの、従業員のモチベーションや採用面などでのメリットがあります。

もし出生時両立支援コースの申請に関して相談したい場合は、助成金申請の専門家である社会保険労務士への依頼がおすすめです。育休に関する助成金申請の代行やコンサルティングなどを任せられます。

企業の教科書
竹内 欣士
記事の監修者 竹内 欣士
弁護士、社会保険労務士

知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく、人の世は住みにくい(夏目漱石「草枕」)。
日々、知識を活かす智恵こそが大切だと痛感しています。知を重んじつつ頼らない。情を大切にしつつ流されない。意地を胸に秘めつつ通さない。そのバランスを図りながら、依頼者に寄り添う「身近な相談相手」を目指してまいります。

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