補助金・助成金

キャリアアップ助成金の申請要件と注意すべきポイント|正社員化コースと処遇改善コース

キャリアアップ助成金の申請要件と注意すべきポイント|正社員化コースと処遇改善コース

キャリアアップ助成金は非正規雇用労働者のキャリアアップを促進させるために、厚生労働省が定めた制度です。キャリアアップ助成金の利用によって、労働者のモチベーションアップをはかり、同時に事業の生産性を高めることが期待できます。

この記事ではキャリアアップ助成金がどういうものか、その目的や種類、支給額をはじめ、受給要件や申請方法、生産性要件などについて解説します。とくに利用が多い正社員化コースは詳しく説明しますので人材育成にお役立てください。

キャリアアップ助成金とは?|目的・種類・支給額

キャリアアップ助成金とは、有期雇用の非正規雇用労働者を無期雇用の正社員化、処遇改善などの取組をおこなった企業に助成金を支給する厚生労働省の制度です。企業にとって「人」は事業継続の根幹を成すものです。

優秀な人材を確保し、育成することは大切だとわかっていても人件費の負担は大きく、採用コストや教育コストが重くのしかかってきます。キャリアアップ助成金はなかなか踏み出せない企業の後押しをしてくれます。

キャリアアップ助成金の目的

キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善の取組によって、労働者のキャリアアップをはかることを目的としています。

有期雇用労働者は、パート・アルバイト、契約社員や嘱託社員の増加を受けて、雇用者全体に占める割合が1986年の16.6%から2020年の38.8%に増加。有期雇用労働者は先行き不安によって労働意欲を保ちにくくなります。

安心して働ける環境づくりに役立つキャリアアップ助成金は労働者と企業の双方にとってのメリットが期待できます。

キャリアアップ助成金の種類と支給額:2つの正社員化コースと5つの処遇改善関係コース

キャリアアップ助成金は大きく、正社員化コースと処遇改善関係コースに分けられます。

キャリアアップ助成金|正社員化コース

正社員化コースには従来のコースと令和2年度末で廃止された「障害者雇用安定助成金」から移管された障害者正社員化コースがあります。
・正社員化コースの支給額(中小企業・1人当たり)
①有期→正規:57万円
②有期→無期:28万5,000円
③無期→正規:28万5,000円
各種加算措置(9万5,000円~28万5,000円)があります。また、1年度1事業所における支給上限人数は20名までです。

・障害者正社員化コースの支給額(中小企業・1人当たり)
支給対象者の障害の程度によって異なり、45万円~120万円となっています。従来の正社員化コースと大きく違うのは、支給対象の1年間を6カ月ごとに第1期、第2期として2回に分けて支給される点です。

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引用:厚生労働省「キャリアアップ助成金が令和3年度から変わります」

キャリアアップ助成金|処遇改善関係コース

キャリアアップ助成金のなかに、有期雇用労働者の労働条件の改善への取組を実施した場合に支給されるコースが5つあります。それぞれ1事業所の対象労働者数や賃金規定の増額割合などによって細かく支給される助成金額は異なります。以下はコース名とそれぞれの加算をふくまない支給額の例です。

①賃金規定等改定コース:1事業所当たり4万7,500円~285万円(1人当たり2万8,500円×100人)
②賃金規定等共通化コース:1事業所当たり57万円
③諸手当制度等共通化コース:1事業所当たり38万円
④選択的適用拡大導入時処遇改善コース:1事業所当たり19万円
⑤短時間労働者労働時間延長コース:1人当たり22万5,000円(令和4年9月30までの間支給額を増額)

キャリアアップ助成金|事業主の注意ポイント4つ

キャリアアップ助成金の申請要件と注意すべきポイント|正社員化コースと処遇改善コースの画像2

キャリアアップ助成金を申請するための前段階として、事業主が注意しておきたいポイントについて解説します。労働局に書類を提出するため、基本的な労働環境を整えていることが前提となります。

中小企業の範囲

キャリアアップ助成金は大企業よりも中小企業に対して手厚い支給がなされます。中小企業の範囲は以下のとおりです。資本金等のない事業主は常時雇用する労働者の数によって判定されます。

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引用:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」

雇用保険適用事業所

キャリアアップ助成金を受給できるのは雇用保険適用事業所だけです。事業所ごとにキャリアアップ管理者を置かなければなりません。申請した年度の前年度以前に労働保険料を納入していなかったり、過去1年間に労働関係法令に違反したりした場合は受給できないので注意が必要です。

就業規則の整備

キャリアアップ助成金は非正規社員のキャリアアップを目的としていますので、企業内での「非正規」の定義が必要です。定義づけは就業規則に明記されます。キャリアアップ助成金を申請するためには取組を実施する時点で就業規則を備えつけましょう。10人以上常時労働者がいる場合は、労働基準監督署への届出が必須です。

雇用契約書

非正規労働者は自らが非正規であることを通知されなければなりません。通常は非正規労働者であることが、雇用契約書に明記されますので、雇用契約書は必ず交わしましょう。キャリアアップ助成金を申請するときに申請書類として提出するためにも必要です。

キャリアアップ助成金|申請方法と正社員化コースの注意点

キャリアアップ助成金の支給申請方法について説明します。キャリアアップ助成金を申請するときの一連の流れは以下のとおりです。

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引用:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」

いずれのコースも「キャリアアップ計画の作成・提出」をまず最初に実施します。労働局に事前に提出し認定を受けなければ、非正規労働者を正規労働者に転換したのち、助成金の存在を知り申請しても遅いのです。

正社員化コースと処遇改善コースの違いは就業規則の改定内容です。正社員化コースの場合は正社員への転換規定がなければ新たに規定します。

支給申請はいずれのコースも実際に賃金を6カ月支払ったのち、2カ月の間におこなう必要があります。その期間を過ぎると申請できませんから注意しましょう。提出書類は13ありますのでチェックリストを作成して漏れのないよう対応します。

正社員化コースの申請で注意すべき3つのポイント

せっかく計画書を提出しても誤った認識で給与を6カ月支払った場合助成金が支給されなくなる可能性があります。とくに以下のポイントについては気をつけてください。

・正社員に転換したとき新たな契約書を交わす
・転換前6カ月間の賃金と比較して転換後6カ月間の賃金を3%以上増額
・比較する賃金は基本給および定額で支給される諸手当で固定残業代を基本給にふくむ場合は明確に区分けする

キャリアアップ助成金|正社員化コース申請の対象労働者

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キャリアアップ助成金正社員化コースの申請をする対象となる労働者が有期か無期かによって支給額が変わりますので、労働者の要件は押さえておくことが大切です。重要なポイントをいくつか紹介します。

有期雇用・無期雇用の判別

①6カ月以上の有期雇用労働者
正社員化コースの場合は無期雇用労働者から正社員化する場合も想定されます。そのため、有期雇用労働者は6カ月以上の有期雇用であることに加えて、雇用された期間が通算して3年以内、という条件があります。

②無期雇用労働者として雇用される期間が6カ月以上の無期雇用労働者
過去に無期雇用労働者であった有期雇用労働者は、無期雇用労働者とみなされますので注意が必要です。

ほかにも派遣労働者や有期実習型訓練、新型コロナウイルス感染症の影響による離職者について細かく規定があります。

正規雇用労働者として雇い入れ時に雇用されていない

実際には有期雇用であっても雇い入れ時に正規雇用労働者等として約していれば有期雇用とはみなされません。

過去3年間に事業主と密接な関係にある会社で正規雇用されていない

たとえば親会社で正規雇用されていた労働者が子会社に転籍になり有期雇用されても有期雇用とは認められません。同様に業務委託で業務している場合も密接な関係とみなされます。

助成金の支給額をアップさせる生産性要件

生産性を向上させた企業は、労働関係助成金の助成額や助成率が割増になります。生産性要件を満たした場合、正社員化コースの助成額の57万円は72万円に増額されますので、満たしているかどうかは要チェックです。

満たすべき生産性要件は、助成金の支給申請をおこなう直近の会計年度における「生産性」が3年度前に比べて6%以上伸びていること。もしくは金融機関から一定の「事業性評価」を得ていれば生産性が1%以上6%未満の伸びでも満たすことができます。

ただし、生産性を計算するときに付加価値を算定する必要があります。損益計算書や総勘定元帳などの証拠書類の提出が求められますので、会計に詳しい税理士に相談することをおすすめします。

労働者とともに会社もキャリアアップをめざす

キャリアアップ助成金を申請するために有期雇用非正規労働者を正社員にすることは、一見労働者だけに有意義なように見えがちです。しかし会社や事業所にとって、目に見えないメリットがあります。それは、今までの労働環境を見直すことによって、将来にわたって雇用をおこなう上で優秀な人材を獲得する可能性が生まれるということです。

ただ一度きりで、助成金を獲得するにとどまらず、労働者とともに会社もキャリアアップをはかるよい機会となるでしょう。

また、助成金申請は社会保険労務士の独占業務ですが、申請時には証拠書類の提出などで税理士にも助力を求めなければなりません。このとき、提出する証拠書類や社労士の対応によって、助成金の受給額にも変動があります。スムーズに素早く、多くの額を受給したいのであれば、依頼している社労士/税理士と関わりのある士業事務所にあわせて依頼することをおすすめします。
社会保険労務士法人きわみ事務所なら、きわみグループとして税理士法人が同じビル内にオフィスをかまえているため、連絡や相談も1つの窓口ですみ、迅速にお悩みを解決できます。ぜひ一度、ご相談ください。

企業の教科書
竹内 欣士
記事の監修者 竹内 欣士
弁護士、社会保険労務士

知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく、人の世は住みにくい(夏目漱石「草枕」)。
日々、知識を活かす智恵こそが大切だと痛感しています。知を重んじつつ頼らない。情を大切にしつつ流されない。意地を胸に秘めつつ通さない。そのバランスを図りながら、依頼者に寄り添う「身近な相談相手」を目指してまいります。

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