補助金・助成金

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説

平均寿命の伸びや少子高齢化の影響もあり、定年後も長く働きたい、または年金だけでは不安な高齢労働者が増えています。そうした時代の流れもあり、2021年4月には「高年齢者雇用安定法の改正」が施行され、70歳までの就業機会の確保について努力義務が規定されました。

そんななかで政府は、65歳超の労働者を雇う取組を行う企業を「65歳超雇用推進助成金」にて支援しています。

当記事では65歳超雇用推進助成金の概要やコース別の詳細、申請の流れなどを解説します。

なお2021年12月現在では、本助成金のうち「65歳超継続雇用促進コース」の受付が終了しました。2022年以降に向け内容の見直しが行われています。

65歳超雇用推進助成金とは?わかりやすく解説

65歳超雇用推進助成金とは、「60~65歳に達した従業員が定年後も働ける環境」を整備した事業主へ、金銭的支援を行う制度です。意欲と能力がある限り年齢に関係なく働ける社会を目指すことを目的に設立されました。

具体的には「定年を65歳以上に設定する」「50歳以上の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させる」などを実施した企業に助成金が出ます。

すでに65歳付近の従業員を雇っている、66歳以降も働き続けたい従業員がいるなどの企業であれば、環境や制度を整備することで本助成金を受け取れます。以下では詳細をみていきましょう。

65歳超雇用推進助成金の種類

65歳超雇用推進助成金には、実施する取組に応じ、以下3つのコースが設立されています。

  • 65歳超継続雇用促進コース(2021年9月24日17時をもって一旦受付停止)
  • 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
  • 高年齢者無期雇用転換コース

65歳超雇用推進助成金を受けられる企業

65歳超雇用推進助成金は、中小企業(小規模事業者)と大企業のいずれも対象になります。中小企業の定義は、資本金または従業員のいずれかの条件が、以下の表にある数値かどうかです。

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像1

助成率(助成対象になる経費に乗じる割合で、高いほど受け取る助成金も高くなる)は中小企業のほうが高くなります。

なお中小企業の基準は、本助成金以外でも同じ基準が採用されています。他助成金の利用も検討する際の参考にしてください。

生産性要件を満たすことによる助成金額の割増

65歳超雇用推進助成金のうち65歳超継続雇用促進コース以外の2コースは、厚生労働省が公表する「生産性要件」も一緒にクリアすることで、助成金額が割増になります。

生産性要件とは、企業が行った事業所の労働生産性を高める取組が、一定以上の成果を挙げたかを客観的に判断する指標です。具体的には以下のどちらかに当てはまるかで判断します。

  • 3年前と比べて生産性が6%以上伸びている
  • 3年前と比べて生産性が1%以上伸びており、かつ金融機関から事業性評価を得ていること

生産性は次の式を使い、従業員1人あたりどれくらいの利益を生み出せるかを算出します。

生産性=付加価値(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数

例えば本助成金だと「新しいソフトウェアのおかげで、高年齢者関係の労務管理作業の時間短縮や作業ミス減少につながり残業代が減った」などが当てはまります。

65歳超雇用推進助成金を受けるメリット

65歳超雇用推進助成金は返済不要であるため、返済が必要な融資・借入金より安定した資金繰り策として利用できる点がメリットです。

また本助成金の取組によって65歳超の熟練者が働きやすくなることで、若手への技術継承や豊富な人脈の活用なども期待できます。

従業員の立場から見ても「66歳以上になっても働ける」と安心感を得られることから、帰属意識やパフォーマンスの向上につながる可能性があります。

もし年金関係で心配の声が挙がったときは、70歳までは厚生年金保険に加入できるなど、公的制度は整備されていると伝えておきましょう。年金制度の情報も事前に従業員と共有しておけば、より長く働いてもらいやすくなるはずです。

65歳超継続雇用促進コースの概要と助成金額

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像2

65歳雇用推進助成金の「65歳超継続雇用促進コース」とは、65歳を超える労働者を引き続き雇用する制度を整える事業主へ給付を行う制度です。

本コースは2021年9月で受付が停止しています。しかし厚生労働省より「停止以後に申請予定だった事業主を含めて、あらためてご案内します」とアナウンスされたこともあり、今後も高い確率で類似の制度が施行されると考えられます。

今後似たような制度の利用を想定し、事前にどのような制度であったかを知っておくと、新制度への申請がスムーズに進められるはずです。

※以下の情報は2021年4月~9月の申請分のものです。

コースを利用するための支給要件

65歳超継続雇用促進コースを受給するためには、「66歳以上の雇用に関する制度を整えること」「対象になる経費であること」「高年齢者雇用管理に関する措置を1つ以上講じていること」の条件を満たす必要があります。

事業主が実施すべき計画

本コースを受けられる事業主は、労働協約または就業規則の下で以下1~4のいずれかに該当する新制度を実施し、就業規則を労働基準監督署へ届け出たものです。

  1. 定年を65歳以上に引き上げた
  2. 定年制度を排除した
  3. 希望者全員を対象に66歳以上の継続雇用制度を導入した
  4. 定年後または継続雇用終了後に他の事業主に雇用を引き継ぐ制度を導入した

本コースを申請するときには、必ず「継続で1年以上雇用する60歳以上の雇用保険被保険者」が在籍している必要があります。

対象になる経費

本コースの対象になる経費とは、先述の1~4のいずれかの制度導入に関して支出したものを指します。具体的には次のとおりです。

  • 就業規則の作成や相談・指導について社会保険労務士(法人)・弁護士(法人)・行政書士会に入会する行政書士に依頼したときの経費
  • 労働協約の締結に関して専門家やコンサルタントに相談したときの経費

高年齢者雇用管理に関する措置について

本コースを受けるには、高年齢者雇用管理に関する措置を、1つ以上実施する必要があります。
高年齢者雇用管理に関する措置とは、高年齢者に対する訓練実施や労働環境改善、健康・安全への配慮などを行うことです。具体的には次のとおりです。

(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等
(b)作業施設・方法の改善
(c)健康管理、安全衛生の配慮
(d)職域の拡大
(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進
(f)賃金体系の見直し
(g)勤務時間制度の弾力化
(引用:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構

また措置の実施に加えて、高年齢者雇用等推進者(作業施設の改善やその他の条件整備を行う業務を担当する者)を選任しなければなりません。

助成金額上限

65歳超継続雇用促進コースの助成金額は、「定年を何歳引き上げたのか・廃止したのか」「継続雇用制度を何歳まで対象にしたのか」によって上限額が変わります。

1~4それぞれの条件・上限額を表にまとめました。

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像3

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像4

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像5

原則として4~5歳以上年齢を引き上げると助成金額が増加します。定年廃止だと、120~160万円の最高額での助成です。

4の「他社による継続雇用制度の導入」の場合は少し計算が特殊です。専門家への依頼料や制度導入にかかった経費の2分の1と比べて、低いほうの金額になります。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像6

65歳超雇用推進助成金の「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」とは、雇用中の高年齢労働者が快適に働けるための制度を導入した事業主へ給付を行う制度です。

当コースの支給額は、支出した経費に助成率を乗じて算出します。上限額は50万円です。

コースを利用するための支給要件

高年齢者評価制度等雇用管理改善コースの利用には、他のコースと同じく支給要件を満たさなければなりません。以下よりくわしく解説します。

事業主が実施すべき計画

本コースを利用するには、「高年齢の従業員が安心かつ快適に働くための環境整備」の実施が必要です。たとえば労働時間や健康管理、賃金などに関する雇用環境整備の計画・導入などを行います。

具体的には次のとおりです。

① 高年齢者の職業能力を評価する仕組みと賃金・人事処遇制度の導入または改善
② 高年齢者の希望に応じた短時間勤務制度や隔日勤務制度などの導入または改善
③ 高年齢者の負担を軽減するための在宅勤務制度の導入または改善
④ 高年齢者が意欲と能力を発揮して働けるために必要な知識を付与するための
研修制度の導入又は改善
⑤ 専門職制度など、高年齢者に適切な役割を付与する制度の導入または改善
⑥ 法定外の健康管理制度(胃がん検診等や生活習慣病予防検診)の導入 等
(引用:厚生労働省

対象になる経費

本コースの対象になる経費は、対象になる制度の導入・整備1~6を行うために支払った以下のものです。

制度導入に際して専門家・コンサルタント関係に支払った経費
取組実施のために導入した機器・システム・ソフトウェアなどにかかった経費

その他の支給要件

本コースを受けるためには、以下の支給要件も満たす必要があります。

  • 高年齢者雇用管理に関する「雇用管理整備計画書」を提出し認定
  • 計画書に基づく高年齢者雇用管理整備の措置の実施、ならびに実施を証明する書類・計画終了日の翌日から6ヶ月間の運用状況を証明する書類の整備
  • 計画の措置によって計画終了日の翌日から6ヶ月以上継続して雇用され、かつこれまで1年以上継続して雇用する60歳以上の雇用保険被保険者が在籍
  • 支給対象になる経費の支給を申請日までに支払完了

助成金額上限や助成率

本コースの助成金額の上限は50万円です。初回申請では定額50万円での支給です。

2回目以降は50万円を上限とし、かかった経費に決まった助成率を乗じた金額になります。生産性要件を満たすと、助成率が15%上乗せされます。

助成率は次の表のとおりです。

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像7

ただし同一の事由(本コースで申請した事業計画)によって本コース以外の助成金や補助金を受け取ったときは、本コースの助成金を受け取れない「併給調整」が行われるケースがあります。

高年齢者無期雇用転換コース

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像8

65歳超雇用推進助成金の「高年齢者無期雇用転換コース」とは、50歳以上かつまだ定年を迎えていない有期契約労働者を、無期雇用労働者へ転換させた事業主へ給付を行う制度です。

本コースは、実際に転換を適用した人数に応じ、1事業所につき最大で10人分まで助成を行います。他のコースと違い、対象となる措置はこの転換のみです。

支給要件は次のとおりです。

  • 無期雇用転換計画書を提出し計画し認定
  • 転換制度を労働協約または就業規則、その他これに準ずるものにて規定
  • 転換した労働者を転換後6ヵ月以上継続雇用および6ヶ月分の賃金支給

一人あたりの助成金額は次のとおりです。

なお本コースでも併給調整が適用されます。同一の事由で他の助成金・補助金を受けようと検討している事業主は注意しましょう。

65歳超雇用推進助成金の申請時の必要書類

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像9

2021年12月時点で申請できる65歳超雇用推進助成金2コースの申請方法と必要書類について、2コースについて解説します。

申請場所は、事業主の主たる雇用保険適用事業所がある都道府県の支部高齢・障害者業務課で行います。申請時・支給時に提出した、書類は計画認定日より5年間の保存が必要です。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

高年齢者評価制度雇用改善コースの申請は、申請書と必要書類を揃え、制度実施日の翌日から起算して2ヵ月以内に手続きを済ませます。

申請時の必要書類は次のとおりです。

  • 雇用管理整備計画書
  • 登記事項証明書の写し
  • 定年および継続雇用制度が確認できる労働協約・届出済みの就業規則の写し
  • 雇用保険適用事業所設置届事業主控または雇用保険事業主事業所各種変更届事業主控の写し
  • 雇用保険適用事業所等一覧表
  • 支給要件確認申立書
  • その他記載事項を確認する書類
  • 委任状(代理人に申請を任せるとき)
  • 提出書類チェックリスト

支給申請時の必要書類は次のとおりです。

  • 支給申請書
  • 支給対象経費の支払いを確認できる書類(契約・支払・履行を確認できるもの)の写し(※)
  • 預金通帳・助成金の振込先の確認ができる書類
  • 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書の写し
  • 高年齢者雇用管理整備措置の対象である職場または職務ごとの出勤簿・賃金台帳・被保険者の就業が確認できる文書の写し(※)
  • 1年以上継続して雇用されていることが確認できる書類(※)
  • 定年や継続雇用制度が確認できる労働協約や就業規則の写し
  • 各種措置の実施結果や計画終了日の翌日から6ヶ月間の運用状況がわかる書類や図表(※)
  • 生産性要件算定シート
  • 雇用保険適用事業所等一覧表
  • 研修実施者承諾書
  • 支給要件確認申立書
  • その他記載事項を確認できる書類
  • 委任状(代理人に申請を任せるとき)
  • 提出書類チェックリスト

※は高年齢者評価制度雇用改善コース独自の必要書類

高年齢者無期雇用転換コース

高年齢者無期雇用転換コースの申請は、申請書と必要書類を揃え、無期雇用転換計画の開始日から起算して6ヶ月前の日から2ヵ月前の日までに手続きを済ませます。

申請時・支給申請時の必要書類は高年齢評価制度雇用改善コースとほとんど同じものが多いです。

重複しない書類は次のとおりです。

  • 無期雇用転換制度が確認できる規程の写し
  • 高年齢者雇用管理に関する措置を確認する書類

支給申請時に重複しない書類は次のとおりです。

  • 対象労働者雇用状況等申立書
  • 対象労働者の転換前および転換後の労働条件通知書等の写し
  • 対象労働者の賃金台帳等の写し
  • 対象労働者の出勤状況を確認できる書類の写し
  • 無期雇用転換制度を確認できる書類の写し

申請から支給までの流れ

65歳超雇用推進助成金が支給されるまでの流れは次のとおりです。

  • 事業主が計画の申請や必要書類を事務局へ提出する
  • 事務局が計画を審査し支給の決定を行う
  • 支給決定の通知を受けた事業主が計画に沿って設備導入・整備を行う
  • 事業主が計画の実施状況や支出した経費額などを事務局へ提出する
  • 助成金の支給が決定したら指定口座へ助成金が振り込まれる

本制度は補助金制度ではないため、審査による採択はありません。条件を満たせば支給が決定します。

ただし申請した経費が計画と異なる、不正受給が発覚するなどが発覚した場合は、取消処分になる可能性があります。

65歳超雇用推進助成金の申請は社労士に依頼しよう

65歳超雇用推進助成金とは?種類や支給額についてわかりやすく解説の画像10

65歳超の労働者を積極的に雇用する事業主は、65歳超雇用推進助成金による金銭的支援が受けられます。

しかし本助成金を受けるには、問題のない事業計画書の作成や必要書類を準備しなければなりません。就業規則や労使協定も見直す必要があり、膨大な時間と労力を消費してしまいます。

もし確実に助成金を受け取りたいときは、社会保険労務士への相談がおすすめです。社会保険労務士は、助成金申請の代行を独占業務とする士業です。助成金の専門家として、事業計画書や就業規則のチェックから、労務関係のコンサルティングなどを任せられます。

企業の教科書
竹内 欣士
記事の監修者 竹内 欣士
弁護士、社会保険労務士

知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく、人の世は住みにくい(夏目漱石「草枕」)。
日々、知識を活かす智恵こそが大切だと痛感しています。知を重んじつつ頼らない。情を大切にしつつ流されない。意地を胸に秘めつつ通さない。そのバランスを図りながら、依頼者に寄り添う「身近な相談相手」を目指してまいります。

タイトルとURLをコピーしました