補助金・助成金

産業雇用安定助成金とは?支給条件や助成率などをわかりやすく解説

産業雇用安定助成金とは?支給条件や助成率などをわかりやすく解説

産業雇用安定助成金とは、2021年2月に創設された新しい助成金制度です。自社従業員(労働者)を出向させることで雇用を守る事業者に対し、支払賃金・諸経費に関する支出について助成金を受け取れます。

当記事では産業雇用安定助成金の概要や雇用調整助成金との違い、支給条件、助成率や上限額、申請の流れなどを解説します。

産業雇用安定助成金とは?わかりやすく解説

産業雇用安定助成金とは、新型コロナウイルス感染症が原因で事業活動の縮小が必要になった事業者に、金銭的支援を行う制度です。事業縮小によって従業員を雇い続けるのが難くなった際、「在籍型出向」による雇用維持を行ったときに支給されます。

対象は出向元企業(自社)と出向先企業(従業員が出向する先)の両方です。そのため、自社・出向従業員・出向先の3者それぞれメリットがあります。

メリットの例は次のとおりです。

産業雇用安定助成金の対象者 メリット
自社
  • 人件費削減
  • 事業再開時の人材確保
出向従業員
  • 収入の確保
  • 出向先や教育訓練による新しいスキルや経験の獲得
出向先
  • 人手不足の解消
  • 出向従業員による新しい視点や価値観の発見

産業雇用安定助成金を受けるための在籍型出向とは

在籍型出向とは、出向元企業と出向先企業の間で締結する出向契約によって、従業員がどちらとも雇用契約を結ぶ方法です。

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(出典:厚生労働省|在籍型出向支援

本来、在籍型出向の形は職業安定法第44条において禁止されています。

しかし新型コロナウイルスのせいで雇用維持が難くなった事業者は、あくまで雇用維持の範囲内であれば、在籍型出向を行っても法律違反にならないとされています。

従業員はどちらとも雇用関係が発生するため、自社と出向先であらかじめ労務管理の責任の所在を明確にしておきましょう。

雇用調整助成金との違い

産業雇用安定助成金と同じく、新型コロナウイルス感染症によって事業縮小した事業者向けの助成金に、雇用調整助成金があります。

雇用調整助成金とは、休業・教育訓練などによる雇用調整が対象になる助成金制度です。メインは休業に対する助成になります。

雇用調整助成金も、一定条件を満たせば自社・出向先のどちらも助成対象です。ただし自社と出向先のどちらかしか支給を受けられません。

また出向支援に特化した制度である産業雇用安定助成金と比べると、出向時の助成金額は低くなります。

厚生労働省のリーフレットでは、同条件で両者の助成金額を比較する図が掲載されています。引用したものが次のとおりです。

  • 出向者の賃金日額:9,000円
  • 出向元(自社)賃金負担:3,600円
  • 出向先賃金負担:5,400円
  • 教育訓練および労務管理関係の調整費3,000円
  • どちらも中小企業

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(出典:【リーフ】産業雇用安定助成金

上記の図をまとめると、雇用調整助成金の活用だと自社1,200円・出向先8,400円の負担に対し、産業雇用安定助成金だと自社360円・出向先840円と負担が安く済みます。

「出向は産業雇用安定助成金、休業は雇用調整助成金」と使い分けましょう。

産業雇用安定助成金を受けるための条件

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以下では、主に中小企業が産業雇用安定助成金を受けるための条件を解説します。当助成金における中小企業の定義は次のとおりです。

資本金額または出資の総額 常時雇用する従業員の数
小売業(飲食店含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

対象の出向労働者・出向条件

産業雇用安定助成金の対象になる出向労働者は次のとおりです。

  • 在籍型出向を行っている
  • 出向元での雇用保険被保険者の期間が出向前日までで6ヵ月以上である
  • 解雇予告をされていない
  • 退職届を提出していない
  • 退職勧奨に応じていない
  • 日雇い労働者でない
  • 他の助成金の対象でない

続いて、対象になる出向条件は次のとおりです。

  • 出向期間終了後には自社に戻るのが前提
  • 出向期間が1ヶ月以上2年以内
  • 出向が原因で出向先の従業員が離職するといった玉突き出向でない
  • 出向従業員の同意を得ている
  • 労使協定によるものである
  • 出向先も雇用保険の適用事務所
  • 出向元/先の関係が親会社/子会社でないこと、同じ代表取締役でないことなど、資本的/経済的/組織的関連性などからみて独立性が認められる

ただし上記のうち「独立性が認められること」については、条件を満たすことで助成対象になる改正が、2021年8月より開始しています(詳細は後述)。

出向元の事業活動の縮小範囲

出向元の事業所が「どのくらい事業活動を縮小したかどうか(生産量要件)」も、申請条件の1つです。当助成金を受けるには、以下いずれかに当てはまる必要があります。

  • 生産指標(売上高や生産量などを表す指標)の最近1ヵ月が、1年前(または2年前)の同じ1ヶ月の値より5%以上減少していること
  • 生産指標の最近の1ヶ月の値が、計画届を提出した月の1年前の同じ月から、計画届を提出した月の前々月までの間の適当な1ヶ月の値より5%以上減少していること

出向先事業者の雇用量要件

当助成金を受けるには、出向先事業者も条件を満たす必要があります。具体的には「誰も解雇していない」「雇用量を一定以上維持している」の2点です。

まず出向開始前日から6ヵ月前から支給対象期の末日までに、出向先が「出向受入のために従業員を離職させていない」必要があります。

次に「雇用量を一定以上維持している」条件は次のいずれかを満たす必要があります。

  • 「出向先の最近の3ヵ月間」と「1年前の同じ3ヵ月間」の雇用指標(従業員の雇用量を表す指標)を比べたとき、10%超かつ4人以上減少していない
  • 雇用指標の最近1か月の値が、計画届を提出した月の1年前の同じ月から
    計画届を提出した月の前々月までの間の適当な1か月の値に比べ、10%超かつ4人以上減少していない

ちなみに、出向元には雇用量要件はありません。ただし解雇などを行った場合は受け取れる助成金額が下がります。

その他の不支給要件について

当助成金には不支給要件があり、該当すると助成金を受けられません。とはいえ「暴力団と関係がない」「倒産していない」「過去に不正受給をしていない」など、常識的なものばかりなので、そこまで気にする必要はないでしょう。

詳細は厚生労働省の「産業雇用安定助成金ガイドブック」をご覧ください。

産業雇用安定助成金の種類・助成率・給付金額

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産業雇用安定助成金の対象になる経費は、「出向運営経費」と「出向初期経費」の2種類です。以下ではそれぞれの経費の概要や助成率、1日あたりの給付上限額などを解説します。

出向運営経費

出向運営経費とは、自社や出向先が負担する事務関係や教育関係など、「出向の運営にかかわる経費」です。

たとえば出向者の労務や人事関係、報告や面談に関する交通費、教育訓練(off-JT)にかかる支出です。出向者に支払う賃金も助成対象になります。

助成率や1日あたりの上限額は次のとおりです。

中小企業 大企業
出向元が解雇などをしていないときの助成率 9/10 3/4
出向元が解雇などを行っているときの助成率 4/5 2/3
上限額(出向元・先の合計) 12,000円/日

出向初期経費

出向初期経費とは、出向を行う前に発生する経費です。たとえば出向先が出向従業員のために負担するOA環境整備代や作業着代、就業規則や出向契約書の作成に関わる費用、出向労働者の引っ越し代などが該当します。

助成金額は従業員1人あたり10万円定額です(出向元・先ともに同額)。

ただし出向元・先がそれぞれ以下の条件に当てはまるときは、5万円が加算され1人あたり15万円にアップします。

  • 出向元が運輸業・郵便業・宿泊業・飲食サービス業・生活関連サービス業・娯楽業に該当、または生産指標の最近3ヵ月の月平均値が前年同期より20%減少
  • 出向先の業種の大分類が出向元と異なる(異業種への出向)

独立性が認められない事業者間での出向の助成金

2021年8月より、親会社と子会社、子会社間など独立性が認められない事業者間での出向も、出向運営経費の対象になりました。出向初期経費は対象にはなりません。

助成率や1日あたりの上限額は次のとおりです。

中小企業 大企業
助成率 2/3 1/2
上限額(出向元・先の合計) 12,000円/日

期間や支給額の上限について

支給対象になる期間の判定は、そのまま「出向従業員が出向した日から終了する日まで」です。

もし複数の従業員の出向があり、なおかつ期間・出向先がバラバラになったときは、「開始日は1番早い従業員、終了日は1番遅い従業員に合わせる」が原則です。

同一出向先に複数の従業員が出向したとき

開始日は1番早く出向先に行った従業員の開始日、終了日は最後いた従業員の終了日

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(出典:産雇金ガイドブック

複数の従業員が別々の出向先になったとき

開始日は1番早く出向を開始した出向先の開始日、終了日は最後まで従業員がいた出向先での終了日

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(出典:産雇金ガイドブック

支給額の上限は、金額ではなく対象労働者の人数と期間で決まります。1事業者では1年度あたり500人、1人あたり12ヵ月(365日)までが原則です。

より詳しい計算方法や上限については、厚生労働省の「産業雇用安定助成金ガイドブック」をご覧ください。

なお細かい計算については、社会保険労務士に依頼できます。

産業雇用安定助成金の申請方法の流れ

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産業雇用安定助成金の申請方法のおおまかな流れは次のとおりです。

申請の流れ 概要
出向計画の策定
  • 出向労働者との話し合い
  • 出向元と出向先とでの調整・契約締結
計画届の作成・書類の提出
  • 出向開始前日~2週間前に都道府県労働局またはハローワークへ提出
  • 計画届や申請書の書式は公式サイトより
出向の実施 提出した計画届に基づいて実施
支給申請・審査 申請内容を労働局がチェックし支給の可否を決定
支給額振込 出向元と出向先それぞれに支給

もし「出向先が見つからない…」とお悩みの場合は、「公益財団法人 産業雇用安定センター」に斡旋の相談を行えます。全47都道府県に事務所を構えています。

必要書類の詳細については、ガイドブックをご覧ください。

産業雇用安定助成金で従業員と事業の将来を守ろう!

産業雇用安定助成金は、従業員を出向させることで雇用を維持する場合に、事業者が助成金を受け取れる制度です。雇用調整助成金より出向に特化しているため、出向によって従業員を守りたいときは利用しましょう。

助成金申請の代行も、社会保険労務士の独占業務です。もし産業雇用安定助成金に申請や計算、計画策定などでアドバイスを受けたいときは、助成金の専門家である社会保険労務士への依頼がおすすめです。

企業の教科書
竹内 欣士
記事の監修者 竹内 欣士
弁護士、社会保険労務士

知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく、人の世は住みにくい(夏目漱石「草枕」)。
日々、知識を活かす智恵こそが大切だと痛感しています。知を重んじつつ頼らない。情を大切にしつつ流されない。意地を胸に秘めつつ通さない。そのバランスを図りながら、依頼者に寄り添う「身近な相談相手」を目指してまいります。

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