補助金・助成金

助成金が割増になる生産性要件とは?|計算方法や対象となる助成金について解説

助成金が割増になる生産性要件とは?|計算方法や対象となる助成金について解説

事業所が助成金を申請するときに生産性要件を満たしていれば支給額が割増になります。たとえばキャリアアップ助成金の正社員化コースにおいて、中小企業が有期雇用労働者を正規社員にした場合、57万円が72万円になり、割増額は15万円です。

このように同じ取組をしても助成額が変わることから、生産性要件について知ることは大きなメリットにつながります。この記事では生産性要件の目的や生産性要件を満たせば割増の対象になる助成金の種類について解説します。

生産性要件とは?|目的と助成金の種類

生産性要件とは、労働関係の助成金を利用する事業所が生産性を向上させた事業所に対して助成金が割増になるための要件です。どのような目的があり、対象となる助成金にはどのようなものがあるのか説明します。

生産性要件|目的

現在の日本は少子高齢化にともなう労働力人口の減少が懸念されています。この情勢のなかで経済成長を図るためには、各事業所が労働生産性を高めることが重要です。

そこで生産性向上に取り組む事業所を労働関係の一部の助成金を割増し、支援するためのものが生産性要件です。助成金の割増による支援によって、事業所のさらなる生産性の向上を目的としています。

生産性要件|対象となる7種類の助成金

生産性要件を満たせばすべての助成金が割増になるわけではありません。対象となるのは主に雇用や人材育成など労働に関係する助成金です。以下のように大きく7つに分けられます。

1)再就職支援関係
2)転職・再就職拡大支援関係
3)雇入れ関係
4)雇用環境の整備関係
5)仕事と家庭の両立関係
6)キャリアアップ・人材育成関係
7)最低賃金引上げ関係

中小企業の場合は人材を増やしたり育てたりしたくても資金面での不安がつきまといます。そのため大企業よりも中小企業のほうが、対象となる助成金の種類は多く設定されています。また助成金申請の要件が緩やかで、支給額も多いです。

さらに、生産性要件を満たせば割増になるため、人材獲得や育成に思いきって踏み切れる事業所も多くなるはずです。雇用関係の就業規則の見直しなどを検討されている事業所は7種類のなかに該当する助成金があるかどうかを検討してみる価値があるでしょう。

生産性要件|満たすための条件と「生産性」の計算方法

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助成金が割増になる生産性要件ですが、満たすためにはいくつかの条件と生産性の計算が必要です。必須の前提条件は3年度前の初日に雇用保険適用事業主であることです。

生産性要件を満たすには?

生産性要件にとって重要なことは「生産性」の向上です。以下の伸びがあれば「生産性」に関しての条件はクリアできます。

1)直近の会計年度と3年度前の「生産性」を比較し、6%以上伸びていること。

2)直近の会計年度と3年度前の「生産性」を比較し、1%以上(6%未満)伸びていること。
この場合は金融機関から一定の「事業性評価」を得る必要があります。「事業性評価」とは、都道府県労働局が、市場での成長性や競争優位性、事業特性などの事業の見立てについて、助成金を申請した事業所の承認を得て、取引のある金融機関に照会を行った結果から判断することです。

※注意事項※

・中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)は、過去の生産性と比較するのではなく、計画などから一定期間経過後に生産性を6%以上伸ばした場合に支給される助成金です。

「生産性」の計算方法

生産性は以下の計算式で導かれる数値です。
生産性=付加価値/雇用保険被保険者数

付加価値は、「営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課」で計算されます。直近の会計年度および3年度前、ともにプラスの数値になっていなければなりません。

営業利益がたとえマイナスであっても雇用によって人件費が増していたり、機械や設備を購入することで減価償却費が多くなったりすれば、プラスになるかもしれません。逆に業績悪化で雇用を削減すれば、生産性要件を満たさなくなる可能性もあります。

生産性要件は厚生労働省のホームページから算定するためのシートがダウンロードできます。該当する勘定科目の額を損益計算書や総勘定元帳の項目から抜き出して転記すれば生産性の算定が可能です。

勘定科目について不安がある場合は税理士に、人件費の項目についてわからない場合は社会保険労務士に相談することをおすすめします。

厚生労働省 ダウンロードページ

※注意事項※

・人件費には役員報酬等を含みません。
・人件費には通勤交通費は含みますが、出張旅費などの交通費は含みません。
・生産性要件の算定の対象となった期間に事業主都合による退職者がいないことが必要です。

生産性要件を満たせば割増される助成金と支給額

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生産性要件を満たした場合に割増される助成金と支給額を具体的に挙げて説明します。該当する助成金があるかどうか確認し、支給額と生産性要件を満たした場合の割増された支給額を比較してみてください。

1)再就職支援関係

労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)

事業規模の縮小などによって事業主の経済的理由から離職し、「再就職援助計画」の対象となった労働者を早期(離職日の翌日から3カ月以内)に雇用した事業主に対する助成金です。雇入れ日から6カ月を超えて引き続き雇用する必要があります。

支給額:30万円→割増40万円

2)転職・再就職拡大支援関係

中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)

中途採用の拡大を図るために、中途採用者の雇用管理制度を整備した事業所に対して支給される助成金です。支給対象となるのは、期間の定めのない労働者として途中採用された労働者です。

支給額:30~80万円→割増45万円~105万円

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引用:厚生労働省「中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)

中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)

これから起業したり、事業を開始して間もなかったりする法人や個人事業主が活用できる助成金です。40歳以上の中高齢者が起業によって自らの就業機会を創出し、中高年齢者などの従業員を雇用した際の募集・採用・教育訓練などの費用の一部が助成されます。

新規立ち上げになりますので、ほかの生産性要件とは異なり、「生涯現役起業支援助成金 雇用創出措置に係る計画書」を提出した会計年度と3年度経過後の会計年度の生産性を比較します。この助成金は一定金額ではなく実際にかかった費用の一部です。

支給額:上限額150~200万円→支給額の1/4を割増(例:100万円支給の場合は25万円)

3)雇入れ関係

地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)

過疎地や離島など雇用機会が不足している地域の事業主が、事業所の設置や整備を行って、その地域に住む求職者を雇入れた場合、かかった費用および労働者の増加数に応じて支給される助成金です。

支給額:労働者増加数3~4人 48~114万円→割増60~144万円
創業時2~4人 100~240万円→割増なし

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引用:厚生労働省「地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)

4)雇用環境の整備関係

人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)

離職率の低下を防ぐために、諸手当等制度や研修制度、健康づくり制度などを導入した事業主を対象とする助成金です。

制度を導入するだけでは申請できません。雇用管理制度整備計画を作成し、管轄の労働局の認定を受けたのち、導入・実施を行い、離職率の低下目標を達成する必要があります。

支給額:57万円→割増72万円

人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)

人材不足の解消を目的として、人事評価制度を整備し、新たな賃金制度を設けることで生産性の向上や賃金アップ、離職率の低下に取り組む事業主に支給される助成金です。

まず人事評価制度等整備計画を所轄の労働局で認定を受け、整備・実施を行います。実施の翌日から1年圭かするまでの期間に離職率の低下目標値を達成する必要があります。人事評価改善等助成コースはほかの助成金と異なり、生産性要件を満たすことが支給の条件のひとつとなっていることが特徴です。

ほかにも要件がありますので、詳しい内容については社会保険労務士に相談されることをおすすめします。

支給額:80万円

※生産性要件を満たした場合に割増になる人材確保等支援助成金には上記のコース以外に6つのコースがあります。
・介護福祉機器助成コース
・介護・保育労働者雇用管理制度助成コース
・設備改善等支援コース
・雇用管理制度助成コース(建設分野)
・若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)
・作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)

65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)

65歳以降の継続雇用延長や65歳までの定年引上げの取組などを行った事業主を支援する助成金です。

高年齢者における雇用管理制度の整備などの措置を労働協約か就業規則に定めます。雇用管理計画を(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出して認定を受け実施します。提出先は労働局ではないので注意が必要です。

支給額:人件費を除く経費に60%(中小企業以外45%)を乗じた額→割増率75%(中小企業以外60%)
65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)
50歳以上で定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した場合に支給される助成金です。無期雇用転換計画を(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出して認定を受け、実施します。

支給額:対象労働者1人につき48万円(中小企業以外38万円)→割増60万円(中小企業以外48万円)

5)仕事と家庭の両立関係

両立支援等助成金(出生時両立支援コース)

「子育てパパ支援助成金」ともいわれる、男性労働者が育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場環境を整備する事業主に支給される助成金です。実際に男性労働者が所定日数の育児休業や育児目的休暇を取得したのちに申請します。

支給額:1人目の育児休業通常57万円(中小企業以外28.5万円)→割増72万円(中小企業以外36万円)

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引用:厚生労働省「【2021】両立支援等助成金パンフレット

両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)

常時雇用する労働者数が300任以下の中小企業が対象で、女性の活躍推進に取り組む事業主に支給される助成金です。女性労働者の能力の発揮や雇用の安定を目指し、女性が活躍しやすい職場環境の整備などに取り組み、数値目標を達成した場合に支給されます。

採用における女性の競争倍率を下げたり、女性の採用人数を増加したりすることを目標とします。

支給額:1事業主1回限り47.5万円→割増60万円

※生産性要件を満たした場合に割増になる両立支援等助成金には上記のコース以外に3つのコースがあります。
・介護離職防止支援コース
・育児休業等支援コース
・不妊治療両立支援コース
新型コロナウイルス感染症対応特例は除かれます。

6)キャリアアップ・人材育成関係

キャリアアップ助成金(正社員化コース)

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを図るために、正社員化や処遇改善などの取組を実施した事業主を助成する制度です。

人気のある正社員化コースは、有期から無期、無期から正規と段階を踏んで正社員化する場合と、有期から一足飛びに正規にする場合があります。2段階で進んだときの助成額は、有期から正規へ1段階でなるときの半額です。

支給額:有期から正規1人当たり57万円(中小企業以外42万7500円)→割増72万円(中小企業以外54万円)

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定などを改定して昇給したときに支給される助成金です。対象労働者の数や範囲によって支給額は変わります。

支給額:すべての有期雇用労働者を対象として労働者数1~3人9万5000円(中小企業以外7万1250円)→割増12万円(中小企業以外9万円)

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引用:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和3年4月1日版)

※生産性要件を満たした場合に割増になるキャリアアップ助成金は、上記のコース以外に4つのコースがあります。
・賃金規定等共通化コース
・諸手当制度等共通化コース
・選択的適用拡大導入時処遇改善コース
・短時間労働者労働時間延長コース

人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)

計画的に人材育成に取り組む事業主に支給される助成金です。製品やサービスの質を維持・向上させたり、生産効率を上げたりするためには、労働者の能力をフルに発揮してもらう必要があります。

たとえば介護職の場合、段階的にスキルアップを図る教育訓練を行うことで人材不足や早期離職の防止が期待できます。実際にかかった研修などの経費の一部と訓練時間に見合う賃金補助が助成されます。

特定訓練コースは若年者に対する訓練や労働生産性の向上を目的とする訓練など、効果が高い10時間以上の特定の訓練やOJTとOFF-JTを効果的に組み合わせた訓練があります。

OFF-JT(OFF the Job Training)

①労働生産性向上訓練
②若年人材育成訓練
③熟練技能育成・承継訓練
④グローバル人材育成訓練

雇用型訓練(OJTとOFF-JTを効果的に組み合わせて実施)

⑤特定分野認定実習併用職業訓練
⑥認定実習併用職業訓練

一般訓練コースは職務に関連した知識・技能を習得するための20時間以上のOFF-JT訓練を行った場合に申請可能です。

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引用:「人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)P9

支給額:OFF-JT
軽費助成割合30~45%→割増45~60%
賃金助成1人1時間当たり380~760円→割増480~960円

詳細は以下の厚生労働省の表を確認してください。いずれの場合も生産性要件を満たすと割増になります。
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※生産性要件を満たした場合に割増になる人材開発支援助成金には、上記のコース以外に4つのコースがあります。
・教育訓練休暇付与コース
・特別育成訓練コース
・建設労働者認定訓練コース
・建設労働者技能実習コース

7)最低賃金引上げ関係

業務改善助成金

「中小企業最低賃金引上げ支援対策補助金」ともいわれる助成金です。事業場内で最も低い賃金を一定額以上引上げた中小企業の事業主が、生産性や労働能率の向上のための設備投資を行った場合に要した費用の一部が支給されます。2021年8月から制度が変更になり使いやすくなっています。

事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内で、事業場規模は100人以下が対象です。

支給額:最大450万円

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助成率は、最低賃金が900円未満と以上で異なり、いずれも生産性要件を満たすとアップします。

助成金申請では生産性要件をチェック!

労働関係のさまざまな助成金で、生産性要件を満たせば支給額が割増になることを説明しました。助成金申請では要件が複雑なものもありますが、生産性要件をチェックすることが大切です。助成金の申請は事業所の労働環境や人材育成の問題点を洗い出すことにもつながります。労働者のモチベーションを高めることは事業所の成長にとって必要不可欠なものでしょう。要件などの確認では税理士や社会保険労務士に相談して、漏れのないように取り組むことをおすすめします。

企業の教科書
竹内 欣士
記事の監修者 竹内 欣士
弁護士、社会保険労務士

知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく、人の世は住みにくい(夏目漱石「草枕」)。
日々、知識を活かす智恵こそが大切だと痛感しています。知を重んじつつ頼らない。情を大切にしつつ流されない。意地を胸に秘めつつ通さない。そのバランスを図りながら、依頼者に寄り添う「身近な相談相手」を目指してまいります。

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