両立支援等助成金は、仕事と家庭との両立支援に取り組む事業主への助成制度です。現在5コースの受付が実施されており、育児や介護による休業、再雇用や女性の活躍に取り組む企業で、一定の要件を満たしていれば受給が可能です。現代社会において共働きの家庭は多く、福利厚生を充実させたい会社にとっては、活用したい助成制度のひとつと考えられます。制度を充実させれば、社員に対するアピールにもつながるでしょう。両立支援等助成金はコースによって助成額や、対象となる会社の規模、人数などが異なります。今回はこの記事で、両立支援等助成金の各コースの助成内容や支給要件などについてご紹介します。
両立支援等助成金の概要
両立支援等助成金は、職業生活と家庭生活の両立支援や、女性の活躍推進を促進し、人材の確保や定着に取り組む事業主への支援制度です。各コースは下記の通りです。ただし、6つ目の「事業所内保育施設コース」は現在新規受付を停止しており、5つのコースが活用可能です。
【両立支援等助成金のコース】
- 出生時両立支援コース
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
- 再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)
- 女性活躍加速化コース
- 事業所内保育施設コース
両立支援等助成金における「中小企業」の定義
両立支援等助成金では、主に中小企業の事業主が対象となります。この助成金における中小企業の事業主の定義は下記の通りです。ただし、「女性活躍加速化コース」については、常用労働者数300人以下の企業とされています。
資本金の額または出資総額 | 常時雇用する労働者数 | |
---|---|---|
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
各コース共通要件
両立等支援助成金は、それぞれのコースにより要件が異なりますが、受給対象となる事業主については共通要件が適用されます。
【受給条件】
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 支給のための審査に協力すること
- 支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備・保管していること
- 支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等の提出を、管轄労働局等から求められた場合に応じること
- 管轄労働局等の実地調査を受け入れること など
- h申請期間内に申請を行うこと
一方、不正受給をした場合や法令違反をした場合など、下記のいずれかに該当する事業主は、受給対象とならないので注意しましょう。
【受給できない事業主】
- 平成31年4月1日以降に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定又は支給決定の取り消しを受けた場合、当該不支給決定日又は支給決定取消日から5年を経過していない事業主
- 平成31年4月1日以降に申請した雇用関係助成金について、申請事業主の役員等に他の事業主の役員等として不正受給に関与した役員等がいる場合
- 支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主(支給申請日の翌日から起算して2か月以内に納付を行った事業主を除く)
- 支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主
- 生風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主
- 事業主又は事業主の役員等が、暴力団と関わりのある場合
- 事業主または事業主の役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行った又は行う恐れのある団体に属している場合
- 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
- 不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する事業主名及び役員名(不正に関与した役員に限る)等の公表について、あらかじめ承諾していない事業主
生産性要件を満たすと各コースともに助成額が割増に!
両立支援等助成金は、生産性要件を満たした場合、助成額が割り増しされます。各コースともに、下記の条件を両方とも満たした場合に適用されます。
【生産性要件】
- 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、
- その3年前に比べて6%以上のびていること または
- その3年前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
- 1の算定対象となった期間(支給申請を行った年度の直近年度及び当該会計年度から3年度前の期間)について、雇用する雇用保険被保険者(短期雇用特例被保険者および日雇い労働被保険者を除く)を事業主都合によって解雇等(退職勧奨を含む)していないこと
なお、生産性は次の計算式によって算出します。
●生産性=付加価値(※)÷雇用保険被保険者数
※付加価値=営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課
両立支援等助成金のコース別の概要
両立支援等助成金は、それぞれのコースで助成額など支給要件が異なります。
出生時両立支援コース
出生時両立支援コースは、男性の育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場環境づくりに取り組み、それにより休暇を取る従業員が出た事業主に対して支給されます。育児休業の取得日数要件は、子どもの出生後8週間以内に開始する14日以上(中小企業は連続5日以上)とされています。
【助成額】
中小企業 (カッコ内は生産性要件を満たした場合) | 中小企業以外 (カッコ内は生産性要件を満たした場合) | |
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1人目の育休取得 | 57万円(72万円) | 28.5万円(36万円) |
2人目以降の育休取得 |
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育児目的休暇の導入・利用 | 28.5万円(36万円) | 14.25万円(18万円) |
育休取得の後押しをする取り組みを行った場合(2020年度より新設) |
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なお、育児休業については、「育児休業等支援コース(育休取得時・職場復帰時)」との併給はできません。また、5日以上14日未満の育休については、所定労働日が4日以上、14日以上については所定労働日が9日以上、というのが要件とされています。
介護離職防止支援コース
介護離職防止支援コースは、仕事と介護との両立支援を目的としたコースです。「介護支援プラン」を策定し、プランに基づき介護休業の取得や職場復帰に取り組んだ事業主や、柔軟な就労形態制度を導入した事業主等に支給されます。なお、対象は中小企業のみになります。
このコースは「介護休業」と「介護両立支援制度」とに分かれています。どちらも1事業主につき、1年度5人まで支給されます。
なお、介護休業では、休業取得日数の要件が「合計14日以上」とされていましたが、2020年度より「合計5日以上」に緩和されています。また、介護両立支援制度も、利用日数の要件が「合計42日以上」でしたが、「合計20日以上」に緩和されました。さらに介護両立支援制度は導入要件も廃止されています。
【助成額】
支給額 (カッコ内は生産性要件を満たした場合) | |
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介護休業(休業取得時、職場復帰時) | 28.5万円(36万円) |
介護両立支援制度 | 28.5万円(36万円) |
育児休業等支援コース
育児空行等支援コースは、育児を行う従業員が、育休の取得や職場復帰をしやすくなるような職場環境にすることを目的とするコースです。「育休復帰支援プラン」を作成し、作成したプランに基づき従業員が育休を取得、職場復帰した場合に支給されます。なお、こちらのコースも中小企業事業主のみが対象です。
育児休業等支援コースは、「育休取得時・職場復帰時」、「代替要員確保時」、「職場復帰後支援」とで助成金の支給額が異なります。なお「職場復帰後支援」は、要件のひとつに「子の看護休暇制度」を取得することとなっていますが、以前の「20時間以上」が「10時間以上」に緩和されています。
【助成額】
支給額 (カッコ内は生産性要件を満たした場合) | |
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A:休業取得時 | 28.5万円(36万円) |
B:職場復帰時 | 28.5万円(36万円) |
職場支援加算(※Bに加算して支給) | 19万円(24万円) |
※A、Bともに1事業主2人まで支給(無期労働者1人、有期労働者1人)
支給額 (カッコ内は生産性要件を満たした場合) | |
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支給対象労働者1人あたり | 47.5万円(60万円) |
加算(有期契約労働者の場合) | 9.5万円(12万円) |
※1事業主あたり1年度につき10人まで5年間支給
支給額 (カッコ内は生産性要件を満たした場合) | |
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制度導入 | 28.5万円(36万円) |
制度利用 | A子の看護休暇制度:1,000円(1,200円)×時間 B保育サービス費用補助制度:実費の2/3 |
再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)
再雇用者評価処遇コースは妊娠や出産、育児、介護、あるいは配偶者の転勤等により退職した従業員が復職できる、再雇用制度を導入した事業主に対し支給される助成金です。再雇用は離職後1年以上経過していた人で、無期雇用者として6か月以上継続雇用することなどが主な支給要件となっています。
【助成額】
再雇用人数 | 中小企業 (カッコ内は生産性要件を満たした場合) | 中小企業以外 (カッコ内は生産性要件を満たした場合) |
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1人目 | 38万円(48万円) | 28.5万円(36万円) |
2~5人目 | 28.5万円(36万円) | 19万円(24万円) |
※1事業主あたり5人で支給(継続雇用6か月後と1年後の2回に分けて半額ずつ支給)
女性活躍加速化コース
女性活躍加速化コースは、女性活躍推進法に基づき、事業主による女性活躍の取り組みを促進することを目的としたコースです。女性従業員の活躍に関する数値目標を立て、その達成に向けて取り組み、目標を達成した事業主に対して助成金が支給されます。なお、対象となる事業主は、常時雇用する労働者が300人以下の事業主となります。
また、女性活躍加速化コースは、以前まで「加速化Aコース」と「加速化Nコース」とに分かれていましたが、2020年から統合されています。
【助成額】
支給額 (カッコ内は生産性要件を満たした場合) | |
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数値目標達成時 | 47.5万円(60万円) |
事業所内保育施設コース
事業所内保育施設コースは、事業所内に労働者のための保育施設を設置、増築、運営する事業主等への助成コースです。ただし、このコースは平成28年4月から新規計画の認定申請受付が停止となっています。新たに保育施設の設置等を行う場合は、内閣府の「企業主導型保育事業」による助成制度を検討しましょう。
両立支援等助成金の注意点
両立支援等助成金を申請する際は、いくつか注意したいポイントがあります。
雇用保険適用事業者であるのが前提
両立支援等助成金は雇用保険適用事業者であることが前提です。対象となる従業員が雇用保険に加入していないと申請できないので注意しましょう。
書類の不備があると支給できない
原則として助成金の審査は、提出した書類で行われます。申請に必要な書類の漏れや記入漏れがないよう気を付けましょう。なお、書類の提出を郵送で行う場合は配達記録が残る方法にし、申請期限までに到達するようにしましょう。また、提出した支給申請書や添付書類のコピーなどは、支給決定後5年間の保存が必要です。
不正受給は支給停止のリスクも
両立支援等助成金の申請書類に虚偽があった場合や、不正受給した場合、本来より高額の助成金を受給した場合などは、受給した助成金全額または一部の返還が必要です。さらに、ほかの雇用保険二事業関係助成金を含む助成金が、5年間支給停止となります。悪質と判断される場合は、事業主名等を公表されることもあります。
まとめ
両立支援等助成金は、育児や介護などと仕事を両立したり、再雇用により職場復帰を促進したりして、働きやすい環境整備に取り組む企業への助成金です。現代社会では、育児や介護など、仕事と家庭との両立をしながら働く人は多いです。会社としても両立支援等助成金を活用し、従業員がより活躍できる環境づくりを整えてみてはいかがでしょうか。