不適切会計と聞いても、自分に関係ないと感じてしまう人がほとんどではないでしょうか。不正はしていないから問題ないと思っているかもしれませんが、実は仕訳ミスであっても罪に問われる可能性があるのです。
不適切会計とはどのようなことを指すのか、混同しやすい不正会計や粉飾決算との違いまでしっかり理解して、不適切会計に加担しないように気をつけましょう。
不適切会計とは?
「不適切会計」とは、故意またはケアレスミス等により引き起こされる会計のミスのこと。不適切会計と聞くと、利益を大きく見せようと意図的に数字を操作した事例を思い浮かべるかもしれませんが、たとえば、経理担当者の知識不足によって起こった処理の誤りも含まれます。
2015年ある大手企業が問題のある会計処理をしていたことが発覚し、「不適切会計」という言葉の認知が広がりました。東京商工リサーチの調査によると、2008年には25件だった不適切会計が、2019年には67件と年々増加しています。
参考: 2019年全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査|株式会社東京商工リサーチ
後ほど詳しく解説しますが、本社から目の届きにくい子会社や海外支社で発生するケースが多いようです。
不適切会計と不正会計・粉飾決算との違い
「不適切会計」と似たものに、不正会計と粉飾決算があります。一見すると別の意味の言葉のように感じるかもしれませんが、不正会計と粉飾決算は同じような意味。どちらも「意図的に」数字を操作していることを表します。
不適切会計は意図的でないミスも含まれるため、不適切会計は大きな言い方、その中に不正会計と粉飾決算が含まれる形です。
不正会計とは意図的に虚偽の数字を記載したり、必要な開示をあえてしないことをさします。
一方の粉飾決算とは、同じく虚偽の数字の記載などによって、赤字なのに黒字に見せることをさすことが多いです。赤字なのに黒字に見せる方法としては、売り上げを過大に計上したり、経費を過少に計上したりする方法が挙げられます。
また、法人税の支払いを少なくしたり、株主配当を少なくしたり、裏金づくりのためなどに、黒字なのに赤字に見せることもあります。これを「逆粉飾決算」と呼びます。稀なケースではありますが、ありえないことではありません。
不適切会計が増加している4つの理由
不適切会計が増加している理由には、次の4つがあります。
- 過去の不適切会計が明るみになってきたから
- 監査が厳格化されているから
- 経済がグローバル化しているから
- 経理・会計部門の人材不足が深刻だから
どれも経済的に成長を続ける日本企業ならではなきっかけでしょう。
不適切会計が増加する理由:過去の不適切会計が明るみになってきたから
2008年、リーマンショックが起こり、世界中の経済がパニックとなりました。
その時の経営悪化を隠そうと不適切会計をしていた企業が、それ以来、そのことを誤魔化し続けていた経緯があります。しかし、2008年と現在では会計監査の目もより一層厳しくなってきており、隠しきれない状況に。その結果、発覚するケースが増えています。
不適切会計が増加する理由:監査が厳格化されているから
先ほども触れたように、現在は会計監査の目が一層厳しさを増しています。不適切会計をおこなっている企業への注意喚起の面だけでなく、成長を続けていくうえで不正なしに大きくなってほしいという監査側の思いも込められているのです。
このようにこれまで見過ごされていたものが監査の厳格化によって見つかるようになりました。
不適切会計が増加する理由:経済がグローバル化しているから
経済がグローバル化し、日本に本社を置きながら海外支店を持つ企業が増えてきたことも不適切会計の増加する原因となっています。海外支社ともなると会計処理などに目が行き届かなくなり、不正を働かれるケースが少なくありません。
綿密な打ち合わせや指導をおこなったり、海外支社のスタッフとの信頼関係構築が必要です。
不適切会計が増加する理由:経理・会計部門の人材不足が深刻だから
不適切会計は故意に数字を改変するだけではありません。経理・会計担当者が間違った処理をおこなうことでも発生する事象です。
この現象は経理・会計部門の人材不足が原因。知識のない人が複雑な処理についていけず、ヒューマンエラーが起こりやすくなりました。
また、一方で同じ社員がずっと同じ業務に携わることにより、不正が行われても気づきにくくなっていることも。信頼して任せていたつもりが、知らぬ間に多額の現金を横領されているケースも耳にします。
不適切会計の事例
不適切会計にはどのような事例があるのでしょうか。大手企業が不正を働くと大きなニュースとなりますが、実はそれだけではありません。
「最近の不正会計事例と不祥事予防|日本取引所自主規制法人」を参考に確認していきましょう。
不適切会計の事例:売り上げを高く見せるために押込販売
健康機器の製造・販売する企業にて、目標金額を達成するために押込販売をおこなった事例があります。これは日本の支店ではなく、海外の支店を統括する取締役の主導によっておこなわれました。
押込販売とは売り上げを出すために商品を無理やり販売していく手法で、他者に不利益を生じさせます。「締め日が近いから購入してほしい」「作りすぎてしまったから買ってほしい」といったお願いは、押込販売と捕らえられる可能性があるので注意しましょう。
不適切会計の事例:海外支店での不正送金や横領
工業製品の製造・販売をおこなう企業の海外支店にて、架空の名目を使って現地の副社長の親族等への不正送金や、横領がおこなわれていたことが発覚しました。
告発をきっかけに発覚しましたが、目の届かない海外支店での不適切会計の典型的なケースです。
定期的な視察やミーティング、配置転換といった方法を使い、不正が長期間にわたっておこなわれないようにする必要があります。
不適切会計の罰則
不適切会計をおこなうとどのような罰則があるのでしょうか。故意に金額を変更していないヒューマンエラーの場合でも科される可能性があるので注意しましょう。
まず、「詐欺罪」に問われる可能性があります。詐欺罪とは名前の通り、詐欺を働いた際に適用される罪名。財務諸表上の金額を正確に表示しなかったことで、株主をはじめとした周囲の人間に不利益を生じさせた場合、懲役刑が科されます。
また、自分や第三者の利益のために会社に財産上の危害を加えたと判断されれば「特別背任罪」に。横領だけでなく、粉飾決算でも問われる可能性があります。特別背任罪の場合、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金刑が科されます。
どちらも軽視できない量刑です。わざとでなくても刑事罰に問われる可能性があることをしっかりと認識したうえで、日々の会計処理に向き合いましょう。
不適切会計の3つの防止策
不適切会計に軽くない罰則が科されることはお伝えしました。それでは不適切会計を防止するにはどうすればいいのでしょうか。次の3つのポイントを押さえておきましょう。
- チェック体制の強化
- 企業風土の改善
- 会計の知識を身につける
不適切会計の防止策:チェック体制の強化
まずはチェック体制の強化をすることが必要です。意図しない不適切会計を引き起こさないよう、間違えた会計処理をしないようにチェック体制を整えておきましょう。
また、同じ人材を長期にわたって配置しないこともポイント。一人の社員だけが会計に携わっていると不正がおこなわれていても気がつきにくいもの。定期的な配置転換で不正が続くことを回避しましょう。
不適切会計の防止策:企業風土の改善
不適切会計は社内の人間が一番に気がつきやすいものです。しかし、言い出せない社風であると不正が見過ごされてしまい、意味がありません。
忖度などをしないような人間関係を構築すること、さらに、内部告発で発覚した際に告発者のマイナスになることがないようにきちんと情報管理・人材管理をおこなうことが必要です。
不適切会計の防止策:会計の知識を身につける
何度もご紹介してきましたが、不適切会計は意図的に数字を動かすことだけではなく、処理の間違いといったヒューマンエラーも含まれます。そのため、最新の会計知識を収集し、使えるようにしておくことが不適切会計対策には有効です。
会計に関する法律や処理の仕方はたびたび変更されることがあります。その情報をきちんとキャッチして実務に反映できるよう、部署内で関連書籍を購入したり、定期的な勉強会を開いたりする方法がオススメです。
不適切会計を回避しよう!
不適切会計は自分さえ気をつけていれば回避できるというわけではありません。入社前から脈々と受け継がれてきた仕訳が不適切であったり、直接意見が言えないような上層部からの指示でおこなわれることもあります。
しかし、会計処理をおこなっている社員が罪に問われる可能性はゼロではありません。ミスはもちろん、社内でおこなわれている不適切会計に対抗できるようにしっかりと確認しておきましょう。