個人事業主となった場合は、年間を通じて得た所得に応じ、さまざまな税金を確定申告し、納める義務があります。とはいえ、これから事業を始めようと考えている人の中には、どんな種類の税金があり、どうやって計算し、いつの時点でいくら納めればいいか分からない人もいるのではないでしょうか。
今回は、個人事業主が納めるべき税金の種類やそれぞれの計算方法や納税方法、押さえたい控除の種類や節税方法についてご紹介します。
個人事業主が払う税金の種類
個人事業主が支払う税金は、国税である所得税や消費税、地方税にあたる住民税と個人事業税などがあります。
所得税と住民税はすべての個人事業主に支払い義務がありますが、消費税と個人事業税については、条件に該当する場合のみ納付します。まずはそれぞれの税金の概要について見ていきましょう。
個人事業主が納める主な税金①所得税
所得税は働いて所得を得ている人すべてに課せられた税金の一つです。個人事業主の場合は、事業を通じて1年間で得た所得に対し、かかる税金となります。1年間の所得というのは、毎年1月1日から12月31日までで計算されます。
所得税は、翌年2月16日から3月15日の確定申告期間で申告し、納付を行います。期限日の3月15日が土日にあたる場合は、よく月曜日にずれます。申告は所轄の税務署で行う以外に、郵送やe-Taxを利用した電子申告も可能です。
所得税の納付は、「いくら納めなさい」という通知が自宅等へ来ることはありません。確定申告後、期限日までに納付する必要がありますので、忘れないようにしましょう。2013~2037年までは、所得税と合わせて、復興特別所得税も申告・納付が必要です。
もし、提出期限までに全額納付ができない場合は、本来の納税額の半分以上を納めてれば、残りの納税額を期限後に延期することもできます。ただし、その場合は、延滞税がかかります。延期した金額に対し、年率1.8%の利子税が加算されます。
所得税は、所得額が多くなるほど税率が上がる累進課税制が採用されています。個人事業主にとって負担が大きい税金といえるでしょう。また、個人事業主個人にかかる税金のひとつなので、経費処理はできません。
所得税は下記の方法で納付できます。
所得税の納付方法
所得税の納税方法①納付書による現金納付
税務署または金融機関に用意されている納付書に記入の上、現金で納付する方法。(納付する税額が30万円以下の場合、税務署でバーコードのついた納付書を発行してもらえばコンビニでの納付も可能)
所得税の納税方法②コンビニ納付
QRコードを利用した納付方法。自宅のパソコンで納付用のQRコードを作成し、指定のコンビニに設置されている端末で読み取り、レジで支払う方法。(QRコードは国税庁サイト「確定申告書作成コーナー」および「コンビニ納付用QRコード作成専用画面」で作成可能)
所得税の納税方法③口座振替
税金の口座振替に対応している金融機関で振込を行い、納付する方法。金融機関や税務署にある「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」に必要事項を記入し、通帳印を押した上で提出する。(振込用紙は国税庁サイト「振替納税の新規(変更)申込み」からもダウンロード可能)
所得税の納税方法④電子納税
インターネット経由で納付する方法。e-Taxで電子申告又は納付情報登録を済ませた後、即時は期日指定で納付できる「ダイレクト納付」や、納付区分番号を取得し納付する「登録方式」、納付情報登録をせず、自分自身で納付目的コードを作成しインターネットバンキングやATMから納付する「入力方式」から選べる。
クレジットカード納付
国税庁長官が指定した納付受託者へ、クレジットカード払いによる納付方法。(※領収書の発行不可、決済手数料要、納税証明書の発行目安は3週間程度)
個人事業主が納める主な税金②消費税
消費税(消費税及び地方消費税)は、商品やサービスを販売するときにかかる税金で、国税ですが一部は地方自治体に納める地方消費税で成り立っています。
消費税が発生するかどうかは、課税売上高によって判断されます。課税売上高とは、消費税がかかる売上高のことで、原則として前々年を基準として判断されます。
ただし基準期間が1年でない場合は、原則として1年相当に換算した金額により判定されます。課税事業者と判断された場合は、毎年3月31日までに消費税を納付します。
<消費税が課税される個人事業主>
- 前々年度(2年前)の課税売上高が1,000万円を超える個人事業主
- 前々年度(2年前)の課税売上高は1,000万円以下でも、特定期間(前年の1月1日から6月30日)で課税売上が1,000万円を超え、且つ給与等支払額の総額も1,000万円を超える場合
- 「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出し、任意で課税事業者になることを選択した個人事業主
一方、個人事業主の中でも、下記に該当する場合は、消費税の免税事業者となります。
<消費税が免除される個人事業主>
- 基準期間の課税売上高及び特定期間の課税売上高等が1,000万円以下の事業者
基準期間は、納税義務が発生するかどうかの判定基準となる期間です。個人事業主の場合、2年前(前々年)の課税売上金額で判断されます。つまり、課税売上高が1,000万円を超えた事業年度から起算し、2年後に初めて納税義務が発生することになります。
基本的に開業してから2年間、もしくは2年以上事業運営をしていても、前々年の課税売上高が1,000万円を超えない個人事業主の場合、免税事業者になる可能性が高いでしょう。
また、消費税は租税公課に分類され、経費計上できる税金のひとつです。租税公課とは事業そのものにかかる税金のことをいいます。
(参考:国税庁「消費税のしくみ」)
個人事業主が納める主な税金③住民税
住民税は地方税のひとつで、市県民税とも呼ばれます。納付先は毎年1月1日時点に住所がある市区町村で、納付金額は、所得税の支払額に応じて自動的に計算され、決定されます。
納付のタイミングは、毎年6月中旬ごろに送付される納付書にしたがって行います。納付回数は普通徴収と呼ばれる年4回(6月末、8月末、10月末、翌年1月末)の分割払いか、1回払い(6月)かのいずれかを選択可能です。どちらを選んでも税額は変わりません。
個人事業主の事業所がある都道府県や市区町村から届く納付書に従い、都道府県民税と市区町村民税の合計額を、居住している各市区町村の窓口に納めることになります。
なお、住民税は所得税と同じく、事業ではなく個人事業主個人にかかる税金(事業主貸)なので、経費処理はできません。
個人事業主が納める主な税金④個人事業税
個人事業税は地方税のひとつで、個人が事業を行う際に課せられる税金です。租税公課のひとつでもあるので、経費計上が可能です。
個人事業税は税務署に確定申告すれば、改めて申告する必要はありません。確定申告をすることで、個人事業税も申告したことになるからです。確定申告後、住んでいる地域を管轄する税務署から、住民税と同じ毎年8月ごろに納税額の通知と納付書が送られてくるので、それに従って納付します。
納付のタイミングは8月末と11月末の年2回で、納付先は都道府県です。ただし、地域によってはタイミングが異なる場合もあるので、あらかじめ確認しておきましょう。
また、個人事業税は、事業内容に応じて課される税金であり、文筆業のように「地方税法等で定められた事業」に当たらない場合は課税対象外となります。さらに、1年間事業を営んでいる事業者で、年間の事業所得が290万円に満たない場合も、納税義務はありません。
個人事業主が納めるその他の税金
個人事業主には、他にも従業員を雇用した場合の源泉所得税、土地・建物を取得した場合にかかる固定資産税など、下記のような税金が発生することがあります。また、税金の納付が遅れた場合は延滞金や加算金が科せられます。
- 源泉所得税
- 固定資産税(償却資産税)
- 自動車税
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 印紙税
- 会費、組合費
- 相続税
個人事業主が納める税金の計算方法
個人事業主が納める税金は、種類によって税金の計算方法も異なります。ここでは主な税金の種類である、所得税、消費税、住民税、個人事業税の計算方法について見ていきましょう。
個人事業主に対する税金①所得税の計算方法
個人事業主が納める所得税は、全体の売上(収入)から経費や控除などを差し引いた上で、課税対象となる所得に対して課税されます。つまり、いわゆる「儲け」の部分に対して税金がかかるのであり、売上金額そのもので算出するわけではありません。
所得税の計算は、まず所得税の課税対象となる10種類の所得(事業所得や、不動産所得、譲渡所得、雑所得など)すべての種類の所得を合計した上で、所得控除分を引きます。その上で、税法で定められた税率をかけ、課税控除額を差し引くことで算出されます。
<所得税の計算式>
1年間の売上(収入)-必要経費-各種所得控除=課税所得金額
課税所得金額×税率-課税控除額=所得税の納付税額
所得税は所得額が多くなるほど税率が上がる、累進課税が採用されています。例えば所得が500万円の場合は所得税の税率が20%ですが、1,000万円だと税率33%が適用されます。最高税率は45%です。
<所得税の税率>
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
(参考:国税庁「№2260所得税の税率」)
ちなみに、2013~2037年までは、東日本大震災に関する「復興特別所得税」を、その年の基準所得税額の2.1%を所得税と合わせて納付します。
個人事業主に対する税金②消費税の計算方法
消費税は商品やサービスを購入した消費者が支払うものですが、事業者が一旦預かり、まとめて税務署に納める仕組みになっています。つまり、個人事業主は購入者として消費税を支払った分と、顧客から預かった消費税とを相殺し、差額分を最終的に税金として納付します。
消費税の計算式
消費税の納付額=受け取った消費税(課税売上高)−支払った消費税(課税仕入等)
例えば消費税10%で、500円で仕入れたものが、商品として1,000円で販売されたとします。この場合、個人事業主は仕入れた時点で50円の消費税が発生し、消費者から100円の消費税を預かります。したがって、消費税の納付額は、100円-50円=50円となります。
ただし、個人事業主が納める消費税は、租税公課で処理をする税込経理方式と、税抜処理方式などの種類もあり、状況によって計算方法が異なります。
個人事業主に対する税金③住民税の計算方法
住民税は「都道府県民税」と「市区町村民税」、2つの税金から成り立ち、さらに「均等割」と「所得割」の合計額で算出されます。
均等割は所得額に関係なく全員が等しく負担する分で、原則として5,000円(都道府県民税1,500円+市区町村民税3,500円)です。ただし、自治体によって独自の政策を実施している場合、金額が異なることもあります。
一方、所得割は所得に応じて課せられるため、所得に応じて変動します。所得割は下記の計算式に当てはめて算出しますが、均等割と同じく、各自治体によって税率が異なることがあります。
<住民税の所得割の計算式>
所得割額=(所得金額-所得控除額)×税率(10%※)-税額控除額
(※10%=都道府県民税4%+市町村民税6%)
上記の計算式に均等割を合わせたものが住民税となりますが、実際には確定申告で提出したデータをもとに、各自治体が計算、決定するため、納付書とともに通知された税額を支払うこととなるでしょう。
個人事業主に対する税金④個人事業税の計算方法
事業所得が290万円以上の場合のみ納付義務が発生する個人事業税は、所得に基づいて納付額が決定されます。下記の計算式で算出されますが、自分で計算する必要はないでしょう。
<個人事業税の計算式>
個人事業税の納付税額={収入−必要経費−各種控除−事業主控除(290万円)}×税率
個人事業税の税率は、業種によって異なります。それぞれどの業種に属し、何パーセントの税率になるかは、各自治体の公式サイトで確認しましょう。
<個人事業税の税率>
- 第1種事業:税率5%(物品販売業や料理店業、出版業など37業種)
- 第2種事業:税率4%(畜産業、水産業、薪炭製造業の3業種)
- 第3種事業:税率3~5%(鍼、マッサージ指圧などの医業、装蹄師業は3%、医業や弁護士業、理美容業など28業種は税率5%)
個人事業主ができる税金対策
個人事業主が納める税金の中には、所得税のように累進課税の税金もあり、事業者によっては負担が大きく感じることもあるでしょう。確定申告をする前に、少しでも税負担を減らすためにできる税金対策がないかどうか検討しましょう。
個人事業主の税金対策①経費の見直し
個人事業主ができる税金対策のひとつは、経費の見直しです。所得税の場合、まずは全体の売上(収入)から経費を差し引きます。経費が多いほうが、所得額が減り、最終的に所得税額も減らすことができるでしょう。所得税が調整できれば、住民税を納める金額も効果が期待できます。
例えば事業に関係する交通費、宣伝費、日用品、取引先との飲食代で経費にできるものがあれば計上するとよいでしょう。また、自宅を仕事場にしている事業者なら、家賃や光熱水費、携帯電話やインターネット料金などを、事業用とプライベート用とで正しく按分し、事業用についてのみ経費計上することも可能です。
個人事業主の税金対策②控除を活用する
個人事業主が納める税金の種類によっては、一定の要件を満たす場合控除が適用されます。例えば個人事業税のように、事業所得が290万円に満たない場合は適用されないのも控除のひとつです。
個人事業主が納める税金の中でも、意識したいのが所得控除です。所得控除とは、定められた要件を満たす場合、所得の合計額から一定の金額を差し引くことです。公平に税金を徴収することが目的であることから認められています。
所得税の課税所得額は、売上(収入)から経費を引き、さらに所得控除を引くことで割り出します。その上で税率を乗じ、課税控除をして所得税額が出されるため、適用される所得控除が多いほど、所得額を減らすことにつながり、節税効果も期待できます。
所得控除は15種類ありますが、詳しくは国税庁のサイトをご参照ください。
(参考:国税庁「№1100所得控除のあらまし」)
<所得控除の種類>
- 基礎控除
- 青色申告特別控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 雑損控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦(寡夫)控除
- 勤労学生控除
また、所得控除の中で、基礎控除についてはすべての人に一律で適用される所得控除です。ただ、控除金額は以前まで38万円でしたが、2020年以降は所得金額に応じて異なるので注意しましょう。
<個人事業主の基礎控除額>
合計所得金額 | 所得税の基礎控除額 | 住民税の基礎控除額 |
---|---|---|
2,400万円以下 | 48万円 | 43万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 | 29万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 | 15万円 |
2,500万円超 | 基礎控除適用なし | 基礎控除適用なし |
(参考:財務省「平成30年度税制改正」)
個人事業主の税金対策③青色申告特別控除
条件を満たせば、所得控除の中にある青色申告特別控除を利用するのもひとつです。いわゆる青色申告で、10万円もしくは65万円の控除が受けられる制度です。このうち、65万円の特別控除を受けるには、下記の条件全てに該当する必要があります。
- 不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営んでいること。
- これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること。
- 2の記帳に基づいて作成した貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、法定申告期限内に提出すること。
(参考:国税庁「№2072青色申告特別控除」)
青色申告特別控除は2020年以降、控除額が55万円になります。ただし、e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存を行う場合は、引き続き65万円の控除が適用されます。
もし、申告期限に間に合わなかった場合や、上記の条件をすべて満たさない場合は、控除額は10万円が適用されます。
まとめ
個人事業主が納める税金は、所得税や住民税など、たくさんあります。ただ、中には消費税や個人事業税のように条件を満たせば免除される税金もあります。とはいえ税制は複雑なので、困ったことがあれば税理士に相談すると良いでしょう。