税務調査とは、事業者や個人が適切に税金を納めているかどうかについて、税務署や国税局が確認することです。所得税、法人税、消費税、源泉徴収税、相続税など、あらゆる税金が対象になります。
税務調査を経験したことがない場合、「いつ行われるのか」「対応できない時期にきたらどうしよう」といった不安を持つ方も多いのではないでしょうか。
当記事では税務調査が多い時期・少ない時期や税務調査の頻度、税務調査の流れ、税務調査を乗り越えるためのコツなどを解説します。
税務調査が多い時期|多い理由などを解説
税務調査が行われる時期は、明確には決まっていません。1年中いつでも実施される可能性があります。
とはいえ、実際のところ「確定申告や決算報告明け」や「国税局・税務署の人事異動が終わるタイミング」に税務調査が実施されるケースが多いようです。具体的には、7~12月辺りになります。
7・8月は税務調査の件数が増え始める時期
7月・8月は、国税局・税務署の人事異動が終わる時期です。一般職の税務職員の定期人事異動は、7月10日に行われると決まっています。
この人事異動が終了する時期は、調査員が「新しい環境で結果を残したい」「調査チームの再編が終わって動けるようになった」と考える時期です。そのため、各種調査が本格的になると言われています。
また7~8月は、個人事業主や3月末決算の法人の確定申告の確認が終わる頃です。確認内容を踏まえた上で、税務調査先の選定が行われ始めます。
9~11月は本格的な調査が始まる時期
9~11月は、申告内容の確認や調査先の選定がおおよそ終了している時期です。税務調査が本格的に始まります。
12月に入ると、年明けに向けて税務調査の実施回数は落ち着いてきます。年末や年明けは、国税庁・税務署が他の税務作業が忙しくなるためです。そこから2~3月にかけて、税務調査の実施数は少なくなると言われています。
税務調査が少ない時期
税務調査が少ない時期は、年末~確定申告明けとなる1月~6月辺りです。この時期の国税庁・税務署は、確定申告のチェックといった税務調査以外の作業でバタバタしています。
とくに確定申告の時期である3月前後や、3月末が会計年度末の企業の確定申告が集中する4~5月辺りは、税務調査がほとんど行われないと言われています。
ただし実施確率はゼロではありません。どの時期に税務調査が来ても問題ないよう、日頃から備えておきましょう。
税務調査の実施頻度|対象になりやすい事業所や仕事
国税庁の「税務行政の現状と課題(2018年1月)」によると、法人の実調率(実地調査の件数÷対象法人数)は3.2%、個人実調率(実地調査件数÷納税者)は1.1%と、それほど多くありません。申告件数の増加と業務の複雑化が原因で、年々数値を下げつつあります。
しかし、計算には休眠中の法人なども含まれているので、実際はさらに多くの事業所が税務調査を受けています。一般的に税務調査が実施される周期と言われるのは、約3~5年です。
ただし税務調査の頻度自体は、正式に決まってはいません。10年以上こない事業所や、開業・設立してから一度も調査されていない事業所も存在します。とはいえ、いつ税務調査がきても問題ないよう、常に正確な税務記録・申告を実行しておきましょう。
以下ではさらに、税務対象の対象に成りやすい事業所や仕事について解説します。
税務調査の対象になりやすい事業所
税務調査の対象になりやすい事業所の特徴は、主に次のとおりです。
- 開業・設立してから3年以上経過している
- 同業他社と比べて異常な数値(売上や利益率、必要経費などの急激な増または減、急速な事業拡大など)がある
- 不自然な赤字が長期的に続いている
- 赤字から黒字に転換した直後の年である
- 確定申告書や決算書の内容に明らかに怪しい部分や矛盾点がある
- 顧問税理士がついていない
時期的な部分を意図的に避けるのは難しいです。しかし数値や申告内容については、経営状態の記録や根拠となる証憑書類などを準備しておき、論理的かつ整合性のある説明ができれば対策できます。
税務調査で不正が発覚しやすい仕事
国税庁が発表する「令和2事務年度 法人税等の調査事績の概要(2021年11月)」によると、法人税の申告において不正発見割合が高い10業種は以下のとおりになっていました。
業種名 | 不正発見割合 | 不正一件当たりの不正所得金額 |
---|---|---|
バー・クラブ | 53.7% | 2,385万7,000円 |
外国料理 | 52.0% | 1,432万3,000円 |
美容 | 37.5% | 1,565万円 |
医療保険 | 36.7% | 1,146万9,000円 |
新鮮魚介そう卸売 | 36.2% | 3,592万7,000円 |
一般土木建築工事 | 36.0% | 1,828万2,000円 |
職別土木建築工事 | 36.0% | 1,828万7,000円 |
中古品小売 | 33.3% | 1,150万8,000円 |
医療関連サービス | 33.3% | 3,320万円 |
土木工事 | 33.2% | 1,393万9,000円 |
バー・クラブといった水商売や、飲食・小売などの現金商売は、例年通り上位にランクインしています。正確な経理が難しい仕事や現金売上の業種は所得が隠しやすいことから、不正が多いと考えられます。
また少し指標が違うものの、「令和2事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(2021年11月)」によると、事業所得を有する個人の1件あたりの申告漏れ所得金額が、とくに高額な上位10業種をみていきましょう。
業種目 | 1件当たりの申告漏れ所得金額 | 1件当たりの追徴税額(加算税含む) |
---|---|---|
プログラマー | 4,927万円 | 716万円 |
畜産農業(肉用牛) | 3,515万円 | 503万円 |
内科医 | 3,339万円 | 805万円 |
キャバクラ | 2,834万円 | 864万円 |
太陽光発電 | 2,603万円 | 825万円 |
建築士 | 2,325万円 | 624万円 |
経営コンサルタント | 2,268万円 | 477万円 |
小売業・犬 | 2,051万円 | 456万円 |
不動産代理仲介 | 1,804万円 | 614万円 |
商工業デザイナー | 1,759万円 | 389万円 |
IT業界の成長やフリーランス増加の影響もあり、プログラマーが第1位となっています。
税務調査では何を見られる? 何年前まで遡るのか
ここからは税務調査で「何を見られるか」や、「何年間まで遡って調査されるのか」などを解説します。
税務調査で調べられる内容
税務調査で調べられる内容は、「正しく計上されているか」「申告内容との差異がないか」などです。具体的にはお金の出入りや経費の詳細などをチェックします。
チェック対象は、証憑書類、帳簿類、銀行口座(法人や代表者など)、在庫などです。
以下では税務調査にて必ず調べられるであろう項目を、5つ例に挙げて解説します。
売上
売上については、「計上が漏れていないか」「売上過小に申告していないか」「前期の売上を当期で計上していないか」などをチェックします。
売上を過少申告すると課税所得も少なくなり、本来納めるべき税金が納められていない可能性があります。
仕入
仕入れについては、「架空仕入をしていないか」「計上時期は間違っていないか」などをチェックします。
仕入額を過大に申告していると仕入控除が多く差し引かれるので、売上の過少申告と同じく本来納めるべき税金が納められていないと見なされます。
棚卸資産
棚卸資産については、「棚卸資産の評価額・評価方法は適切か」「計上漏れはないか」「実施棚卸は行われているか」などをチェックします。
棚卸資産は課税所得の対象となる上に、所得への影響が大きくなる資産です。不正に使われることも珍しくありません。
交際費
交際費については、「交際費にすべきところを別科目で処理していないか」「事業と関係のない支出を交際費で計上していないか」などをチェックします。
例えば、法人の交際費は一部が損金計上できないことから、交際費を別科目で計上するという不正が考えられます。また個人事業主の場合は、事業関係以外の方(家族や友人など)との飲食代を、交際費として不正計上するのもよくあるケースです。
人件費
人件費については、「架空の従業員への給料を計上していないか」「その他架空の人件費を計上していないか」などをチェックします。このケースだとタイムカード、人件費明細票、給与明細票、社会保険料支払い状況などがチェック対象です。
さらに法人の場合だと、「役員報酬や退職金が、社会通念上適切な金額か」「事前確定届出給与の届出はされているか」なども確認します。
税務調査は何年間まで遡って調査されるのか
税務調査は、原則として3年間まで遡ることがほとんどです。
もし対象期間の3年間で不正や申告漏れなどが発覚したときは、さらに5年間まで確認期間が延長されます。5年間というのは、税務調査の限界である5年の遡及期間に基づいたものです。
ただし5年間で悪質な脱税や所得隠しなど、よほどの問題が発覚したときは、7年間まで延長できると国税通告法に定められています。
税務調査のおおまかな流れ|調査期間はどれくらい?
税務調査の連絡が来た後は、対応するための準備に取り掛かる必要があります。事前準備をしっかり実施しておけば、調査員に怪しまれることもありません。
以下では税務調査に必要な準備やおおまかな流れ、税務調査にかかる期間などを解説します。
税務調査に当たって必要な準備
税務調査に当たって必要な準備を以下でまとめました。
- 最低でも過去3年分の確定申告書、決算書(貸借対照表・損益計算書)、帳簿類(総勘定元帳や仕訳帳など)、証憑書類(請求書、納品書など)を揃える
- 税務調査の対象となった税の種類(所得税、法人税、消費税、相続税など)に応じた書類などを揃える
- 登記簿、定款、株主総会議事録などの会社関係の書類を揃える
- 書類に不備がないか確認する(計算間違い、帳簿と資料の整合性など)
- 金庫や倉庫などがあるときは中にある在庫や資産を整理しておく
- パソコン内のデータを整理しておく
万が一準備段階で不正やミスが発覚したとしても、訂正や改ざんをしてはなりません。改ざんが発覚すれば仮装・隠蔽と見なされて、重加算税と呼ばれる重い追徴課税を納める必要があります。
税務調査のおおまかな流れ
税務調査は、大まかに次の流れで進んでいきます。
実地調査・証憑書類や帳簿など税務に関係のある書類や場所を調査
・調査官から疑問点について質問
税務調査のおおまかな流れ | 概要 |
---|---|
事前予告 | ・税務署の調査員や顧問税理士から事前に連絡 ・10~20日前に予告されるのが一般的 |
日程調整 | 日程の都合がつかないときは調査員側と協議して日程を調整 |
税務調査準備 | ・必要書類や帳簿の準備 ・顧問税理士との打ち合わせ |
準備調査 | ・実地調査に入る前に税務署が独自に収集した情報を基に行う調査 ・企業の外観、自宅、店舗などを調査されるが、調査員側でのみで行うのでこちらの準備はとくに必要なし |
実地調査 | ・証憑書類や帳簿など税務に関係のある書類や場所を調査 ・調査官から疑問点について質問 |
調査結果報告 | ・調査最終日に結果の報告 ・修正が必要なときは修正申告(従わなかったときは更正)・納税を実施 |
調査時間は1日約8時間、1~2日ほどで終了するケースがほとんどです。調査の進み具合によっては、半日で終わったり3日以上続いたりすることもあります。小規模事業者や中小企業の場合は、調査官1~2人で調査が行われるのが一般的です。
また、取引先の企業や金融機関の調査が必要な際には、取引先にも税務調査が入る可能性があります。この調査を反面調査と呼びます。
事前予告のない現況調査や強制調査とは?
一般的に税務調査と呼ばれるものは「任意調査」における一般調査と呼ばれるものです。これとは別に、任意調査における「現況調査」と、国税局が強制的に行う「強制調査」があります。
現況調査
現況調査とは、任意調査のうち事前予告がされずに行われる抜き打ち調査のことです。現況調査の対象となった場合は、税理士が到着するまで調査を待ってもらえます。
強制調査
事前予告のない税務調査のうち、巨額の脱税や悪質な行為の立件を目的としたものが強制調査です。国税局査察部(マルサ)によって実施されます。裁判所から出た令状を基に、強制的に行われます。
税務調査を問題なく乗り越えるためのコツ
税務調査を問題なく乗り越えるために、特別なコツは必要ありません。正しく取引記録や入出金記録を残し、根拠となる書類を適切に保管してください。
もし事業規模が大きかったり調査官との受け答えに不安があったりするときは、税理士に立ち会いを依頼しましょう。以下では詳細を解説します。
不正ない税務手続きと税務関係の書類・帳簿の保存を行う
税務調査を問題なく乗り越える大前提は、正しい確定申告を実施することです。所得隠しや架空の経費計上などに手を染めず、正確な記帳、申告、納税を行いましょう。
その上で、税務関係の書類(決算書、請求書、受領書、レシートなど)や帳簿類(総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳)などを、税法で定められた期間まで保存します。もし税務調査がきたときに書類や帳簿が見せられないと、不正や脱税が疑われるかもしれません。
原則として書類の保存期間は5年または7年、帳簿の保存期間は7年間です。
要するに、決められた確定申告や法律に従った取引・保存などを行っていれば、税務調査を必要以上に恐れる必要はないといえます。
とはいえ実際のところ、調査員に納得してもらえる説明をスムーズに言えたり、帳簿・書類の作成・管理を不備なく行ったりするのは、ハードルが高いのも事実です。初めての税務調査であれば、緊張や準備不足が原因で調査員の追求が強くなる可能性もあります。
準備した資料は何度も確認しつつ、本番を想定したリハーサルを行うなどしっかりと対策を講じましょう。
税務調査の対応は税理士に任せるのが安心
税理士は、税務調査の立ち会いを含めた税務関係の代理に対応できます。また、確定申告書や決算書の作成の依頼も可能です。税務調査対策として、税理士に任せるメリットは次のとおりです。
- 確定申告書や決算書の正確な作成が期待できる
- 税理士が処理に関わったという証明が、調査員からの信頼につながる
- 調査員からの質問を代わりに回答してくれる
とくに顧問税理士であれば、普段から事業に関するお金の流れについて把握している分、税務調査もスムーズに対応してくれるでしょう。今後、さらなる事業拡大や複雑な経理処理が見込まれるときは、顧問税理士契約を検討してみてください。
適切な準備で税務調査に備えよう!
税務調査は主に1年の後半(7~12月頃)に行われることが多いです。もし税務調査の連絡が来たときに対応できるよう、普段から税務関係の処理は適切に行い、証憑書類や帳簿類を適切に保管しておきましょう。最低でも3年間分の準備が必要です。
自社のみで対応するのに不安があるときは、税理士に立ち会いを依頼することも検討してみてください。