これから会社を設立したいけれど、初期費用がかかって最初の資金繰りが不安という方も多いのではないでしょうか。そんな不安を払拭するための制度として、会社を設立してから2年の間、消費税を免除(=免税)してくれる制度があります。平成23年度の税改正で要件が少し厳しくはなってしまいましたが、要件を満たすことができれば、基本的に2期にわたり消費税の免除が受けられます。
この記事では、
- 免税を受けるにはどんな要件を満たす必要があるのか?
- 消費税免税期間を最大化させるにはどうすればいいのか?
- 資本金、出資額が1,000万円以上になりそうだが、対処法は?
など、消費税免税に関することを徹底検証して、解説していきます。
消費税の免税を2年間受ける要件
2019年10月1日に8%→10%への消費税引き上げがあったばかりの日本では、2年間であっても消費税を免除してもらえるのは大きなメリットです。以下では、2年間免税を受けるための要件について解説していきます。
免税事業者の条件
まず、免税事業者について説明する前に、課税事業者(消費税免除が対象外の事業者)に当てはまる要件について確認していきましょう。下記の要件に一つでも当てはまった場合には課税事業者ということになります。
- 基準の会計期間における課税売上高が1,000万円超
- 特定の期間内で課税売上高、および給与等支払額が1,000万円超
- 設立から2年以内だが、資本金の額(または出資額)1,000 万円以上
- 消費税課税事業者選択届出書を提出済
- 納税義務の免除の特例※により課税事業者となる。
(※ここでの特例とは、相続、合併、分割などで免除の特例より課税事業者になる場合)
この課税事業者の要件を確認して、免税になる要件をまとめてみます。
それでは、上記をふまえた上で、免税を受けるための要件を確認していきましょう。そもそも免税措置というのは、設立したばかりの会社は売上が低いだろうという想定のもと、定められた制度のため、条件はさほど厳しくはありません。次の3つのポイントをクリアすれば免税事業者になれます。
- 設立時の資本金、または出資額が1,000万円未満である
- 基準期間内(個人は、前々年の期間で、法人の場合は会計期間の前々年ということになる。)の売上高が1,000万円以下である。
- 特定期間内(個人の場合、前年1~6月、法人の場合は、会計期間の前半6か月)の課税売上高、給与等支払額が1,000万円以下である
この3つの要件うち、①は設立から1期目、②③は、設立から2期目の要件を指します。この3つの要件について、もう少し掘り下げていきましょう。
①設立時の資本金、または出資額が1,000万円未満である
→開業時に、1,000万円未満の資本金や出資額を用意できている場合には、資金は十分と見なされ、消費税の免税事業者には該当しなくなります。設立して間もなく、増資を検討する場合には、資本金の合計が1,000万円のボーダーを超えないように注意しましょう。
②基準期間内(個人は、その年の前々年前の期間で、法人の場合は会計期間の前々年ということになる。)の課税売上高が1,000万円以下である。
→この課税売上高というのは、その名の通り消費税がかかっている売上高のことを指します。事業開始年度のうち、はじめの6か月間において課税売上高が1,000万円を超えてしまうと、2期目の免税を受けることができません。創業から2年間の免税期間を活かすためにも、利益配分と経費についても常に確認しておくことが必要です。
③特定期間内(個人の場合、前年1~6月、法人の場合は、会計期間の前半6か月)の課税売上高、および給与等支払額が1,000万円以下である
→この要件は前年上半期の売上が1,000万円以下であり、かつ、給与・賞与の支払い額も1,000万円以下の場合を指します。給与等支払い額には、非課税である旅費交通費、未払金は含まれません。
課税事業者を選択した方が良いこともある
消費税法においても、免税事業者でも消費税を課税できないとは規定されていません。また国税庁は、「仕入れ業者が免税事業者であっても、消費税課税して支払うように」と現時点では、規定されています。
免税事業者は、課税売上から消費税を徴収されずに、商品を売買したときは消費税を請求して受け取っても良いということになっています。この受取った消費税を益税と言います。
消費税が利益になるなら、免税事業者になっておくほうがお得なのではと思う人もいるでしょう。次の2つの場合においては、課税事業者を選択したほうが良いと考えられます。
- 輸出は免税取引となるが、仕入れは課税となる輸出業者では、支払った消費税額が還付になる
- 開業時に多額な設備投資をして課税仕入れが多くなるが、課税売上げは少なかった。
上記の場合は、課税事業者であったほうが得をします。ただ、消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者を選択してしまうと、2年間は免税事業者には戻れませんので、単年度の決算状況だけでなく、翌年の予算についても十分に検討してから判断してください。
免税事業者も消費税を請求できる?!
さきほどの項目冒頭で、免税事業者でも請求業務において、消費税課税できると説明しています。この件に関して、注意点も含めもう少し掘り下げておきます。
消費税の仕組みをおさらい
商品が流通されていく中で、順次消費税が課税されます。工場から出荷して、加工工場に行き、そこから問屋、小売へ卸すときも消費税が段階ごとに順次、消費税が課税されます。これらの流通段階でかかった消費税は、店頭に商品が並んで、私たち消費者が購入する際に最終的に消費税を負担します。
もちろん、免税事業者も課税事業者と同様に仕入れ時には課税されているのですから、売上請求時には消費税を課税しておかないと、支払った消費税は自己負担になってしまいます。このことから、免税事業者においても消費税請求できることになっているという訳です。
インボイス制度の導入
前項目において、免税事業者でも消費税請求できることを説明しましたが、2023年10月1日からインボイス制度(=適格請求書等保存方式)という軽減税率に対応した新しい制度ができ、消費税の仕入れ控除方式に導入されることになりました。
インボイス制度とは
インボイス制度とは2023年10月1日から導入予定の制度のことであり、適格請求書等保存方式とも言われています。このインボイス制度が導入されることによって、適格請求書で提出された請求内容の消費税でなければ仕入れ控除できなくなります。
適格請求書とは
適格請求書とは。正確な適正税率、課税される消費税額といった一定の事項が記載されている請求書、納品書のことです。この請求書を使うには、事前に所轄税務署へ「適格請求書発行事業者」になるための登録申請をしておかなければいけません。
国税庁ホームページ⇒『適格請求書等保存方式が導入されます』
インボイス制度の注意点
インボイス制度が導入されることによって、適格請求書で提出された請求内容の消費税でなければ仕入れ控除できなくなります。
事前に所轄税務署に「適格請求書発行事業者」になるための申請を出した事業所でないと、適格請求書は使えません。そして、この申請をだせるのは、課税事業者だけとなります。
要するに、免税事業者が発行した請求書に記載された消費税額は仕入れ控除ができないことになります。
そして、2029年には免税事業者からの仕入れ控除が一切できなくなります。2023年からインボイス制度の始動に向け、適格請求書が段階的に導入され、2029年10月から仕入れ控除ができなくなると、課税事業主にとっては免税事業主との取引はデメリットとなってしまうため、免税事業者からの商品仕入れをやめる企業が増えていきます。
インボイス制度が導入されたからといって、免税事業者が消費税を課税されることはないという事実は変わりませんが、取引先や親会社から、消費税控除できないからもう取引もなしと通達されたら、売上が1,000万円以下であっても、課税事業所になった方が良いということにもなりかねません。
よく財務状況を確認してから、免税か課税かを決めることが必要です。本当に免税事業者を辞退してしまってよいのか、判断するためにも税務のプロである税理士に相談してみることをお勧めします。
消費税免税期間を最大化することは可能か
先ほどの項目で、免税事業者の仕入れ控除ができなくなるお話をしましたが、これらは段階的に導入されていくということなので、現状ではやはり免税は大きなメリットです。ここでは、免税の要件を徹底的に検証して、免税期間を最大化にするためのポイントをご紹介していきます。
資本金を1,000万円未満にする
免税の要件として資本金1,000万円未満でなければいけないということは、すでにご説明していますが、この要件が「資本金」に特定しているところがチェックポイントです。資本準備金は、資本金には算入されませんので、資本金500万円、資本準備金500万円と分散しておけば、資本金が1,000万円を超えずに、免税期間を最長にすることができます。
資本準備金は、運用するのに、株主総会の普通決議で承認すればよく登記する必要もありません。
また、金融機関での借り入れ審査の時に、資本金が高いほうが信用度は高いと思われますが、転用しやすいこの資本準備金も用意していることも信用度が高いと判断される材料となります。免税業者の最大要件である資本金額を調整するためにも、この資本準備金の存在を知っておいて損はありません。
決算期間を1年間丸々設定する
基準期間内と特定期間内の売上を1,000万円以下にすることで免税業者の要件となることから、開業するタイミングを調整してこの基準期間、特定期間を短く設定することで、見かけ上は売上を少なくできると考え申告する方もいるようです。しかし、このやり方はおすすめできません。
短期間においての売上でも、1年間ではどうなるかを換算されるので、収入が1,000万円超になってしまう場合もあり、免税事業者の要件に外れてしまいます。決算期間は1年間きっちりあった方がよいということです。
免税と節税と逃税について
日本国憲法の国民三大義務おいて、教育の義務、勤労の義務、そして納税の義務が制定されています。債務を抱えてしまい、返済の目途がたたずに自己破産をして、借入金の返済義務はなくなっても、滞納した税金だけはきっちり支払う義務は残ります。
また事業を成功させたら、そこから税金はきっちり納めるのも義務です。今回は、免税についてお話してきたのですが、他にも節税や逃税ついてもお話します。
逃税と節税の大きな違い
逃税という言葉をご存じでしょうか。字面通り、課税から逃げるということです。これは、すでに大儲けしている富裕層が、巨額の相続税から回避するためのスキームと言われています。大きなお金が動くと、すぐに税務署の目が光りますので、税務署から逃れるためにお金をプールする場所を確保するといった方法です。その手段のひとつとして、プライベートカンパニーを設立する方法が良くとられますが、それでは間に合わない巨大マネーとなると、任意団体である社団法人などを設立することがあります。
原則として、社団法人に資産を譲渡する形をとれば贈与税がかかりません。
そして法人というのは、人と同様に考えられる組織のことで死という概念がないので、相続する必要がなく、もし資産家が亡くなっても、その親族を社団法人の代表にかえるだけで、相続税を払うこともないのです。巨額マネーは社団法人にプールされたまま、というわけです。
一方、節税とは、プライベートカンパニーを設立するという手法などは同じですが、家族を社員にして給料を払う、また家族を代表にして役員報酬を払うなど、法律の許容する範囲内で、なるべく税金がかからないようにする取り組みのことを指します。
この節税に対しては、国も寛容ですし、奨励すべきことですが、逃税に対しては、監視がきつくなります。
税務署は、税金の番人でプロですから、少しでもつじつまが合わない取引を見つけると支払うべき税金は徴収されます。前述したような逃税をした場合には、巨額マネーが社団法人へと移動していることは事実なのですから、その巨額マネーはどこから来たのか?徹底的に調査されます。少しでも不審な点があれば、巨大な追徴課税、延滞金が待っています。
節税と逃税では、全く性質が異なります。逃税をすることは大きな資金も必要で、危険な行為とも言えるのです。
法人は優遇されるという事実
法人の場合、要件を満たせば2期目まで消費税が免税なだけでなく、他にも多くの優遇措置があります。雇用を生み出す法人を設立することを国は奨励しているため、設立当初の売上が少ない時期は免税などでサポートしてくれるのです。
副業の収入が上がってきているサラリーマンの方や、一つの事業の成長が著しいので新会社を設立したいと考えている会社経営者の方も多いでしょう。ただ儲けているだけでなく、せっかく稼いだ資金を新しい事業へ投資していくためにも、節税のシステムを構築しておく必要があります。
しかし、お金持ちほど税金を払いたがらないのも事実。健康食品販売で急成長した青年実業家が脱税で摘発された事件もありました。贅沢な暮らしなどをSNSで発信したり、納税に対しての不満を発言したりしたことが摘発のきっかけになったと言われています。
法人が優遇措置をとられているというのは、従業員を雇ったり、団体に寄付したりと様々な社会貢献を行っているからです。決して経営者が華美で派手な生活を送るためではありません。その証拠に、一流企業の経営者はとても質素な生活をしている方が多く存在します。
免税なら税理士のアドバイスが必要!
この記事でも説明してきたのですが、輸出業者など免税事業者でいたほうがメリットのある企業は多く存在します。
ただ、設立方法や経理業務を正しく行わないと、節税対策のつもりでした会社設立が節税にならないなどの本末転倒になってしまうことになりかねません。
そういったことを防ぐためにも、免税を目的として会社設立を考えている場合には、一度税理士に相談してみることをお勧めします。課税か免税かを選択することのサポートにおいては、業単年度の収支状況ではなく、翌年以降の予算、事業計画に関しても判断する必要がありますから、実績が豊富な税理士と顧問契約することで、今後の見通しを正確にたてることができます。会社設立を検討する段階から、事業内容に詳しい税理士のアドバイスをもらっておくことが事業を成功させる秘訣なのです。
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