一見節税にみえていても、違う場合があります。物を売る社員や保険の営業社員など、売りたいという思いから、内容を理解せずに税金について話すことがあります。しかし、気をつけておかないと、安くなると思っていた税金が、思った以上に安くならなかったり、経営計画に支障をきたしたりすることも。
そこで今回は、税額が減額する節税と、税金の繰り延べについて解説します。しっかりと理解して、会社の経営に役立ててください。
税額が減額する節税とは?税額控除について解説
まずは税額控除から説明します。税額控除とは、税金に対する控除の一つ。つまり税金を差し引く=税金が安くなるということです
税金の計算は所得金額に税率をかけて算出します。例えば売上500万円、経費100万円でしたら、500万円-100万円=400万円が利益、つまり所得になります。この400万円に税率をかけて算出します。例えば先ほどの計算において、10%の税率がかけられることになりましたら、400万円×10%=40万円が税金になります。
税額控除が10万ありましたら、40万円-10万円(税額控除)=30万円が税金という計算になります。詳しく説明すると、すこし違いますが、だいたいこのようなイメージでとらえてください。
節税の基礎!税額控除とはどのようなものがある?
一番分かりやすく、身近なものが住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)です。サラリーマンの所得税を安くする制度で、家を買った人が受けられる制度です。さまざまな条件はありますが、条件があえば年末借入金残高の1%が税額控除となります。例えば3,000万円の住宅借入金があれば、3,000万円×1%=30万円が税額控除となります。1年目は確定申告する必要がありますが、2年目以降は年末調整で済みますから、家を買った人で条件に合う人は住宅ローン控除を利用しましょう。
サラリーマンが受けられる身近な税額控除が住宅ローン控除ですが、会社として受けられる税額控除の代表的なものが「雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除」です。
この制度は、青色申告法人が、前年度よりも給料を上げていれば、給料の増加額の10%は税額控除を受けられるという制度です。増加割合としては最低3%以上を前事業年度よりも上げておかないといけなく、また、他にもさまざまな条件があります。ただ、ここで知っていただきたいことは、給料を上げると確かに人件費の増加=キャッシュが減額し資金繰りが苦しくなる要因になりますが、きちんと国の制度を利用して、税額控除を受ければ、人件費の増加=資金繰りの悪化には単純に直結しません。
経営者としてはできるかぎり人件費を抑えながら、利益を上げようとする傾向にあります。しかし本来人件費は会社の燃料になりますから、制度を上手に活用し、会社を盛り上げていきましょう。
節税は税金の繰り延べでできる?
繰り延べとは、本来支払う時期を先延ばしする効果をいいます。例えば今年に支払うべきものを、3年後や5年後に支払うことです。つまり税金の繰り延べとは、本来は該当事業年度で支払うべき税金を、次年度以降に繰り越すことです。分かりやすい例として、保険の商品をつかったものがありますから、次で説明します。
利益の繰り延べで節税!法人向け逓増型定期保険とは?
社長に生命保険に入ってもらい、税の繰り延べができます。1/2損金算入できる生命保険制度です。これは例えば年間100万円保険料を支払い、そのうち半分を「保険料」として経費計上し、残りの半分を「長期前払費用」として積み立てていきます。(しかし実際には保険会社に支払った100万円ずつ積み立てられていく、帳面上だけは50万円ずつの積立となる)
支払った保険料の100万のうち50万円が毎年積み立てられていき、20年間積み立てていくと、50万円×20年間=1,000万円が「長期前払費用」という勘定科目で積み立てられていきます。
解約する時に実際に保険会社から支払われる金額は100万円×20年間=2,000万円となります。ややこしいですが、ようは会社の帳面上は「長期前払費用」という勘定科目で半分ずつ積み立てられていくが、実際には支払った保険料まるまるが積み立てられていると捉えてください。
解約時には、「長期前払費用」が返金され、残金が利益として計上されます。例えば2,000万円が保険会社から解約返戻金として会社に入金されれば、その内1,000万円は「長期前払費用」として打ち消され、残りの1,000万円は会社の利益として計上されることとなります。
この話は簿記の話になるので、少しややこしいのですが、とりあえず会社が保険の積み立てをして、解約すれば、入金の半分が利益となる、と理解してください。
毎年支払っている時は、確かに支払額の半分が保険料、つまり経費として計上できますから節税になります。しかし解約する時に一気に今まで積み立てたものが入金され、そのうち半分が利益として計上されるのであれば、トータルとしての税額は同じように感じます。
ではいったいなぜ節税になるかといいますと、この解約するときに、別の大きな支払い=経費を当てれば、保険解約金としての利益を経費でうちけすことができ、最終的に節税になります。
時系列で説明します。例えば2000年に保険の契約を行い、2020年に解約するとします。この時、毎年20年間支払った保険料のうち半分を経費として計上するので、この時点で節税になります。
その後、2020年に解約し、保険解約返戻金2,000万円を会社が受け取ります。その年に同時に1,000万円の退職金を出します。保険解約返戻金の半分が利益として計上されるのですが、経費(退職金)も1,000万円出ていれば、利益1,000万円と経費1,000万円が打ち消されることとなり、税金がかかりません。
このようにすると、20年間保険料を計上し節税しながら、解約返礼時に退職金を出して利益と相殺、結果、トータルとして節税に繋がることになります。
退職金以外にも大規模修繕時期に多額の修繕費を計上し、その年に保険を解約する方法もあります。このように税金の繰り延べメリットとしては、所得がコントロールできるという点にあります。
注意しないといけないことは、受け取るときの金額は保険会社の運用次第です。払った金額よりも目減りすることもありますから、注意しましょう。
税額が減額する節税と、税金の繰り延べによる節税は何が違う?
税額控除と税金の繰り延べの大きな違いは、その影響力の大きさです。税額控除は算出された結果の税金をさらに安くする制度です。税金の繰り延べは、繰り延べる間の経費を計上するだけですから、税額そのものが安くなるわけではありません。いわゆる「所得控除」と呼ばれるものです。
どういうことかと申しますと、例えば100万円の売上に経費が30万かかり、100万円-30万円=70万円が利益とします。70万円の利益に対し、税率10%をかけますと、70万円×10%=7万円が税金です。
税額控除はこの7万円から差引くので、例えば税額控除が5万でしたら、7万円-5万円=2万円が最終の税金になります。
所得控除が5万円の場合ですと、利益70万から5万円をひきますから、65万円が最終の利益となります。この最終利益の65万円に対して10%の税率をかけますと、65,000円が税金となります。税額控除だと2万円の税金でしたので、45,000円の差がでることとなります。
このように税額控除と税の繰り延べはその効果が大きく違うという事を意識しておきましょう。もし税の繰り延べを税額控除と勘違いすると大きく資金計画が狂うこととなりますので注意しましょう。
本当に役に立つ節税手法とは?
まず商品を売る営業社員は、さまざまな話法で社長を説得します。税金の仕組みをしっかりと理解していないと、将来において後悔するかもしれません。
「万が一の保証として生命保険に加入しながら、さらに税金が安くなり、しかも積立型ですから、苦しいときには解約したらいいのです。掛け捨ての保険と違い、積立型は資産が残りますから無駄になりませんよ」と長い時間をかけて説得されれば、ついつい後先考えずに加入してしまう社長もいるでしょう。
法人の生命保険はたしかに使い方次第でメリットはありますが、本当に必要かどうかじっくり吟味すべきです。普段から商品のデメリットについて学んでおくべきでしょう。
例えば保険商品のデメリットとしては、赤字の会社だと意味がないことです。全く意味がないわけではありませんが、赤字の会社に保険の積み立てをする余裕はないはずです。経費を計上し、節税につなげる目的の保険ですが、すでに赤字の会社にはもうこれ以上経費を計上する必要はないでしょう。
また、積立型の保険は掛け捨ての保険よりも保険金額は少ないです。掛け捨ての方が少ない保険料で多くの保証を得ることができます。赤字の会社であれば本来少ない保険料で分厚い保証を得て、万が一社長や社員に何かあった際の保険をつけておくべきです。
にもかかわらず、どうしても掛け捨てが嫌な社長はこのような積立型の保険に魅力を感じる傾向にあります。正しく判断するために、本来の「保険の意味」をしっかりと理解しましょう。
保険とは万が一の保障です。節税目的や積立ではありません。資金に余裕があり、税金を高く感じる会社だからこそ意味のある積立型の保険です。間違えないようにしましょう。
他にも何か大きな商品を購入する時も注意しましょう。例えば備品として100万円の複合機を購入します。今期は利益が出そうだから、大きな買い物をして節税しようと思うのは危険です。今回のケースでは減価償却という経理になりますから、いっきに100万円が経費になるわけではありません。耐用年数に応じて分割して計上されることとなります。例えば耐用年数が5年、100万円で何かを購入すれば、100万円÷5年=20万円が1年で計上される経費となります。
節税に意識がいっても、思った以上に税金が安くならなかったことはよくあることです。黒字倒産の会社の特徴として、税金ばかりに目がいき、キャッシュフローをないがしろにしていることです。
黒字倒産とは、利益が出ているにも関わらず倒産する会社です。なぜそのようなことが起こるかと言いますと、黒字倒産の会社は資金繰りが苦しい状況が続いている会社です。しかし例え資金繰りが苦しくとも、利益がでれば税金が発生するのが日本の税制度です。
目先の税額をなんとかして減らしたく、ちょうどそのような時に何か商品を売る営業社員に営業され、「節税」という甘い言葉でついつい無駄遣いをしてしまうかもしれません。節税になったとしても、何か商品を買えばその分キャッシュアウト(資金が外に出る)します。
節税のために商品をわざわざ購入するのは、本当に資金に余裕がある会社しかおすすめできません。そもそも節税の為だけに商品を購入してもあまり意味はないでしょう。本当に必要なモノを必要な時期に購入することが、会社を運営するのに必要なことです。
本当に役にたつ節税手法とは、本来の会社の姿に寄り添った節税を行うことです。
- 社長の保障がなにもないので、生命保険に加入する
- 設備が老朽化しているから新しい設備を購入して経費で落とす
- 従業員の給料を上げられるほど利益が出たので、所得拡大促進税制を使う など、主の目的が節税になってはいけません。
つまり、
節税したい→行動を起こす
ではなく、
何か会社の行動原因があり→たまたまそれが節税に繋がる制度があるので利用する
この流れが重要です。
社長にはさまざまな誘惑があります。目先の利益に囚われてはいけません。まずは中・長期的な視野を持ちながら、会社を運営すべきです。営業社員に惑わされないように、まずはビジョンを持ちましょう。会社をどうしていきたいのか、社長の思いを会社に反映すべきです。
そして営業社員から営業をかけられたら、いきなり返答すべきではありません。しっかりといろんな人の意見を聞くことが大切です。また、普段から税金の仕組みや会社の運営について勉強しましょう。
どういう仕組みで税金を支払うのか、全く理解せずに会社を運営していると、痛い目にあう可能性があります。法人税の仕組みは確かに難しいですが、簡単に理解できるような本は出版されています。それでもわからなければ、顧問税理士に相談しましょう。
節税対策なら税理士に相談を!
税額控除と、税の繰り延べを理解し、会社の運営に役立たせましょう。税金そのものが安くなる税額控除はたしかに魅力的ですが、無理をしてはいけません。自社の状況を冷静に分析しながら、会社の発展にいろんな国の制度を利用していきましょう。節税対策で困ったら税理士に相談することをおすすめします。