会社の会計をしているときに、迷うことの一つが、修繕費の取り扱いです。資産を修理した際、資本的支出(固定資産)として計上すべきか、もしくは修繕費とすべきか、その判定が難しいものです。
今まで会計をしたことがない人からすると何の話?と思われるかもしれませんが、ここではそのような人にも出来る限りわかりやすく解説します。正確な会計処理をし、正しい申告正しい納税をしましょう。
資本的支出と修繕費の違いとは
何か物を修理した際に、通常は「修繕費」という勘定科目を使います。例えば建物を改修、自動車を修理、備品を修理、機械を直したなど、どこかの販売所から物を購入するわけではなく、「修理」や「修繕」した際、「修繕費」という勘定科目を使います。
修繕費は全額経費として計上し、損益計算書の利益が減るという扱いにするのですが、金額や修繕の結果によって、経費ではなく「固定資産」=「資本的支出」として計上しなくてはいけない場合があります。
つまり経費計上できない場合があるということは、それだけ利益が出る=税金が高くなるということです。利益が出ることは悪い事ではないのですが、それでも税金が高くなるのが嫌で、ついつい全額修繕費を経費にあげたくなる社長は多いかもしれません。
しかし税務署はこの修繕費の取り扱いを特に注意してみてきます。金額が大きくなればなるほど、全額一気に修繕費としてあげるか、もしくは資産として計上するかで大きく税額が変わるからです。
少しわかりづらいかもしれませんが、なぜ経費として計上しないと税額があがるかの説明をします。通常税金は利益に対してかかります。利益は損益計算書で算出されます。会社の儲けを表すのが損益計算書で、売上―経費=利益となります。
利益に対して税金がかかりますから、経費が少ないとその分利益が大きくなりますし、経費が大きいとその分利益は少なくなります。修繕費を全額経費としてあげるか資産として上げるかで利益が変わるようになります。
続いて資産についてですが、資産は貸借対照表と言う書類で作られます。貸借対照表は、資産―負債=資本という構成になっています。詳しい話は省略しますが、基本的にこの資本には税金がかかりません。税金がかかるのは、損益計算書で作られる利益に対してのみです。
以上の理由で、修繕費を経費として全額計上か、資本的支出(資産)として計上するかで、その年の税額が大きく変わることになります。ただ、資本的支出(資産)として計上しても、一気に経費計上せずに何年かにわけて経費計上し、トータルの経費としては同額になります。
資本的支出
それではどのような場合に資産として計上するのでしょうか。修繕費を資産として計上することを資本的支出と言います。
資本的支出(資産)は、修理や修繕によって建物や機械などの価値を高め、耐久性をあげます。使用可能年数を延長させ、資産価値の増加を伴う支出を資本的支出(資産)と言います。
資本的支出は資産とされるため、経理処理としては減価償却扱いです。つまり一度に全額経費計上するのではなく、毎年少しずつ経費計上します。
減価償却費に関しては、会計を学んだことがない人にとっては、わかりづらいかもしれません。減価償却とは、機械設備などの購入代金を、分割しながら1年ずつ費用に計上することを言います。通常、「資産」として一度計上し、その後「費用」に振り替えていき、最後の価値としては1円になります。
わざと1円残すことには意味があります。もし0円にしてしまうと、確かに会計上は費用計上できなくとも、それは会計上の問題です。実際は例えば耐用年数が5年として計上しても、5年以上使えることが通常です。しかし帳簿上に0円として無くしてしまうと、会社にどの資産が残っているかわからなくなるからです。
このように例え1円でも残すことにより、会社にどの資産があるか把握できるようになります。また減価償却することで、いきなり全額費用計上しないので、より、正確な会計処理ができます。それは例えば建物を購入した際に、1年間で全額費用計上すると、本来は30年以上使えるものをいっきに計上すると、その計上した年が大赤字となります。
たしかにキャッシュは出ていますが、1年以上長期に渡って使えるものをいきなり全額計上すると、本来の会社の財産がわかりづらくなります。減価償却は、より会社の状況を正確に把握するために必要な会計処理と言えます。
資本的支出は、難しく言いますと「固定資産の価値を高め、又はその耐久性をますこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出(資産)」と言います。
国税庁HPには次の場合に資本的支出(資産)としています。
- 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額
- 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額
- 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額
(注) 建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。
つまり新しく非常階段を取り付け、もしくは用途変更のための模様替え(事務所から飲食店など)は資本的支出(資産)と判断します。もちろん建物の増築(2階建てを3階建てにするなど)も資本的支出(資産)です。
修繕費
修繕費は、資本的支出(資産)と違い、資産価値を高めません。耐久性もあげませんし、使用可能年数が延長されることもありません。名前の通り、元にもどすことが修繕費です。
迷った時は資産価値を高めるかどうかをまず判断し、単なる修理であれば修理費として計上できます。
資本的支出(資産)か修繕費(経費)の迷った時の判断・具体例
わかりづらい説明が続きましたから、具体的な例を上げながら、説明していきます。
少額もしくは周期の短い費用であれば費用処理(修繕費)する
何かを修理した際に、支出額が20万円未満、もしくは3年以内の周期で修理や改良が行われていれば費用処理(修繕費)とします。つまり資産計上せずに、一度に経費として処理するという意味です。
例えば1,000万円の建物の窓が壊れており、15万円修理費用がかかっても、支出額が20万円未満ですから、全額費用処理、つまり修繕費として計上します。
価値を高める資本的支出なのか、修理なのか不明な場合
支出額が60万円未満もしくは支出額が修理・改良をした固定資産の前期末の取得価額のおおむね10%相当額以下であれば費用処理(修繕費)します。
例えば買った値段が500万円の機械を50万円で修理したとしても、60万円未満ですし、買った値段の10%以下もでもありますから、この場合は修繕費として処理できます。
資本的支出と修繕費の区分の特例
特例として、継続適用を条件に、資本的支出(資産)か修繕費がわからない場合は、支出額の30%相当額もしくはその固定資産の前期末取得価額の10%相当額のいずれか少ない金額を修繕費として処理することができます。
例えば500万円の機械を修理するために100万円かかったとします。100万円×30%=15万円と、500万円×10%=50万円のどちらが少ないか判定し、この場合は15万円ですから、15万円を修繕費として計上し、残りを資産として計上することになります。
修繕費を一括計上する際の注意点とは
節税としては修繕費として一括計上した方がいいです。単年度で考えると一度に経費として落とせる金額が増えますから節税になります。
もちろん長期的に見れば経費として計上する金額は同額になりますが、それでも資金繰りの観点からすると、節税を早期に行うことにより、資金を余らせ余剰資金を別の投資に回すことができますから修繕費として計上できるのであれば、極力修繕費で一気に経費計上しましょう。
しかしここで問題があります。まず税務調査において、特に高額な修繕費は目を付けてきます。勘定科目の修繕費の中に、資産としてあげるべきものがないか探します。
修繕費、改良費、補修費、修理費、どのような勘定科目でもそれは同じで、すなわち資本的支出(資産)に該当するものがないかを調査します。
一括計上する際に、このような税務調査に対してはっきりと「修繕費」と主張できるように、請求書の明細、納品書、領収証などの証拠書類は必ず残しておきましょう。
また、資本的支出(資産)か修繕費か判断に迷うにもかかわらず、面倒くさくて、つい修繕費で一括に計上するのも危険です。できればその判断ができない場合、まずは修理業者に、資産価値を高める「改良」にあたりそうか確認してみましょう。
あきらかに壊れたものを直すのであれば修繕でしょうし、そうでない場合は、まずは修理業者にどのような修理をするかどうか確認しておくことをおすすめします。
もちろん架空の修繕費などは論外ですし、修繕費の計上時期についても妥当かどうか注意しましょう。修繕費をもし事業年度末直前に計上していると、それは翌期の事業年度に計上すべきものを、無理やり繰り上げて計上しているのではないかと税務署に疑われます。その時に説明できるよう資料は必ず残しておきましょう。
もちろんもし急ぎの修理でない場合は、期をまたぐ時期は避けましょう。例えば8月決算でしたら、10月から6月頃に修繕を行えば疑われる時期とは言えないでしょう。
利益が出そうだから、無理やり大きな修理をおこなうのは利益操作しているという疑惑を増やすだけです。また、何事も計画的に事業を展開することが重要です。修理がくるかどうかは耐用年数や使用頻度によってある程度予想がつきます。
機械の修理業者と相談し、期をまたぐ時期を避けながら上手に会社を運営しましょう。
資本的支出か修繕費かの判断に困った時の国税庁
こちらの記事を読んでも不明な場合、一番詳しく書かれているのが国税庁のHPです。なかなか難しく書かれていますが、それでも参考になりますからまずはこちらのHPを参照することをおすすめします。
参考:国税庁
国税庁のHPに当てはまらないケースや、読んでも理解できない場合は次の方法をおすすめします。
それでも資本的支出と修繕費、どちらにすべきか判断できなかった場合
資本的支出(資産)か修繕費か、どうしてもわからない場合は顧問税理士か、最寄りの税務署に相談しましょう。もちろん顧問税理士がいれば通常大きな支出であれば、資本的支出(資産)か修繕費か判断してくれます。その際資料を請求されるはずですから、請求書だけでなく、修理に関わる納品書、受取書、見積書などの資料を全て保管しておきましょう。
税務署に相談するのは確かにお金がかかりません。顧問税理であれば相談料を取られないと思いますが、他の税理士であれば相談料を取られる可能性があります。
税務署の職員への相談は無料です。メリットとしてお金がかからないことが挙げられますが、デメリットとしては会社の状況を税務署に知られる可能性があるという事です。
もちろんやましいことをしているわけではありませんから、堂々としていればいいのですが、それでも嫌だという時は、税理士に相談しましょう。ちなみに税に関することは例え無料でも税理士資格を持っていない人が相談に応じることはできません。
例えば近所のちょっと税金に詳しい資格を持っていない人に個別相談することは、例え無料であっても税法によって禁止されています。気を付けましょう。
まとめ
大きなお金が動くことは少ないかもしれませんが、それでも何か固定資産を購入すれば修理はつきものです。税金が安くなるからという甘い言葉に騙されて、うかつに修繕費として一括計上すると、後の税務調査で痛い目に遭う可能性があります。
まずはどんな形にせよ大きなお金が動くときは慎重に会計処理しましょう。また会計処理だけでなく資本的支出(資産)か修理か悩むぐらいの大きな費用がかかるときは、慎重に行動しましょう。一番いけないことが「節税になるから」という理由だけで修理をすることです。
節税になってもキャッシュアウトには変わりません。またモノによっては資本的支出(資産)に該当し、思ったほど節税にならないこともあるでしょう。時に社長には大胆な判断も必要でしょうが、冷静な頭と、熱い心の両方を持って事業を盛り上げてください。