税金・税務

社員旅行を経費にするための4つの要件とは?経費の裁判事例も解説!

社員旅行を経費にするための4つの要件とは?経費の裁判事例も解説!

社員旅行は、社会通念上一般的に行われるレクリエーションの範囲内のものであれば、その費用を会社の福利厚生費として経費にできます。しかしその範囲を超えてしまうと、旅行に参加した従業員等の給与扱いとなり、個人の税金や、場合によっては会社の税金が増えてしまいます。この記事では、社員旅行の計画を任された方などに向けて、社員旅行が経費になる理由、経費にならなかったときのデメリット、経費にするための4つの要件やいくらまでなら経費になるかについて解説します。

社員旅行の費用は経費になる!

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社員旅行のために会社が負担した費用は、社会通念上一般的に行われるレクリエーションの範囲内のものであれば、従業員等の給与課税の対象にならず、全額を「福利厚生費」として会社の経費とできます。負担する対象は交通費でも宿泊費でも食事代でも構いません。

あくまで会社が従業員のために負担した金額や社員旅行が、社会通念上一般的なレクリエーションの範囲内といえるかどうかで判断します。もし社会通念上一般的な社員旅行にあたらなければ、参加した役員や従業員に対し、会社が負担した額を「給与」として支給したものとして扱います。

もちろん「給与」も会社の経費の1つですが、一般的に「会社の経費になる」というと、社員旅行の場合、「福利厚生費」として処理できることをいいます。ではなぜ福利厚生費でなければダメなのでしょうか。その理由は、社員旅行の費用が経費(福利厚生費)ではなく給与とされた場合、個人と会社にデメリットがあるからです。

社員旅行が経費にならなかったときの4つのデメリット

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社員旅行が経費にならなかった場合のデメリットは何があるでしょうか?細かく解説していきます。

社員旅行が経費にならないデメリット:個人の所得税や住民税の課税対象になる

役員や従業員が、会社から金銭ではない経済的な利益を受け取った場合、「現物給与」を受けたものとして扱うことが原則です。現物給与も金銭による給与と同じく「給与所得」として、所得税や住民税の課税対象になります。「金銭はもらっていないのに税金が発生する」という怖いルールです。

また現物給与によって合計所得金額が上がりますので、人によっては通常なら受けられていたはずの所得控除が受けられなくなってしまい、余計に税金が上がることも考えられます。

社員旅行が経費にならないデメリット:役員報酬であれば経費にもならない

給与課税の対象が役員であれば、会社の経費にさえなりません。役員への報酬を会社の経費にするには、法令で定められた方法で支給する必要があるからです。意図せず給与扱いとなった社員旅行では、法令による支給方法の要件を満たさないため、会社の法人税等が高くなります。

社員旅行が経費にならないデメリット:不納付加算税がかかる

不納付加算税とは、正当な理由なく源泉徴収税の納期限に遅れたときに生じる加算税です。遅れた源泉徴収税額に対し、最大で10%もかかります。

会社は給与から定められた税額を源泉徴収し、納付期限までに税務署に納めなければなりませんが、この給与には現物給与も含まれます。よって、社員旅行が経費にならなければ、会社は不納付加算税を支払わなければなりません。

社員旅行が経費にならないデメリット:役員・従業員への対応

社員旅行が経費にならず役員や従業員に課税されることになれば、会社はその説明等の対応にも手を取られます。

特に社員旅行から数年後の税務調査で発覚した場合は、当時の役員・従業員にどのように対応するかなどを会社で協議しなければなりません。

社員旅行が経費になる根拠

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冒頭のとおり、社員旅行は社会通念上一般的なものであれば、給与課税の対象にならず、経費(福利厚生費)で処理できます。これは、国税庁が通達によって、社会通念上一般的な会社のレクリエーション行事については「少額なものまでいちいち現物給与にしなくていい」という方針を示しているからです。

使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。

引用:所得税法基本通達36-30|国税庁

現物給与に対するこのような考え方を、少額不追求といいます。ではなぜ社員旅行などに少額不追求が適用されるのでしょうか。これを知っておくと、他のレクリエーション行事の判断にも使えます。

社員旅行など会社行事に現物給与はなじまない

社員旅行に少額不追求の考えが適用される理由は、会社のレクリエーション行事に以下のような性質があるからです。

  • 会社のレクリエーション行事(社員旅行など)は、従業員らが希望しなくても参加せざるを得ない状況があること
  • 現物給与の経済的利益といっても、会社のレクリエーションとして受けるものなので従業員らが自由に処分できる性質の利益ではないこと
  • レクリエーションによって受ける経済的利益は一般的に少額であること
  • 会社が従業員のためにレクリエーションを行うことは一般化しており、これを課税対象とするのは国民感情からして不適切であること

もっとシンプルにすると、

「社員旅行に行きたい人ばかりじゃないよね」
「自分が行きたいところに旅行できるわけでもないしね」
「豪華な旅行に連れていってもらったのなら経済的利益って言われても仕方ないけど、一般企業の社員旅行なんて別に普通の旅行だよね」
「会社の行事に税金払うのがそもそも疑問」

といったところです。

このような実態があるのに、社員旅行を含む会社のレクリエーションを通常の給与と同等に扱うのは無理があります。そのため、国税庁では、法令にはないけれど社会通念上一般的な社員旅行であれば、わざわざ課税しなくてもよいという解釈を示しているのです。

なお上記の通達36-30は、過去の判例でも合理的として支持されています。

以上のことから、社員旅行の費用を会社の経費とするには、通達の想定する範囲内の社員旅行を実施することが必要になります。逆に、通達の想定外の社員旅行は、非課税とする根拠がありませんので、経費(福利厚生費)としての処理はできなくなります。

社員旅行を経費にするための4つの条件

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社員旅行を経費にするには、次のすべてを満たす必要があります。

  • 4泊5日以内であること
  • 全従業員等の50%以上が参加すること
  • 不参加者に代わりの金銭を支給するものでないこと
  • 社会通念上一般的に行われている範囲を逸脱しないこと

社員旅行を経費にする条件:4泊5日以内であること

社員旅行の期間は、4泊5日以内でなければなりません。海外旅行であれば、目的地における滞在日数を基準とします。「4泊5日」の根拠となっているのは、先ほどの通達の運用方針を示した、別の通達となります。(昭和63年5月25日直法6-9(例規)、直所3-13)

使用者が、従業員等のレクリエーションのために行う旅行の費用を負担することにより、これらの旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益については、当該旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員等の参加割合・使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合などを総合的に勘案して実態に即した処理を行うこととするが、次のいずれの要件も満たしている場合には、原則として課税しなくて差し支えないものとする。

(1) 当該旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合には、目的地における滞在日数による。)以内のものであること。

(2) 当該旅行に参加する従業員等の数が全従業員等(工場、支店等で行う場合には、当該工場、支店等の従業員等)の50%以上であること。

引用:所得税基本通達36-30の運用について|国税庁

社員旅行を経費にする条件:全従業員等の50%以上が参加すること

その社員旅行が、工場や支店などで行われる場合は、その工場や支店などの従業員等の人数で判定します。なお、役員だけで行う旅行や実質的にプライベートな旅行と認められるものは該当しません。たとえば従業員のいない会社で社長が1人旅をしても、会社の経費にはできないということです。

「50%以上」の根拠は、前項と同じです。

社員旅行を経費にする条件:不参加者に代わりの金銭を支給するものでないこと

社員旅行に行くか代わりに金銭をもらうかを選択できる場合は、社員旅行の扱いにはなりません。(所得税法基本通達36-10)

もし会社から不参加者に旅行代などを金銭で支給してしまった場合、国税庁は、参加者と不参加者全員に、支給した金銭に相当する給与を支払ったものとして扱うとしています。

参考: 国税庁:タックスアンサーNo.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行

社員旅行を経費にする条件:社会通念上一般的に行われている範囲を逸脱しないこと

旅行日数や参加割合などは、形式的な要件として守る必要がありますが、もっとも重要なものは会社の負担額です。しかし、これについては、具体的にいくらまでならOKというルールがありません。

過去の事例や国税庁を参考にして、1つひとつ会社で判断することになります。

社員旅行はいくらまでなら経費になるか

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「社会通念上一般的」という条件だけで社員旅行を計画するのは怖いですよね。もし自分が計画を担当した社員旅行で、後から税務調査で金額を指摘された場合、会社から文句を言われるかも知れません。

社員旅行がいくらまでなら経費になるかについては、国税不服審判所の過去の裁決事例と国税庁が示す事例が参考になります。

社員旅行の裁決事例

社員旅行の裁決事例:海外旅行で1人241,300円→×

1人あたりの会社負担額241,300円の社員旅行(海外旅行)の事例です。金額以外はすべて通達の要件を満たしていましたが、会社の負担額が高かったことで、社会通念上一般的に行われているレクリエーション行事の範囲内と認められませんでした。

この事例では、企業に対する過去のアンケート調査から導き出された海外への社員旅行の1人あたりの会社負担額を、その判断に使用しています。

判断に使用されたアンケート調査の結果

  • 平成11年7月の調査 69,089円
  • 平成16年3月の調査 74,000円
  • 平成21年12月の調査 56,889円

1人あたり241,300円はこれを「大きく上回る多額なもの」と評されています。

なお、この事例では社員旅行が5年に1回しか行われていない(単年度であれば1年当たり48,260円となる)ことも主張されていますが、社員旅行による経済的利益はそれが実施されたときに享受するものなので年換算では考慮できないとしています。

参考: 国税不服審判所 平成22年12月17日裁決

社員旅行の裁決事例:九州旅行・沖縄旅行で1人約192,003円・約260,332円→×

1人あたりの会社負担額約192,003円の社員旅行(九州旅行)、約260,332円の社員旅行(沖縄旅行)について、そのほとんどを会社が負担した事例です。「金額はあまりにも多額」とされ、さらに従事員の家族の参加費用も会社がほとんど全額を負担していたことが考慮され、社会通念上一般的に行われているレクリエーション行事の範囲内とは認められませんでした。

参考: 国税不服審判所 平成10年6月30日裁決

国税庁の示す3つの事例

国税庁は、以下の3つ事例で、社員旅行が経費となるかどうかの判断を示しています。

社員旅行の内容 判断
事例1 ・3泊4日
・旅行費用15万円
(会社負担額7万円)
・参加割合100%
旅行期間と参加割合の要件、少額不追求の趣旨を満たすので課税しなくてよい
(社員旅行を経費にしてよい)
事例2 ・4泊5日
・旅行費用25万円
(会社負担額10万円)
・参加割合100%
同上
事例3 ・5泊6日
・旅行費用30万円
(会社負担額15万円)
・参加割合50%
5泊6日なので課税
(金額については言及なし)

参考: 国税庁:タックスアンサーNo.2603「従業員レクリエーション旅行や研修旅行」

社員旅行を経費にするには会社や税理士とよく相談しよう

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社員旅行を経費にするには、過去の事例等から会社の負担額を判断する必要があります。金額は会社に相談し、顧問税理士にも確認をとるなどし、せっかくの社員旅行で嫌な思いをしないようにしましょう。

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記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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